公明党と立憲民主党の衆院議員が、新党「中道改革連合」を結成した。公明党を支えてきた創価学会票は本当に中道に流れるのか。
雑誌『宗教問題』編集長の小川寛大さんは「世間で認識されている“学会票”には、創価学会員の票数だけでなく投票依頼した友人や、自民党から共有された名簿の数も含まれている。そのため、新党では自公連立時代のような集票力は期待できないのではないか」という――。
■「公称827万世帯=1819万人」は実態に合わない
日本最大の新宗教団体である創価学会は、その会員(信者)の数として827万世帯(国内会員)を公称する。2025年に厚生労働省が発表した「国民生活基礎調査」の結果数値によれば、日本の平均世帯人数は2.20人。これに基づいて計算すると、今の日本には1819万4000人の創価学会員がいることになる。
一方、創価学会の事実上の政治部門である公明党が、国政選挙の際に全国から集める比例票の数を確認してみると、例えば2024年の衆議院議員選挙で596万票、25年の参議院議員選挙で521万票といった数字である。本当に全国に創価学会員が2000万人近くいるのであれば、少々不可解な数字だ。よって、創価学会の言う「会員数・827万世帯」とは実際のところ、かなり盛られた数値なのではないかと、以前からよく言われてきた。
それでは、実際にこの日本に創価学会員は何人いるのだろうか。これにはさまざまな宗教ウオッチャーや研究者たちによる推計があるのだが、それらはおおむね200万~400万人といった範囲の数字を挙げている。
しかしでは、その200万~400万人規模の創価学会が、選挙で500万~600万規模の比例票を積みあげられるカラクリとは何か。それがいわゆる「F取り」と呼ばれる活動だ(Fとは「フレンド」の略称)。

フレンド、すなわち創価学会員ではない外部の友人や知人たちに、個々の学会員らが「公明党に投票してください」と頼んで回る活動のことを言う。よく「選挙になると創価学会員の知り合いから電話がかかってきて、公明党への投票をお願いされる」といった話があるが、それがまさしくF取りの活動だ。
■「公明票パワー」は立憲勢力に届くのか
創価学会において、この選挙の際のF取りは非常に重要な活動だと位置づけられている。
学会に絶対のカリスマとして君臨した名誉会長・池田大作(2023年没)の存命時には、「池田先生のために」とフル回転し、1人で50票、100票といった数のF取りを行う名物学会員も珍しくなかったという。永田町であらゆる政治家たちが一目置く「公明票」のパワーとは、そうやって形成されてきたものであるのだ。
ところで公明党は昨年10月に、自民党との連立政権から離脱する。そして今年1月16日、公明党は立憲民主党と話し合ってその党組織を解消し、「中道改革連合」という新党をつくって2月の衆議院議員総選挙に挑むこととなった(参議院と地方議会では公明党、立憲民主党ともに存続する)。この衝撃的なニュースに、政界が騒然となったのは周知のとおりだ。
中道改革連合の政策、イデオロギーについての話はひとまず横に置く。この新党結成の衝撃とは、これまでの自公連立政権を強力に下支えしてきた公明票のパワーが、そのまま旧立憲民主党勢力の支援に振り替えられるのでは、という点に最大のポイントがある。
すでに一部のメディアは近年の衆院選における公明票の数を分析し、「それが旧立憲民主党勢力の支援に切り替わったら、こうなっていた」といったシミュレーションなどを発表。それらはおおむね、自民党が大敗して旧立憲民主党勢力が躍進するとの結果を示しており、「こうした分析に基づけば、次の衆院選で自民党は少数野党に転落する」という印象を読者に与えるものとなっている。

