クラシエの知育菓子「ねるねるねるね」が発売40周年を迎える。ロングセラーとなった背景には、売り上げ半減からのV字回復という歴史があった。
どうやって売り上げを回復させ、長寿商品に育ててきたのか。クラシエの担当者に話を聞いた――。
■最も長く販売されているのは「ぶどう味」
つくる・遊ぶ・食べるの3要素を同時に楽しめる「知育菓子」。菓子のジャンルのひとつとして広く浸透している言葉だが、実は日用品や医薬品、食品を手がける大手メーカー「クラシエ」の登録商標だ。
同社は作って食べる「手作りお菓子」市場のパイオニア的存在だ。今なお「市場で約7割のシェアをキープする」という不動の王者でもある。この王者の座への出発点となったのが、1986年に発売された「ねるねるねるね」だ。
専用の粉に水を入れて練ると色が変わってふくらみ、ふわふわした食感のお菓子が出来上がる――。「ねるねるねるね」はその不思議さと楽しさで当時の子どもたちの心をつかみ、魔女が登場する謎めいたCMも手伝って発売と同時に大ヒットした。読者の中には、子どものころ友だちと競うようにして練りまくった人もいるのではないだろうか。
あれから40年がたった今も、コンビニやスーパーの菓子コーナーに行けばそこには「ねるねるねるね」が並んでいる。最も息が長いのは99年発売の「ぶどう味」で、他にもメロン味やソーダ味など累計50種類のフレーバーが発売されてきた。

