相手の心を開くのが上手な人は、何が違うのか。一級建築士の高原美由紀さんは「良好な関係を築きたいなら、内装や座席に注目してほしい。
たとえば、部下との面談やお客との商談では、座る場所によって結果が変わるだろう」という――。(第2回)
※本稿は、高原美由紀『できる人は25分で「場所」を変える』(青春出版社)の一部を再編集したものです。
■カフェには「自然に話が弾む工夫」がある
人間関係でとくに大切になるのが、「相手が構えずに話せるかどうか」です。
人は、不安や緊張の中では、本音も悩みも、弱さも出しません。逆に、心理的負荷が下がると、心の扉は自然にゆるみます。初めての相手と話す、相手に心を開いてもらい、本当の考えや悩みを聞きたい。そんなとき、どんな場所を選ぶのがよいでしょうか?
その空気を体感しやすいのが、私たちが日常的に使っているカフェです。
会議室よりもカフェのほうが、自然に話が弾んだ経験はありませんか。カフェは、“心をほぐし、自然体で話せる状態”に導いてくれるからです。多くのカフェには、いくつかの共通した特徴があります。
・自然光が入り、空間が開けている

・適度な人の気配があり、自分だけが注目されている感覚が薄れる

・コーヒーの香りやざわめきが、警戒心をやわらげる

・対面ではなく、斜めや横並びの位置関係が取りやすい
これらはすべて、心の緊張をやわらげる要素です。脳は、構える必要がないと判断し、「本音を言いやすい」と感じます。
だから、オフィスで話すよりも、話す内容も、声のトーンも、表情もやわらかくなります。緊張がない場では、相手は“守り”から“素”の状態に切り替わります。
■「本音を引き出す要素」を1つ加えてみる
そのため、会議室では出てこなかった話がしやすくなります。気持ちがほぐれることで、話はどんどん深まり、相手が本当に考えていること、その“奥行き”にまで届くようになります。
たとえば、
・子どもがリビングでは話さないのに、車やカフェでは本音を話す

・パートナーがキッチンでは素っ気ないのに、外を歩きながらだと話してくれる
こうした違いが生まれるのは、その場が「心を開きやすい状態」かどうかの差です。
本音を聞きたいときは、まずは、話しやすい環境の要素を1つ加えてみましょう。
・昼間なら自然光の入る明るい席、夜なら、明るすぎない落ち着いた席を選ぶ

・少しざわめきがある、半個室のような囲まれ感のある場所に移動する

・相手を真正面から見つめず、視線を少し外し、“圧のない距離”をつくる

・窓の外の景色や絵、キャンドルなど、視線の逃げ場になるものを用意する
こうした安心の要素が、心を開くスイッチになります。本音を引き出したいとき、あなたの周りにどんな「場」がありますか。
■商談や面談で「真正面」はNG
次は、日常で見落としがちな「座る位置」についてです。座る位置は、相手に“自分とどう関わるつもりなのか”を伝え、心を開くか、守りに入るかの判断材料になります。
【(1)真正面は“緊張”の位置関係】
あなたは、商談や面談のとき、相手から見てどの位置に座りますか。正面でしょうか、それとも、少し斜めの位置でしょうか。

一見、相手と真正面で向かい合う配置は、相談や話し合いには向いていそうです。一方でその位置は、相手を“正面から観察する配置”でもあります。私たちの脳はこの位置関係を“攻撃の可能性がある”ととらえやすい性質があります。
けんかや対立は真正面の位置で起こることが多いからです。この“正面の相手”は、扁桃体(危険に反応する脳の部位)を刺激し、警戒・防御・緊張の反応を生みやすくなります。「じっと見られている」「試されているように感じる」という圧につながり、知らないうちに心が固くなってしまいます。
・会議室での面談がうまくいかない

・部下が緊張して話しづらそうにしている

・子どもが食卓で本音を言わない

・夫婦の話し合いが深刻になりがち
こうした場面の背景には、“正面で向き合ってしまっている”という配置の問題が潜んでいます。
■「斜め45度の位置」がベスト
【(2)45度の位置は、脳に“味方”として受け取らせる角度】
一方で、椅子を少しずらし、“斜め45度の位置”に座ると、相手はあなたを仲間として受け取りやすくなります。
人は相手と同じ方向を見ているときに共感しやすくなります。脳は、相手の視線の動きをわずか0.2秒で検出するといわれています。つまり、視線がそろうと 「攻撃ではない」「一緒に考える相手だ」と瞬時に判断しやすくなるのです。
正面で向き合うときに比べ、脳は相手を“理解しようとする働き”を起こしやすくなります。

