スマホやゲームは、子どもに悪影響だと批判されがちだ。しかし、小児科医の森戸やすみさんは「スマホやゲームがよくないということはない。
たいした根拠もなく子育ての不安を煽る情報が非常に多いので注意が必要だ」という――。
■子どもとスマホを取り巻く現在の状況
「子どもにスマホはよくない」「スマホを子どもに与えると依存症になる」といった説がまことしやかに流れています。毎日、親子でスマホを使いながら、なんとなく罪悪感を抱いている親御さんは少なくないのではないでしょうか。
2020年には香川県で「ネット・ゲーム依存症対策条例」が施行されました。この条例は、18歳未満のゲーム利用を平日1日60分、休日90分、スマホは午後9時~10時までという目安を設け、保護者にルールを守らせる努力義務を課すもの。しかし、科学的根拠が欠如している、因果関係の取り違えではないかという批判があり、他にも家庭への過度な介入ではないかと訴訟を起こされ、現在も批判が続いています。
2025年には、愛知県豊明市でスマホやタブレット端末の使用を1日2時間以内とする条例「スマートフォン等の適正使用の推進に関する条例」が施行されました。こちらも同様に2時間という数字に科学的根拠がないこと、行政が個人の生活に介入しすぎだということに対して批判が殺到しています。
同じ2025年にオーストラリアでは、16歳未満のSNSの利用を制限する法律ができて話題となりました。その他の欧米諸国でも、子どものSNS使用を制限することが検討されています。若者の抑うつやいじめなどメンタルヘルスへの懸念があり、子どもを守るという観点からです。
こうした動きを見ると「やはりスマホは健康や子どもの成長発達によくないのだろう」と感じる方も多いでしょう。
でも、そうとは限りません。
■後を絶たない「スマホを危険視する俗説」
以前、日本小児科医会の「スマホに子守をさせないで」というポスターが話題になったのを覚えている方もいるかもしれません。十分な科学的データや臨床研究が示されないまま、「スマホを使うと学力が下がる」「脳にダメージがある」といった過度に断定的で恐怖心を煽るような表現があり、批判や疑問の声が上がりました。
2024年には、石井光太氏による『ルポ スマホ育児が子どもを壊す』という本が出版されています。この本には、保育園での昼寝の際にスマホアプリの子守唄でないと眠れない子どもたちの話が出てきます。私は数々の保育園の園医をしていますが、そんな話は聞いたことがありません。私以外の小児科医も同様です。他にもスマホ育児の影響で体育座りやしゃがむことができなかったり、ハイハイができない子が増えているとありますが、因果関係は不明です。
そのほか、東北大学加齢医学研究所の川島隆太氏らの研究によると、仙台市の5~18歳の児童生徒224名を対象に、3年間にわたって脳をMRIで観察したところ、ほぼ毎日インターネットを使っていた子どもは大脳が発達していなかったので、スマホでも同じだろうと推測し、学力が上がらないとしています。
しかし、スクリーンタイムと学業成績の関連を調べた58の論文のシステマティックレビューの結果は次の通りです(※1)。スクリーンタイムが1日7時間以上だと成績低下と関連するが、1日2~4時間では成績がいいとの報告があり、またどんな機器を、どんな目的で、どんな内容を、どんな状況で使用したかによるため、慎重に解釈する必要があるとしています。つまり、少なくとも「スマホをさわるとバカになる」という断定は控えなくてはいけません。

