■衆院選が皇室問題に与える影響
1月22日、第51回衆議院議員選挙が告示された。投票日は2月8日で、選挙戦はわずか12日間である。高市早苗首相が「内閣支持率の高いうちに」と仕掛けた選挙になるが、ひどくあわただしいものであることは間違いない。
したがって、さまざまな政策について十分に議論が尽くされない可能性が高いものの、皇室の問題に対して、今回の選挙結果が大きく影響することも考えられる。というのも、高市首相は保守派で男系での皇位継承にこだわってきたのに対して、中道改革連合を率いることになった野田佳彦元首相は、より柔軟な考え方をしているからである。その点で、選挙の結果は大いに注目される。
そんな中、新年の一般参賀で裸になり公然わいせつ罪で逮捕された男が不起訴になった。ただ今後、最前列の参賀者の前にある柵については工夫が施されるという。
天皇や皇族は、戦後の「開かれた皇室」というスローガンがあり、国民と接する機会も少なくない。しかも、「新年一般参賀」のように、多くの国民と一度に接することもある。一般参賀では、過去にパチンコ玉が発射される事件があったし、上皇夫妻がまだ皇太子の時代、沖縄で火炎瓶が投げつけられる事件もあった。
天皇や皇族の活動は、その点で危険極まりないものとも言えるのだが、保守派は、そうしたことについては関心を向けることがなく、対策を強化すべきだという声を上げることもない。
■「問題は解決」とタカをくくる保守派の主張
高市首相も、皇位継承の安定化や皇族数の確保については力を入れると述べてはいるものの、一般参賀での事件を踏まえて、皇室の安全確保を一層充実させると主張するようになったわけではない。
保守派の「男系男子継承」の主張が多くの国民から支持されず、むしろ「愛子天皇」待望論が高まりを見せるのも、そうしたことが関係している。男系男子の悠仁親王が将来において皇位を継承するのだから、それですべての問題は解決すると保守層は高を括(くく)っている。
現在の体制では、今上天皇が何らかの形でその地位を退いた後、皇嗣(こうし)である秋篠宮が次に即位し、その後は悠仁親王が天皇になるものと予想される。
ただ、悠仁親王の後がどうなるか、そこは未知数である。結婚して後継者を得ることが期待されてはいるが、そこには難しい問題が多く控えている。現在の象徴天皇制は、決して磐石(ばんじゃく)とは言えないのだ。
その悠仁親王も、2019年には事件に見舞われている。当時はお茶の水女子大学附属中学校に通っていたが、その机に果物ナイフが2本置かれているのが発見された。ナイフは棒にテープで括られ、悠仁親王の机と隣の机にまたがるように置かれていた。
この事件では、56歳の犯人が捕まり、執行猶予の付いた有罪判決を受けている。
その点で、天皇や皇族の警備にあたる皇宮警察の役割は大きいのだが、ある重要な変化がそこに起きている。それについては、まだ注目されていない。
■天皇一家が出席する皇宮警察の視閲式
1月23日には、皇宮警察の年頭視閲(しえつ)式が行われ、今上天皇夫妻は愛子内親王とともに出席した。今回の年頭視閲式は、皇宮警察の創立140年を祝するもので、その点から報道もされているが、実は今上天皇が出席するようになったのは、ごく最近のことなのである。
2023年に、今上天皇夫妻は、歴代の天皇皇后として初めて視閲式に出席した。25年には愛子内親王も初めて同席し、一家での出席は今年が2回目となった。
皇宮警察が皇室の警備を一手に引き受けてきたことからすれば、令和になって出席するようになったというのは意外に思える。だが、23年以前は、視閲式は皇宮警察の組織内部の点検ということに主眼が置かれていて、皇族が出席することはなかったのだ。
一度だけ、視閲式に皇族が出席したことがあった。それは、皇宮警察が100周年を迎えたときのことで、当時は皇太子だった今上天皇が出席している。1986年、昭和61年のことだった。
■令和流の試みを生んだ昭和と平成の源流
推測するに、今上天皇はそのときのことをしっかりと記憶に留めていたのだろう。そこで、自分たちを日頃守ってくれている皇宮警察の人々を直接ねぎらいたいと考えるようになり、夫婦で出席を強く希望したのだ。その結果、今や出席が当たり前になり、視閲式の性格も変わった。皇宮警察の警察官としては、大いなる励みになっているはずだ。
上皇夫妻が、平成の時代に築き上げた象徴天皇としてのあり方は、「平成流」と呼ばれ、国民から強く支持されてきた。それは、被災地などを訪れたとき、膝をついて同じ目線で被災者などと話を交わすことや、慰霊の旅を公務の中核に据えることだった。
上皇が退位し、令和の時代が訪れたときには、それを継ぐ「令和流」がいかなるものになるかが注目された。けれども、すぐにコロナ禍に見舞われ、令和流は姿を現すことはなかった。だが、視閲式への出席は、これまでにないことだけに、令和流の試みの一つと言えるのではないだろうか。
