※本稿は、和田秀樹『「高齢者ぎらい」という病』(扶桑社)の一部を再編集したものです。
■「年をとると車の運転が下手になる」は本当
確かに高齢になると動体視力が落ちたり、反射神経は鈍くなったりするので、ほとんどの人は、はっきり言えば運転は下手になります。しかし、人間には適応力がありますから、それらの能力が落ちたぶん、運転が慎重になり、スピードを落として運転するようになります。
公共の道路でスピードを出して好きに走りたい人にとっては迷惑かもしれませんが、高齢者が慎重にスピードを落として運転したせいで、重大事故が増えるようなことはないはずです。
それでも重大事故は確かに起こっていて、事故を起こした高齢ドライバーが「ブレーキとアクセルを踏み間違えた」などと話したりするケースもたびたび見られます。
じゃあ、その原因はいったい何なのでしょうか?
■事故は、高齢や認知症のせいではない
ブレーキとアクセルがわからなくなるようなことは認知症の初期から中期でも現れる症状ではありません。
少なくとも、ブレーキを踏んだつもりがアクセルを踏み、しかも意図したのと違う動きをしているのにさらに深く踏み込むといったことは、高齢や認知症のせいで起こる事象ではないと私は断言できます。
そんなことが起こるのだとすれば、その原因は「一過性の意識障害」によるものと判断するのが妥当です。
「一過性の意識障害」とは、脳や身体の働きが一時的に乱れ、ほんの数秒から数十分の間、意識がもうろうとしたり、途切れたりする状態のことです。高速道路の逆走運転もこのような意識障害が関係しているのではないかと私は考えています。
本人の感覚としては、「一瞬ぼんやりしていた」「気づいたら事故を起こしていた」というように、時間の感覚や記憶が飛んでしまうこともあります。
■一瞬意識が飛んでしまう「一過性脳虚血発作」
原因として多いのは、脳や心臓への血流が一時的に滞るケースです。たとえば、「一過性脳虚血発作(TIA)」と呼ばれる小さな脳梗塞の前触れや、心臓の不整脈などによって脳への酸素供給が一瞬途絶えると、意識がふっと遠のいてしまうことがあります。
また、てんかんの発作でも、一時的に意識を失ったり、記憶が途切れたりすることがあります。
そのため、日本の道路交通法では、てんかんの診断がある人が免許を取得・更新する際には、一定期間(おおむね2年間)発作が再発していないこと、または抗てんかん薬で十分に抑制されていることが条件とされています。
逆に言えば、医師の診断と服薬管理のもとで安全が確認されていれば、運転することは法的にも医学的にも問題はありません。
■高齢者の意識障害は薬の影響で起こりやすい
意識障害自体は誰にでも起こり得るものですが、高齢者が一過性の意識障害を起こす場合、先ほど述べた一過性脳虚血発作やてんかんよりはるかに多く見られる原因は、服用している薬の影響です。
たとえば、糖尿病の薬で一時的に極端な低血糖に陥ったり、降圧剤で血圧が一気に下がったりして意識障害が起こるというのはめずらしい話ではありません。そしてそれが危険な運転につながってしまう可能性は十分にあると思います。
また、日本の高齢者の多くはいろいろな薬を組み合わせて飲んでいる、というか、飲まされています。だからその副作用が強く出て、一時的にせん妄状態となってしまえば、いわゆる暴走事故を起こしても不思議ではありません。
実際、アメリカの大規模な調査によって、こうした薬の影響は明らかになっています。
2024年に発表されたアメリカ医学会誌の報告によれば、65歳以上のおよそ12万人のドライバーを対象に調べたところ、実に78%の人が「運転に悪影響を及ぼす可能性のある薬(PDI:Potentially Driver-Impairing drugs)」を服用していたというのです。
しかも、その多くは抗うつ薬や睡眠薬、抗不安薬、抗ヒスタミン薬、血圧を下げる薬など、いずれも日本の高齢者がよく処方されているものと同じタイプの薬です。
研究チームは、こうした薬の副作用や多剤併用が、注意力や反射神経、判断力の低下を引き起こし、運転中の判断ミスや反応の遅れにつながっている可能性を指摘しています。
つまり、逆に言えば、「一瞬の判断ミス」や「反応の遅れ」は、薬によって引き起こされている可能性がある、ということなのです。
■スポンサーに忖度するテレビの「沈黙」
ところが日本のテレビメディアは、高齢者の事故を繰り返し報じながらも、この重要なデータについて取り上げることは一切なく、あくまでも原因は、認知症あるいは加齢による能力の衰えのせいだと決めつけています。
もちろんアメリカの高齢者を対象に調べたデータですから、これがそのまま日本の高齢者に当てはまるとは限りません。
しかし、アメリカよりはるかに多くの薬を高齢者が服用している国で、「認知症あるいは加齢による能力の衰えのせい」以外の可能性を議論することさえしない、というのはどう考えても不自然です。
その背景にあるのは、大事なスポンサーである製薬会社への忖度でしょう。
実は以前、テレビ朝日の『ビートたけしのTVタックル』という番組に出演したとき、「高齢者は免許返納すべきか」について問われたので、「免許返納よりも薬のチェックが大切だ」という話をしたのですが、放送を見たらその話はすべてカットされていて、唖然としたことがあります。
■報道に期待をすることに、虚しさを感じる
これは一種の言論統制だと言ってもいいのではないでしょうか。スポンサーに忖度する必要がないはずのNHKでも、高齢者が起こす交通事故と服用している薬との関係を検証する番組の企画を実現させてはくれませんでした。
私が提出した企画書にディレクターの方はとても興味をもってくれたのですが、上の理解が得られなかったというのです。
報道の使命を忘れて保身に走る(というより自分の高給を維持したい)テレビ局の社員に、真実の究明を期待すること自体が、もはや空しいことなのかもしれません。
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和田 秀樹(わだ・ひでき)
精神科医
1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。精神科医。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、アメリカ・カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在、和田秀樹こころと体のクリニック院長。幸齢党党首。立命館大学生命科学部特任教授、一橋大学経済学部非常勤講師(医療経済学)。川崎幸病院精神科顧問。高齢者専門の精神科医として、30年以上にわたって高齢者医療の現場に携わっている。2022年総合ベストセラーに輝いた『80歳の壁』(幻冬舎新書)をはじめ、『70歳が老化の分かれ道』(詩想社新書)、『老いの品格』(PHP新書)、『老後は要領』(幻冬舎)、『不安に負けない気持ちの整理術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『どうせ死ぬんだから 好きなことだけやって寿命を使いきる』(SBクリエイティブ)、『60歳を過ぎたらやめるが勝ち 年をとるほどに幸せになる「しなくていい」暮らし』(主婦と生活社)など著書多数。
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(精神科医 和田 秀樹)

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