1月23日、高市首相は衆議院解散に踏みきった。その背景には、高市政権の支持率が高いうちに選挙で議席を増やして、独自の政策運営を行いやすくするとの読みがあるのだろう。
そもそも、国民の社会保障(医療、年金、介護、失業保険)の財源を確保するため、消費税率を導入し、徐々に税率を引き上げてきた。特に、2019年10月、消費税率10%への引き上げと同時に、食料品などに適用される軽減税率を導入したことは重要だ。
各人の所得、ライフスタイルに合わせて、税負担を部分的に軽減するため、主に飲食料品の税率を8%にした。
■与党も野党も「食料品の消費税を減らす」
ところが、今回の各党の総選挙公約を見ると、基本的に、どの政党も軽減税率のゼロや廃止を訴えている。軽減税率の引き下げで、一時的に消費は上振れるだろう。ただ、その財源が確保できなければ、財政の悪化は免れない。
それにもかかわらず、各政党がポピュリズム的な政策を主張することは、今回の選挙が人気獲得の投票になりつつあることを意味する。
また、軽減税率を一度にゼロにすると、消費者にとっては大きなメリットはあるものの、元々、軽減税率の対象にならない飲食業などでは顧客が減少することも懸念される。また、長い目で見ると、財政状況が悪化して社会保障の内容が下がる可能性もある。
食料などの消費税がゼロになるからと言って、すべての人たちにメリットが行きわたるわけではない。有権者は、そうした現実をしっかり注視することが必要だ。
■海外に比べると「10%」はまだまだ安い
もともと、わが国が消費税率を導入してきたのは、国民から幅広く社会保障の財源を集めるためだ。1989年、政府は3%の消費税を導入した。1997年には5%、2014年に8%、そして2019年10月に10%へ税率は上昇した。
少子高齢化の加速により、わが国の医療、年金、介護関連の財政支出は増加した。かつて、その財源になったのは、主に公債(国債など)の発行だった。借金に頼った社会保障制度は基本的に脆弱だ。
国債に頼った社会保障制度運営が続く一方、国民への給付水準の引き下げは難しい。結果として、わが国の社会保障制度は、低負担・中福祉と呼ばれる状況が続いている。
負担と給付のバランスを改善するため、わが国は消費税を導入し、段階的に引き上げた。海外の主要先進国も同様の考えから、段階的に消費税(海外では付加価値税と呼ばれる)を引き上げた。10%というわが国の消費税率の水準は主要先進国と比較して相対的に低い。
■ぜいたくできる人が税を多く負担する仕組み
欧州の主要国では、高い消費税率を課す一方、生活に欠かせない品目に軽減税率を早くから導入した。
ゆとりがあって外食などを楽しみたい人には、高い税率をかける。節約したい人からの消費税の徴収は少なくなるよう、制度を工夫した。個人の税金を負担できる経済的な力に配慮した消費税の制度、それが軽減税率である。
わが国でも軽減税率の導入に関する議論はあった。なかなか実現しなかったのは、「富裕層に有利な措置になる」「小売店のレジなどのシステム対応の負担が高い」などの反対意見が多かったからだ。
2019年10月、消費税率10%引き上げと同時に、政府は軽減税率を導入した。テイクアウトや宅配を含む飲食料品(酒類・外食を除く)、新聞(定期購読契約され週2回以上発行される)の消費税率は8%とした。それにより家計の負担軽減が図られた。
■2年間で「ゼロ→8%」に戻せるのか?
軽減税率の導入は人々の負担に配慮しつつ、財政健全化と社会保障制度の持続性を高めるために必要な措置だ。
自民党は、食料品の消費税を2年間ゼロにすることを検討する。ゼロにした後の税率を、本当に戻せるかは定かではない。当初、自民党は給付付き税額控除の議論を進める意向を示した。
日本維新の会は、自民党と同様に2年間、食料品の消費税をゼロにすると掲げる。中道改革連合(立憲民主党と公明党が結成、中道)はさらに踏み込んだ。食料品の恒久的な消費税ゼロが目玉公約だ。そのために新たな政府系のファンドを設定し、その運用益を財源とする案も示した。
国民民主党は、賃金上昇率が物価を安定的に上回るまでという条件を付け、消費税を一律5%にすべきと訴えた。日本共産党、れいわ新選組、参政党は将来的な消費税の廃止を掲げた。
■4兆8000億円の税収減で、効果は8分の1
1年間、食料品の消費税をゼロにすると4兆8000万円の税収減になる。それによる消費押し上げ効果は年間5000億~6000億円程度にとどまるとの試算もある。
本来であれば、“社会保障と税の一体改革”の考えに基づき、消費税率の将来的な引き上げや、軽減税率の引き上げ、対象品目の追加が必要だ。それこそが、財政に責任を持つ姿勢というべきだろう。
消費税以外の公約を確認すると、人気取り(ポピュリズム)の要素が強く見える。維新が主張する現役世代の社会保険料引き下げ、中道の公約にある若者向けの住宅補助など、与野党の公約は財源を示さないまま分配一色だ。
消費税減税などで分配を増やせば、一時的に国民の生活負担は減る。有権者にとって耳あたりのよい公約を掲げ、支持獲得を目指す。それが今回の衆議院解散、総選挙の主眼になっている。
■住宅ローンを抱える現役世代への影響
高市首相が衆議院解散を表明した1月19日、わが国の金融市場では財政悪化への警戒感が急速に高まった。長期金利は2.3%近くまで急上昇した。国債の債務不履行(デフォルト)に備えて取引される金融派生商品(クレジット・デフォルト・スワップ、CDS)の保証料率はここ1年の最高値を更新した。
人気取りのための消費税減税論争が激化したことで、わが国の財政悪化、さらに破綻への懸念は一段上昇した。
軽減税率を一度ゼロにする。さらには消費税をなくすことは、経済にとって相当な劇薬だと危惧する投資家は多い。
■英トラス政権の「失敗」から学べる事
リーマンショックやコロナショックの対応に、ドイツや英国は一時的に消費税を引き下げた。両国に共通する主な評価として、消費税の引き下げの一部は企業の手元に残ったといわれている。ただ、消費税率の引き下げが、生活負担の軽減になったと実感した世帯は期待したほど多くはなかったようだ。
英国の場合、減税の効果は2カ月程度しか持たなかったとの研究結果もある。最終的に、減税による消費の一時的増加、効果一巡後の反動減で景気の変動性は拡大した。さらに、2022年、英トラス政権(当時)は物価対策、景気刺激のために財源を欠いた大型減税案を打ち上げた。結果として、ポンド急落、英国債(ギルツ)急落(金利急騰)、英国株急落のトラスショックが起きた。
軽減税率が導入された意義を考慮しない。さらには財源を欠いたまま消費税率を引き下げる。それは、一時的かつ部分的な景気刺激を簡単に消し去るほどのショックを経済に与えるだろう。
本当に、わが国の中長期的な経済と社会の安定、成長に消費税率の引き下げが必要か疑問は残る。物価対策を徹底するのであれば、金融政策の正常化と供給制約の解消に向けた構造改革が必要だ。与野党が総選挙公約に掲げた政策で、わが国の経済の実力が本当に上向くか、有権者一人一人が真剣に考える必要がある。
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真壁 昭夫(まかべ・あきお)
多摩大学特別招聘教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授、法政大学院教授などを経て、2022年から現職。
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(多摩大学特別招聘教授 真壁 昭夫)

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