■大学生637人へのアンケートの結果
高市早苗首相が衆議院を解散し、2月8日に総選挙が行われる。高市人気に乗って自民党が大勝するという見方があるものの、識者の多くは結果が読めないという。
選挙戦に突入した自民党候補者の多くも「厳しい選挙だ」と街頭で訴えている。まあ、選挙で「楽な選挙です」と語る候補者はいないから割り引いて考えるとしても、自民党議員に聞くと選挙区での「地殻変動」をヒシヒシと感じているという。
「地殻変動」とは、これまで投票に行かなかった30歳代以下の有権者、特に大学生年代の若者が選挙に行き始めていることだ。
そこで筆者が教壇に立っている千葉商科大学で担当する5つの講義で学生のべ637人にアンケートをとってみた。解散総選挙が確実視されるようになった1月15日から24日まで行った。言うまでもなく、大学1年生以上なので全員有権者だ。
質問は2月8日の選挙に行くかどうか。回答したのべ540人のうち、「絶対に行く」が212人(回答者の39%)、「たぶん行く」が243人(同45%)、「たぶん行かない」が64人(同12%)、「行かない」が21人(同4%)という結果だった。「絶対行く」「多分行く」を合わせると、何と84%の学生が選挙に行くと言っているのだ。
■「政治に目覚めた」若い層
この結果は筆者の事前予想を大きく超えた。まあ、高いと言っても6割くらいではないか、と思っていたので驚きだった。本学は特段、政治意識の高い学生が集まっているわけではない。
どちらかといえば「分厚い中間層」を担う人材を輩出している大学だ。平均的な大学生と言えるかもしれない。
その学生たちの4割が「絶対に選挙に行く」と言っているのである。大学1年生が対象の講義では、「絶対行く」の割合が36%と他のクラスに比べて低めだったが、2年生以上が履修する講義では「絶対行く」が44%、42%と高い比率を示した。
千葉県選出のある自民党議員と話していたら、「若い層が政治に目覚めてしまったんですよ」と渋い顔をしていた。これまで作り上げてきた後援会組織や支持者の中に若年層はほとんどいない、と言うのだ。前回の2024年の総選挙や2025年の参議院選挙では、参政党や国民民主党に若者票が大量に流れて苦戦、足元が盤石ではないことを思い知ったという。
では、彼らはなぜ「目覚めた」のか。
■学生たちに刺さった「103万円の壁」の引き上げ
2024年の総選挙では国民民主党が掲げた「103万円の壁」の引き上げが、学生たちに「刺さって」いた。最低賃金の引き上げでアルバイト料収入が増えたものの、このままでは103万円を超えて課税対象になってしまうということが大きな関心事になっていた。選挙が10月で年内のバイトのシフトを作っている時期と重なったことも大きい。働くのを控えるという話になっていたわけだ。
また、あまり稼ぐと親の扶養控除対象から外れてしまうという「壁」にも驚くほど関心を示していた。それが国民民主党への投票という形で表れたのだろう。
選挙当時の日本テレビの出口調査速報では、20代の比例の投票先は国民民主党が26%と、自民党の19%を上回って党としてトップだった。ちなみに30代も22%で自民党の20%を上回りトップ、18・19歳は19%と自民党の24%に次ぐ2位だった。
国会で議席を大幅に増やした国民民主党は予算に賛成することなどを条件に、103万円の壁の引き上げやガソリンの暫定税率の引き上げを要求。自民党もそれを無視できなくなっていった。
■「物価高対策」への関心が高い
こうした傾向は一時的な風だという見方もあったが、去年の参議院選挙で同様の結果となり、過半数を確保できなかった自民党は完全に主張を受け入れざるを得なくなった。
これが若者世代の成功体験になった。これまでは「どうせ投票しても政治は変わらない」という諦めが強く、結果的に人口が相対的に多い高齢者の声が通る「シルバー民主主義」がまかり通っていた。だが、「投票に行けば政治は変わるのではないか」と目覚めたのだろう。
では2月8日の総選挙で、彼らはどういう行動を取るのか。高市首相の人気がこうした世代でも高いのは明らかだ。
昨年10月に講義でアンケートを取ったところ、「高市内閣に期待する」と答えた学生は世論調査の平均よりも高い9割近くに達していた。
今回、選挙に行くかどうかと共に、何を基準に投票するかも聞いている。選択肢を挙げて、3つまで選んでもらった。
のべ回答数552人のうち、最も多かったのが「物価高対策」で73%の学生がチェックを入れた。次いで高かったのが「消費税などの減税」で47%、3番目は「課税や社会保険対象などの所得の壁の引き上げ」と、「外国人政策」が35%で並んだ。
■消費税を争点から外したい自民党
学生は物価の大幅な上昇に苦しんでいる。困窮度合いは著しい。電気をなるべく点けないといった対策ではもはや賄えず、食費を減らしているという学生が多い。朝食抜きで昼はカップ麺だけ、といった食事で済ます学生も少なくない。ほとんどの学生がアルバイトをしているが、中には、かけ持ちで複数のアルバイトをしている学生もいる。居酒屋で深夜まで働いている女子学生も少なくない。
下宿をしている学生の困窮度が高まっているのは当然だが、自宅通学だから生活が楽だとは言えない。
ちょうど親世代がロスジェネ(ロスト・ジェネレーション)と呼ばれる年頃で、親の年収が決して高くない学生がかなりいる。そうした学生が「物価」に敏感に反応しているのは当然だろう。
課税最低限だけでなく、親の扶養の水準や社会保険料の対象といった「所得の壁」も引き続き若者には刺さる政策ということが見て取れる。
ここへきて各党が消費税の減税や廃止を打ち出している。自民党も、食料品の税率を2年間に限ってゼロにすることを「実現に向けた検討を加速する」と公約に盛り込んだ。自民党は、何とか消費税を争点から外したいと思っているに違いないが、この「検討を加速する」をどう有権者が捉えるか。
■消費税への各党の主張をどう見るか
立憲民主党と公明党が設立した中道改革連合は、消費税について食料品は恒久的に8%をゼロにすると訴えている。維新は連立を組む自民党と平仄(ひょうそく)を合わせる形で食料品を2年間ゼロにすると言っている。国民民主党は経済が回復するまで一律で5%にすべきだという独自の主張を行っている。日本保守党も食料品をゼロ%にするという主張だ。
共産党は一律で直ちに5%に引き下げ、将来的に廃止、れいわ新選組は一律廃止、社民党は一律ゼロ%に、としている。左派色の強い政党だけでなく、参政党も段階的に廃止を訴えている。

