巨額のコスト投入と長期にわたる建設期間、事故のリスクなどを抱えながら、なぜ原発回帰へと突き進むのか。
その弊害を探っていくと、あまたある政府の審議会(有識者会合)にも病根があるという。
例えば、一方の利害を代表する委員の数が、総員数の半ばを超えないようにする、と明記されている。
原発政策については、主として経産省が管轄する「原子力小委員会」で検討が行われている。
原子力小委員会の設置理由は「原子力政策に関する専門的な議論や検討を行う」とされている。委員は21人で、NPO法人「原子力資料情報室」共同代表の松久保肇さんもその一人だ。
「原子力小委員会では、指針にあるように公正かつ活発な議論がなされていると思われるかもしれませんが、実態はまったく異なります。
21人いる委員のうち、脱原発派は私と消費生活アドバイザー・コンサルタントの村上千里さんの2人だけ。
医師の越智小枝さん(東京慈恵医科大学・臨床検査医学講座教授)は中立的な発言をされますが、あとの18人は推進派で固められています。もちろん、委員を選出しているのは、経産省の事務局です」
■「推進派」委員の顔ぶれ
では、“推進派”とされる委員の顔ぶれを見ていきたい。
委員長の黒崎健・京都大学複合原子力科学研究所所長は、「脱炭素実現」を理由に次世代革新炉を推進している。
委員長代理の竹下健二・東京科学大学理事特別補佐は、核燃料サイクルや再処理の専門家として知られる。
斉藤拓巳・東京大学大学院工学研究科教授(原子力専攻)は放射性廃棄物処理などの研究者だ。
「原子力工学の専門家が3人もいる必要はないと思います。
この委員会は政策の話をする場なのですから、彼ら工学研究者が話すことは限られます。教育者の立場から原子力産業での人材育成の提案などをされますが、後は床屋談議になっています。
原子力工学の研究者は、研究費やポストで国や電力会社や原子炉メーカーなどから間接的な利益を受ける立場と言えます」
例えば、原子力小委員会の前委員長だった山口彰・東京大学名誉教授は現在、経産省所管の「原子力発電環境整備機構(NUMO)」理事長を務めている。
■原発回帰で利益を受ける委員も5割超
朝野賢司氏は、大手電力など電気事業者のシンクタンク・電力中央研究所で副研究参事を務めているから「直接的利益」を受ける立場と考えられる。
フリーキャスターで事業創造大学院大学客員教授の伊藤聡子氏はエネルギー問題や地方創生などをテーマに講演活動を行い、電力会社のイベントなどにも登壇している。
遠藤典子・早稲田大学研究院教授は、朝日新聞で「早大教授が語る脱『脱原発』」と紹介された記事で、「原発のリプレースにいますぐ着手を」と提言(24年10月1日付)。政府が大手電力などと設立した「原子力損害賠償・廃炉等支援機構」の運営委員を務めている。
「伊藤さんは電力業界のイベントやセミナー、広報誌になどにも多数出演されています。遠藤さんは経産省に重用され、複数の原子力関連の審議会に起用されています」
大橋弘・東京大学大学院経済学研究科教授も、「原子力損害賠償・廃炉等支援機構」の運営委員を務める。
小野透氏は、日本経済団体連合会(経団連)の資源・エネルギー対策委員会で企画部会長代行を担う。
「大橋さんは、これまで規制改革推進会議、産業構造審議会など政府の審議会ではもはや常連です。小野さんは経団連の肩書からの参加で、産業界として原子力が必要だとの立場です。日鉄グループとしても、原子炉圧力容器の鋼板などで仕事の発注が受けられればいいというポジションですから、直接利益の受益者です」
小林容子氏は、原子力業界に関わる女性たちの国際NGO「ウィメン・イン・ニュークリア(WiN)」日本支部の理事。WiNは、原子力の分野で女性がリーダーとして活躍することを目標としている。近藤寛子氏は、事業コンサルティング「マトリクスK」のCEO。核融合の専門家として、電力会社や経産省などへのコンサルタントを行っており、「直接利益の受益者」といえそうだ。
