※本稿は、勅使川原真衣『「頭がいい」とは何か』(祥伝社新書)の一部を再編集したものです。
■企業が求める理想の「シゴデキさん」
「シゴデキ」という言葉をご存知でしょうか。シゴデキは「仕事ができる」の略で、2020年代に入ってから広まった俗語です。ビジネスの現場においては、「頭がいい」とほぼ同義と言ってもいいかもしれません。最近は仕事の現場に限らず、有能さや手際のよさ、気配りができる言動などを気軽に褒めるときにも使われているようです。
さて、社会に出ると、今度は「労働」というステージで、学校とは別種の「頭のよさ」に私たちは向き合わなければなりません。成績を上げて希望校に合格するための評価軸から、「シゴデキ」に近づくための終わりなき競争が始まるのです。
では、会社(労働の現場)における、シゴデキさん、すなわち「頭がいい人」の条件とは具体的にどのようなものでしょうか。
就活生が参照するであろう、企業の採用ページにある「求める人材像」を見れば一目瞭然です。国内有名企業のものをいくつか紹介します。
各企業の求める人物像(一例)
・高い倫理観を持ち、誠実かつ公正に行動し、周囲と良好な関係を築く姿勢を持つ人
・組織としての競争力を高めるために人財育成やマネジメントを行う力のある人
・前例や慣例にとらわれず、失敗を恐れずにチャレンジ精神を持って行動する姿勢を持つ人
・仕事の中で実現したい夢・志を持ち、高い目標へ挑戦し続けていく
・壁にぶつかっても諦めずに最後までやり遂げる人財
・主体性を持って周りを巻き込んでいける人財
皆さんはどうなんでしょうか? と、これを決めている既存社員に訊いてみたくなるような全人評価。しかも「人財」……。
■経団連が「就活生に期待する資質」
また、参考までに、日本経済団体連合会が2022年に公開した「採用と大学改革への期待に関するアンケート結果」も見てみましょう。企業が就活生に期待する資質として、回答企業の約8割が「主体性」「チームワーク・リーダーシップ・協調性」を挙げています。
そのほか、「学び続ける力」「課題設定・解決能力」「論理的思考力」「創造力」がいずれも上位に。「文系・理系の枠を超えた知識・教養」を期待する企業も多く見られました。欲しがりますねぇ。
■経団連が提唱する「社会人基礎力」
経済産業省が2006年から「社会人基礎力」なるものを提唱していることをご存知でしょうか。「人生100年時代」や「第四次産業革命」とやらのキーワードを踏まえて、2017年度にアップデートされたこの「社会人基礎力」は、次のような3つの能力と12の能力要素から構成されています。
人生100年時代の社会人基礎力
・前に踏み出す力……主体性、働きかけ力、実行力
・チームで働く力……発信力、傾聴力、柔軟性、情況把握力、規律性、ストレスコントロール力
・考え抜く力……課題発見力、計画力、創造力
これらの能力を開発・発揮するために、リフレクション(振り返り)をしながらキャリアを拓(ひら)いていくべし、とのこと。実際に新人・若手育成のためにこの社会人基礎力を共通のフレームワークとした研修を実施している企業や教育機関は相当数あるはずです。もしかしなくても、いまの日本で「立派な社会人」としてサバイヴしていくことって途方もなく難しいのでは……?
■現代の「シゴデキ」が求められているもの
それはさておき、いったん大企業や国の指針とトレンドを踏まえて、現代日本の「シゴデキ」像を統合させてみましょう。職種によって多少の違いはあれど、おおむね次のような条件が共通しているように思えます。
会社(労働)の評価軸
・業務遂行能力が高い(実務力)
・論理的思考ができる(論理性)
・周囲に信頼され、チームで協働できる(協働力)
・コミュニケーション能力が高い(社交性)
・新しい課題に柔軟に対応できる(柔軟性・創造性)
・職位に応じてリーダーシップを発揮できる(主体性・リーダーシップ)
・部下の成長をサポートできる(人材育成力)
・組織全体を見通せる(マネジメント力)
いかがでしょうか。
■「シゴデキ」になる必要はあるのか
一方で、欧米では学校教育の段階から重視されている「批判的思考」が俎上(そじょう)に載らないのも、日本らしさと見ることができます。創造性は欲しいが批判精神はいらない。それよりも職位に応じて振る舞える力、言い換えれば、序列に適応する力のほうが日本企業では求められることが、「理想のシゴデキ像」からは透けて見えてきます。
これは必ずしも「やっぱり仕事ってハイスペックな人材が必要なんだね」と言いたいわけではありません。仕事には多種多様なスキルや強みが求められることは間違いありませんが、それを個人の万能化によって体現しようとしているのは、日本の「メンバーシップ型雇用」や「メンバーシップ型人材マネジメント」くらいなものです。
仕事には多様な「機能」「役割」が必要であるから、その職務(ジョブ)をしかと説明した職務要件をもとに、機能の持ち寄り(分業)によって回していこう――これが欧米で一般的な「ジョブ型雇用」であり、「ジョブ型人材マネジメント」です。
仕事というのは、持ちつ持たれつで回っているのが実態です。しかし、日本で主流の「メンバーシップ型」はチームワークがよさそうな印象をまといながらも、実は個体能力主義にしがみつく(しがみつかざるを得ない)性質を持っているのです。
■小学生まで気軽に「シゴデキ」という現代
さらに不思議なことに、みんなで成し遂げたはずの成果に対する評価は、これまた個人単位での「手柄」アピール合戦へと姿を変えてしまいます。昇進・昇格という名の椅子取りゲームを勝ち抜くためには、「これができる」「あれもできる」と能力を誇示せざるを得ないからです。
こうして、学力や地頭力、コミュ力、柔軟性、リーダーシップ、主体性……と、さまざまな「能力」をアピールし、問われ、求められ、他者と比較・選抜されていく構造が日本のメンバー型雇用・人材マネジメントの息苦しさの原因になっています。
あらためて、令和に「シゴデキ」になるハードルはこんなにも高いのか、とクラクラしてしまいますね……。
他方で、最近は小学生でも、気の利くことをしたクラスメイトに、「シゴデキじゃーん!」と普通に言い合ったりしているそうです。小学生ですから当然、莫大な利益を会社にもたらした、などということはないのですが、「サンキュ!」「やるね」の代わりくらいのトーンで使っているとの情報も。
■「頭がいい人」論の行き着く先
この「気が利く」というのも、思いのほか厄介な言葉だと私は思っています。気が利かないよりも、気が利くほうが「いいに決まっている」前提で、ものごとが進んでいることは理解できます。かと言って、何をどうすると「気が利く」と称されるのか、いまいちわからない。場の雰囲気や、時の運も大きそう。でもそんな曖昧な基準であっても、(私のような)気の利かない人が何を言っても、負け犬の遠吠え扱いされて終わり。悔しい。
このように、「頭がいい人」であることを遮二無二(しゃにむに)追求すると、必ず曖昧な「能力主義」の強化へと行き着くのです。
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勅使川原 真衣(てしがわら・まい)
組織開発者
東京大学大学院教育学研究科修了。
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(組織開発者 勅使川原 真衣)

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