消費税については、廃止を含めて税率の引き下げについてはほぼ全党が一致しているものの、その主張の仕方に差異があり、これを有権者、特に若年層がどう捉えるか。関心の高さから言えば、争点から外れたとは言い難い。
■外国人政策への関心も高い
学生へのアンケートからも分かるように外国人政策への関心が非常に高い。「社会保障費の引き下げ」=22%や「外交」「教育政策」各14%を大きく上回る35%が関心を示している。
若者世代は圧倒的にYouTubeやSNSの影響を受けており、外国人が日本人よりも優遇されているといった主張に敏感に反応している。ある講義で外国人労働者をテーマに取り上げた際に聞いたところ、多くの学生が外国人労働者の受け入れは必要と答えている一方で、移民は受け入れないという意見が多数を占めた。移民と不法移民の区別もつかず印象論に流されている感じが見られた。
高市首相は小野田紀美氏を外国人政策担当に据え、外国人政策の「適正化」をアピールしている。SNSでの小野田大臣の厳しめの発言が話題になるなど、若年層の関心を呼んでいる。参政党が長年訴えてきた「日本人ファースト」が若者に刺さるのか、高市首相や小野田大臣の人気が自民党の議席を大きく増やす原動力になるのか。若者の投票行動が今回の選挙結果に大きな影響を及ぼすことだけは間違いなさそうだ。

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磯山 友幸(いそやま・ともゆき)

経済ジャーナリスト

千葉商科大学教授。
1962年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。日本経済新聞で証券部記者、同部次長、チューリヒ支局長、フランクフルト支局長、「日経ビジネス」副編集長・編集委員などを務め、2011年に退社、独立。著書に『国際会計基準戦争 完結編』(日経BP社)、共著に『株主の反乱』(日本経済新聞社)などがある。

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(経済ジャーナリスト 磯山 友幸)
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