■俳優トム・クルーズの最大の特徴
“俳優”トム・クルーズの特徴として特に今日挙げられる一番大きなものは、彼が自身で行うスタントである。ここ10年の彼の作品で、アクションがない作品はほとんどなく、彼はそのアクションを全て自分でこなす事を売りにしている。
これは、観客を喜ばせたいという彼の一流のサービス精神によるものだと私は思っているが、サービス精神があったとしても、現実には出来ない、というのが普通の俳優である。
「知識と技術」を重んじる前にクルーズに備わっているもの、それはフィジカルの強さとスタミナだ。エネルギーは持って生まれたものという側面があるかもしれないが、身体の強さは一朝一夕で出来るものではない。
クルーズは若い頃から常にスポーツをしている少年で、運動神経も抜群だったらしい。小学生の頃に住んだカナダでは、同級生から認められるためにはナショナルスポーツであるアイスホッケーのスキルがマストだったが、引っ越した当初、クルーズはスケート靴を履いたこともなかった。
彼は与えられたフィギュアスケート用の靴で放課後毎日スケートの練習をし、数週間後にはアイスホッケーチームに入るようになった。身体を鍛えることの重要性を知った彼は、毎日走り、筋トレをするようになった。
■サボる共演者を尻目に宙返り練習
彼はデビュー作『エンドレス・ラブ』ですでに、ムキムキの足丸出しの短パンルックでその筋肉を見せつけているが、その後の『タップス』『卒業白書』でも、作中には身体を鍛えるシーンが必ず出てくる。
『アウトサイダー』のリハーサルではオクラホマの体育館で器械体操を練習させられた、とロブ・ロウが語っているが、他のメンバーがさぼる中、クルーズはバク転や前方宙返りを練習し続けたという。
クルーズ演じるスティーヴは、チーム内でもひときわテンションの高い役柄だが、意味もなくバク転、前方宙返りをするシーンが完成作品の中にしっかり入っているのだ。クルーズは毎日のジョギングと筋トレのローテーションで、 『タップス』のデビッド役では体重を6キロ増量し、『卒業白書』では8キロ絞るというように自在に体型を変えた。
かつてロバート・デ・ニーロに代表されたそのプロフェッショナリズムは、20歳の俳優ではあまり見られなかった。毎日のジョギングは子供の頃からの習慣だった上に、『アウトサイダー』撮影時には、共演者が週末バーに繰り出すさなか、クルーズはひとり早起きして、その頃流行っていたノーチラスのジムに行っていたという。
スターになり、ミリオネアになってからは、これが自宅の常設ジムへと変わったに違いないが、これらの習慣で作られた強靱な身体でクルーズは、自身のスタントを全てこなす偉業を成し遂げるようになったのである。
■『ミッション:インポッシブル』名シーン秘話
『ミッション:インポッシブル』以前のクルーズは、どちらかと言うと目上の監督や俳優と組んで、彼等から教わりながら自分が成長する、という面が大きく、雇われ俳優としての立ち位置を崩していないため、派手なアクションや自身のスタントはそこまで多くない。
自分で出来ることは自分でやりたい、と言う彼だが、「出来る範囲のスタント」にとどまっていたようだ。しかし、プロデューサーも兼ねることになったM:Iシリーズで、彼のアドレナリンが大爆発することになる。
そのきっかけは何と言っても『ミッション:インポッシブル』で見せた、天井からワイヤーで下降し床のすれすれで止まる、あのアクションだろう。今でも繰り返し振り返られるあの名シーン、床上でピタっと止まる際のバランスは、靴のつま先に2ポンドのコインを入れることで成立させ、そのアイディアはクルーズ自身が考えたものだそうだ。
あれを初めて見た時は、胸が躍ると同時に肩がすくむという、得も言われぬ体験をしたものだ。
■ゲリラ的決行が生んだスタント人生の起点
『ミッション:インポッシブル』のスタントは、回を重ねる度に派手に、危険になっていくが、私の中でいまだにM:Iシリーズの象徴と思うスタントは、作品としては一番面白くない『M:I-2』のオープニングシーンのスタントである。
