電気代を安くおさえる方法はあるか。「住まいるサポート」の高橋彰社長は「家庭のエネルギーの“漏れ穴”がどこかに注目し、対策することだ。
真っ先に手を付けるべき場所が2つある。この2か所で実に家庭のエネルギーの半分を捨てている」という――。
■1戸最大200万円の補助金が下りる
電気代の請求書を見るたびに、「また上がったのか」とため息をつく人も多いのではないでしょうか。
2022年以降、日本の家庭のエネルギーコストは急上昇し、もはや光熱費は“固定費の一部”ではなく、家計を直撃するリスクになりつつあります。
そんな中で、政府がいま静かに、しかし大規模にお金を投じている分野があります。
それが、「既存住宅の断熱リノベーション」に対する補助です。
窓の交換、給湯器の更新、断熱改修などを組み合わせると、1戸あたり最大200万円を超える補助金が出ます。
しかも対象は新築ではなく、すでに建っている既存住宅です。
それも、縦割り色の強い日本において、「住宅省エネ2026キャンペーン」と称して、国土交通省、経済産業省、環境省の3省が連携して制度化しています。
これは、日本の政策の中でもかなり異例であるといってもいいと思います。
なぜ国は、ここまでして「古い家の性能向上」に多額の予算の税金を投入するでしょうか?
その答えは、喫緊の課題である省エネ・省CO2だけでは説明がつきません。
そこには、もうひとつ、日本社会が抱える住宅に関わる深刻な問題があるのです。

■寒い家が「健康寿命」を縮めてしまう
国が断熱改修に本腰を入れている背景には、「健康寿命」という観点があります。
住宅の寒さがもたらす問題は、単に光熱費や省エネ、快適性だけではありません。
寒い家は、高血圧など循環器系や呼吸器系のリスクを高め、結果として医療費や介護費に跳ね返えることが、近年の研究で繰り返し示されてきました。
寒くなると、毎年、寒い家のヒートショックリスクがメディアを賑わせています。
近年、寒い家の健康リスクについて、明確なエビデンスが示されています。
国土交通省の支援のもとで、慶應義塾大学の伊香賀俊治名誉教授らが中心となり、断熱改修前後の室温や血圧などを追跡する全国規模の調査が進められてきました。
国土交通省の公表資料でも、断熱改修による温熱環境改善が居住者の健康状態に与える効果の検証が明示されています。
さらに一連の研究の成果は、日本の建築研究にとどまらず、海外の有力医学誌(たとえば米国心臓協会系の学術誌「Hypertension」など)でも、室温と血圧の関連や、断熱改修の健康影響を示す研究として公表されています。
厚生労働省は、健康寿命の延伸を政策目標に掲げ、「健康日本21(第三次)」で国民の健康増進に取り組んでいます。この計画において、血圧をベースライン値から5mmHg低下させることを目標にしています。
一方、伊香賀名誉教授らの研究では、断熱改修工事を行うことで、高血圧患者は7.7mmHg、高齢者全体では5.0mmHgも低下させる可能性が示されました。
つまり、住宅の断熱性能向上が「省エネ」だけでなく、高血圧などの生活習慣病対策としても意味を持つ可能性が、学術的にも裏付けられているのです。

住宅の温熱環境を改善して血圧リスクを下げられるのであれば、断熱改修は「家の性能向上」ではなく、「医療・介護の社会コストを抑える投資」として位置づけることができます。
国が中古住宅の断熱リノベに大きな補助を出しているのは、エネルギー政策であると同時に、健康政策でもあるということです。
■なぜ“新築”ではなく“中古住宅”なのか
日本にはいま約6000万戸の住宅があり、そのうち8割以上がすでに建っている既存住宅です。
新築住宅の着工戸数が減ってきている中で、これから建つ新築住宅をいくら高性能にしても、日本全体のエネルギー消費の大半は、これらの既存住宅から生まれているため、効果は限定的です。
しかも、既存住宅のほとんどは、断熱も気密も不十分な「エネルギーを無駄に捨てる構造」になっています。
冬は暖房の熱が窓や壁から逃げ、夏は外の熱がどんどん入り込みます。その結果、冷暖房に大量のエネルギーを使い続けることになっています。
当然、電力やガスの使用量が増え、CO2排出量も増えます。
また、原油等の化石燃料の輸入額が膨らみ、貿易収支やエネルギー安全保障にも悪影響を及ぼしています。
さらに、高齢化が進む中で、寒い家が居住者の健康寿命を縮め、医療費や介護費を押し上げています。
つまり、住宅の断熱性能の低さは、単なる「省エネ・省CO2」、「住み心地の問題」ではなく、国家財政と社会保障をむしばむ構造問題になっているのです。
国が新築ではなく既存住宅の断熱改修に軸足を移しているのは、正面から見据えた結果だと見るべきでしょう。

