※本稿は、萬田緑平『棺桶まで歩こう』(幻冬舎新書)の一部を再編集したものです。
■足だけでなく喉の筋肉も大事
患者本人が希望を持って「がんばろう」と思えれば、リハビリで筋力をアップさせることができます。リハビリの良さは、老化によってさまざまな機能が落ちていく中で、「上がっていく」ことを実感できることです。がんばってリハビリがうまくいくと「できることが増える」のでうれしくなり、気分も上がります。
リハビリで鍛えるのは、歩く筋肉だけではありません。人間は、足や体幹の筋肉が衰えていくのと同じように、呼吸するための筋肉「呼吸筋」も衰えていきます。
どうして人は息を吸って、吐けるのでしょうか。ちょっと長くなりますが説明しましょう。
実は、肺そのものは膨らんだり縮んだりできません。肺は「胸郭(きょうかく)」と呼ばれる箱のようなものに入っており、胸郭が広がると肺に空気が入り、縮むと空気が出ていくという仕組みです。
■「呼吸筋」で息を吐き出している
「胸郭」とは、肋骨(ろっこつ)と肋間筋(ろっかんきん)で作られた箱で、箱の底に「横隔膜」があります。
肋間筋の力で、肋骨と肋骨の間の距離を広げ、横隔膜が下がると胸郭の箱は大きくなり、連動して肺が大きくなる。これが「息を吸う(吸気)」です。
逆に、肋間筋の力で肋骨と肋骨の間の距離を縮め、横隔膜が上がると胸郭の箱は小さくなり、肺は押しつぶされて小さくなる。これが「息を吐く(呼気)」ということです。
肋間筋以外にも、呼吸に関係する筋肉はいくつかあり、総称して「呼吸筋」と呼びます。「肺活量」というと肺の大きさ、容量のように思えますが、実は肺の大きさではなく、呼吸筋のパワーを測っているのです。胸郭を呼吸筋で最大に広げた時と、縮めた時の差が肺活量です。
呼吸筋が弱ると、胸郭が大きくも小さくもなりにくい、つまり肺活量が下がるため、呼吸が浅くなり、息を吐き出す力が衰えてしまいます。大きく吸って、大きく吐く、それを短時間で一気にするのが咳(せき)です。呼吸筋が弱ると、弱い咳しかできなくなり、痰(たん)を吐き出すことができません。
■「誤嚥性肺炎」は病気ではない?
誤嚥(ごえん)しても咳で痰を吐き出せなくなります。一般的にはこの状態を「誤嚥性肺炎」と呼びますが、「誤嚥性肺炎」は病気ではなく、死ぬ一歩手前の状態に名前をつけただけだと考えています。
こうした弱い咳しかできなくなる状態は、多くの人がすでに歩けず、食べ物を飲み込むのもやっとという状態。僕は、死というゴールが近づいていると判断します。
ところが、そんな状態でも、本人にがんばる気力が残っていれば、ゴール直前から引き返してくるケースもあります。
■肺がん末期でも呼吸リハビリで…
肺がん末期のGさんが、家で看取るために自宅に戻ってきました。弱い咳をして、痰も満足に出せない状態です。僕はもう亡くなる直前だと思い、リハビリはしないことにしました。ところが自宅に戻ると、Gさんはしだいに気力と食欲を取り戻していきます。
1週間たった頃、僕は方針転換し、リハビリ担当のスタッフに呼吸リハビリを依頼しました。
呼吸筋を鍛える最大のリハビリは、実はやはり「歩くこと」です。けれどGさんはすでに歩行が難しいので、「トリフロー」という呼吸訓練器を使って、リハビリをすることにしました。「トリフロー」とは、肺の手術の前後のリハビリに使われるもので、ピンポン球くらいのボールを呼吸で浮かせる器械です。
「もっとしっかりやって!」とけしかけて毎日続けていると、スタッフから「リハビリ効果が出てきました」との報告。
そして、なんと余命数週間と言われたGさんは、1年たっても生き続け、しかも太ってきました。Gさんは、がんで死にそうだったのではなく、抗がん剤の影響で死にそうだったのです。さらに2年近くたち、介助付きですが歩くこともできるようになっています。
呼吸筋を意識することはないと思いますが、意識して鍛えると目に見える効果が生まれる例もあります。呼吸筋トレは患者だけでなく、家族にも勧めています。
「あまりがんばると酸素が行きわたり、美しくなっちゃいますから気を付けてくださいね」なんて笑いながら――。
■嚥下リハビリで死ぬまでむせない
歩けなくなり、痰を吐き出せなくなった頃、飲み込むこと、「嚥下(えんげ)」もできなくなります。水を飲むだけでむせてしまう状態です。
嚥下ができなくなるような患者さんは、かなり弱った方です。意識がしっかりしている方、頭がしっかりしている方で嚥下が悪くなる人はあまりいません。
リハビリが成功するかどうかは、本人の気力が大きく関わってきます。いくらいい家庭教師がついても、勉強する気のない子どもの成績が上がらないのと同じです。リハビリも同じで、認知症や高齢で嚥下が悪くなった人は、あまりリハビリが成功しないのです。
病院ではやっていますが、意識の悪い人にいくらリハビリをしても効果はないため、僕もほとんど指導することはありません。
ただ意識がしっかりしている喉周りのがんの方には、かなりの効果があります。
■飲食時は「飲み込む行為」に集中
若い世代の方がより効果が期待できるので、参考までに紹介しましょう。
飲食の時間こそ、嚥下リハビリの時間です。嚥下の際は、喉のいろいろな筋肉が動いて食べ物を食道に送り込んでいます。飲食する時、飲み込む行為に集中すると、喉の複雑な動きを感じられると思います。
ごくごく飲み込まないで、少しずつ気合を入れて真剣に飲み込んでみてください。
「今、飲み込んだものがどこを通っているか?」と意識しながら飲み込むだけで、嚥下のリハビリになります。
唾液や少量のゼリーを1分間に何回飲み込めるか、試してみるのも、嚥下の筋肉を鍛えるリハビリになるでしょう。
がんなどの病気がない方でも、飲み込む力に不安がある方は、歩く筋肉、体幹の筋肉、呼吸筋とともに、元気なうちから意識的に鍛えるといいと思います。
死ぬまで嚥下リハビリを続ければ、死ぬまでむせることはありません。
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萬田 緑平(まんだ・りょくへい)
医師
「緩和ケア 萬田診療所」院長。1964年生まれ。群馬大学医学部卒業後、群馬大学医学部附属病院第一外科に勤務。手術、抗がん剤治療、胃ろう造設などを行う中で、医療のあり方に疑問を持つ。2008年から緩和ケア診療所に勤務し、在宅緩和ケア医として2000人以上の看取りに関わる。著書に『穏やかな死に医療はいらない』(河出書房新社)、『家で死のう! 緩和ケア医による「死に方」の教科書』(三五館シンシャ)など。
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(医師 萬田 緑平)

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