歩く動作は脳に刺激を与え、筋肉量を増やして、さまざまな病を予防する。だが「足」そのものは年月とともに劣化し、50歳を過ぎた頃から痛みやしびれなど、足に何らかのトラブルが出てきやすいという。
足に関して専門的な知識を兼ね備えたスペシャリストが結集する「下北沢病院」理事長の久道勝也医師が、生涯足を守るために毎日続けてほしいたったひとつのストレッチを紹介する――。
■足の柔軟性が衰えると……
「自分ではけっこう体を動かしているし、ストレッチをしている人でも、実は意外に足の柔軟性が衰えている人が多い」
と、下北沢病院理事長の久道勝也医師が指摘する。
「足の柔軟性は、アキレス腱が柔らかいかどうかだと言い換えられます。アキレス腱は、ふくらはぎの膨らみを作っている下腿三頭筋と、かかとの骨をつないでいる人体最大の腱。白くて硬く、15センチほどなのに、1トンの重さにも耐えられるといわれています。そのアキレス腱の柔軟性が、足の健康に重要なのです」
アキレス腱が硬いと、大きく二つの問題が起こるという。
ひとつは、足の血流低下だ。
「ふくらはぎの筋肉が収縮・弛緩することで血液を押し上げ、心臓に戻しています。このポンプ作用から、ふくらはぎを含む足は“第二の心臓”といわれ、血液の循環に大きな役目を果たしています。しかしアキレス腱が硬い人は足首の関節も硬く、またアキレス腱につながっている下腿三頭筋もしっかり使われないため、そのポンプ作用が落ち、冷えやむくみの原因にもなってしまうのです。足に静脈瘤があれば、それも悪化してしまうでしょう」
静脈瘤が進行すると、足のだるさや重さ、痛みなどの不快症状が出て日常生活に影響をおよぼす。
さてアキレス腱が硬いと起こるもうひとつの問題は、歩く際にすねがスムーズに前に倒れなくなり、歩くたびにアーチに大きな負担がかかってしまうことだ。

「土踏まずを見てもわかるように、私たちの足裏は平らではなくアーチ構造になっていて、これが全身の体重を支え、歩く時の衝撃を和らげています。しかし、アキレス腱が硬いことでアーチをつぶすような動きになってしまうのです」
歩く時の足の動きは、1)かかとで着地、2)足裏全体が接地(すねの骨は足のまっすぐ上にある)、3)すねが前に倒れる、4)足指から蹴り出す――だが、3)のすねが前に倒れる時、アキレス腱が柔らかければアーチに負担をかけずにすねの骨を倒せるが、アキレス腱が硬いと、すねがスムーズに倒せない。そのためアーチをつぶすような歩き方で、すねの骨を前に倒すことになるという。
「そのような歩き方を続けてアーチが崩れれば、やがて足底腱膜炎や外反母趾など、さまざまな足の痛みや病気につながってしまいます」
■毎日行いたい、30秒ストレッチ
そこで久道医師率いる下北沢病院が勧めるのが「アキレス腱伸ばし」だ。
今、健康な足だから問題ないという人も、アキレス腱は年齢とともに硬くなるため、「20代からでもやってほしい」と久道医師は言う。
アキレス腱伸ばしは、子どもの頃から知っている人も多いと思うが、正しいやり方を紹介しよう。
1)壁に向かって立ち、両手を伸ばして壁に当てる。伸ばしたいほうの足を一歩後ろに下げる。つま先はまっすぐ前に向け、かかとを浮かさない。

