仕事で評価される人はどんな工夫をしているのか。編集者・ライターの鈴木俊之さんは「会食後に『おいしかったです』や『とても勉強になりました』と定型文を使う人は、相手の記憶に残らない。
言葉は情報ではなく、感情と行動を動かす“トリガー”だ」という――。(第2回)
※本稿は、鈴木俊之『タイトルから考えよう』(星海社新書)の一部を再編集したものです。
■会食後の「おいしかったです」は禁句
この章では、これまで語ってきたタイトル・文章哲学を具体的な形にするための実践的な技術を紹介します。名付けて「1秒で実践できる! タイトル力を上げるための『言葉の筋トレ』」です。「筋トレ」と言っても、特別な場所や時間を必要とせず、あなたの日常のあらゆるコミュニケーションをトレーニングの場に変えることができる、誰でもすぐに始められる方法です。
この筋トレの目的は、言葉を単なる情報伝達のツールとしてではなく、相手の感情を動かし、次の行動を促す「トリガー」として捉え直すことです。
【ルール1:禁句を決め、定型から全速力で逃げよ】
まず、この筋トレを始めるにあたって、簡単なルールを自分に課してください。具体的に言えば、「絶対に使うのをやめる言葉」を決めることです。これは、筋トレにおける「正しいフォーム」を体に覚え込ませるようなものです。
例えば、ビジネス会食の後のLINEメッセージ。多くの人は「本日はありがとうございました。大変有意義な時間でした。
おいしかったです!」といった定型文を送りがちです。(私のごはん友達には、実際に毎回このように同じ文章を送ってくる人がいます)この文章を、今日から「禁句」にしてください。最初は、この「縛りゲー」がめちゃくちゃしんどいと感じるはずです。
なぜなら、私たちは日々のコミュニケーションにおいて、こうした定型文にどれほど頼って生きていたかを痛感するからです。
■相手の記憶に残りやすい言葉の選び方
「縛りゲー」の難しさは、想像以上に手強いものです。普段、意識せずに使っている言葉や表現を封印すると、まず「何て書けばいいんだ?」と手が止まります。その瞬間こそが、筋トレの始まりです。
感謝の言葉の代替:「ありがとうございました」と言えないとなると、感謝をどう伝えればよいかを真剣に考えざるを得ません。例えば、「○○様からのお話、学生時代からの知識がアップデートされ、大変勉強になりました」と具体的に伝えることで、感謝の念がより深く伝わります。
感想の表現:「有意義な時間でした」を禁句にすると、その「有意義さ」を具体的な言葉で表現する必要があります。「○○様の△△というお話、まさに目から鱗でした」といった、実際にどんな話を聞いたのかを思い出す訓練になります。
食事の感想:「おいしかったです!」と言えないとなると、「アサリの香りが立っていてガーリックとの相性も最高でした」といった、五感に訴える具体的な描写をすることになります。
こうすれば、相手の記憶にも残りやすく、「ちゃんと味わってくれたんだな」という好印象に繋がります。

この「縛りゲー」は、まるで重いダンベルを持ち上げる筋トレのように、あなたの思考に負荷をかけるでしょう。しかし、この負荷を乗り越えることで、あなたは無意識のうちに、相手の感情を想像し、相手の記憶に刻まれる言葉を選び出す力が身についていくのです。
■「とても勉強になりました」をどう変換するか
感謝を伝えることは重要ですが、ありきたりな定型文では、相手の心に残りませんし、次のアクションには繋がりません。相手は同じような定型文を、その日だけで仕事やプライベートで何十通も受け取っているからです。
あなたのメッセージは、無数の「ありがとうございました」の中に埋もれ、すぐに忘れ去られてしまいます。この「縛り」を通じて、定型文がいかに「無駄」であるかを身をもって体験し、そこから全速力で逃げる意識を徹底することが、言葉のプロフェッショナルへの第一歩なのです。
【ルール2:ありきたりな表現を「個別化」せよ】
禁句を決めたら、次のルールは「言い換える」です。
「本日はありがとうございました。大変有意義な時間でした。おいしかったです!」
このありきたりな文章を、どうすれば相手の心に刺さる言葉に変換できるでしょうか? 答えは、「具体的かつ個別のエピソード」に置き換えることです。
悪い例:「本日はありがとうございました。
とても勉強になりました。」
良い例:「本日はありがとうございました! ○○様から伺った『一気に来月の売上が2倍になりそうな商談テクニック』、特に『商談で使うべき魔法のワード』が、まさに目から鱗でした。明日から早速使ってみます。それから、最後の炊き込みご飯、アサリの香りが立っていて、美味しかったです!」

どうでしょうか? この文章には、こんな工夫が凝らされています。
■「ちょっと遅れます」は相手に不安を与える
具体的な数値や固有名詞を盛り込む:「来月の売上が2倍」「アサリの香りが立っていて、美味しかった」といった具体的描写は、その時間を明確に覚えていることのアピールにつながります。
個別のエピソードに絞る:「商談で使うべき魔法の特定のワード」といった、その場の一部の会話内容に触れることで、「ここが特によかった」と聞き手としての真剣さが伝わります。
感情の変化を伝える:「目から鱗でした」「明日から早速使います」といった言葉は、相手が提供した情報が「自分にどんな影響を与えたか」という感情の変化だけでなく、具体的な行動まで宣言することで本当に役にたったことをアピールできます。

