■トランプをノーベル平和賞に推薦した男
世界は驚きの連続に包まれている。その震源地は、言うまでもなくアメリカのドナルド・トランプ大統領だ。ベネズエラ・マドゥロ大統領の拘束には驚いたが、さらにその後、ベネズエラの政治活動家で2025年にノーベル平和賞を受賞した政治家・マチャドが、トランプ大統領へ自身の平和賞メダルをプレゼントするに至った。トランプの歓心を買い、ベネズエラでの自身の立場を確立するため、トランプを後ろ盾としようという狙いだろう。
「いくらなんでも」「そこまでやるか」との感想を抱いた人も少なくないと思うが、これはともすれば安倍晋三元首相による「対トランプ外交」のハウツーが世界的に浸透した結果と言えるかもしれない。
トランプは第一次政権時の2019年、「安倍が私をノーベル平和賞に推薦してくれた!」と明かした。当時安倍自身は推薦した事実を公言しなかったが、実際にトランプが2018年に安倍に懇願し、安倍はそれに応じて推薦を行ったことが明らかになっている。
■安倍外交が負の遺産に
当時としてはこれだけでもかなりの驚きだったが、第二次政権となった2025年にはパキスタンやイスラエルがトランプをノーベル平和賞に推薦。トランプ自身もノルウェーに電話をかけて「平和賞をくれ」と要請したものの受賞を逃すと、その後ノルウェーのストーレ首相に抗議ともとれる怒りのメッセージを送っている。文面には〈もはや純粋に平和だけを考える義務は感じない〉とあったという。
トランプがノーベル平和賞にここまでの執着を見せている以上、マチャドが「メダルを献上するくらいで歓心を買えるなら安いものだ」と考えても不思議はない。
マチャドの振る舞い、あるいはパキスタンやイスラエルの振る舞いは安倍の対トランプ外交の系譜に連なるもので、実際にトランプの覚えはめでたくなってはいるだろう。トランプとうまくやる方法は安倍に学べと言わんばかりだが、単に外形的に手法を真似て悪びれもしないやり方が横行するとなれば、それは「安倍の対トランプ外交の負の遺産化」を招きかねない。
■「国民のため、やむにやまれず」
2016年の大統領選でトランプが勝者となり、第一次政権がスタートする頃、世界はトランプとの接し方に悩んでいた。暴言ともとられかねないトランプの物言いは物議をかもしており、オーストラリアのターンブル首相などは会談前にトランプの移民政策に対する姿勢に苦言を呈したほどだ。しかしそのために米豪会談は後回しにされたうえ、電話会談の後にはトランプが「最悪の会談」と評するに至った。豪側が“政治的に正しい”発言をしたばっかりに、米豪関係は悪化したと言わざるを得ない。
一方の安倍は就任式を待たずしてトランプに会いに行き、懐に飛び込んだことで「黄金時代」とも呼ばれる日米関係(安倍・トランプ関係)を築いた。『安倍晋三 ドナルド・トランプ交友録』(星海社新書)にも書いたが、安倍はトランプとの関係について各界の人々から冷ややかな視線を向けられていた。
投資家のジョージ・ソロスからは「あんまり仲良くすると、あなたのためにならない」と忠告されたというし、G7の某首脳からも「トランプとあなたはずいぶん仲がいいんですね」と皮肉めいた口ぶりで声を掛けられたことがあるという。安倍はその都度言い返したというが、それは日米関係を思えば背に腹は代えられなかったためだ。そこには安全保障環境の悪化を背景とした「国民のため、やむにやまれず」の思いが滲む。
■「あいつ、どう思う?」は信頼の証
例にもれず高市総理も、トランプ来日時にはこれでもかという歓待メニューを用意し、華々しい首脳外交を演出していた。明らかにこれは安倍の置き土産に乗っかり、その手法に倣ったものである。
だが、「安倍流対トランプ外交」はそのままトレースすればいいというものではない。というのも第一次政権時と第二次政権時では、トランプの置かれた状況も本人の意識も異なるからだ。
第一次政権時のトランプは、国際社会がトランプのそれまでの発言に眉を顰め、政治力も未知数、いきなり接近してうっかり機嫌を損ねれば藪蛇になりかねないし、蜜月関係をアピールすること自体が自身の政治的評価のマイナスにつながる可能性さえあった。実際、安倍・トランプ関係に対する評価はプラスのものだけではなかった。
