健康寿命を延ばすためには歩くことが欠かせないが、合わない靴を履いていると、むしろ不調につながるという。足に関して専門的な知識を兼ね備えたスペシャリストが結集する「下北沢病院」理事長の久道勝也医師が、医学的な見地から「正しい靴選び」を解説する――。

■フェラガモが教える靴の選び方
普段、靴をどのように選んでいるだろう。足のサイズは意識しても、“履き心地”はあまり重視しない人が多いのではないだろうか。私もそうだ。店頭で、いいなと思う靴があれば、自分の足のサイズを伝えて靴を出してもらい、試し履きをする。そこで多少の違和感があっても、店員から「履いているうちになじみますから」と言われれば、まぁいいかと思ってその靴を購入する――。それでなんの問題もないと思っていた。
だから足の総合病院として知られる「下北沢病院」理事長の久道勝也医師から、「靴は、履いた瞬間に合っていなければダメです」と言われたとき、とても驚いた。続けて久道医師は「天才的な靴職人であった、FERRAGAMO(フェラガモ)創業者のサルヴァトーレ・フェラガモもそう話しています」と述べる。
「フェラガモは小学生の頃から自分で靴を作り、11歳にて靴店を開業し、15歳になる頃には年上の助手を何人も抱えるほどの名人に成長したといわれています。彼は“靴職人としての自分の師匠は解剖学である”という考えで、靴選びに関していくつもの素晴らしい言葉を残しているのです。ここに靴を買う側の注意すべきことが言い尽くされていると思います」
フェラガモの言葉を3つ、紹介してくれた。
<つま先が自由であること。
つま先の先端がどこかに触れていると感じるようではいけないこと>

<土踏まずのアーチが支えられている感覚を知ること。そのような感覚が得られる靴を選ぶこと>

<あなたが選んだ新しい靴は、履いた直後から十分に快適であるべきだ。もしあなたが最初に合わないと感じた靴が徐々に合ってきたと感じられたなら、それは靴ではなく、あなたの足のほうが靴に合わせている状態である>
つまりは足の指が自由に動き、かつアーチが支えられている感覚があり、履いた瞬間にぴたりと合う靴ということだ。そんな経験はしたことがない。久道医師は「自分で合う靴を探すのが困難だと感じるなら、靴選びのスペシャリストであるシューフィッターが在籍している靴店もある」とアドバイスする。シューフィッターに自分の足のサイズを測ってもらい、一緒に選んでもらうのも一案だ。ちなみにアシックスはホームページでシューフィッター在籍の有無を公開している。
■合わない靴を履いているとどうなるか?
「今までの靴のサイズにとらわれてはなりません」と久道医師。
「若いときにこのサイズで入ったから、自分の足に合うのはこれだという人が非常に多い。けれども日々体重を支えて歩き続けていると、足はだんだんフラットになって横に広がりやすいのです。加齢によって足のサイズが変わることを理解し、今の適正サイズを見極めることが大切です」
さて、それでは合わない靴を履いているとどうなるのか?
靴の圧迫や摩擦によって足の皮膚が分厚くなって盛り上がるタコができたり、ウオノメや水疱ができる。いわゆる靴ずれだ。
そして靴ずれがある状態で、無理に歩行を続けていると水疱が潰瘍になるなどして、病原菌などが感染しやすい状態になっていく。
「特に糖尿病にかかっている人は、傷口から細菌が侵入して炎症を引き起こす蜂窩織炎(ほうかしきえん)、さらには骨髄炎などが起きる可能性もあります」
小さい靴や先が細い靴で圧迫され続けると、爪の先端や両端が皮膚に食い込む「巻き爪」や「陥入爪」にもなりやすい。爪の下で内出血を起こしたり、爪自体が変形したりすることもあるという。爪だけならいいじゃないかと思うだろうか。そういった足のトラブルが無理な歩行フォームにつながり、やがて関節や腱、じん帯の不調につながっていくという。
「靴と足は体の一番下にあるでしょう。合わない靴を履いていると重心がズレ、歩くフォームが乱れます。そこを何とか調整しようと関節や腱、じん帯に負荷がかかってしまうのです。歩くときに痛みが生じるアキレス腱炎や足底筋膜炎なども起こりえますし、膝痛などの原因にもなります。また爪や皮膚のトラブルで痛みが発生すれば、ますます歩くフォームが悪くなり、やがて股関節が痛くなって腰痛が起きたり、肩や首の凝りにも関係するでしょう。悪循環に陥ってしまいます」
■アキレス腱が平均で約1.3センチ短縮する靴
さらに「血流障害」が起きるリスクもある。靴が“合わない”ということは、その部分の静脈や動脈、毛細血管が少なからず圧迫されてしまうからだ。

