■関係者全員を味方につける「神対応」
各国を飛び回る事だけでも凄いのに、クルーズが本当に凄いのは、来日中の彼の姿勢が一貫してさわやかなことである。
これは間違いなく、彼のセルフプロデュースの能力だと思うのだが、どんな映像を見ても彼は常にあのクルーズ特有の笑顔(ベン・スティラーが真似するやつ)をたたえ、礼儀正しく相手に接する。
YouTubeに上がっている取材時の様子やアメリカのテレビ番組の収録の様子を見る限り、彼は取材記者のみならずカメラマンやアシスタントなど、その部屋にいるひとりひとりと握手をし、丁寧にあいさつをし、相手の名前を聞いて覚える。
私も20年間の配給会社での仕事において、数々のハリウッドスターの来日を経験したが、こんな俳優は一人もいなかった。こうすることでクルーズは、作品を配給するスタッフから取材する記者まで、すべての関係者を味方につける。
その好印象が関係者の士気を高め、良い記事や露出につながることをプロデューサーとしてきちんと認識しているのだ。
■炎上しても揺るがない信頼
そしてインタビューの中では常に、「自分は恵まれている」「映画を作り続けることが自分の夢」と、たゆまない映画愛を繰り返し語る。過去には何回か、レッドカーペットで水をかけられたり、インタビューで失礼な物言いをされたり、踏み込んだ質問をされたことがある。
そんな時も彼は冷静に相手と向き合い、ごまかすことなくはっきりと「君は失礼だ」「一線を越えている」と伝える。見ている私達は、こうした彼の言動に感動し、ますます彼のファンになっていく。無礼を働いた相手は皆、自分の醜態をさらけ出しただけの結果で終わる。
数年前のコロナ禍の中で一度、M:Iシリーズの現場でスタッフを怒鳴る彼の罵声がリークしたことがあった。ヒステリックに叫ぶ彼の声は瞬く間にSNSで拡散され、彼を批判する声が多く上がった。
少しでも過剰に怒るとすぐにパワハラ、モラハラと叫ばれる昨今、彼の罵声が非難されるのは必然と言わざるを得ないが、そのバッシングの数日後には映画業界の内外からクルーズ擁護の声が上回り、醜聞は数週間で消えることとなった。
■罵声の裏にあった現場への責任感
これは、クルーズが激怒した原因が、コロナ禍の制作現場でのルールを守らなかったクルーに対して、制作に関する責任を負い、自ら命がけで制作に臨んでいるクルーズの現場を守る気持ちから出たものであり、罵声の中でクルーズが言っていた主張が、至極まっとうなものであったことに起因している。
彼の映画制作に対する誠実な姿勢や、主演俳優として積み重ねてきた努力は世界中の誰もが知るところで、世間にとって彼の一度の人間的な失敗は、それまでの功績に比べたら許されるべきものだった。これはまさに、自分のパブリックイメージを一貫して統一し、映画作りに命をかける俳優、トム・クルーズを確立してきた成果だろう。
彼のインタビュー映像を見ていると、彼の受け答えはセルフプロデュースの賜物だということが良くわかる。働き者の彼は、さまざまな国の色々な媒体で取材を受けるが、どの時代も作品も、返答する際のフォーカスがそれぞれに決まっており、準備をしてきたことが良くわかるのだ。
例えば、『デッドレコニング』の際の取材では、『タップス』時代に自分が映画作りを学ぶために色んな部門の現場を見学した話を多用しているが、これは全てヘリコプターのローターに上って演じるスタントの説明につながって行く。
■脚本はスタントの理由付け
各作品で自分が一番押し出したいセールスポイントを話すために、どんな過去の逸話が一番効果的か。彼はジャーナリストの質問に答える中で、自分が主張したい宣伝ポイントにうまくつなげる準備を万端にしている。
緻密に考えられ、用意された話はいつも興味深く、そのアクションを見るために劇場に行きたいと観客に思わせる。
プロデューサーとしてのトム・クルーズは、配給宣伝でやるべきことが分かっているだけでなく、そもそも作品を作る時点で、俳優として何が望まれているかを熟知している。危険なスタントを含むアクションシーンを自分自身で行うことが、まさにそれだ。
常に観客を楽しませたい、驚かせたいと考えて作品を作り続けるクルーズは、M:Iシリーズで毎回前作を超えるアクションやスタントを実行し、観客を楽しませてきた。
M:Iシリーズはもはやクルーズのスタントを見るための作品であり、脚本はそのスタントを成り立たせるための理由付けのような存在になっている。彼は、新しいスタントを成立させるために撮影技術を開発し、身体を鍛え、それを可能にしていく。更にプロデューサーの自分が、それについてくることが出来る監督(McQ)と俳優(自分)を選ぶことで、製作を可能にする。