その累計販売数は実に9億食以上。ここ10年ほどの売り上げも堅調で、特にコロナ禍の時期にはイエナカ需要によって販売数量が伸びたという。
■子どもの「泥んこ遊び」がヒント
業界きってのロングセラー商品で業績も安定。安心感もさぞ大きいだろうと思いきや、クラシエ フーズカンパニー マーケティング室菓子部係長の木下優さんは「だからこそ危機感を持って、しっかり目を配るようにしている」と話す。
「ロングセラー商品は市場を牽引する立場にありますから、その責任をちゃんと果たしていかなくては。実際、『ねるねるねるね』もずっと順調に来たわけではなく、売り上げが半減した時期もありました。その反省も踏まえて、常に時代に合わせてアップデートしていくよう心がけています」
ここで「ねるねるねるね」の歩みを振り返ってみよう。前身は、1979年に発売された「プカポン」という子ども向けの粉末食品。当時展開していた粉末ジュースの人気にかげりが出始めた時期で、粉末ジュースの技術と菓子の開発技術を組み合わせて、新しい粉末商品がつくれないか、というアイディアから開発された。粉と水をコップに入れて混ぜると、沈んでいたラムネの玉が浮いたり沈んだりするもので、これがのちの知育菓子の走りとなった。
その後、もっと楽しく遊べるように、トレーや器具を使用した粉末商品の開発をスタート。そこで当時の開発者が注目したのが「泥んこ遊び」だった。
子どもたちが砂場で楽しそうに泥を練っている姿を見て、混ぜたり練ったりといった動作をお菓子に取り入れたら喜んでもらえるのではと考えたのだ。
■ピーク時の半分まで売り上げが低下
これがヒントになって本格的な開発がスタートし、やがて初代の「ねるねるねるね メロンの味」が誕生。価格は100円だった。
当時の駄菓子としては高額だったが、練ると色が変わってふくらむ独創的な仕掛けが受けて初年度から大ブレイク。この年にピークの売り上げを記録したという。
しかし、ヒット商品の宿命か、売り上げは徐々に下降。90年代までは発売当初に近い数字を維持していたものの、2000年代に入ると下降が顕著になり、10年にはとうとうピークの半分にまで落ち込んでしまった。
ちなみに、クラシエでは05年に粉と水で本物そっくりなお菓子をつくれる「ポッピンクッキン」を発売し、07年には「知育菓子」を商標登録して同ジャンルの商品数を増やし始めている。
「売り上げが低迷したいちばんの要因は、発売から20年以上が経って子どもたちの味覚に合わなくなっていたこと。色の変化やふくらみにはどうしても酸味が必要なのですが、それがいつの間にか酸っぱすぎると感じられるようになっていたんです。加えて、健康意識の高まりから、色が変化する点が保護者の方々に『体に悪そう』とネガティブなイメージで捉えられるようになってきていました」
■「体に悪そう」なイメージを変える
売り上げ回復には、味の改良とネガティブイメージの払拭という2つの課題を克服する必要があった。前者については、試行錯誤の末に酸味を抑えることに成功。
一方、後者への対応は簡単ではなかった。
そもそも体に悪いというのは誤解で、実際は色が変わるのは自然由来の色素と酸味料の、ふくらむのは重曹とクエン酸の化学反応によるものだ。いずれも健康に害を与えるものではなかったが、当時、クラシエではこの仕組みを一切公開していなかった。なぜ変化するのかわからない不思議さこそが、ヒットの要因でもあったからだ。
とはいえ、その不思議さも年月が経つにつれて新鮮味を失いつつあったという。菓子に限らず、見慣れた定番商品より目新しさのある商品に惹かれる人は少なくない。ロングセラー商品には、認知度が高いがゆえに話題性が薄いという弱点もある。
守り続けてきた不思議路線が時代に合わなくなり、イメージの低下や売り上げの停滞につながっている。そう判断した当時の担当者たちが、議論の末に出した答えは「種明かしをする」だった。
■“不思議なお菓子”から“楽しい知育菓子”へ
“謎めいた不思議なお菓子”から、保護者が安心して購入できる“楽しい知育菓子”へと転換を図ったのだ。パッケージには、色が変わってふくらむのがどんな成分の反応によるものかを記載し、練った結果出来上がる完成品も、それまでのイメージイラストではなく写真で明示した。
だが、こうした転換はリスクと隣り合わせでもある。
種明かしをすれば、商品の魅力である不思議さが半減するだけでなく、類似品が登場する可能性も出てくる。
「それでも、仕組みを開示するリスクより、ネガティブイメージを放置するリスクのほうが大きいと判断したのだと思います」
11年、クラシエは味とパッケージデザインを改良した新たな「ねるねるねるね」を発売。CMには発売当初に話題をさらった魔女を再登場させ、当時子どもだった保護者世代にもアピールした。
こうした施策が見事に当たり、売り上げはV字回復を遂げる。数年後には年間販売数量がピーク時の80%にまで回復し、知育菓子市場を牽引する存在に返り咲いた。
このころ、木下さんはまだ入社していなかったそうだが、当時の経緯は大切な資産として今も社内に受け継がれているという。
「仕組みの公開は、結果的に『ねるねるねるね』に新たな価値を付加することにもつながりました。楽しみながら化学反応の基礎に触れ、つくることで創造性や個性を養うことができる。そんな知育菓子としての魅力を、周知する機会になりました」
■大人ターゲット、地域限定の商品も投入
22年からは、もう一段の成長を目指して新たな挑戦も開始した。それまで子ども向けや懐かし需要に特化していたところに、ユーザー層の拡大を狙って「大人のねるねるねるね」を投入したのだ。
最初に出したのは、ソムリエ推薦ワインをもとにアロマ成分を配合した「赤白2種の本格ぶどう味」。これがSNSでバズって20~30代のファン層を獲得し、以降毎年のように新しいフレーバーを出してきた。
自分のために購入する大人層は着実に増えているといい、現在は第4弾の「レアチーズケーキ味」が発売中だ。
さらに、同年には地域限定シリーズも展開を開始。沖縄限定のパイン味に続いて北海道限定のミラクルメロン味も発売し、その地域だけで手に入るご当地フレーバー商品として話題になった。
「新しい展開に取り組み始めたのは、少子化に対応するためでもあります。イエナカ需要での売り上げの伸びは、お子様層の需要に支えられていました。その経緯から、今後は大人層や菓子以外のシーンも取り込んでいかないと成長は難しいだろうと考えました」
■「おくすりパクッとねるねる」の誕生
23年には初めて菓子以外の分野にも進出した。それが、服薬補助食品「おくすりパクッとねるねる」だ。薬を嫌がる子どもに楽しく前向きに服薬してもらおうと、「ねるねるねるね」の技術を生かして開発されたという。
実はこの商品は、多角事業を展開するクラシエだからこそ誕生したものだ。きっかけは、薬品事業の営業担当者が得意先の病院で「ねるねるねるねを使って、子どもの服薬をサポートする商品ができないか」と言われたこと。この声が、薬品事業から食品事業へと届けられ、いくつかの部門をたどって木下さんたちの部署につながった。
「知育菓子はスーパーマーケットが主戦場なので、私たちは病院や薬局の方々とお会いする機会がないんです。
ですから、そうした方々の生の声が届いたのは本当に大きかったですね。開発に当たっては私たちも病院に伺って、直接ご意見をお聞きしながら取り組みました」
■事業の壁を超えた協働
調剤薬局やドラッグストアといった販路を開拓する際には、薬品事業やトイレタリー・コスメティックス事業の担当者が持つ知見と人脈が大いに助けになった。こうした事業の壁を超えた協働がなければ、初の別市場への進出もなかっただろう。なお、発売した年、この商品は「日経優秀製品・サービス賞」の最優秀賞を受賞している。
24年には、「ねるねるねるね」の味と食感を再現したラムネ菓子も発売。そして26年は、40周年を記念して、歴代パッケージデザインのシール付き商品やSNSで募集した新フレーバー、アイスバーなどを続々と投入する。
売り上げが半減した過去の反省を踏まえて、近年は子どもを対象に定期的な嗜好調査も行っている。課題が見つかれば、味やパッケージの改良、プロモーションの変更といった対策をとってひとつひとつ潰してきた。すでに定番化した商品でも、定期的に細かなアップデートを繰り返しているという。
■生産能力を4割引き上げる新工場が稼働
木下さんは、ロングセラー商品の強みについて「知名度や長年楽しんでくださっているたくさんのお客様など、数多くの資産を持っていること」と語る。
「この資産を守り続けていくには、『今のままでいい』ではなく、『もっと拡大するために何ができるか』を常に考えていかないといけない。資産があるぶん、ここから新たに広げていける可能性をいちばん秘めているのもまたロングセラー商品だと思っています」
今年4月には、京都府に新設した知育菓子工場が稼働する予定だ。約110億円を投じて、主な2工場の生産拠点を1カ所に集約した。これによって、「ねるねるねるね」をはじめとする知育菓子の生産能力は4割増となる見込みだ。増産体制を整えて、海外展開も現状の14の国と地域からさらに広げていく。
誕生25年目に生き残りをかけて種明かしに踏み切り、36年目からは新たな層を開拓、今も未来に向けて成長戦略を練り続ける「ねるねるねるね」。ロングセラーは時代に合わせて変わり続けなければ生まれない――。40年目にしてなお続く試行錯誤が、そのことを明確に物語っている。

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辻村 洋子(つじむら・ようこ)

フリーランスライター

岡山大学法学部卒業。証券システム会社のプログラマーを経てライターにジョブチェンジ。複数の制作会社に計20年勤めたのちフリーランスに。各界のビジネスマンやビジネスウーマン、専門家のインタビュー記事を多数担当。趣味は音楽制作、レコード収集。

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(フリーランスライター 辻村 洋子)
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