豊永晋輔氏は弁護士で、キヤノングローバル戦略研究所の上席研究員も務める。法律家として、原子力損害賠償法の研究者であり、11~13年に原子力損害賠償・廃炉等支援機構に出向している。
佐藤丙午・拓殖大学国際学部教授は、毎日新聞のインタビューで「東電に一定の利益がないと廃炉も賠償もできない」として、柏崎刈羽原発の再稼働に理解を示す(25年11月22日付)。
「豊永さんは、原子力小委員会(24年6月25日)で第6次エネルギー基本計画(21年策定)にあった『可能な限り原子力依存度を低減』を削除するように求め、実際に24年12月の閣議決定でその文言はなくなりました。
佐藤さんは、拓殖大学総長だった森本敏・元防衛相の後任になります。
山下ゆかり・日本エネルギー経済研究所常務理事は、毎日新聞のインタビューで「国土が狭い日本では再生可能エネルギーの普及には限界がある。原発政策が動くことで脱炭素目標の達成も現実味を帯びる」と語っている(22年8月25日付)。
松久保さんがこう指摘する。
「日本エネルギー経済研究所は国からエネルギー関連の多くの事業を請け負っています。やや古い資料ですが、15年度事業報告書によれば、事業規模29億円のうち『受託等調査事業』が約22億円を占めていますが、その42%が国からの受託です」
■決議すれば「18対2で圧勝」の不均衡さ
金融機関から委員に起用されているのが、みずほ銀行の田村多恵・産業調査部次長と、SMBC日興証券の又吉由香・サステナブル・ソリューション部マネジングディレクターだ。
田村氏は、24年に行われた「日本原子力産業協会」の年次大会で「英国のRABモデルなど海外事例から学ぶことは多い」と指摘(24年4月10日付「原子力産業新聞」)。RABモデルとは英国の原発支援策で、原発の建設費を稼働・発電前から、全額を電気料金に上乗せして回収できるという業者側にとって好都合な仕組みだ。
又吉氏は、内閣府原子力委員会の原子力損害賠償制度専門部会の委員を務めた。
「又吉さんのSMBCは原子力関連のための社債の発行、引受を取り扱っています。この人たちも原発を推進することで利益を受けています」
専門委員の3人はいずれも電力業界関係者で推進派だ。増井秀企氏は東京電力ホールディングス執行役員を経て、現在は原子力関連企業などでつくる日本原子力産業協会の理事長を務める。
もっとも、委員たちがおのおのの信条や立場から原発に対して賛成・反対を表明するのは、個人の自由である。
しかし、この原子力小委員会の構成はどうなのか。
委員に政策決定権はないが、仮に決議すれば推進派が究極的には「18対2(中立1)」で圧勝するような委員の構成・選出のありようは、どう考えても著しく不公正かつ不均衡というほかない。恣意的な運用がされているのではないか、と疑われても仕方がないだろう。
■「推進派も苦言」杜撰な審議の進め方
原子力小委員会は、エネルギー基本計画が策定されるタイミングでは毎月実施されることがあるが、通常は数カ月に1回のペースで行われている。1回の会合はだいたい2時間枠でインターネット中継もされているが、審議はどのように進行されているのか。
「最初に、経産省の事務局が100ページ以上もある資料を30分くらいのスピードで説明します。その技術はすごいのですが、あまりにも早いので、関心のある人がネット中継を視聴してもよく理解できないと思います。
その後、21人の委員が3分ずつ自分の意見をスピーチします。残り時間は20分か30分しかありませんが、委員たちの発言や質問に対して経産省側が回答をして終わりです。
こう感じているのは私だけではなく、推進派の委員からも時折『もう少し丁寧な審議を行ってほしい』との意見が出ることもあります」
原子力小委員会はもはや形骸化しており、政府のエネルギー基本計画の大綱に基づいた原子力政策を追認するだけの機関になってしまっているようだ。
委員会を建設的で活発な議論ができるような場にするために、松久保さんは改善策を提起する。
