■ビズリーチは「ハイスペ婚活サイト」
仕事探しは「婚活」と似ている。企業から見れば、人材探しだからだ。
ちまたにあふれる転職サイトは、マッチングアプリや結婚相談所にたとえられることも多い。求職者や結婚相手を探す人は、「求人サイト」や「婚活サイト」などのプラットフォームに集まり、そこから選び、選ばれていく。
そして就活でも婚活でも、年齢が上がるほど不利になる。
今、仕事探しの手段の一つに「ハイクラス転職サービス」というものがある。これは婚活市場でいうところの、医者や弁護士や高年収の男性のみが登録できる「ハイスペ婚活サービス」のようなものだ。
「ハイクラス転職サービス」のビズリーチやリクルートダイレクトスカウトなどは「年収500万円以上、マネジメント経験者」向けの転職サービスと言われている。登録には厳しい審査もあり、さらに審査をパスしても求職者は企業からの「スカウト」を待たなければならない。声がかからなければ、転職活動には進めない。
「ハイスペ転職」も年が若いほうが有利だ。50歳以上の中高年になると「市場価値」が徐々に低迷し、登録はできるものの「スカウトなど一件も来ない」という事態もある。
■「半沢直樹」が役職定年を迎えたら
「銀行を辞める55歳の頃にビズリーチに登録しましたが、スカウトはゼロでした」
こう話す大阪府在住のCさん(61歳)は、メガバンクに30年以上勤務した元銀行マン。気さくに取材に応じる今のCさんには、メガバンカー時代の面影はない。ラフな雰囲気の中高年男性である。
大手銀行の出身者でも、50歳を過ぎれば「ビズリーチでスカウト0(ゼロ)」はザラにある。しかしCさんは60歳を過ぎてから、スカウトが殺到するようになった。いったい何が起きたのだろうか。
Cさんは、かのドラマ『半沢直樹』と同じく「メガバンクのバブル入行組」。支店を回りつつ順調に銀行員の昇進コースを歩み、最後は年収1500万円の本部次長として、2000万円の退職一時金とともに銀行を「卒業」した。
「先輩たちは55歳になると役職定年を迎え、関連会社か一般企業にこぢんまりしたポストをあてがわれて卒業します。自分もそうなると知った時は、体が震えました」
Cさんには障害がある息子がおり、「70歳まではそれなりの年収で働きたい」と考えていた。だからこそ銀行に身を置きながら、ビズリーチの登録もしたのである。
■上流から下流へ流されるメガバンカー
ちなみにビズリーチへ登録するのは「転職」だけでなく「自分の市場価値を確認する」意味合いもある。
Cさんも、職務経歴書に「銀行内でエリア長や本部次長など管理業務を経験」「得意分野は投資銀行業務や外国為替、融資業務」「30~50人規模の部下のマネジメント業務」など、銀行内のキャリアを書き連ねた。しかし、この55歳の「釣書」は無風に終わる。
「予測はしてましたが、やはりと思いました。こんな未来が待っているなら、銀行になんて就職しなければよかった……」
ビズリーチで惨敗し、役職定年を迎えたCさんは、銀行から紹介された規定路線の一つ「保険代理店」にしぶしぶ再就職する。
保険代理店でのCさんは年収700万円で「課長クラス」。ポストも年収も希望より低く、仕事内容も銀行時代と違ってドロ臭い。
「部下の9割は保険営業の30~50代の女性。やり手のベテランばかりで、負けん気が強く、女性同士が派閥をつくってお互いを牽制しあう世界です。女性同士のいじめやパワハラ、顧客からのクレーム対応。とにかく求められたのはリスク管理でした」
■実務経験のために「もっと経営に近く」
女性の多い職場に管理職として迎えられるのは、銀行員に限らず「アガリのサラリーマンあるある」だ。
「私の前任者の銀行時代の先輩は『こんなの自分の仕事じゃない』と、問題を放置していたようです。しかし私は、人間関係のトラブルは最悪の結果を招きがちと思っていたので」
Cさんが逃げずに問題と向き合ったため、新しい職場には平和が訪れたという。それでもCさんは次の転職を画策していた。
「このまま銀行の延長線上で働いても先細るばかり。70歳まで働き続けるには、もっと実務経験があるほうがいい。そのために経営に近いところで働こうと考えました」
Cさんはビズリーチの職務経歴書を書き換えた。しかし銀行の経歴に「保険会社のマネジメント経験」を加えても、依然としてスカウトはゼロのままだ。
■中小企業の“何でも屋”で開花