■「窓と給湯器」でエネルギーの半分を捨てている
では、どこから手を付けるのが最も効果的なのか。ここで登場するのが、今回の補助金の主役である「窓」と「給湯器」です。
住宅から失われる熱のうち、最も大きな割合を占めるのが窓です。
一般的な日本の住宅では、冬の暖房熱の52%が窓から逃げていると言われています。
夏も同様で、外から入ってくる熱の74%が窓経由です。
次に大きいのが給湯です。
家庭で使うエネルギーの中で、給湯は最大の31%を占めています。
特に、古いガス給湯器や電気温水器は、エネルギーを大量に無駄にしながらお湯をつくっています。
政府が、2026年度の補助制度として、窓の断熱リノベ給湯機の省エネ化に巨額の予算を投じているのは、ここが最も費用対効果の高い“漏れ穴”だからです。
つまりそこには、国が考える「省エネ・断熱リノベの正解ルート」が示されています。
まず最優先に位置付けられているのが、窓の断熱リノベです。
「先進的窓リノベ事業」という2026年度の窓の断熱リノベの補助事業には、1,150億円もの予算がつけられています。

内窓の設置や高性能サッシ、高断熱玄関ドアへの交換に対する補助制度で、補助率も手厚く、工事費の半分程度、最大100万円/戸が補助されます。
内窓設置や壁を壊さずに高断熱サッシに置き換えるカバー工法などが補助対象になっています。
窓を変えるだけで体感温度やヒートショックリスクを低減し、冷暖房光熱費も劇的に削減されます。
費用対効果がとても大きな投資なのです。
次が給湯器。エコキュートやエネファームなどの高効率給湯機に切り替えることに対する「給湯省エネ事業」という補助事業には、2026年度は570億円の予算がついています。
高効率給湯器に交換することで、家庭のエネルギー消費を大きく減らすことができます。
補助額は、導入する給湯器の種類によりますが、最大17万円(+既存給湯器の撤去費用最大4万円補助)が補助されます。
そして、壁・床・天井等の断熱リノベに対しては、「みらいエコ住宅事業」という補助事業で、断熱リフォームに対しては300億円の予算がついています。
壁・床・天井といった躯体の断熱改修に対する補助制度で、条件によりますが、最大100万円/戸が補助されます。
これらの補助制度は、併用が可能なため、最大200万円以上の補助を得ることが可能です。
(同一箇所のリノベに対する併用は不可)
■やるなら“年内”がおススメな理由
こうした大型補助は、永遠に続くわけではありません。

そもそも補助金とは、国や地方自治体が特定の政策目的を実現するために、市場原理だけでは普及が難しいようなものに対して、普及を加速させるために一定期間支援するものです。
実際、例えば、先進的窓リノベ事業は2025年度の補助額は、最大200万円/戸だったのが、2026年度は100万円/戸と大幅に削減されています。
つまり国は、既存住宅の断熱リノベは、普及フェーズに移行しつつある段階にあると認識しているということです。
2027年度以降、補助額はさらに削減されていくものと予想されます。
それだけに、寒い家に辟易していたり、断熱リノベの実施を迷っているのならば、2026年度の補助金を活用して断熱リノベ、省エネリノベをぜひ行ってください。

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高橋 彰(たかはし・あきら)

住まいるサポート社長/日本エネルギーパス協会広報室長/一般財団法人 ひと・住文化研究所理事

東京大学修士課程修了。リクルートビル事業部、UG都市建築、三和総合研究所、日本ERIなどで都市計画コンサルティングや省エネ住宅に関する制度設計等に携わった後、2018年に高気密・高断熱住宅の工務店を無料で紹介する「高性能な住まいの相談室」を運営する住まいるサポートを創業。著書に、『元気で賢い子どもが育つ! 病気にならない家』(クローバー出版)、『人生の質を向上させるデザイン性×高性能の住まい:建築家と創る高気密・高断熱住宅』(ゴマブックス)、『結露ゼロの家に住む! ~健康・快適・省エネ そしてお財布にもやさしい高性能住宅を叶える本~』などがある。

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(住まいるサポート社長/日本エネルギーパス協会広報室長/一般財団法人 ひと・住文化研究所理事 高橋 彰)
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