「民主党政権の時は、原子力政策は基本問題委員会という名称で審議されていました。委員も賛成派と中立派、反対派がおおむね同数の構成でした。原発事故が起きたのでそうしたのだと思いますが、その当時はきちんと議論ができていたのです。バランスはある程度取れていましたが、人数をもっと減らして熟議することが重要です」
■処分費用45兆円のゆくえ
いま、原子力政策の最大の難題となっているのは、福島第1原発の廃炉問題だろう。
溶け落ちた燃料デブリの取り出し開始時期が「30年代初頭」から「37年以降」へと大幅に遅れることになった。51年までとしていた廃炉も見通せない状況だ。燃料デブリは1~3号機に計880トンもあるとされ、廃炉費用は約8兆円と見積もられている。
「燃料デブリを取り出した後、建屋も解体していきます。
現在建設中のものや、廃炉にした24基も含めて日本に原発は60基。全部で60万トンと予測していたのが、福島の6基(4~6号機も含む)だけで780万トンのゴミが出るのだ。
松久保さんが怒りを滲ませながら語る。
「この低レベル放射性廃棄物の処分だけで、約22兆円かかると推計できます。51年の廃炉までの25年間で、追加で22兆円も貯めなければなりませんが、東京電力だけで払い切れるわけがありません。一体どうするんですか。
最終的には国民負担しか選択肢がないということになるのでしょうが、原子力小委員会ではそういう議論すらしないのです。問題提起しても、経産省の事務局は『ウチではやりません』と言います。見たくないものは見ないという姿勢なのです」
政府は事故処理にかかる費用について、廃炉費用の8兆円を含め、賠償費や除染費などで総額23兆4000億円に上ると想定している(うち東電の負担分は16兆円)。
これとは別に、さらに22兆円が上積みされるというのだ。合計で45兆4000億円に上る。
■負担額は単純計算で36万円超/人
この巨額費用をどのように負担していくかは今後の大きな課題となるが、国から東電への融資も元を辿れば国民の税金だ。除染事業などには復興特別所得税が充てられる。
東電は負担分の16兆円を捻出するため、事業収入から年平均5000億円を確保する。そのうえで、経常利益4500億円以上を目指し、国が持つ東電株の売却益で賄うという。
しかし、自力でのこの返済計画は極めてハードルが高い。電気料金へ転嫁され、事実上の国民負担と考えれば、ほぼ全額を国民が背負わされることになる。
日本の総人口で単純に割り算すると、1人当たりの負担額は実に36万円を超える。
それどころか、事故処理費用はまだまだ膨らんでいく可能性が高いのだ。
25年2月に策定された第7次エネルギー基本計画によれば、40年には総発電量おける電源比率で、原発を2割にするという。この目標を達成するのは、100万キロワット級の原発36基が稼働する必要がある。建設中のものを含め、ほぼすべての原発の活用と再稼働が不可欠で、いかにも現実離れした計画というほかない。この体たらくでは、50年、カーボンニュートラル(CO2の排出実質ゼロ)実現への本気度こそ疑われるだろう。
事故が起きた時の被害の甚大さばかりではなく、松久保さんは「経済合理性」でも原発が不適格であることを警告している。「次世代革新炉」というネーミングとは裏腹に、“新しい原発”にも明るい未来など見いだせそうにない。
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亀井 洋志(かめい・ひろし)
ジャーナリスト
1967年愛知県生まれ。『週刊文春』『週刊朝日』などの専属記者を経て、現在はフリーランス・ジャーナリスト。著書に『どうして私が「犯人」なのか』(宝島社新書)、『司法崩壊』(WAVE出版)など。
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(ジャーナリスト 亀井 洋志)

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