■料理すると子どもの脳が活発に動きだした
「脳トレ」という言葉を定着させた、ニンテンドーDS用ゲームソフト「脳を鍛える大人のDSトレーニング」シリーズの監修者であり、脳機能研究の第一人者の東北大学、川島隆太教授に、家事と脳トレの関係について聞いた。
というのは以前、ミシンの記事を書いた際、アックスヤマザキでシニア向けのミシンについて、川島教授にミシンを使うことが脳トレになる、と保証してもらったと聞いたからだ。しかも、家事はやり方によって、個人の脳トレになるだけにとどまらず、家族の関係まで良好にする可能性があるらしい。
条件を限定するのが難しいこともあり、家事と脳機能の関係を検証した研究は少ない。しかし長年実験をくり返し、脳の機能を解析してきた川島教授は、過去に2回企業との共同研究で、料理に関する興味深い実験を行っている。そこで検証したのは、親子が一緒に料理することによる脳への影響である。
1つ目は、2004年に大阪ガスと行った。光トポグラフィー(近赤外線計測装置)を小学生の頭につけて血流量を測りながら調理した実験と、小学3~5年生の子どもとその親30組を対象にした実験である。後者は、くじ引きで週1回の料理教室への参加と毎週3回程度の自宅での調理を3カ月続ける17組(そのうち1組が脱落)と、いつも通りに生活する13組に分けて実施した。
光トポグラフィーをつけた実験では、夕食のメニューを考える段階で子どもの脳が動き出し、食材を切る、ガスコンロで炒める、盛り付けるまでずっと盛んに活動していることが分かった。その中でも、切る、炒めるといった危険度が高い作業のときにより左脳の血流が速くなり、活性化していた。
■思考や判断を司る前頭前野が活性化する
「料理は面白いことに、さまざまな調理の技術のほぼ何を使っても、前頭葉が働きます。
前頭葉は脳の前方に位置し、判断力、創造性、感情のコントロール、運動機能の調整など、日常生活を営む上で欠かせない機能を受け持っている。その中でも最前線に位置する前頭前野は、抽象的思考や計画、判断、感情制御、社会的行動などを総合的に処理し、人間が他の動物と比べ著しく大きい。料理をすると、この前頭前野が活発に働くのである。
実験の際、なぜかハンバーグのたねをこねる際だけは、脳が活性化しなかったという。粘土遊びもそうだが、こねる作業はどちらかといえばやすらぎを与えるのかもしれない。
大阪ガスが2004年8月に発表したレポート「近赤外線計測装置(光トポグラフィ)による脳の活性化の計測実験」は、調理することで、大人ならコミュニケーション能力や創造力の向上が期待でき、子どもには「情操面や抑制力など、情緒の安定に結びつくと推測された」と考察している。
■一緒に料理すると親子の信頼感が強まった
2つ目の実験は、2009年に森永製菓と共同で行った研究で、5歳から小学校6年生までの子どもとその親、29組が参加。週に1回親子でホットケーキを作り、親は子どもをたくさんほめるという実験を6週間行った。こちらもくじ引きで、いつも通りの暮らしを続ける親子と分けて検証。
すると、親子で一緒に調理した子どもは、「親を喜ばせる反応が少ない」「子どもの機嫌の悪さ」「子どもが期待通りにいかない」「多動状態」の4項目が、調理しなかった子どもに比べより改善し、「不安/抑うつ」や、「非行的行動」についても改善した。親のほうも、「親としての有能さ」「健康状態」が改善する成果が出ている。
「料理を一緒にすることで、親子の信頼感が醸成されたんです」と川島教授は整理する。ほめることも重要で、ほめられると子どもの前頭前野がさらに刺激される。子どもの作業を見守る親は、何ができたのかなど、適切にほめるポイントも見逃さずに済む。
大阪ガスとの実験でも明らかになったように、火を使う、包丁を使うといった危険な作業を伴う料理で、子どもの脳は活性化する。ケガをしないように注意深く行動することは、子どもの成長を促すのではないだろうか。その結果、実験で明らかになったように子どもの情緒が安定し、親への気遣いをする思慮を身につけるのかもしれない。
また、挑戦する子どもを目の当たりにすることで、親も子どもの成長を確認でき安心するのだろう。そして、料理を通したコミュニケーションで、信頼関係がより強固になる。体験を共有すること自体に、絆を深める作用があるのではないか。
■「親子料理」で子どもの幸福度も高まる
そうした料理体験を積み重ねた子どもは、どのような大人に成長するのだろうか。
すると、親子でおやつ作りを経験した人は、「人生に対する前向きの気持ち」「達成感」「自信」「至福感」「近親者の支え」「社会的な支え」「人生に対する失望感」の7つの項目について、より心の健康度が高い結果が出た。一方、「家族との関係」「精神的なコントロール感」「身体的な不健康感」「社会的つながりの不足」については影響がなかった。
食事の手伝いをした経験の有無についても調査したところ、「人生に対する前向きの気持ち」「自信」「至福感」「社会的な支え」「身体的な不健康感」の5項目について、経験がある人のほうが心の健康度が高かった。一方、「達成感」「近親者の支え」「家族との関係」「精神的なコントロール感」「社会的つながりの不足」「人生に対する失望感」では差がなかった。
2つのアンケート結果から、親子で料理を一緒にした経験は、子どもの心の健康には影響を与えるが、心の疲労度には関係ないことがわかる。心の疲労度は、過去より現在の影響が大きく、健康度は過去も影響するということか。
川島教授は、「幼少期の食を通した親子のふれあいの体験は、大人になってからの主観的な幸福感に影響を与える。つまり、調理を介して子どもたちを幸せにすることができる、と証明できました」と語る。
■脳科学からの「親子料理のススメ」
川島教授の実験により、2つの成果が明らかになった。子どもに料理させることは、子どもの脳を鍛え、成長することにつながる。また、親子が一緒に料理に関われば、信頼関係も醸成される。
こうした効果は、おそらく料理に関わる人たちの間では経験的にわかっていることなのだろう。子ども向けのレシピ本は、1975年に出た『小学館入門百科シリーズ43 たのしいクッキング』(今田美奈子監修)以降、半世紀にわたる蓄積がある。
平野レミ、ケンタロウ、上田淳子、山口祐加など、歴代のさまざまな料理家が子ども向けのレシピ本を出している。「きょうの料理」(NHK)も、1980年代に何度か子ども向けのレシピを紹介し、1991年以降は、子ども向け料理番組も放送している。町の子ども料理教室もある。
子どもに料理を教えるのは手間がかかるが、子どもが興味を示したとき、休日などに実践してみるとよさそうだ。その取り組みが、お互いにとってより良い将来を導くのではないだろうか。
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阿古 真理(あこ・まり)
生活史研究家
1968年生まれ。兵庫県出身。くらし文化研究所主宰。食のトレンドと生活史、ジェンダー、写真などのジャンルで執筆。著書に『母と娘はなぜ対立するのか』『昭和育ちのおいしい記憶』『昭和の洋食 平成のカフェ飯』『「和食」って何?』(以上、筑摩書房)、『小林カツ代と栗原はるみ』『料理は女の義務ですか』(以上、新潮社)、『パクチーとアジア飯』(中央公論新社)、『なぜ日本のフランスパンは世界一になったのか』(NHK出版)、『平成・令和食ブーム総ざらい』(集英社インターナショナル)、『料理に対する「ねばならない」を捨てたら、うつの自分を受け入れられた。
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(生活史研究家 阿古 真理)

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