■社員100人超が「不適切行為」の異常事態
やっぱり、なのか、それとも驚きなのか。プルデンシャル生命保険の社員や元社員100人超が、約500人の顧客から、合計30億8000万円を「不適切行為」により受け取っていた。同社が今年1月16日に発表した「信頼回復に向けた改革の取り組みについて」というリリースに、その詳細が書かれている。
きょう(23日)の会見は、冒頭でこのリリースを読み上げたのち、2時間近くにわたって質疑応答を行った。とはいえ、ほとんどが「開示していないので答えられない」との「答え」に終始しており、目新しい中身には乏しい。
そして、もっとも肝心な要素がリリースにも書かれていないし、会見でも明らかにされなかったのではないか。なぜ、「彼ら」が大規模な「不適切行為」に手を染めたのか、その理由が書かれていないのではないか。1億円プレイヤーも珍しくないとされる同社社員たちが、どうして「プルデンシャル生命の制度または保険業務に関連する行為ではありません」(同社プレスリリース)とされる行為に走ったのか。その動機がわからない。
もちろん、会見では「金銭的利益」と述べていた。リリースでも「金銭不祥事等を招いた原因について」との項目において、「営業社員の活動管理および報酬制度上の課題」「経営管理態勢の課題」、そして「組織風土の課題」の3つを挙げている。
■「愛の伝道師」が堕ちたワケ
「彼ら」を駆り立てたものは何なのか。素朴に言えば「金銭的利益」、つまり、金に目が眩んだだけなのかもしれない。それでも、なぜ「彼ら」は、ここまで大規模な「不適切行為」に走ったのか。その原因を知るために、同社の日本での軌跡を簡単に振り返ろう。
1999年、プルデンシャル生命は、朝日新聞に全面広告を打つ。創業者ジョン・F・ドライデンの顔と文章だけのシンプルなもので、「生涯のパートナーとして必要とされる時にお客様のそばにいる」のが「創業の精神」と謳っている。同社は、いまもウェブサイトでこの創業者を奉っている。
「愛の伝道師たれ」というドライデンのことばを掲げ、「生命保険の世帯加入率が世界トップクラスである日本において、この『愛』という 生命保険の基本精神に立ち返り、社会的意義を実現していくことこそが、私たちの使命だと考えています」とサイトに記している。
この「愛」は、誰によるのか、誰のためなのか、何のためなのか。そのサイトには書かれていない。今回の「金銭不祥事等を招いた原因について」も、ことによると、社員や元社員たちによる、自分たちのための、お金のための「愛」なのではないか、と疑われても仕方がないだろう。
■繰り返される「不祥事」の系譜
そんな疑いを招くほどに、同社の「不祥事」は、これまでにも度々起きてきたからである。たとえば、1996年には、東京支店の元幹部が会社の小切手11億円を横領したとして警視庁に逮捕されている(同年10月7日「朝日新聞」夕刊より)。2009年にも神戸支社長が、貯蓄型保険の保険料を担保にした融資を顧客が申し込んだように装って、貸付金約679万円を会社から騙し取った詐欺の疑いで逮捕されている(同年9月21日「朝日新聞」夕刊より)。
また、今回の「金銭不祥事等」についても、発端は1年半前にさかのぼる。2024年8月から進めてきた「不審な金銭取り扱い等に関する確認」である。確認せざるを得なかったのは、「不適切な金銭取り扱いを複数確認」したからである。これを「組織風土の課題」と片付けるのは、あまりに安易ではないか。
「プルデンシャル生命」の名前が日本に入ってきたのは、1981年である。現在はソニー生命と2つに分かれた前身の「ソニー・プルデンシャル生命」が同年4月、営業開始時に注目を集めたのは、同社が「保険外務員に男性進出」(「朝日新聞」1982年6月8日朝刊)という点だった。
■「保険のおばちゃん」への挑戦
いまの呼称では「生保レディ」、当時は「保険のおばちゃん」と呼ばれていた保険外務員は、その名の通り、「長い間、女の“聖域”だった」(朝日新聞)。そこに、ソニー・プルデンシャル生命は「ライフプランナー」として、生活設計や資産管理の相談に乗るとして、「男性のみ、しかも大学卒業の実力を持ち、すでに他の分野での営業の経験がある人しか採用しない」(当時の同社副社長・坂口陽史氏)とした。
経済学者の金井郁と政治学者の申琪榮が近著『「生保レディ」の現代史』(名古屋大学出版会)で辿ったように、高卒や中卒の中高年女性の独壇場だった外務員現場に、「大学卒業の実力」を持つ男性が後から参入した(後発型)ところに、プルデンシャル生命の源流がある。
職場に毎日のように来て、飴や文房具を配ってくれる、いわば、擬似的なお母さん=「保険のおばちゃん」ではなく、トータルな人生設計を助言・指導してくれる「ライフプランナー」だから契約するのだ、と、顧客のプライドをくすぐったところに、同社の根っこがある。
まさに、ここに「組織風土の課題」があり、今回の「金銭不祥事等を招いた原因」があるのではないか。そして、そこには、日本における生命保険の位置づけがかかわってくる。
■生保「世帯加入9割」のカラクリ
『「生保レディ」の現代史』でも取り上げられ、また、プルデンシャル生命も「世界トップクラス」と述べるように、日本の9割の世帯が生命保険に加入している。たしかに、生命保険文化センターがまとめた「生命保険に関する全国実態調査」によれば、個人年金保険を含む世帯加入率は、89.2%である。世帯でみれば、ほとんどが何らかの生命保険をかけている。
