後悔のない人生はない。明治大学教授(言語学者)の堀田秀吾さんは「後悔はネガティブな感情のひとつですが、2歳の子も『もし○○していたら」という想像を始めることが確認されている。
その感情は私たちの生活にとって意外なほど価値あるものだ」という――。
※本稿は、堀田秀吾『スタンフォード、ケンブリッジ、イエール…世界の科学が証明した絶対に考えてはいけないことリスト』(フォレスト出版)の一部を再編集したものです。
■後悔は未来を変える“心のリマインダー”
「後悔」という言葉を聞くと、多くの人はネガティブな感情だと思うでしょう。過去の選択を間違えたことを思い返し、「ああすればよかった」と悔やむ気持ちです。確かに、後悔はつらい感情で、時には落ち込みやストレスのもとになることも知られています。
「いつまでも後悔ばかりしていても仕方ない。前を向くべきだ」というのは、励ましの言葉として正しいですし、自分自身にそのように言い聞かせる人もいるはずです。
しかしながら、「後悔をしてはいけない」と後悔そのものを否定する思考は、自らの成長の機会を奪いかねません。事実、最近の研究で「後悔」という感情が私たちの生活にとって意外なほど価値あるものであることが明らかにされました。
■後悔は怒りや不安より役に立つ
ビクトリア大学のサフリーらは、私たちが日常で感じるさまざまな感情の中で、特に後悔に対する人々の評価を調べました。
喜びや誇りなどのポジティブな感情から、怒りや不安、嫉妬などのネガティブな感情まで12種類を比較しました。結果、後悔は他のネガティブな感情よりもはるかに「役に立つ」と人々に認識されていることがわかったのです。

具体的には、後悔は「過去の経験を理解すること」「未来のために行動を変えること」「同じ失敗や危険を繰り返さないように気をつけること」「自己洞察や自分自身を知ること」「他人との関係を良好に保つこと」といった、5つの重要な心理的機能において他の感情を上回りました。
たとえば、感情の「役立ち度」を7点満点で評価すると、後悔は平均で約4.7点と高得点を獲得し、喜びや誇りといったポジティブな感情と近いほどでした。
一方、嫉妬や不安、倦怠感などは3点台で、後悔とは大きな差がありました 。
■「もしもあのとき…」で人は成長する
「後悔は役に立つ」と感じさせる要素として、「自己奉仕バイアス」が考えられます。
これは、人が自分の成功や良い結果は自分の能力や努力のおかげだと考え、逆に失敗や悪い結果は外部の要因や他人のせいにする傾向のことです。
たとえば、テストで良い点を取ったとき、「自分がちゃんと勉強したからだ!」と思う一方、悪い点を取ったときは、「問題が難しすぎた」「先生の教え方が悪かった」と考えるのが自己奉仕バイアスです。
この考え方は、自身を守ったり、気分を楽にしたりするために無意識に起こることが多いのです。サフリーらの研究で興味深いのは、人は自分の後悔体験を他人のそれよりも多く価値あるものととらえがちだということです。これは、自分だけが後悔を通じて成長できると信じる「自己奉仕バイアス」を示しています。
これらの結果は、「後悔は単なる嫌な感情」ではなく、むしろ「私たちの成長や人間関係を豊かにする感情」であると教えてくれます。後悔は過去の失敗や選択を見つめ直し、未来に活かすための“感情のナビゲーション”の役割を果たしているのです。
ですから、後悔の念にかられたときは、「これは自分を向上させるための貴重なサインかもしれない」とポジティブに受け止めてみてはいかがでしょうか。
後悔は、私たちがより良い人生を歩むための「感情の友」といえるかもしれません。
事実、「もしあのとき、ああしていたらどうなっていただろう」という「反事実的思考」は、過去の出来事に対して「別の可能性」を想像することです。一見すると後悔や自己嫌悪を生む厄介な思考のように思えますが、実はこの「もしも」の想像こそが、私たちを前に進ませる大切な心のはたらきなのです。
この思考は、とても早い時期に現れ、子どもでも2歳ごろから「もし○○していたら」という想像を始めることが確認されていて、文化や国を超えて広く存在している能力です。
■反事実的思考がもたらす2つの効果
イリノイ大学アーバナシャンペイン校のエプステュードとロイズの研究によると、反事実的思考が私たちに働きかける仕組みは大きく2つあります(図表1)。
1つは、行動を修正する力。
「もしもっと努力していたら結果が違っていた」と考えることで、次の行動に向けた改善点が見えてきます。
たとえば、「次の試験では早めに準備しよう」「次はきちんと話を聞こう」というように、反省が次の行動計画に変わるのです。実際、ノースウェスタン大学のロイズの研究では、反事実的思考を促された人はそうでない人よりも次の課題で平均30%高い成果を上げたと報告されています。
もう1つは、感情に働きかける力。
反事実的思考は一時的に落ち込みや後悔を引き起こすこともありますが、同時に「次は失敗したくない」「もっと良くなりたい」というモチベーションを高めます。実際、反事実的思考を前向きにとらえる人ほど、挑戦意欲や慎重さが高まる傾向があることがわかっています。
つまり、大切なのは、その「もしも」を責める方向ではなく、成長のための気づきに変えることです。
私たちが過去を振り返るとき、その感情は単なる思い出ではなく、未来の可能性の見え方によって左右されます。過去にとらわれるのではなく、「これからの機会」に目を向けることで、後悔は人生をより良い方向へ導く指針となります。過ぎ去った時間は戻せませんが、後悔を学びに変え、未来の行動を選び取ること――それこそが後悔の本当の価値なのです。
■後悔の強弱はどのように生まれるか?
前節で解説した反事実的思考にもバランスが必要です。いくら、自己成長の原動力になりうるとしても、過剰になると、うつや不安の一因になることがあります。
過去を遡(さかのぼ)って「もしも」と問うこと。まるでタイムマシンに乗って過去を再訪し、やり直せるかのような妄想。しかし実際には、過去を変えることはできないので、その理想と現実のギャップによって後悔の念が湧(わ)き起こり、時に長期間にわたって私たちを苦しめてしまいます。
イリノイ大学アーバナシャンペイン校のローズとサマービルの研究によると、後悔は単なる記憶の問題ではなく、「未来にどれだけ機会が残っているか」によって発生のしやすさが変わることが示されています。つまり、過去の出来事を思い返すとき、「また挑戦できるかもしれない」という可能性が残っているほど、後悔の気持ちは生まれやすいのです。
ローズとサマービルが行った実験では、参加者に過去の後悔を思い出してもらう際、思い出し方を変えてもらっても後悔の強さはほとんど変わりませんでした。
これは、後悔が単に記憶をどう枠づけるかでは軽減できないことを示しています。
大切なのは、出来事直後に「この先まだやり直せる」と思えるかどうか。つまり、後悔は結果をどう受け止めるかという未来志向的なプロセスに根ざしているのです。
人が最も後悔を抱きやすいのは教育、キャリア、恋愛、子育てといった、成長や変化の可能性が大きい分野です。逆に、すでに変えられないと感じる領域では後悔は生まれにくい傾向があることがこれまでの研究でわかっています。
たとえば、安定した家族関係や健康に関する後悔は、若い世代よりも高齢者のほうが少ないそうです。
年齢によって後悔の生まれやすさが変わるのは、人生の各段階で人が変えられると思うことが増減するためです。若いときは教育やキャリアなど変化の余地が大きい分野で悔やむことが多いのに対し、高齢になると「もう変えられない」と感じる分野での後悔は減るのです。
また、後悔の内容によって時間的な変化があります。行動したことに対する後悔は短期的に強く感じられる一方で、行動しなかったことへの後悔は長く心に残りやすいということが、コーネル大学のギロビッチとメドヴェックの研究で明らかになっています。
これは、行動しなかったことで未来の機会が閉ざされ、その喪失感が長く続くからだと考えられます(図表2)。
過去は「時間旅行」の舞台ではなく、成長のための足場とはいえ、「後悔がどうしても苦しい」「嫌な記憶にとらわれている」と感じたら、意識的に別の見方を試してみましょう。