ユタ州の断崖絶壁に両腕を広げ、後ろ向きにぶら下がるあのイメージ。40歳を目前に、鍛えぬいた身体全体で十字を描くクルーズを、真正面からカメラがとらえる。自信に満ちたその顔は最高潮に美しく、崖と共に作品を背負う、俳優トム・クルーズのピークである。
今でこそ、常軌を逸したクルーズのスタントはお馴染みのものになってきたが、『M:I‐2』の時点ではまだ、ここまで危険なスタントは考えられなかった。最近のスタントに比べればこの作品での崖ぶらさがりは「クルーズにしては大したことのないスタント」と位置づけられるかもしれない。
しかし、このスタントこそ、飛行機もパラシュートも世界一高いビルも使わず、自然の形状と生身の身体のみで魅せるスタントだ。スタッフからは何度も止められ、半ばゲリラ的に4日間で敢行したこのスタントが成功したことで、トム・クルーズのその後のスタント人生が生まれ、進化し続けたと言っても過言ではないだろう。
■ジャッキー・チェンとの決定的違い
監督にジョン・ウーを迎え、香港アクションをふんだんに取り入れて作品を作った事からも、クルーズがこの作品を通して、ジャッキー・チェンの様に自身でスタントをこなす派手なアクション映画を作りたかったことが窺える。
ジャッキー・チェンは、トム・クルーズと比較すべきもう一人の大スターである。俳優として体を張り、何度も怪我(2度は命に関わる重傷)を負いながらも、クルーズ以上に何十年にも渡って自身でのスタントを演じ続ける第一人者である。
さまざまな面で共通点の多いこの二人だが、決定的な違いがひとつある。
映画制作において、リーダーは監督である。ゆえに、何でも自分でコントロールしたいクルーズが監督を目指すのは自然な流れのように思えるが、クルーズはそれをせず、自分の思った通りに作品を作ってくれる監督を選んでいる。
■イーサンに重なる哲学
2000年以降のインタビューでは、「自分は演出したくない。されたい」という発言もしており、現在のクルーズが監督業には興味を持たず、それぞれの役割を担うチームでの制作を好んでいることがわかる。
95年頃のインタビューでは何度となく「監督もしてみたい」と発言していることを鑑みると、映画製作の仕方についても、長年の勉強と俳優としての経験、そしてプロデューサーとしての役割を担ううちに、自分の役割は監督ではない、という結論に辿り着いたのだろう。
トム・クルーズも人間だ。プロデューサー、俳優、スタントマンと何足もわらじを履いている上に、作品の全てを創り出す監督業までこなすのはいくら何でも荷が重すぎると感じたとしてもおかしくない。
個人プレーではなく、チームワークで作品を作り上げる姿勢は、M:Iシリーズの主人公イーサン・ハントに通じるところでもある。
----------
メラニー(めらにー)
アカデミー賞ウォッチャー
映画会社に29年勤務しながら、1989年から35年にわたりアカデミー賞を見続けている会社員。アカデミー賞受賞予想がライフワーク。2017年2月にTBSラジオの人気カルチャー番組「ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル」(現在は「アフター6ジャンクション2」)に“オスカー予想屋”として初登場。
----------
(アカデミー賞ウォッチャー メラニー)

![[のどぬ~るぬれマスク] 【Amazon.co.jp限定】 【まとめ買い】 昼夜兼用立体 ハーブ&ユーカリの香り 3セット×4個(おまけ付き)](https://m.media-amazon.com/images/I/51Q-T7qhTGL._SL500_.jpg)
![[のどぬ~るぬれマスク] 【Amazon.co.jp限定】 【まとめ買い】 就寝立体タイプ 無香料 3セット×4個(おまけ付き)](https://m.media-amazon.com/images/I/51pV-1+GeGL._SL500_.jpg)







![NHKラジオ ラジオビジネス英語 2024年 9月号 [雑誌] (NHKテキスト)](https://m.media-amazon.com/images/I/51Ku32P5LhL._SL500_.jpg)