※1 Association Between Screen Media Use and Academic Performance Among Children and Adolescents: A Systematic Review and Meta-analysis,Media and Youth,JAMA Pediatrics
■親子で使い方に気をつけていれば問題なし
最近では、スマホなどのデジタル機器を過度に使うことが、子どもの認知発達の遅れや精神疾患の原因となると決めつけ、「デジタル自閉症」という造語を用いて論じた例もありました。デジタル自閉症という言葉は、医学的な診断名ではありません。一般社団法人自閉症協会、東京都自閉症協会なども、この言葉の使用に反対を表明しており、自閉症に対する偏見を助長する点でも批判されています。
私は、いわゆる「スマホ脅威論」には反対の立場です。以前の記事「『スマホに育児をさせないで』という人たちはわかっていない…小児科医が指摘するスマホの意外な効用」でも述べましたが、重要なのは「使うか・使わないか」ではなく「どう使うか」です。子どもの視力を守るため、身体活動などの他の活動をするための時間を確保するために、親子でスマホ使用のルールを作るのはいいことですが、一律に忌避することは過剰反応ではないでしょうか。
児童精神科医の本田秀夫氏も、YouTube「にじいろ子育てチャンネル」で、スマホそのものが問題なのではなく、どう使うかが大事だと指摘。保護者に対しては、スマホを禁止するよりも、子どもと一緒にスマホ以外の楽しいことをする時間を大切にすることをすすめています。
■子育てまわりは危機感を煽る説だらけ
新しい技術や文化が普及するたびに、因果関係どころか相関関係があるのかどうかさえ曖昧なままで「危険だ」と危機感を煽る説が現れるのは、これまでの歴史で常に繰り返されてきたことです。スマホに限った話ではありません。
1950~60年代、子どもが自閉症になるのは「冷蔵庫マザー」、すなわち母親の冷たい接し方が原因だといわれました。現在では完全に否定され、自閉症は生まれ持った特性であることがよく知られています。
1960年代には、テレビによって国民全体が愚かになるという「一億総白痴化」という言葉が広まりました。マンガやアニメも、子どもの思考力を奪うものとして、今よりはるかに強く悪者扱いされていたのです。どれも根拠はありません。
1970~80年代には不登校は「登校拒否」と呼ばれ、親の愛情不足または甘やかしのせいだとされました。1990年代には、赤ちゃんが泣いたときにすぐ抱っこしないと「サイレントベビー」になり、感情表現が乏しい人間になるという説が登場。2000年代になると、今度は子どもがゲームをすると前頭葉が萎縮して「ゲーム脳」になり、キレやすい子になるという説が流行したのです。やはり根拠はありません。
■どの時代も特に子どもは壊れていない
2000年前後には、子どもの体温が下がり、さまざまな問題が起きているという説が広まりました。私が文献を探す中で見つけた2000年のAERAの記事は「子どもが壊れる もはや『生き物』としても危うい体」という刺激的なタイトルでした。同じ年の朝日新聞には「夕方までぼんやり? 低体温の子 通学意欲も薄れる傾向」という記事がありました。
こういった記事に先んじて1996年に沼津市立病院の小児科医(当時)梁茂雄氏は、昔と比べて子どもが低体温になり不調が増えているという説が一部にあるが事実ではないこと、小児の体温について論じる際には一定の条件で測定する必要があると指摘しています。
2002年に行われた北海道大学の石井好二郎氏の研究によると、口腔温が36℃未満かどうかと、睡眠、運動、習い事、食事、起立性調節障害傾向、肥満にはほとんど関連が認められず、肥満と関連する「β3アドレナリン受容体」の遺伝子変異との関連についても有意差はありませんでした(※2)。
この論文の中で、石井氏は誤情報がマスメディアを通じて広がってきたことへの注意も示しています。
あれから25年以上経ちましたが、「生き物として壊れた」と言われた子どもたちはどんな大人になったでしょうか。私は2000年以前から小児科医として診療を続けていますが、そのような子どもを見たことはありません。スマホによって「子どもが壊れる」こともないでしょう。
※2 石井好二郎「低体温児と生活習慣、食習慣は関連するか?
■科学的根拠に乏しい「警鐘」こそが有害
このように子育てに関して科学的根拠に乏しい「仮説」を強い根拠があるかのように喧伝するのは、「善意の警鐘」のつもりかもしれません。しかし、実際には倫理的に大変問題のある行為です。
こうした言説が繰り返されるのは、「悪者」を作って叩くことでカタルシスが得られるからでしょう。子育てに関する話題は世間の関心も高く、単純化された説明は耳目を集めます。「警鐘」を鳴らした人は、本が売れたり記事が読まれたりするうえ、正義の側に立てるのです。また読者側も「今の親はダメ」「昔は良かった」と吐け口にできるから読まれやすいのでしょう。
でも、よく考えてみてください。的はずれな警鐘で子どもがよくなることはありません。
親を断罪しても、子育てがよくなることはありません。むしろ、それぞれ自分なりに必死で子育てしている親たちに刃を向け、罪悪感を抱かせ、不必要な行動制限やストレスを与えて追い詰めれば、親は疲弊します。すると、余裕を持って子育てできなくなり、子どもに悪影響を及ぼすことになるのです。
最後に、親御さんは不安を煽る記事は気にせず、ぜひ目の前のお子さんと過ごす時間を大切にし、よい関係を築いていってください。そして周囲の人は、親を批判するのではなく、可能な範囲で支援したり、新しい技術と共生する方法を考えたりしましょう。科学的根拠に乏しい「脅し」の連鎖を終わらせることができればと思います。

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森戸 やすみ(もりと・やすみ)

小児科専門医

1971年、東京生まれ。一般小児科、NICU(新生児特定集中治療室)などを経て、現在は東京都内で開業。医療者と非医療者の架け橋となる記事や本を書いていきたいと思っている。『新装版 小児科医ママの「育児の不安」解決BOOK』『小児科医ママとパパのやさしい予防接種BOOK』など著書多数。

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(小児科専門医 森戸 やすみ)
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