最初はしんどいかもしれませんが、このトレーニングは、ありきたりな抽象的な表現を避け、言葉に魂を込めるための有効な手です。
【ルール3:質問には「固有名詞と数値」で答えよ】
会話の場面でも、この「個別化」のルールは徹底できます。相手から質問されたら、ありきたりの返答をする前に必ず立ち止まり、固有名詞と数値を入れることを自分のルールにしてください。
「ちょっと遅れます」→「7分遅れます」
「ちょっと」という曖昧な言葉は、イメージできません。「7分」という具体的な数値で伝えれば、相手は明確に状況がわかり、安心感を持てます。
■ありきたりな表現は新たな会話を生まない
「お肉が好きです」→「シャトーブリアンが好きです。
特に佐賀唐津にある食べログ4.14のステーキ屋『キャラバン』のシャトーブリアンが好きです」
「お肉」という抽象的な言葉だけでは、会話が広がりません。「シャトーブリアン」という固有名詞に加えて、店名や食べログの評価といった具体的な情報を添えれば、相手は「この人は本当に肉が好きなんだな」と興味を持ち、食の趣味について会話を広げるきっかけが生まれます。
「好きなタイプは優しい人です」→「思わずLINEを聞きたくなる人は、おなかいっぱいになったときに残りの鍋を1.5杯分食べてくれるほどのキャパがある優しい人です」
第4章で私が問題視した「好きなタイプは優しい人です」というつまらない回答を改めてぶっ壊しましょう。「優しい人」という誰にでも当てはまるような返答は、相手の想像力を停止させます。しかし、具体的なシチュエーションを提示すれば、「この人は面白いな」という感情が生まれ、相手は「どうして?」とさらに質問したくなります。
ありきたりな返答は、相手の想像力を刺激しません。しかし、このように固有名詞や数値を盛り込むことで、相手の脳内に具体的なイメージが立ち上がり、そこから会話がさらに広がっていくのです。この訓練は、相手の感情や興味の動きを想像する「人間理解」を深めるための、最もシンプルで効果的な筋トレです。
■美容整形への偏見を肯定させるロジック
【ルール4:偏見をロジックで覆す「比喩表現」の訓練】
続いてのトレーニングは、世間的にイメージの悪いもの、あるいは偏見があるものを、論理的に肯定させるための「ディベート」です。このディベートを鍛えることで、タイトルや文章に説得力と深みを与える「比喩表現」の力が養われます。
なぜなら、人は頭ごなしに否定されると反発しますが、強い共感や意外な比喩で論理が通されると、すんなりと納得してしまうことがあるからです。
具体的な例として、若者の間では普通になりつつあるものの、いまだに根強い偏見がある「美容整形」を肯定させるためのロジックを考えてみましょう。

私は月一で韓国に行くほど美容クリニックで整形することが好きなので、こんな風にあえて否定派を説得する会話をすることがあります。
「○○さん、ご出身ってどちらですか?」

「栃木です」

「栃木の実家って築何年ですか?」

「生まれたときだから40年かな?」

「外壁工事とかされてないですか?」

「してますね、そりゃあ当然でしょう」

「ですよね? ではもう一つ質問。1985年のクルマをパーツを一切交換せずに乗り続けている人っていないですよね?」

「そうですね」

「となると、人間だけですよね? 40年間一度も修復してない状態を放置しているのは」

「なるほど!」
どうでしょうか。この段階で、相手は「確かに……」と納得せざるを得なくなります。
■「比喩の筋トレ」で読者の共感を生み出す
さらに、感情的な反発を完全に封じ込めるための比喩を続けます。
「あと、整形といっても私が目指しているのは東京駅の丸の内の駅舎なんです」

「どういうこと?」

「東京駅はずっと外観は東京駅じゃないですか。歴史は100年近くあっても」

「たしかに、見た目や形は変わらなくて、きれいになっているだけですね」

「そうでしょ? 私は簡単に言うと森ビルにしたいわけじゃないんですよ。森ビルの開発みたいに土地をまっさらにして全く別のものを作りたいわけではない。東京駅は東京駅のままのように、ただ、美しくアップデートされている状態を目指しているだけです」

「そうか、なるほど! 整形も悪くないですね!」
このように比喩表現で説得すると、相手の感情的な反発を乗り越え、ロジックで納得させることができます。この訓練を繰り返すことで、読者の共感を生み、その後とんでもない論と繋げるような、説得力のある比喩を用いた良いタイトルや文章が思い浮かぶようになるのです。

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鈴木 俊之(すずき・としゆき)

編集者・ライター

1985年福島県生まれ。福島県立磐城高校、法政大学文学部地理学科卒業。
出版社にて月刊誌編集部に所属し、企画立案から取材、執筆、編集に携わる。2015年より独立。雑誌、ネットニュースなどのマスメディアで、金融、IT、不動産、医療、消費トレンドの記事を手がける。

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(編集者・ライター 鈴木 俊之)
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