「特に血管にダメージを受けやすい糖尿病などを抱えている人は、血流が低下することで、最終的には足の切断となるような大きなトラブルに発展しやすいです。また持病がない人でも、血流がスムーズでなければ、長時間の歩行で足のむくみやだるさが起きやすくなるでしょう」
ビジネスシーンでよく使われる「革靴」や「ヒール」は、どうしても足に負担がかかって「合わない靴になりやすい」という。実際に習慣的なハイヒール着用者では、アキレス腱が平均で約1.3センチ短縮するという報告もある。前回の記事で紹介したようにアキレス腱が短縮する、すなわち硬くなって働かなくなれば、足の血流が低下し、足のアーチがつぶれて痛みや病気につながる。
「足にとっては、足の甲を固定する靴ひもを結ぶ靴(スニーカー)が望ましいです。男女ともに通勤時はスニーカーを、会社に着いたらビジネスシューズに履き替えるというスタイルもいいですね。構造的にはスニーカーだけれど見た目はビジネスシューズという靴を選ぶのも手です」
■誰でもわかる「靴選びの原則」
また、たとえビジネスシューズであっても【靴選びの原則】に近づけることが重要だ。
先のフェラガモの言葉を踏まえつつ、改めて久道医師がその原則を述べる。
「まず、つま先が靴に触れないこと。1.5センチから2センチくらい、少しのゆとりがあるものがいいでしょう。次に足首を安定させるため、かかとの部分がしっかり作られていること、そして革靴の場合は難しいかもしれませんが、足指の付け根の部分のみで曲がる靴だとなおいいですね。またフェラガモの言葉にあるように『土踏まずが靴のアーチに合っている』ことも重要。
合っていない場合は、中敷き(インソール)を入れるのが有効です。インソールを入れることで足への衝撃が緩和され、体重の負荷が分散されるのです」
義肢装具士の向将平氏に、革靴にインソールを入れる場合、「ショートサイズ(半分)のものがいい」と教えてもらった。
「正しいインソールは土踏まずが高くなっていて、かかとをサポートし、足がぐらつかないもの。私たちはそのような角度に設定して作っています」と向氏。
「足に合っていれば市販品でもいいですし、病院で作ることもできますが、インソールでバランスを整えると、筋肉や関節が正しい位置で働きます。一方で足もとが崩れた状態で歩くと、ねじれた体勢になるので、いろいろな部位が痛くなってしまうのです」
健康寿命を延ばすためには歩くことが欠かせないが、合わない靴を履いていると歩行フォームが悪くなり、痛みや病気につながってしまう。「靴選びの原則」を参考に、自分の足にマッチした靴を選び、前回紹介した美姿勢歩行を実践しよう。年をとっても、ぐんぐん歩ける足で過ごしたい。
足病医療の総合病院「下北沢病院」が提案する

【靴選びの原則】
□今の足のサイズに合うこと(今までのサイズにとらわれない)

□つま先が靴に触れない(1.5センチから2センチくらいのゆとりがあるものを)

□かかとの部分がしっかり作られている(足首を安定させるため)

□土踏まずが靴のアーチに合っている(合っていなければインソールを入れる)

↓できれば……

□靴ひもを結ぶ靴が望ましい

□足指の付け根の部分のみで曲がる

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笹井 恵里子(ささい・えりこ)

ノンフィクション作家、ジャーナリスト

1978年生まれ。本名・梨本恵里子「サンデー毎日」記者を経て、2018年よりフリーランスに。著書に『救急車が来なくなる日 医療崩壊と再生への道』(NHK出版新書)、プレジデントオンラインでの人気連載「こんな家に住んでいると人は死にます」に加筆した『潜入・ゴミ屋敷 孤立社会が生む新しい病』(中公新書ラクレ)、『老けない最強食』(文春新書)など。新著に『国民健康保険料が高すぎる! 保険料を下げる10のこと』(中公新書ラクレ)がある。


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(ノンフィクション作家、ジャーナリスト 笹井 恵里子)
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