※本稿は、堀田秀吾『スタンフォード、ケンブリッジ、イエール…世界の科学が証明した絶対に考えてはいけないことリスト』(フォレスト出版)の一部を再編集したものです。
■自己肯定感が低い人は他者との比較が下手
カリフォルニア大学リバーサイド校のリュボミルスキーとスタンフォード大学のロスの研究では、幸せな人と不幸な人が社会的比較情報に対して異なる反応を示すことを示しています。
まず、不幸を感じやすい人は、まわりの人の成功や失敗に強く影響されます。そのため、日常のちょっとした比較でも気分が大きく揺れ動きやすいのです。
一方で、幸せを感じやすい人は、他人の失敗や自分より劣っている点にだけ注意を向け、自分の気持ちや自己評価を守ろうとします。だから、幸せな人のほうが気分が安定していて、「自分はこういう人だ」という感覚(セルフコンセプト)もぶれにくいのです。
結局、幸せな人は社会的比較をコントロールし、自己評価を安定させることで幸福感を維持している一方、不幸な人は比較情報に過敏に反応し、気分や自己評価が揺れやすくなることで不幸感を増大させていると考えられます。
この「不幸を感じやすい人」というのは、「自己肯定感が低い人」とも言い換えることができます。つまり自己肯定感の高低が、健全な、あるいは不健全な他者との比較を決定づけるわけです。とりわけ、日本人の自己肯定感は、世界的にもかなり低め。つまり、多くの日本人が他者と比較することにストレスを感じやすいといえるでしょう。
こども家庭庁による「我が国と諸外国のこどもと若者の意識に関する調査」(令和5年度)においても、日本の子どもや若者は、自分自身に満足している割合が他の先進国に比べて低いことが指摘されています(図表1)。
たとえば、40歳くらいになったときの自分の姿について「満足している」と回答した日本の若者は約35%にとどまっているのに対し、アメリカでは約55%、イギリスでは約50%、カナダでは約60%といった高い数値でした。
また、「幸福は自分の努力や能力によって得られるものである」という考えに賛同する割合も日本は約40%と低めでしたが、ドイツやフランスでは60~70%、韓国やオーストラリアでも約65%を超えていました。
これらの結果は、日本の若者が自己肯定感や将来への期待感を欧米諸国や一部アジア諸国に比べて持ちにくい傾向を示しています。
■自分より優れた人との比較が生み出す心の動きとは?
他者といっても、自分よりも上の人か、下の人か、あるいは同程度の人かで、比較したときの受け止め方は変わります。
たとえば、自分より上手な人と比べてがんばろうと思ったり、自分より困難な状況にある人と比べて「あの人よりはマシだ」と感じて元気を出したりします。
人は一般的に、自分より少しだけ優れている人と比べることを好む傾向があります。「上方比較」と言います。これは「上方への向上心」を示すもので、自分を成長させるために励みになるからです。
ただし、グロニンゲン大学のブーンクとアイオワ州立大学のギボンズの過去50年の社会的比較の研究をまとめたレビュー論文によると、この上方比較の好みは状況によって変わります。
たとえば、比較が他者に知られたり、実際にその人と会う可能性がある場合は、上方比較を避ける傾向があります。また、自己改善という動機が強いときに上方比較が起こりやすく、逆に、自己改善に興味がない場合は同じレベルの人との比較を選ぶこともあります。
さらに、ストレスが高いときは、上方比較から受けるポジティブな効果が少なくなり、比べる対象として少し低い人と比べたほうが、気持ちが楽になることもあります。ただし、病気などで自分の状況が悪い場合は、あまり下方比較をしないこともわかっています。
■自分より劣った人との比較が生み出す心の動きとは?
私たちは生きている中で、時に挫折や失敗、不幸に直面します。そんなとき、自分の心を少しでも楽にし、前向きに生きる助けとなる心の働きの1つが「下方比較」というものです。自分よりも不幸な人や状況と比べることで、自分の状況を相対的に良いものと感じ、気持ちが楽になるという仕組みです(図表2)。
下方比較には2つの形があります。
1つは受動的な下方比較です。たとえば、偶然に自分より困難な状況にある人を見て「自分はまだ恵まれている」と感じるときです。
もう1つは能動的な下方比較で、これは相手を批判したり、時には攻撃することで自分を優位に立たせようとする行動を指します。前者は心を静かに慰め、後者は自分を守るための攻撃的な防衛ともいえます。
アメリカ保健財団のウィルズは、この比較が特に「自己評価が傷ついたとき」や「心理的苦痛を感じるとき」に強く表れると指摘しました。逆に心が安定しているときには、わざわざ他人の不幸を探す必要はなく、むしろ他人の幸せを喜ぶ余裕が生まれるのです。
下方比較は、私たちの社会的行動にも影響を与えています。困難な状況にある人同士が集まって支え合うのも、他者への偏見や差別が生まれるのも、さらには友人の失敗を笑い合うユーモアも、この仕組みで説明できます。ウィルズはこれを「心理的効用」として理論化し、社会現象と個人心理を結びつけて理解する枠組みをつくり上げました。
ただし注意すべき点もあります。自己肯定感の低い人は下方比較に頼りやすく、常に他者を下に見ることで安心しようとする傾向があります。これは一時的には心を守るかもしれませんが、長期的には人間関係や自尊感情に悪影響を及ぼすことがあります。
以上のように、私たちは無意識のうちに比較しながら生きています。
そのことを知っておくだけでも、「なぜあのとき他人に厳しくなってしまったのか」「なぜ安心できたのか」といった自分の心の動きを理解しやすくなります。社会比較理論は、自分の心を見つめ直すための大切な手がかりなのです。上方比較とも合わせて、自分に合った比較の仕方をすることが重要だと言えます。
【参考文献】
・Morse, S., & Gergen, K. J. (1970). Social comparison, self-consistency, and the concept of self. Journal of Personality and Social Psychology, 16(1),148–156.
・Mussweiler, T., & Rüter, K. (2003). What friends are for! The use of routine standards in social comparison. Journal of Personality and Social Psychology, 85(3), 467–481.
・Lyubomirsky, S., & Ross, L. (1997). Hedonic consequences of social comparison: A contrast of happy and unhappy people. Journal of Personality and Social Psychology, 73(6), 1141–1157.
・Buunk, B. P., & Gibbons, F. X. (2007). Social comparison: The end of a theory and the emergence of a field. Organizational Behavior and Human Decision Processes, 102(1), 3–21.
・Wills, T. A. (1981). Downward comparison principles in social psychology. Psychological Bulletin, 90(2), 245–
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堀田 秀吾(ほった・しゅうご)
明治大学法学部教授、言語学博士
1999年、シカゴ大学言語学部博士課程修了(Ph.D. in Linguistics、言語学博士)。
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(明治大学法学部教授、言語学博士 堀田 秀吾)

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