2)壁に体重をかけ、前のほうの膝を曲げる。アキレス腱に伸びを感じながら30~60秒キープ。決して反動を使わず、じわっと伸ばし続けよう。

これを1日数回、1カ月続けるとかなり柔らかくなるというから毎日の習慣にしたい。
アキレス腱の柔軟性を保つことが、アーチに負担をかけず、加齢とともに硬くなりやすい足首の動きをスムーズにし、下腿三頭筋をしっかり伸縮させて下肢の血流を促進させるのだ。
特に男性は先端がシュッと尖っているような革靴、女性はヒールを履いた日は、家に帰ったらアキレス腱伸ばしにプラスして、ふくらはぎのマッサージも行いたい。
「きつめの革靴やヒールを長時間履き続けていると、足の指もアキレス腱も硬くなります。ふくらはぎの部分を下から上にむかってやさしくもみあげ、足の血流やリンパ液を上に戻してください。また靴におさえつけられていた足指は、『足の指じゃんけん』のパーの形に開いたり、手で足指を丁寧に広げるといいでしょう。こまめなケアが足指の寿命を延ばします」
「足の指じゃんけん」は、足首下の筋肉を鍛えることにも役立つという。グー(5本の足指をすべて内側に折り込む)、チョキ(親指だけ立てて残りの指は内側に折り込む)、パー(できるだけ足指を大きく広げる)の動作は、難なくできるだろうか(私はチョキに苦戦している……)。
■正しい立ち方・歩き方ができているか
こういった足のケアとともに、「正しい歩き方」も重要だ。
下北沢病院の「歩行分析室」では、2種類の歩行を比較検証し、効率的かつ体にやさしい「美姿勢歩行」を編み出した。
「まず正しい立ち方を作り、その感覚を体が認識することが大切です」と久道医師。
「そしてできるだけその姿勢を保持しながら歩くことが美姿勢歩行です。
美しい姿勢を維持することで猫背や反り腰を防ぎ、重心移動が最小化され、筋肉と呼吸への負担が軽減されることがわかっています。一方でどうしても前傾姿勢になってしまう大股歩行では、重心がずれるためエネルギー効率が劣り、関節に負荷がかかって怪我もしやすくなってしまうのです」
理学療法士の田中尚喜氏が「正しい立ち方」を解説する。
「よく背骨はS字カーブを描いているといわれますが、実際にはほぼまっすぐなんです。それを理解し、頭を誰かに引かれるようにして、首をぐーっと上に持ち上げましょう。わかりやすいのは、壁に背中をつけて立ってみることです。この時、かかとは壁から数センチ離し、頭、肩甲骨、お尻を壁にくっけるのがポイント。腰の部分に手のひら一枚分が入るくらいがいいですね」
正しい立ち方を作ったら、その姿勢を保持しながら歩いてみよう。
「背筋を伸ばして顎を引くと長距離歩行に欠かせない多裂筋の収縮を促します。また両足の間隔を肩幅より狭く(身長の約35%程度)し、かかとから着地し、膝が伸びていることも重要です」(久道医師)
しかし膝を伸ばそうとすると、かえって膝が曲がってしまう……。田中氏が「向かいにいる人に足の裏を見せるような感じで歩きましょう」とアドバイスする。
見た目にも美しい姿勢を保つ歩行こそが、疲れにくく怪我をしにくい、健康的な歩き方であるというのだ。
「ゴルフや野球のフォームより、歩くフォームこそが最も身近でよく使うものですよね」と久道医師。

「ぜひ普段歩きから美姿勢歩行ができるように、若いうちからフォームを身に付けてほしいです」
健康の土台は足元から――。次回は、正しい靴選びを紹介する。靴の選び方を間違えると、皮膚や爪、やがては関節や腱、じん帯、血流にまで悪影響をおよぼすという。

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笹井 恵里子(ささい・えりこ)

ノンフィクション作家、ジャーナリスト

1978年生まれ。本名・梨本恵里子「サンデー毎日」記者を経て、2018年よりフリーランスに。著書に『救急車が来なくなる日 医療崩壊と再生への道』(NHK出版新書)、プレジデントオンラインでの人気連載「こんな家に住んでいると人は死にます」に加筆した『潜入・ゴミ屋敷 孤立社会が生む新しい病』(中公新書ラクレ)、『老けない最強食』(文春新書)など。新著に『国民健康保険料が高すぎる! 保険料を下げる10のこと』(中公新書ラクレ)がある。

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(ノンフィクション作家、ジャーナリスト 笹井 恵里子)
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