その結果、話が深まり、相手の反応がやわらぎ、反論が減ったりします。とても単純ですが、この配置は、向き合う関係から一緒に考える関係へ気持ちを切り替えてくれます。ほんの数十センチの違いが、会話の深さだけでなく、相手との関係の質や判断にも影響します。信頼を生む鍵は「どれだけ目を合わせるか」ではなく、「ふたりがどこを見ているか」です。
この原理は、暮らしのさまざまな場面で働いています。
・部下は、上司の正面よりも斜めの席で本音を出しやすい

・思春期の子どもは、向かい合うより車の中や横並びで話しやすい

・パートナーとは、正面の食卓よりソファの斜め配置のほうが会話が深まる

・営業では、顧客と“資料を横から一緒に見る”と同じ立場という意識が生まれる
会話がうまくいかないとき、まずは、座る向きを変えてみてください。
・正面ではなく、少しだけ斜めに

・対面ではなく、テーブルの角を挟む

・丸テーブルに座るのもおすすめ

・子どもと話すときは、横並び・斜め並び

・共有資料を置くとき、テーブル中央ではなく、ふたりの斜め前45度に置く
座る位置の小さな角度が、関係の角度を変えます。あなたは、相手と一緒の方向を見ていますか。
■相手を案内するのは「出入口の見える場所」
【(3)逃げ道が見えると信頼が生まれる――心理的自由の法則】
あなたは、商談や打ち合わせで、相手をどの席に案内していますか?
多くの方は、つい「奥の席」をおすすめするのではないでしょうか。けれど、実はこの席の位置から「出入り口が見えるかどうか」が相手の警戒心を左右します。
寝室でも、出入り口が見える方向に頭を向けると落ち着き、背中を出口に向けるとどこか不安になる。そんな経験は誰にでもあると思います。

これは、脳が安全確認をしているサインです。出入り口が見えない席では、人は無意識に「逃げられない」不安を感じます。背後が落ち着かず、視界に逃げ道がない配置は、「自由を奪われている」と感じ、脳は警戒心を高めます。
その結果、
・判断が慎重になりすぎる

・話が浅くなる

・提案を受け入れにくくなる

・結論を先延ばしにする
といった“拒否や保守的な反応”が起きやすいのです。
一方、出入り口が見える席では、「何かあっても動ける」と感じます。その感覚が思考を深め、反応をやわらかくし、提案を公平に受け止めて、冷静に判断できる状態へと導かれます。それが、人の決断を支える“場の力”です。
■追い込まない配置が「心を開く土台」になる
この原理を「心理的自由の法則」と呼んでいます。“自由が守られる場”では、人は心が開きやすくなり、落ち着いて選べるようになります。この原理は、暮らしのさまざまな場面で働いています。
たとえば、
・子どもは出口が見える席のほうが落ち着く

・夫婦の話し合いも、背中を壁につけて出口を見られると安心する

・部下の1on1でも、追い込む配置だと本音が出にくい

・カウンセリングで“逃げ道をふさぐ配置”を避ける
追い込まない配置が、心を開く土台をつくります。
商談室では、出入り口や開放的な方向が見える位置をおすすめしましょう。
逃げ道が見えれば、相手は焦らずに自分のペースで判断できます。そこでは、「コントロール」ではなく、「主体的な選択」が生まれます。
会議や食事のとき、正面ではなく、少しずれた席に座ってみる。対面で話すとき、椅子の向きを45度ほどずらすだけで空気は変わります。
レストランでは相手を背中が壁側・出口が見える席に通す。会話でも、相手を正面から追い込まず、視線や体、言葉、そして心の逃げ場を残しておく。こうした小さな工夫が、相手の心に余白を生み、その積み重ねが、関係をよりよい方向へ育てていきます。
ある夫婦は、食卓の真正面で話すとぶつかりやすかったため、リビング・ダイニングで過ごす、それぞれの定位置を、お互いに視線の逃げ場ができる45度の位置に変えました。しばらくすると、「いつの間にか冷静に穏やかに話ができるようになりました」とおっしゃっていました。
(参考文献)

・Awad, S., Debatin, T., & Ziegler, A. (2021). Embodiment: I sat, I felt, I performed – Posture effects on mood and cognitive performance. Acta Psychologica, 218, 103353.

・Sander, E., Caza, A., & Jordan, P. J. (2021). Psychological safety at work: A review and research agenda. Small Group Research, 52(4), 466–499.

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高原 美由紀(たかはら・みゆき)

一級建築士、空間デザイン心理学協会代表理事

早稲田大学大学院人間科学研究科修了。職業能力開発総合大学校講師。空間デザイン歴30年超、累計1万件以上の間取り指導実績を持つ。
心理学・脳科学・行動科学・生態学など、多分野の科学的知見を空間デザインに統合し、「空間デザイン心理(r)」を体系化。深層のニーズを引き出し可視化する「LDNメソッド(r)」を開発。著書に『ちょっと変えれば人生が変わる!部屋づくりの法則』(青春出版社)がある。

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(一級建築士、空間デザイン心理学協会代表理事 高原 美由紀)
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