■台湾有事に対する中国共産党の意外な本音
【小泉】いろいろな取材で聞かれて胸焼けしているかもしれませんが(笑)、台湾有事はあると思いますか?
【熊倉】それは常にあると思います。明日起きるかもしれません。ただ中国共産党からすると、台湾の人々が「自発的」に帰順してほしいんですよね。
【津上】中国の伝統の思想から言うと、「強大な軍事力を見せつけて威嚇して、最後はピースフルに、しかし強制的に統合する」という孫子の兵法です。「本当に殺し合うなんて下策も下策」というのが中国人の価値観でしょうね。だから「トランプはひょっとすると、『新しい対中三原則』みたいなことを言うかもしれない」というような期待感があるかもしれません。
「アメリカが兵隊を送ることはないと一言言ってくれれば、台湾を降参に追い込んでいける」というのが基本シナリオとかね。日清戦争のとき、「定遠」「鎮遠」という軍艦がありましたが、軍備を増強するのは周辺を威嚇するためで、「それを本当に使うのはバカのすることだ」みたいな価値観は基本的に変わっていないんですよ(笑)。
■ウクライナ侵攻後に起きた変化
【小泉】そこは極めて実利的だし、軍事力というものを政治的に捉えている感じがします。軍事力というのはまずもって古典的な戦争、つまり高烈度の暴力闘争の道具であるわけですが、それに限られないんですよね。
もっと言えば、政治目的を達成するために行われる国家間闘争が戦争なわけです。とすると、別に軍事力にこだわる必要はなくて、「非暴力的手段が主で軍事力が従」という闘争のあり方だって考えられる。
政治的圧力や経済封鎖の効果を高めるために、ごく限定的な空爆を行うとか、軍隊を集結させて脅しをかけるとかですね。こっちのほうが中国としてはメインのオプションなんじゃないかと思うんですが、台湾や日米同盟側としちゃそうならない可能性を考慮しないといけないわけですよ。
ものすごい勢いで質的向上を遂げる人民解放軍と戦える能力を持たないと抑止の信憑性が保てない。そうすると中国もさらなる軍事力の近代化を進めるでしょうから……いや、アジア人同士で何やってんだろうなとちょっと虚しくなってきますね。不毛です。
【熊倉】本当に不毛ですね。ロシアのウクライナ侵攻後、私は金門島に行きましたけれど、前線の緊張感のようなものは全くなく、のどかなものでした。今この状況で、中国が攻めてくるわけがないとわかっているんですよね。ロシアのウクライナ侵攻後、中国はむしろやりづらくなった、というのが、中華圏、中国語圏に漂う感覚だと思います。
■100年、200年後も戦争をしているのか
【小泉】22世紀くらいに国民国家が溶解するなら、台湾がどこの国かはたいした問題ではなくなっているのかもしれません。
【津上】僕は21世紀から22世紀は、ただではすまないと思います。「大転換」どころか、「人類にはダウンサイズしていただく」ことになったりして(笑)。
【小泉】22世紀になる前に僕は死ぬでしょうけれど、僕の娘は2010年生まれですから、標準的に長生きをすれば22世紀を見ることになると思うんですよね。さらに今後は人類が長寿命化すると予想されているので、22世紀半ばくらいまで生きるかもしれない。
僕の孫となると23世紀まで生きる可能性さえあります。こういう長い人生を人類はどうやって過ごすんでしょうか。そのときになってもまだ戦争みたいな愚かなことをしているんですかね。あるいは津上さんがおっしゃるようにAIに排除されていくのか。
■ロボットと戦う時代が来るかもしれない
【津上】アメリカのような国は、いよいよホワイトカラーの「AI失業」が現実になりつつある。ここにヒューマノイドが出てくると、ブルーカラーの仕事もなくなっていく。「この先人間がいらなくなっていくなら、日本の少子高齢化は期せずして計画減産をしていたことになる」と僕が冗談を言ったら、ランド研究所の人たちは真面目な顔で言い返しましたよ。
「笑い話じゃない。アメリカにはタクシーやトラックを運転する職業ドライバーが400万人いる。自動運転が普及して10年後に連中の仕事がなくなったら、どうやって食わせていくんだ?」と。
【小泉】人間のすることが、だんだんなくなっていく。
【津上】未来には、人間のパイロットも将校も存在しないかもしれません。今現在、少子高齢化の中国では、「大事なひとりっ子を軍隊に入れて台湾で戦死したら大変だ!」となるけれど、「いやいや、台湾に送るのはヒューマノイドです」という時代には、人口減少による制約がなくなります。
【熊倉】本当にそうですね。そんな敵と戦わないといけないなんて、台湾からしたら恐ろしい話です。
【小泉】あと20年したらロボット化人民解放軍ができるでしょうね。
【津上】もっと早いかもしれない。世界では「自律型のAI兵器はご法度だ」となっているけれど、中国はきっとやっていると思います(笑)。
