■「槍の又左」と称された前田利家
大河ドラマ「豊臣兄弟!」(NHK)の第5話で前田利家(大東駿介)が登場する。利家は信長(小栗旬)のお気に入りの家臣であり、秀吉(池松壮亮)の大親友で、そのため、豊臣政権では「五大老」に任じられ、江戸時代は加賀百万石の祖となった。
実は前田家はそれ以前からけっこうな名家だったようだ。
天文23(1554)年頃、今川義元(大鶴義丹)が知多半島北部の村木(愛知県知多郡東浦町森岡)に砦をつくって水野家(徳川家康の母の実家)を討伐しようとすると、織田信長は暴風雨の中を救援に向かった。当時、信長は那古野(なごや)城を居城としていたが、尾張国内にまだ反対勢力が居たことから、義父の斎藤道三(麿赤兒)に留守部隊の出兵を要請。斎藤家臣・安藤守就(もりなり)(田中哲司)が1000の兵を率いて那古野城北に在陣した。これに信長家臣・林秀貞(諏訪太朗)は不服を漏らして、与力の前田与十郎の居城・荒子(あらこ)城(名古屋市中川区荒子町)に退去した。
林は当時信長家中の筆頭家老と思われる人物である。その人物が籠城するくらいだから、前田与十郎はかなりの有力者だったと思われる。ただし、前田利家は、この与十郎家の分家の前田蔵人利昌(くろうどとしまさ)(利春、家則ともいう)の、そのまた四男坊だったらしい。
那古野城はそもそも那古野今川家といって、鎌倉時代に分かれた今川家の支流が城主だった。
■信長の家臣となり戦で暴れる
つまり、信長家臣の原型は那古野今川家の家臣団だった可能性が高い。そんなに大身の侍はいない。そして、信秀は移住先の末盛城で佐久間信盛(菅原大吉)・柴田勝家(山口馬木也)ら大身の侍(さむらい)を傘下に付け、信長の弟・織田信勝(一般には信行)がかれらを家臣として継承した。
そこで、信長は那古野周辺にすむ侍の次男坊・三男坊をカネで傭って武力を蓄えた。それが丹羽長秀(池田鉄洋)であり、前田利家(四男坊だが……)なのだ。その延長上に、侍ですらない木下藤吉郎(池松壮亮)や小一郎(仲野太賀)がいる。
かれらには佐久間信盛のように多くの家臣を抱えていた訳ではない。だから、自分の才覚でのしあがっていくしかない。さしづめ、頭脳派の丹羽長秀・木下藤吉郎と、武力派の前田利家・佐々成政(さっさなりまさ)というような感じだろう。「豊臣兄弟!」には利家の妻・まつ(菅井友香)も出てくるが、秀吉とは近所づきあいがあり、家族ぐるみで仲が良かった。
■信長の親衛隊の筆頭となり出世
利家は永禄2(1559)年頃に信長の同朋衆・十阿弥といざこざを起こした果てに斬殺し、信長の逆鱗に触れて出奔を余儀なくされる。桶狭間の合戦、森部合戦にひそかに参陣し、武功をあげて帰参を赦された。
父・利昌は2000貫文(のち2300貫文)の所領を持っていたが、利家はそれと別に50貫文の所領を与えられ、萱津合戦、稲生合戦、浮野合戦で武功を挙げ、150貫文に加増されている。信長の親衛隊ともいえる赤母衣(あかほろ)衆の筆頭に列し、永禄12(1569)年の伊勢大河内城攻めの後、信長の命で利家が家督を継ぎ、計2450貫文を領したという。
利家は、天正3(1575)年5月の長篠の合戦では佐々成政とともに鉄砲奉行を務め、同年8月に柴田勝家が越前を与えられると、佐々成政・不破光治とともに「府中三人衆」として越前二郡を与えられた。勝家のお目付役という訳だ。天正8(1580)年、柴田勝家等とともに加賀を平定。翌天正9年に能登一国を与えられ、七尾城城主となる。天正10(1582)年3月、勝家の富山城攻めに従い、そこで本能寺の変の報を聞く。
■豪快な性格で、誰からも愛された
利家は人並み外れて体格がよく、「槍の又左(またざ)」と称された豪傑タイプで、誰からも愛された。上司の勝家、親友の秀吉が対立するとその板挟(いたばさ)みとなり、去就に悩ませられるが、天正11(1583)年の賤ヶ岳の合戦で、勝家は利家が秀吉に着くことを許したという。
秀吉の信認を得た利家は、徳川家康と並んで秀吉政権の最長老となり、家族合わせて76万5000石を領し、加賀100万石の基礎を築いた。
秀吉が天下を治めると、前田利家は「五大老」の一人に選ばれ、豊臣政権の重鎮となる。他の4人は生まれながらにして多くの家臣を抱えた国衆・戦国大名で、槍一本でここまで出世したのは利家のみ。そんなこともあって、加藤清正・福島正則など「槍一本」派の豊臣家臣からの人望が篤かった。
しかし、慶長3(1598)年に秀吉が死ぬと、その後を追うように翌慶長4年(1599)閏3月に死去した。おそらく秀吉にとって、幼い秀頼の行く末を託した利家の早すぎる死が一番の誤算だったであろう。
■利家の長男は信長の娘と結婚
利家の長男・前田利長(としなが)は織田信長の娘・永姫と結婚。慶長3年(1600)、浅井畷(あさいなわて)の戦い、“北陸版”関ヶ原の合戦での働きが認められ、徳川家から119万2700石(約120万石)に加増された。ただ、利長夫妻には子がなかった。利長は主君の娘をもらったので、側室を設けなかったようだ。利長には多くの兄弟がおり、同母弟もいたのだが、異母弟の前田利常(としつね)を養子とした。