■撮影初日に崖からバイクで飛ぶ
ハリウッドの映画製作は、関わるスタッフ全てが組合に所属しており、彼等の権利や労働条件が細かい規約で守られている。プロデューサーとして作品作りに参加することは、それらの規約も理解した上で何が出来るか決断する必要があるのを意味する。ハリウッドの作品を作る際に必要となるものに、完成保証がある。
完成保証とは、決められた予算内で作品を完成するためにかけられる保険のようなものであるが、クルーズのスタントは危険すぎて、通常の保険ではカバーできない。クルーズはそれも理解した上で、すべての責任を負って危険なスタントに挑戦し続けている。
クルーズのスタントの中で、現時点でおそらく一番アイコニックで魅惑的なスタントは、『M:I‐7』で見せた崖からバイクで飛ぶスタントだろう。
言うまでもなく命がけだが、それまでのスタントレベルをはるかに超えたこのスタントは、第1日目の撮影シーンに設定された。初日に6回、翌日に2回飛んだらしいが、成功するかもわからない、死ぬかも知れないスタントを最初に持ってきたのは、万が一失敗した場合に、残りの撮影を中止し、周りのスタッフの時間と製作費を無駄にすることがないための配慮だった。
まさにプロデューサーとしてのクルーズが、現場全体への影響を考えて下した決断だ。この撮影は、クルーズ本人しか出演しないシーンだが、共演者たちは現場でこの映画史に残る名スタントの撮影を見守った。
■命懸けスタントを成立させる製作陣
アクションのスタントを俳優自身がこなすためには、それに耐えうる身体を保ち続けるのは勿論の事、それを支えるスタッフにも同じくらいの努力が課されることになる。
M:Iシリーズの最近4作に関わるクリストファー・マッカリー監督は、折に触れてその話をしているが、空中や水中でのスタントを撮影するために必要な知識や技術は、スタントマンを使っての撮影時とは次元が違い、スタント撮影をしながら、普通の撮影(表情や角度のついたショットなど)をしなくてはならないので、より高度な技術や特殊な設備が必要になる。
M:Iシリーズや『トップガン マーヴェリック』に出てくる飛行機の中でのショットは、監督が同乗出来ないため、クルーズが自分自身でカメラの位置や照明の方向を確認し、調整しながら演技をしているそうだ。
クルーズも、プロデューサー業に乗り出す前の作品では、全てのスタントを自分でやってはいなかった。現に、1作目の『ミッション:インポッシブル』で、水槽を割って逃げるシーンのスタントを指示された際には「自分は俳優でスタントマンじゃない」と、ブライアン・デ・パルマ監督に言ったそうだ。
■どのショットも「本人」である価値
だが、そのシーンをはじめ、色々なスタントを体験するうちに、考え方が変わったのだろう。
『マイノリティ・リポート』のインタビューでは既に「出来るスタントは自分でやりたいと監督に伝えた」という発言をしている。
どの角度からのどのショットも、全てまるごとトム・クルーズなのだ。制作の現場でチームをリードするのは監督の仕事だが、クルーズはプロデューサー兼主演俳優としてすべてをコントロールすることで、監督を更にリードする存在になっている。
その上配給宣伝にも関わることで、総合プロデューサーとして、映画をヒットに導くのだ。
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メラニー(めらにー)
アカデミー賞ウォッチャー
映画会社に29年勤務しながら、1989年から35年にわたりアカデミー賞を見続けている会社員。アカデミー賞受賞予想がライフワーク。2017年2月にTBSラジオの人気カルチャー番組「ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル」(現在は「アフター6ジャンクション2」)に“オスカー予想屋”として初登場。以来、アカデミー賞シーズンの風物詩ゲストとなっている。以降、映画関連の寄稿記事やトークイベントに多数掲載及び出演。
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(アカデミー賞ウォッチャー メラニー)

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