■なぜ人は戦争をするのか
【小泉】置き換えるのが一番難しいのは歩兵で、人民解放軍でも2、30年かかると思いますが、軍隊がやっている大部分は間違いなく自動化・無人化されていきます。
【小泉】『中国軍人が観る「人に優しい」新たな戦争』(五月書房新社)という本があります。著者の●宏亮(ホウコウリョウ)は人民解放軍の軍人で、「これまでは、国家が人命の損失を恐れたために大国間戦争が起きなかった。
※●宏亮の「ホウ」はまだれに龍。
今後ロボットが軍隊になっていけば、大国間戦争のリスクは下がり、大国が簡単に人の死なない戦争をする時代になる」と書いています。中国っぽい壮大な話として読みましたが、「だったらサッカーでもいいじゃん。(台湾総統の)頼清徳と習近平が腕相撲してもいいんじゃない?」と思いましたね。
【津上】バーチャル戦争で決着がついて、「負けました!」とかチャットして降伏宣言(笑)。
【小泉】「じゃあ、なぜ人類は戦争するのか?」と言えば、不可逆的な損害を与えることが一種の政治権力として働いている部分がある。住んでいる街が焼け落ちるとか、手足をなくすとか、死とか、相手にとって一番嫌で回復不能な究極の損害を与えて「言うことを聞かせよう」とするところに、軍事力の大きな“効用”があったと思うんです。その点において、ロボット化軍隊同士の戦闘というのは、生身の人間がやる戦争と同じ“効用”を持つのか?
■人間が死ぬことに戦争の効用がある
【小泉】何千億円もの損失はあっても、「ロボット化人民解放軍とロボット化自衛隊が東シナ海で戦って、ロボット化人民解放軍が負けました。でも人間は一人も死にませんでした」となったときに、「じゃあ尖閣諸島は日本のものでいいんですね?」と言って中国人民が納得するのか? もしもそれで納得ができるならeスポーツでもいいし、腕相撲でも将棋でもいい。
しかし残念ながら、人間が死なないと人間は納得しない。人間が死ぬという可能性に戦争の本質的な……価値という言い方はしたくないので……本質的な“効用”があるので、人間が死ぬ戦争はやめられないんじゃないかという気もします。
今日は中国のかなりディープなお話を伺いました。中国という国はどうも極端に語られがちなところがあるように思うんですが、やはり彼らなりに悩んだり苦しんだりしているし、しかし我々が思ってもみないような強みを持った国でもある、ということがよくわかりました。どうもありがとうございました。
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小泉 悠(こいずみ・ゆう)
東京大学先端科学技術研究センター准教授
1982年、千葉県生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科修了。民間企業勤務、外務省専門分析員、未来工学研究所特別研究員などを経て、現職。 専門はロシアの軍事・安全保障。著書に『「帝国」ロシアの地政学』(東京堂出版、サントリー学芸賞)、『現代ロシアの軍事戦略』『ウクライナ戦争』(ともにちくま新書)、『ロシア点描』(PHP研究所)、『オホーツク核要塞』(朝日新書)、『情報分析力』(祥伝社)など。
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津上 俊哉(つがみ・としや)
日本国際問題研究所客員研究員、現代中国研究家
1957年生まれ。1980年、東京大学法学部卒業、通商産業省入省。
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熊倉 潤(くまくら・じゅん)
法政大学法学部 国際政治学科 教授
1986年、茨城県生まれ。2009年、東京大学文学部・歴史文化学科(東洋史)卒業。2011年、東京大学大学院法学政治学研究科(旧ソ連政治史)修士課程修了。同研究科(国際政治)博士課程在学中の2012年から2016年にかけて、イェール大学、ロシア人文大学、北京大学に約1年ずつ留学。2016年、同博士課程修了。日本学術振興会海外特別研究員・政治大学(台湾)客座助研究員、アジア経済研究所研究員を経て、2021年から現職。著書に『民族自決と民族団結 ソ連と中国の民族エリート』(東京大学出版会、2020年)、『新疆ウイグル自治区 中国共産党支配の70年』(中公新書)がある。
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(東京大学先端科学技術研究センター准教授 小泉 悠、日本国際問題研究所客員研究員、現代中国研究家 津上 俊哉、法政大学法学部 国際政治学科 教授 熊倉 潤)

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