かたや、「世帯」ではなく「人」、つまり、個人で見るとどうか。ニッセイ基礎研究所の有村寛氏のレポートによれば、日本は2020年時点で65%と、米国を含めた12市場では7番目、「ほぼ中間に位置している」という(「世界の消費者はどの位の割合で生命保険に加入しているのか 生命保険の国際比較」2022年11月22日公開)。
家の単位だと90%近いのに、ひとりずつだと3人に2人程度にとどまる。このズレはなぜ生じたのか。それは、生命保険に加入している理由に基づくとみられる。日本においては「労働収入が失われることへの蓄え」が主なものとして挙げられている。
■ネットに拡散する「プルゴリ」
良くも悪くも、日本における生命保険は、それ以上でもそれ以下でもない。有村氏は、日本の団体保険と個人保険の加入率がそれぞれ、79.0%と31.0%と、2倍以上の開きがある点にも注意を促している。前者が会社などの経由、後者がひとりずつ入る、という違いがある。「ライフプランナーが生涯にわたるパートナーに」と売り出しているプルデンシャル生命が、いくら「ライフプランナー」を押し出しても、依然として、「保険のおばちゃん」のようなセールスの仕方が多数を占める。
そこで、プルデンシャル生命は、どうやって市場をとるのか。無理が出る場合があり、その無理を象徴するのが、ネット上で話題にされる「プルゴリ」や「ツーブロックゴリラ」と揶揄される「伝説の営業マン」たちである。
■身の丈に合わない「万能感」
「プル」デンシャル生命の「ゴリ」押し営業を略して「プルゴリ」で通じるほど、同社のスタイルはネット上では有名だった。さらに、「ゴリ」には「ゴリラ」のような強さのイメージも加わり、ますますその怖さというか強さが共有されていった。この「ゴリラ」から派生して、同社の営業マンに多い髪型=ツーブロックを加えた「ツーブロックゴリラ」もまた、そのいかめしさをあらわすネットミームとして広まった。
こうした人たちが、なぜ「不適切行為」に及んだのか。
窪田氏の洞察の通り、「プルゴリ」や「ツーブロックゴリラ」が万能感を抱いていたのかもしれない。ネット上で「プルデンシャル生命」と「伝説の営業マン」で検索してみよう。次から次へと「伝説」が語られているし、実際に、彼らの成果も収入もスゴイに違いない。
■日本人にとって「生命保険」とは何か
注意しなければいけないのは、あくまでも「プルゴリ」や「ツーブロックゴリラ」がネット上で(のみ)揶揄されているところではないか。先に見たように、日本は生保大国ではあるものの、個人加入は少ない。市場規模をあらわす、GDPに対する生命保険収入保険料でも6.1%と、大勢が大儲けできるほどではない。
いくら「伝説の営業マン」だと誇ろうとも、生命保険市場は、まだまだ「保険のおばちゃん」や、企業等の単位での団体保険が多数を占めているのであり、実は、「プルゴリ」や「ツーブロックゴリラ」の存在は、そこまで大きくはない。
実は、これこそが、「彼ら」が不適切行為に手を染めた理由ではないか。どれだけイキがったとしても、いや、イキがればイキがるほど、ますます、自分たちの矮小さを自覚するほかない。そんな日本における生命保険の歴史と現実がつきつけるむなしさに、「彼ら」は耐えきれなかったのではないか。
むろん、「愛の伝道師たれ」という創業者ドライデンのことばに従って、金への愛を追い求めただけなのかもしれないし、本当の動機など、本人ですらわからないかもしれない。
----------
鈴木 洋仁(すずき・ひろひと)
神戸学院大学現代社会学部 准教授
1980年東京都生まれ。東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。博士(社会情報学)。京都大学総合人間学部卒業後、関西テレビ放送、ドワンゴ、国際交流基金、東京大学等を経て現職。専門は、歴史社会学。著書に『「元号」と戦後日本』(青土社)、『「平成」論』(青弓社)、『「三代目」スタディーズ 世代と系図から読む近代日本』(青弓社)など。共著(分担執筆)として、『運動としての大衆文化:協働・ファン・文化工作』(大塚英志編、水声社)、『「明治日本と革命中国」の思想史 近代東アジアにおける「知」とナショナリズムの相互還流』(楊際開、伊東貴之編著、ミネルヴァ書房)などがある。
----------
(神戸学院大学現代社会学部 准教授 鈴木 洋仁)

![[のどぬ~るぬれマスク] 【Amazon.co.jp限定】 【まとめ買い】 昼夜兼用立体 ハーブ&ユーカリの香り 3セット×4個(おまけ付き)](https://m.media-amazon.com/images/I/51Q-T7qhTGL._SL500_.jpg)
![[のどぬ~るぬれマスク] 【Amazon.co.jp限定】 【まとめ買い】 就寝立体タイプ 無香料 3セット×4個(おまけ付き)](https://m.media-amazon.com/images/I/51pV-1+GeGL._SL500_.jpg)







![NHKラジオ ラジオビジネス英語 2024年 9月号 [雑誌] (NHKテキスト)](https://m.media-amazon.com/images/I/51Ku32P5LhL._SL500_.jpg)