また、第一次政権時には「大人たち」と呼ばれるような、トランプを制御する側に回る閣僚や補佐官が存在した。これによりトランプの暴走は防げるが、本人としては心からは信頼できない相手が政権内にいたことになる。
これらの要素が、安倍にとっては対トランプのアドバンテージになっていた。安倍はトランプからトランプ政権内のスタッフについて「あいつ、どう思う?」と聞かれたことさえあったという。
■実際は耐え忍ぶ4年間
何よりも安倍はトランプよりも国家の宰相として先輩であり、トランプも外交舞台での振る舞い方や、各国の宰相についての情報を、安倍を通じて入手する必要があり、故にあれこれと安倍を頼る関係性が築かれたのである。
それでもいつの間にか決まっていた米朝会談や、トランプがぶち切れて打ち切りを口にした日米貿易協定交渉など、安倍の思い通りにはいかない事態もあった。
一方、第二次政権時のトランプは4年間の大統領経験に加え、選挙で負けて一度は野に下りながら、再び大統領の座に座ったという強みがある。無手勝流に見えるトランプだが、第一次政権時とは違って4年間、政策や戦略を練りに練り、側近も自身の信奉者で固めている。少なくとも、他国のリーダーを頼るような状況にはない。ただでさえ厄介な存在だったトランプは、第二次政権ではさらに厄介さを増しているのである。
■高市首相がやるべきこと
高市は外交も内政も「安倍路線の継承」を打ち出しているが、こと対トランプ外交について言えば、こうした変化を踏まえたうえでの対応の変更を余儀なくされる。何より、トランプにとって高市は自分よりも後からリーダーとなった、いわば後輩である。であるならば、高市はかつてトランプが安倍にしたように、自分からトランプに電話して頼る姿勢を明確に示し、「国際社会での振る舞い方」や「他国のリーダーの人柄」などについて教えを請うぐらいのことをしなければならないのかもしれない。
第一次・第二次政権のトランプを比較して最も異なるのは、「建前が一切通じなくなった」点だろう。その片鱗は第一次政権時にも見られたが、トランプは国際法や法の支配、国際秩序の維持といった建前にほとんど興味がないどころか、今やあからさまに嫌悪している。
安倍は「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)構想」にトランプのアメリカを巻き込むことに成功し、国際秩序の枠組みからアメリカが外れないように立ち回った。
猛獣使いは、単に猛獣のご機嫌を取っていさえすればいいというものではなく、その先に「猛獣を使って何をするか」のビジョンがなければならないということだろう。
それなしにご機嫌取りに終始すれば、もてなされることに慣れた猛獣はやがて自らの身をも食い破ることになりかねない。
■アメリカの衰亡を速める可能性
ところが第二次政権では、トランプはドンロー主義と呼ばれる姿勢が顕著になり、こうした「建前」を露骨に否定。実に66の国際機関からの脱退を表明した。もちろんこれらは「建前を守っていては中国の台頭に対抗できない」との危機感によるものなのだろうが、それが各国を中国頼みに傾かせ、むしろアメリカの衰亡を速める可能性さえある。
「こんな時に安倍がいたら……」と、誰よりも高市がそう思っているかもしれない。高市が安倍の対トランプ外交の蓄積を「負の遺産化」しないためには、「何のためにトランプのご機嫌を取らざるを得ないのか」を直視し、トランプ自身の変化、国際社会の変化を見極め、差分を調整する必要があるだろう。
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梶原 麻衣子(かじわら・まいこ)
ライター・編集者
1980年埼玉県生まれ、中央大学卒業。IT企業勤務の後、月刊『WiLL』、月刊『Hanada』編集部を経て現在はフリー。雑誌やウェブサイトへの寄稿のほか、書籍編集などを手掛ける。
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(ライター・編集者 梶原 麻衣子)

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