■創立140周年となる皇宮警察の存在
皇宮警察は、1886(明治19)年に、当時の宮内省の主殿(とのも)寮に皇宮警察署が置かれたことに始まる。
だからこそ、2026年は創立140周年に当たるわけである。
その役割は、天皇や皇族の護衛、皇居や赤坂御用地、あるいは御用邸などの警備にあたることである。その職員である皇宮護衛官は国家公務員で、一般の警察官とは別に、皇宮護衛官採用試験に合格しなければならない。定員は現在897人で、試験の倍率は一般の警察官より高い。天皇や皇族の護衛や、各国の元首などを迎える儀衛の際には特別な制服を着用する。
こうした皇宮護衛官のうち、天皇や皇族のボディーガードになるのが「側衛(そくえい)官」である。側衛官は、絶えず護衛の任務についているので、長期の留学経験を持たない愛子内親王の場合には、側衛官のいない外出などほとんど経験していないはずだ。逆に、それだけ側衛官は皇族にとって身近な存在になる。
■「側衛さん」と皇族の距離感
ベストセラーになった三笠宮家の彬子女王の『赤と青のガウン オックスフォード留学記』(PHP文庫)については、拙著『日本人にとって皇室とは何か』(プレジデント社)でも紹介したが、その読みどころの一つは、彬子女王が「側衛さん」と呼ぶ人々との関係の持ち方だった。方向音痴の側衛官で大丈夫なのかと心配にもなったが、その関係は、護衛などつかない一般の国民には理解が難しく、微妙なものがある。
彬子女王には、オックスフォードに留学している間、側衛官はつかなかった。そこで、初めてイギリスの街に一人で外出することになり、それがひどく新鮮な体験だったようだが、愛子内親王はまだそれを経験していないことになる。
皇宮護衛官も拳銃を携行している。したがって、そうした人間が海外で皇族の警護にあたることはできない。海外では、犯人を逮捕する警察権を行使することもできない。海外の地元の警察がそれとなく協力はするものの、側衛官がはりついているのとはまったく異なる状況に置かれる。
■今上天皇が抱く護衛への想い
今上天皇のやはりオックスフォード留学記に『テムズとともに 英国の二年間』(紀伊国屋書店)という著作があるが、そこにも、側衛官のいない生活が描かれており、寮の部屋で洗濯をして、洗剤を入れすぎ、部屋を泡の海にしてしまった失敗談がつづられている。国内ではあり得ないことである。
今上天皇が皇宮警察の視閲式へ出席を強く希望するようになったのも、イギリスで側衛官なしの生活を経験し、そこから、護衛の重要性を再認識したことが影響しているのではないだろうか。
ただ、皇宮護衛官が護衛しているのは天皇一家だけではない。他の皇族も、その対象になっている。ということは、天皇一家と同じように視閲式への出席を希望しているのではないだろうか。とくに、ナイフ事件のあった悠仁親王が属する秋篠宮家ではそうだろう。
一般の国民の感覚では、今上天皇のひと声で、皇族がこぞって視閲式に出席することもできそうに思える。
■皇室問題に欠けている重要な視点
私たちは、今上天皇夫妻が、皇宮警察の視閲式への出席を強く願ったことを、メッセージとして受けとる必要がある。
天皇が「自分たちだけではなく、皇族全体が視閲式に参加すべき」だとは口に出すことはできないわけだが、そうした考えが出席を続けている事実の背景にはきっとあるはずだ。愛子内親王を同行するようになったのも、そうした意図に基づくものと考えられる。
男系での皇位継承にこだわる保守派は、その制度ばかりを問題にし、人間としての天皇や皇族のことをあまり考えていないように見える。それは、自分たちのための政治的な主張であり、皇室のことを本当に考えてのことではないように思えるのだ。果たしてそこに問題はないのだろうか。
「女性・女系天皇」を実現するには、法改正も安全面の整備も必要で、政治家にとっては頭が痛く、不都合なことなのだろう。だが、皇室の存続を考える政治家であれば、制度としてではなく、人間としての皇室について配慮を示すべきであろう。これから、首相の座に長く就くことのできる政治家になるには、その点が鍵になるのではないだろうか。
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島田 裕巳(しまだ・ひろみ)
宗教学者、作家
放送教育開発センター助教授、日本女子大学教授、東京大学先端科学技術研究センター特任研究員、同客員研究員を歴任。『葬式は、要らない』(幻冬舎新書)、『教養としての世界宗教史』(宝島社)、『宗教別おもてなしマニュアル』(中公新書ラクレ)、『新宗教 戦後政争史』(朝日新書)など著書多数。
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(宗教学者、作家 島田 裕巳)

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