利常は側室の子として生まれ、越中の姉夫婦に育てられた。父・利家とは一度しか会ったことがなく、兄・利長ともしばらく対面する機会がなかったという。
丹羽家の当主は丹羽長秀の子・丹羽長重だ。長重は利常の非凡さを見抜き、自ら梨の皮をむいて与えるほど可愛がり、「利長公はまだ若くて、これから子どももできるだろうけれど、お前さんは何があっても最後には、(加賀、能登、越中)三カ国を手にするだろう」と語ったという。
■利長は優秀な異母弟を養子に
利常は人質から戻ってきた後も冷遇されたままだったが、あるとき、前田一門・家臣団の子どもたちが能(のう)見物で集まった際、実兄・利長と初めて対面する。前田利家が人並み外れた大男だったと先述したが、その体格は利常に最も遺伝していたらしい。しかも、目が大きく、眼光の鋭さは群を抜いていた。利長は初対面で利常の非凡さを見抜いて養子にした。
利常は徳川秀忠の娘・珠姫と結婚。以後、前田家は徳川家と婚姻を重ねることが多く、東京大学の赤門は、11代将軍・徳川家斉の娘である溶姫が輿入れした時に建てたものだ。将軍家の娘が嫁いだ家は、赤門を建てて歓迎し、その妻が死去すると破却するしきたりがあった。ところが、溶姫は明治維新後も生きながらえたので、破却することなく現在まで続いたという。
■東大に前田家の赤門があるワケ
ではなぜ、東京大学が加賀藩邸の赤門を引き継いだのか。
明治期の当主・前田利嗣(としつぐ)は、絶世の美女・鍋島家の姫に求婚した。OKはもらえたが、その条件は「側室は置かないでほしい」というものだった。夫妻には一人娘しか授からなかった(前田利長の再来のようだ)。
そこで、前田家家令は親族の前田家から婿養子を迎えるべく、年頃の候補者について学習院から入学以来の身体検査表と成績考科表を取り寄せ、旧上野七日市藩の四男を婿養子に選んだ。前田利為(としなり)である(これも前田利常の再来のようだ)。
■侯爵にして軍人、前田利為
利為は成績優秀で政治家を志したが、叔母にあたる有栖川宮妃が「華族は皇室の藩塀であるから、軍人になるのが義務」と強硬に主張。利為は陸軍士官学校から陸軍大学校に進み、3番の成績「恩賜の軍刀」組として卒業。ドイツ、イギリス、フランスを私費留学し、第一次世界大戦時には欧米諸国を視察。視野の広い国際派軍人になっていく。
そして、利為にはその広い視野を活かす、前田家の莫大な資産があった(現在の貨幣価値で1500億円以上といわれる)。旧加賀藩前田邸に隣接する東京大学が拡張工事をするにあたり、駒場にある東大農学部と土地交換とした。そのため、前田家伝来の赤門が東京大学のシンボルになったのである。
■19代当主はイノダコーヒ社長
そして、昭和初期に外国人をもてなす施設が少ないと考え、その駒場に豪壮な洋館(現・日本近代文学館)を建て、鎌倉にも別邸(現・鎌倉文学館)を建築した。さらに1926年に公益法人「育徳財団」(のちに財団法人「前田育徳会」)を設立し、前田家伝来の文化財を寄附した。ちょうど、東京国立博物館平成館で2026年4月14日から6月7日まで、前田育徳会創立百周年記念 特別展「百万石!加賀前田家」が開催される。
ちなみに、利為の孫・前田利祐(としやす)は三菱海運を経て日本郵船に勤務。机を並べた同僚に徳川将軍家の18代当主・徳川恒孝(つねなり)がいた。2人の上司は「徳川・前田を部下に持つのは秀吉以来のことだろう」と至極ご満悦だったとか。
のちに利祐は2001年(平成13年)、徳川恒孝と共に、敬宮愛子内親王の「浴湯の儀」において、皇室の伝統である「読書鳴弦の儀」を執り行った。
その長男である利宜(としたか)は三菱商事を経て現在、京都を本社とするコーヒーチェーン「イノダコーヒ」の代表取締役社長となっている。
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菊地 浩之(きくち・ひろゆき)
経営史学者・系図研究者
1963年北海道生まれ。國學院大學経済学部を卒業後、ソフトウェア会社に入社。勤務の傍ら、論文・著作を発表。専門は企業集団、企業系列の研究。2005~06年、明治学院大学経済学部非常勤講師を兼務。06年、國學院大學博士(経済学)号を取得。著書に『企業集団の形成と解体』(日本経済評論社)、『日本の地方財閥30家』(平凡社新書)、『最新版 日本の15大財閥』『織田家臣団の系図』『豊臣家臣団の系図』『徳川家臣団の系図』(角川新書)、『三菱グループの研究』(洋泉社歴史新書)など多数。
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(経営史学者・系図研究者 菊地 浩之)

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