逆に、良い思い出を思い返し、それを自分の力として取り入れることもできます。こうした習慣は心の回復力(レジリエンス)を高め、より良い人生を歩む助けとなります。

【参考文献】

・Saffrey, C., Summerville, A., & Roese, N. J. (2008). Praise for regret: People value regret above other negative emotions. Motivation and emotion, 32(1),46–54.

・Epstude, K., & Roese, N. J. (2008). The functional theory of counterfactual thinking. Personality and social psychology review: an official journal ofthe Society for Personality and Social Psychology, Inc, 12(2), 168–192.

・Roese, N. J. (1997). Counterfactual thinking. Psychological Bulletin, 121(1), 133–148.

・Roese, N. J., & Summerville, A. (2005). What We Regret Most… and Why. Personality and Social Psychology Bulletin, 31(9), 1273–1285.

・Gilovich, T., & Medvec, V. H. (1995). The experience of regret: What, when, and why. Psychological Review, 102(2), 379–395.

・Zimbardo, P. G., & Boyd, J. N. (1999). Putting time in perspective: A valid, reliable individual-differences metric. Journal of Personality and Social Psychology, 77(6), 1271–1288.

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堀田 秀吾(ほった・しゅうご)

明治大学法学部教授、言語学博士

1999年、シカゴ大学言語学部博士課程修了(Ph.D. in Linguistics、言語学博士)。2000年、立命館大学法学部助教授。2005年、ヨーク大学オズグッドホール・ロースクール修士課程修了、2008年同博士課程単位取得退学。2008年、明治大学法学部准教授。2010年、明治大学法学部教授。司法分野におけるコミュニケーションに関して、社会言語学、心理言語学、脳科学などのさまざまな学術分野の知見を融合した多角的な研究を国内外で展開している。また、研究以外の活動も積極的に行っており、企業の顧問や芸能事務所の監修、ワイドショーのレギュラー・コメンテーターなども務める。著書に『特定の人としかうまく付き合えないのは、結局、あなたの心が冷めているからだ』(クロスメディア・パブリッシング/共著)、『科学的に元気になる方法集めました』(文響社)、『最先端研究で導きだされた「考えすぎない」人の考え方』(サンクチュアリ出版)、『図解ストレス解消大全』(SBクリエイティブ)など多数。

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(明治大学法学部教授、言語学博士 堀田 秀吾)

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