※本稿は、勅使川原真衣『「頭がいい」とは何か』(祥伝社新書)の一部を再編集したものです。
■2000年代に始まった「地頭ブーム」
テストの点数や、学校の成績、最終学歴やIQ(知能指数)だけで「頭のよさ」が測りきれないことは、すでに多くの人が気づいているはずです。「地頭(じあたま)」という比較的新しい概念が世間でも広く使われるようになったことも、その表れのひとつでしょう。
「地頭」とは、もともとは2000年代からコンサルティング業界で使われていた用語でした。偏差値や肩書だけでは説明しきれない、本質的な理解力や思考力とでも呼ぶべき別種の頭のよさ。持って生まれた素の声を「地声」と呼ぶならば、素の頭のよさといった意味合いで「地頭」。この言葉が一般的になったのは、そんな認識が社会の中で共有され始めたからです。
地頭ブームが本格化したのは2000年代後半に入ってから。2007年に出版された『地頭力を鍛える』(細谷功・東洋経済新報社)がベストセラーとなったことを皮切りに、ビジネス、就活、自己啓発のジャンルでも「地頭」本がひとしきり流行し、2010年代にはすっかり一般用語として世間に定着しました。
新語ゆえにいくらでも定義を細分化できたという事情もあったのでしょう。それ以降は、さまざまな著者や出版社が「地頭とはこういうものである」「地頭のいい子の育て方」といった自説を打ち立てたことによって、「地頭」は今日まで続く息の長いブームとなりました。
■あいまいな「頭がよい」の定義
さて、これらの「地頭」ブームからもなんとなくお気づきのとおり、「頭がいい」という概念は曖昧で捉えどころがありません。その正体を解きほぐすための手がかりのひとつとして、2000年代以降に出版された「頭がいい」「頭のよさ」について論じられた一般書に注目します。
この四半世紀の間に、「頭がいい」の定義やトレンドはどのように変化してきているのか。ビジネス書や自己啓発書、さらには児童向けからヤングアダルトまで、象徴的だと思われる13冊をピックアップして表にまとめましたので、まずはご覧ください。
■『バカの壁』で語られるバカとは
まずは、「頭がいい」と対(つい)になる「バカ」について、東京大学名誉教授で解剖学者でもある養老孟司さんが論じた『バカの壁』を取り上げます。
同書は450万部を超える大ベストセラーとなり、2000年代以降の「頭がいい」という概念を決定づけたとも言える1冊でしょう。ここで語られる「バカ」とは、知識や学力の不足する人を指すのではなく、自分が理解できる範囲でしか、ものごとを判断せず、他者の考えを受け入れようとしない、「壁」を心に作っている人を意味します。あれ、なんだか周りにもたくさんいそう……。政治家だか政治屋だかにもたくさんいそう……。
当時の書籍販売データによると、読者層全体の半数程度を占めたのが30~40代だったそうです。働き盛りのビジネスパーソンが、「バカだと思われたくない」という焦りから手に取ったことがヒットにつながった側面も、大いにありそうですね。
社会現象にまでなった「バカ」の正体を知っておくことで、不安を消しておきたい気持ちがあった。
つまり、「頭がいい人は○○」系の本を読んでいるのは、「自分はある程度は頭がいいと自負している人」なのでは? という仮説も立てられます。
■「バカに見えない話し方」を身につけたい
この「自分は頭がいいか確かめたい」という心理はある種、普遍的なものかもしれません。2024年発売の『頭のいい人だけが解ける論理的思考問題』(野村裕之・ダイヤモンド社)も、そんな人々の心理をくすぐるタイトルです。
同書は25万部を超えるベストセラーとなり、2025年には続編である『もっと!! 頭のいい人だけが解ける論理的思考問題』も発売されました。……次は『もっと!! もっと!!』でしょうかね。
さて、そんな『バカの壁』旋風が巻き起こった翌年にヒットしたのが、『頭がいい人、悪い人の話し方』(樋口裕一・PHP新書・2004)です。
こちらは「話し方からその人の知的レベルがわかる」という視点で、知的な会話術を推奨する1冊ですが、とにかく「頭がいい人の話し方」よりも、「頭が悪い人の話し方」の実例紹介のほうが圧倒的に豊富なのが特徴でしょう。途中で泣きたくなっても、堪(た)えてください。思うツボです。