仕方なくCさんは57歳の時に、銀行時代のコネで小さな商社に「事務局責任者」として再転職。今度は食料品の輸入を手掛ける、従業員数15名ほどの中小企業だ。年収は500万円に下がった。
「この会社のカオスっぷりは、保険代理店の比ではありません。従業員の能力がこれまでの職場の中でダントツに低い。私は経理、財務、総務、法務、人事まで手がけ、“何でも屋”状態です」
ハハハと笑うCさん。開き直りとも取れるが、ここで殻を破ったのかもしれない。
「これまでの私は経理や財務に関して、知識はあっても実務経験はありませんでした。銀行時代はそうした書類をチェックする側でしたから、もう一度勉強し直したんです。これでかなり自信がつきました」
輸入した商品に不備が見つかり、自主回収する事態も発生。しかし、すべてに対応しながらフル稼働するCさんは、会社になくてはならない存在になっていった。
■「スカウトゼロ」から脱した職歴書の1行
今、61歳になったCさんは、年収アップのため3度目の転職を目指し、再びビズリーチに登録している。そこで思わぬ変化が訪れた。
「50代の頃はスカウトゼロだったのに、60代の今になって、企業からのスカウトが来るようになったのです。すべて中小企業ですが、年収700万円くらいでお声がかかります」
最近もらったスカウトは合計7件、いずれも管理職として迎えたいという申し出である。
実は大企業の管理職が、中小企業で実務経験を積んだのちに復活するのは、よくある話らしい。もちろん、スカウトをもらうには職務経歴書が大きく関わっている。
Cさんが最近の経歴に書き加えたのは、以下のたった1行だ。
・従業員数15名の企業における、経理、財務、総務、法務、採用、実務担当兼責任者
この1行のどこが評価されているのだろう。
そもそもハイクラス転職サービスにおける50~60代の管理職は、30~40代前半の若い管理職層とは、求められるニーズが違う。
50~60代をスカウトするのは中小企業である。そして中小企業の経営者がシニアに期待するのは単なる「管理職」ではなく、「経理責任者」「財務責任者」「内部統制責任者」のようなプレイングマネジャーなのだ。
■ハイクラス転職の落とし穴とは
「肩書」だけぶら下げたおじさんを管理職として迎えたところで、威張り散らされても邪魔なだけ。今の中小企業はそんな人材を抱えるほどの余裕はない。
拙著『』でも触れたが、企業の採用担当者によれば、「求める中高年とは、スキルフルな人」という声がある。
Cさんが50代の時にスカウトゼロだったのは、銀行内の「ポスト」や「マネジメント」くらいしか書かなかったためだろう。
大きな組織にいた人が小さな組織に移るには、自分の「ダウンサイジング」が必要だ。「自分を大きく見せる」経歴より、「使える人に見られる」経歴を書くほうが吉と出やすいのだろう。
そしてそれは、Cさんが「企業名」や「肩書」を脱ぎ捨てても発揮できる「自分」を、新しい場所に堂々と置いたからである。こういう人は、年を重ねても必要とされ続けるだろう。
銀行に長くいたといっても、専門的なスキルがある者は少ない。しかも、元銀行員の看板、一流大学卒業の経歴は、再就職先にとって「使いにくい」と映る。
『半沢直樹 1 オレたちバブル入行組』池井戸潤(講談社文庫)より
「ハイクラス転職」と言いながら、ハイクラスがアダになる。これが、中高年ハイクラス転職の落とし穴なのだ。
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若月 澪子(わかつき・れいこ)
ジャーナリスト
1975年生まれ。ジャーナリスト。大学卒業後、NHK高知放送局・NHK首都圏放送センターで有期雇用のキャスター、ディレクターとしてローカル放送の番組制作に携わる。結婚退職後に自殺予防団体の電話相談ボランティアを経験。育児のかたわらウェブライターとして借金苦や終活に関する取材・執筆を行う。生涯非正規労働者。ギグワーカーとしていろんな仕事を体験中。著書に『副業おじさん』(朝日新聞出版)。
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(ジャーナリスト 若月 澪子)

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