■自公連立は「相互依存」の関係にあった
単純な足し算、引き算をすれば、確かにそういうことになるのだろう。しかしまず言っておきたいが、こうした分析は公明票の実情を何ら考慮に入れない、かなりいい加減なものだと判断せざるをえない。おそらく、ことはそう単純には動かない。
昨年10月に終わった自公連立とは、1999年以来続いてきたもので、その歴史は実に26年におよんだ。そのなかで、自民党と公明党の選挙協力関係は実に緻密かつ複雑に構築されてきて、「公明票のパワー」なるものも、そういう自公の関係性を前提に存在していたものだった。つまり、党上層部などの一存でそのまま他党(旧立憲民主党勢力)支援に振り替えられるようなものではなく、おそらく「単純な足し算、引き算」で公明票は動かないのだ。
順を追って解説していこう。世間には「自民党と公明党の選挙協力とは、創価学会のパワーを背景とする公明党が、自民党を一方的に助けていたもの」と解釈する向きが根強くあるが、実態はかなり異なる。自公は相当なバーター取引のもとに、その選挙協力体制を構築していた。
■“名簿”を要求していた公明党サイド
例えば国政選挙の現場において、選挙区から出馬している自民党の候補者が「比例は公明へ!」と呼びかけるパターンは、ほとんど常態化していた。それはただ口で言っていればすむものではなく、公明党サイドは自民党の政治家に、名簿の提出を強く要求する傾向があった。
「名簿」とは、政治家であれば誰もが持っている支援者の名簿のこと。
これをもとに選挙はがきを送ったり、個別に訪問するなどして、日々の政治活動にいそしむ。いわば政治家にとっての生命線である。
公明党は自民党の政治家たちに、この名簿を「自分たちにも見せろ」と多々要求してきた流れがあって、当然その自民党議員の名簿は、公明党としての集票活動に活用されるわけだ。「公明票による自民党議員の支援」は、こういうバーター関係があって、まず成り立っていた。
また、現在では多くの地方議会でも、自民党と公明党は協調関係にある。自公の選挙協力とは必然的に、国政選挙のみにとどまるものでもない。「自分自身の選挙に自信があっても、『今度のあなたの地元の地方選挙で、自民党は危ないんじゃないですか』みたいなことを、公明党サイドが言ってくるケースもあった。
地域全体のことを考えれば公明の支援を受け入れざるをえず、また名簿も差し出さざるをえなかった」(ある自民党国会議員)といった話もあり、まさに「自公の協力関係」とは国政の現場だけにとどまらない、総合的な政治状況を前提にしていたのだ。
■「自公連立だから得られた票」は少なくない
また、こうした協力関係や名簿の提出をもとに、近年の公明党は自民党の支持基盤に食い込む動きを強く見せていた。特にターゲットとなっていたのが土建業界だ。
これは公明党議員が長く自公連立政権のなかで国土交通大臣を務めていたことも影響し、「例えば地方の土建業者たちが国交相に陳情へ行きたいとなったとき、窓口はすべて公明党が仕切り、自民党が関与できないことも普通にあった」(ある自民党地方議員)という。公明党にとって、自民党と組むうまみは、こういう形で確実にあった。