子ども時代は試験で賢さを測るが、大人になると会話の内容が賢さの判断基準となる。バカに見える話し方を回避して、知的な話術を身につければ知的な人間とみなされる、というロジックで一貫しています。
■「知的生産」ブームが到来
2010年代になると、今度は「知的生産」というキーワードがビジネス書のジャンルでリバイバルブームを迎えました。「知的生産」は、日本の文化人類学のパイオニア的存在である梅棹忠夫氏が1969年に刊行した『知的生産の技術』(岩波新書)をきっかけに盛り上がった概念で、いわば頭を使ってアウトプットの質と効率を上げるための思考・行動術とも言うべきもの。
『イシューからはじめよ 知的生産の「シンプルな本質」』(安宅和人・英治出版・2010)を筆頭に、「知的生産」をタイトルに謳(うた)う本が書店を賑わせたのもこのころです。
ちなみに、「頭がいい」という言葉とその類語はビジネス・教育・自己啓発領域に明らかに集中して使われる傾向がありますが、「知的」という言葉に限ってはジャンル横断的に用いられているのが特徴です。
1970年代まで時代を遡(さかのぼ)りますが、直木賞作家・小池真理子氏による大ヒットエッセイ『知的悪女のすすめ』(山手書房・1978)もその一例でしょう。
■幼児・中高生向け「頭がいい」本まで登場
このように、世の大人たちを惹きつけると同時に不安を掻き立ててきた「頭がいい」の概念ですが、2010年代以降はいよいよ児童向け書籍コーナーにも本格的に進出してきます。
2011年に刊行された『頭のいい子を育てるおはなし366』(主婦の友社)は、1日1話ずつ366日分のお話が収録されている児童向けの知育本です。収録されている「おはなし」自体は目新しいものはなく、むしろ古典童話や昔話がほとんどなのですが、これがなんと150万部突破のロングセラーとなりました。
本書がヒットした勝因は、「本当に頭のいい子とは、ただお勉強ができる子ということではなく、自分の力で考え、努力できる子のこと」という論理で、昔話を「将来に役立つ能力」の観点からパッケージングしたことだと思われます。子どもの「将来に役立つ」は子育て・教育産業のシズル感溢あふれる常套句(じょうとうく)ですよね。将来なんてどうにでもなれ! と思う親はまずいないのですから。
さらに、2010年代後半になると、ヤングアダルト分野でも「頭のよさ」を問い直すような書籍が増えていきます。
初版1万部からスタートした同書はじわじわと売れ続け、児童書では異例の売れ行きとなる10万部を突破。著者は『頭のよさはノートで決まる』『1日15分の読み聞かせが本当に頭のいい子を育てる』など「頭がいい」系の本を多数執筆している教育学者の齋藤孝氏です。もちろんご本人は「頭がいい」人を代表しておられるのでしょう。
■中高生に提示した「頭のよさ」の内容
中高生向けに書かれたという『』ですが、読んでみるとなかなかハードルが高いことに驚かされます。
テストの点数が取れるのはただの秀才であり、学校を出たあとは勉強ができることから、社会に適応できることが「頭のよさ」に切り替わるとのこと。
身体能力の高さも頭と身体を巧みに連動させられる意味で「頭のよさ」の一種であり、先が読める能力も「頭のよさ」、自分や他人を上機嫌にするのも「頭のよさ」、といった具合に、さまざまな能力が「本当の頭のよさ」に回収されていく……。こんな人どこにいるの……。
うがった見方をすると、「社会に適応できる人間=本当に頭がいい」という主張だと言えますが、心・身体・性格まで含めたあまりにも全人的な能力を子どもに求めてはいないかと心配になってしまいます。
変わるべきはいつだって未熟なあなたたち(子どもたち)、という前提が見え透くのですが、社会が、環境が変わるべき点だってあるのではないか? そんな気すらしてくるのです。
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勅使川原 真衣(てしがわら・まい)
組織開発者
東京大学大学院教育学研究科修了。BCGやヘイグループなどのコンサルティングファーム勤務を経て、独立。
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(組織開発者 勅使川原 真衣)

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