さらには、通常のF取りの現場においても、「自民党と組んでいること」はプラスに働く場合があった。ある古参創価学会員が語る。
「例えば小泉純一郎首相であるとか、ああいう支持率の高い政権の時代には、『われわれ公明党も小泉さんと一緒に改革を進めています』などと言うと、『そうか、がんばってくれ!』と、自然に支持してくれる人はいたんですよ。世間には細かい政策論よりも『与党だから支持できる』というような有権者が実際にいて、それで助かっていた部分は確実にあった」
一般に言われる「公明票」とは、こういう「自民党と組んでいたから入ってきた票」が無視できない規模で含まれていた。またそれはすでに述べてきたように、国政だけではない、自民・公明間の複雑な選挙協力体制を前提としていたものだった。
これが単純な足し算、引き算で旧立憲民主党支援に振り替えられるものなのか。ハードルは決して低くないはずだ。
■自民と比べて頼りない“立憲の選挙組織”
そして、もう一方の問題として懸念されるのが、「公明党にとって旧立憲民主党は、自民党を代替するものになりうるか」というテーマだ。旧民主党に所属した、ある元国会議員が言う。
「現在の立憲民主党でもあまり状況は変わらないのだが、やはり旧民主党出身の政治家は、自民党の政治家に比べて選挙に弱い人が多い。風任せや、労働組合など党自体を支持する支援団体頼みで、自前の手堅い組織を持っていないような人も普通にいる。当然、そういう人はまともな名簿も持っていない。
野党である現状で、公明さんに閣僚ポストを渡すようなことも当然できないわけで、自民党並みのバーター関係をつくることなど、ほぼ無理なのではないか」
そして、中道改革連合結成直後の状況で創価学会・公明党関係者に話を聞いてみても、状況を楽観視している人はそう多くない。最大のネックは「時間がない」ことだ。1月19日、高市早苗首相は23日に衆議院を解散すると表明。衆院選の投票日は2月8日と定まった。つまり、1カ月もない。
公明党の選挙活動とは周知のとおり、宗教団体たる創価学会の組織ネットワークをフル活用した、緻密な団体戦である。つまり「風任せの出たとこ勝負」のような雰囲気でやるものではなく、計算されつくした組織としての上意下達戦術で、着実に進めていくものなのだ。
しかし現状では「『選挙区で旧立憲民主党と協力しろ』と言われているものの、具体的にどういう候補を支援すべきかも聞かされていない」(ある関東在住の創価学会員)といった地域も珍しくないらしく、つまり「緻密な団体戦」をやる状況が未整備なのだ。
■高齢化と世代交代で組織力が低下
「『中道改革連合』という新しい党名も、この短期決戦のなかでどこまで浸透させられるか心もとない。80代、90代あたりの高齢の会員などは、投票所で今まで通り『公明党』と書いてしまうパターンもあるのではないか」(同前)
そもそもだが、昨秋に公明党が自民党との連立から抜け、いま立憲民主党と新党を結成する決断をした背景を一言で言い表せば、それは「創価学会・公明党の組織的退潮が深刻化してきたから」である。
先に、いま公明党は全国から比例票を500万~600万規模で集めると書いたが、例えば約20年前の2005年の衆院選では898万票といった数を集めていた実績があり、組織力は確実に衰えている。この原因にはさまざまなものがあるのだが、最大の要因は「熱心な創価学会員たちの高齢化」だ。
つまり、カリスマ・池田大作と直接触れ合ったような世代がどんどん高齢化し、また死去しているからである。
そして創価学会は池田に代わる新しいカリスマを生めないままで、組織の活力は低下する一方だ。もはや創価学会員の数的な多数派を占める2世、3世会員たちの多くは、「生まれた家が創価学会員だったから」という理由の会員で、そこまで熱心に活動しない。
■「鉄の団結」も丁寧に積み上げてきた結果
公明党が自民党との連立を解消した理由については、さまざまな話が流布されているが、「このまま自民党と付き合い続けていても、党勢退潮のじり貧状態から抜け出すことは難しい」との判断があったことは確実だろう。
そして何らかの新機軸を求めての、中道改革連合結成であったはずだ。しかしこれまで見てきたように、26年の自公連立関係のなかで培われた「公明票」とは、誰かの一存で簡単に持ち運びや振り替えができるようなものでは、実はない。
そして繰り返すが、今回の選挙においては中道改革連合結成といった大きな状況転換がありながら、「時間がない」という課題が重くのしかかる。
「外部の人は『創価学会の鉄の団結』などと気楽に言うが、創価学会員は洗脳されたロボットなどではない。確かに緻密な組織ネットワークはあるが、その毛細血管的な末端部分では、地域の顔役的な学会員であるとか、公明党の地方議員などが一般の学会員たちと丁寧な対話を重ねて、そういう人間力で団結心を育んできた。でも今、まさにそういう『末端部の顔役』たちが高齢化、弱体化しているんですよ。今回の短期決戦型選挙のなかで、どこまで創価学会としての存在感を出すことができるだろうか」(前出の古参学会員)
ある公明党関係者もこう言う。
「昔であれば、上層部からの指示というのは2~3日もあれば全国に徹底できた。しかし、いまそういうことができる組織力が残っているかどうか。また、旧公明候補が選挙区から撤退する動きもどう影響するかわからない。一票、一票の積み重ねによる真剣勝負たる選挙区で汗をかくことで、創価学会・公明党としての緊張感、躍動感を生み出してきた現実はあるわけで。比例だけだと気合が入らない人もいるのではないか」
■「公明票」の実態が見える機会となるか
そういう不安感や先行き不透明さを背景としているのだろう。
とにかくいま、個々の創価学会員たちに中道改革連合に対する思いを聞いても、意見は相当バラバラなのだ。
「右傾化した自民党とすっきりした形で戦える」「池田先生の目指した理想の中道政治にまい進できる」と、明るく答える人たちが確かにいる一方で、「ろくでもない選択だ」「こんなことで組織の退潮を止めることはできない」と、深刻な面持ちで語る人もいる。確かに「団結」は徹底されておらず、そして時間はあまりない。
もちろん、創価学会・公明党は自分たちの将来を賭ける一戦として、これまでにない覚悟で今回の選挙にのぞむだろう。しかしながら、ある意味において今回の選挙では、これまで定義も不明確なままにマスコミなどで扱われていた「公明票」なるものの実態が、それなりにクリアに見えてくるのではないか。

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小川 寛大(おがわ・かんだい)

『宗教問題』編集長

1979年、熊本県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。宗教業界紙『中外日報』記者を経て、2014年、宗教専門誌『宗教問題』編集委員、15年、同誌編集長に就任。著書に『池田大作と創価学会 カリスマ亡き後の巨大宗教のゆくえ』(文春新書)、『南北戦争 アメリカを二つに裂いた内戦』(中央公論新社)、『誰が「お寺」を殺すのか 貧困化する寺院と多様化する葬儀ビジネスの裏側』(宝島社新書)など。

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(『宗教問題』編集長 小川 寛大)
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