第2次トランプ政権になってアメリカ人の生活は良くなったのか。朝日新聞GLOBE編集部記者の金成隆一さんは「都市部と地方の格差は日本の比にならないくらい広がっている」という。
世界の大転換』(SB新書)より、東京大学准教授の小泉悠さんとの対談を紹介する――。(第4回)
■中国製品なしには生活できないアメリカの地方
【金成】第2次トランプ政権になったわけですが、「トランプによって生活がよくなるか」「将来設計ができる環境になるか」というと、怪しいとはもちろん思います。関税問題はその象徴となるかもしれません。地方で暮らすミドルクラスの家は大きく、モノがあふれています。一度手当たり次第にひっくり返して生産地を調べたことがあるのですが、中国やメキシコなどからの輸入品が圧倒的に多い。
私の知る限りでは、アメリカの地方に行くと、どの町に行っても金太郎アメみたいに似た風景のところがあり、「ダラーストア」、いわゆる100円ショップが並んでいます。そこで売っているのは中国製や南アジア製、中南米製が多く、スーパーにもメキシコなど中南米産の野菜や果物がある。要は「貿易なしでは今の暮らしを支えられない」という状況が何十年と続いてきたのに、強硬姿勢一辺倒の関税政策はあり得ない。
さすがにトランプも気づいて、最初はぶちかましたものの猶予期間をつくったり、中国と部分的に手を握ったりしていますね。でも、支持者は、アメリカの国内産業を守るためにトランプが本気で取り組んでくれている、こんな大統領は初めてだ、と喜んでいる。
2025年の夏休みもラストベルトで取材してきましたが、トランプを大統領に押し上げた白人の労働者層は、おおむね満足していました。これがどうも白人だけではなさそうだということもわかってきました。

■ヒスパニックなのにトランプを支持
【金成】2025年の2月にテキサス州のヒスパニック労働者の取材に行ってきたんですが、その地域も2024年11月の大統領選でトランプ支持に変わったんです。「あれ? これまでの教科書的な理解が崩れ始めているんじゃないか」と思いました。
これまで私はどうしても人々を属性で輪切りにして、クラスター(集団)に分け、「ヒスパニックなら、カトリックで文化保守であってもおおむね民主党支持」と理解したつもりになっていました。それが崩れたのが2024年の選挙となるのかもしれません。
【小泉】2025年の2月に石破首相が訪米したとき、トランプに「MAGA(Make America Great Again:米国を再び偉大に)というのは忘れられた人々に対する深い思いやりではないですか?」って石破さんが言ったら、トランプは非常に喜んだって話がありましたよね。
【金成】全体としての労働者階級でトランプ支持が根強い理由の一つは、正規の滞在許可を持たない移民の流入を大きく減らしたことでしょう。あとはエネルギー産業について「ドリル、ベイビー、ドリル(掘って、掘って、掘りまくれ)」と盛り上げれば、エネルギー開発が重要な産業の一つとなっているアパラチア地方の白人労働者や、テキサス州のヒスパニック労働者は賛同して旗を振りますよ。
■トランプ支持者が求める移民の「同化」
【金成】テキサス州の国境沿いの町に行けば、バイデン政権の頃に比べて、移民の流入が激減したのは間違いないそうで、その「目に見えた変化」はかつての民主党の支持層からも歓迎されていました。
【小泉】ヨーロッパでも、ドイツのメルケル政権が100万人の中東難民を受け入れると決定した際には非常に大きな反発がありました。実際に「仕事が奪われる!」みたいな危機感もあるだろうし、文化が違う、宗教が違う、治安レベルが全然違う人たちがワーッと流れ込んでくることへのストレスもあるでしょう。
【金成】トランプ支持者たちは「同化」という言葉をよく使います。「かつての移民は同化した。
英語を学び、我々の風習を取り入れて、社会になじんでいく努力をした。1世がその努力をして、2世は同化する」と。ところが「今はそうじゃなくなっている」という不満がほぼ共通項として聞こえてきます。
【小泉】トランプ支持者が言う、「同化するかつての移民」ですね。
■そもそもテキサスは誰の土地なのか
【金成】そうです。しかし今増えているのは、言語、見た目、宗教、聴く音楽まで違う移民で、それが一定数を超えたときのフラストレーションをトランプ支持者は語ります。増加するヒスパニックに対する不満をテキサス州で白人から聞いたことがあるのですが、テキサスってそもそも誰の土地かって話をするとなかなか難しくなる……。
【小泉】スペイン領になって、メキシコ領になって、アメリカ合衆国になったわけですが、そもそも先住民が暮らしていたところですからね。
【金成】そこの半数以上がヒスパニックになって、「サービス産業で働きたいならスペイン語をしゃべれないと無理」となると、移民問題は文化面だけでなく、経済面でも大きなインパクトを及ぼします。
例えば都市部のホテルに行けば、室内清掃などのサービスの大半は移民労働者が担っているし、移民らしき人が自転車でデリバリーしている姿も毎日当たり前のように見ます。
「こういう仕事を白人はやりたがらないのが現実なんだろうな」と感じます。
■都市部に振り落とされた
【金成】しかし、地元で育った人たちと移民との「仕事の棲み分け」のない業界もある。
建設労働に就いている労働者は、移民は賃金が低くても働くので「単価が落ちた」「単価が伸びなくなった」と言いますし、手取りが減り、財布(経済)に影響を及ぼしているわけです。
1965年に「改正移民法(ハート・セラー法)」が制定されて以降、出身国の割り当て制限が撤廃され、アジア系など非白人系の移民が急増し、アメリカ人の構成が明らかに変わりました。
私が駐在していた2019年ぐらいにはすでに、「高校の教室をのぞけば、半分は非白人」という時代になっていて、今後は国全体がその方向にいくわけです。「多様性は力だ」というのは本当にその通りだと思いますが、それをどう進めていくのか、やり方はいろいろあります。
都市部にいる「人生がうまくいっている人たち」が運転席でハンドルをずっと握っていると、社会変革のスピードが速すぎると感じる人が助手席や後部座席で確実に出るんでしょうね。
【小泉】金成さんのお話に繰り返し出てくる「都市部で何不自由ない人たち」というのは、一つの病理でもあります。同じ国の中にこれだけ苦しい人がいるのに、年収5000万円、価値観はリベラル、「有機食材しか食べません」という人たちもいるわけじゃないですか。「私の人生、順風満帆ですよ」みたいな。
■日本の3~4倍で進む格差
【金成】特に都市部に多いのではないかと思います。私の取材先は、まだ大学院生ですが、大都市での就職が内定していて、初年度の年俸は「23万ドル(3000万円超)」と示されたそうです。それも数年後には「倍増する」との見通しまで付記してあったそうです。
【小泉】なんだかんだ言っても日本の場合、地方と都市、インテリとそうでない人、ホワイトカラーとブルーカラーの格差がそこまでは大きくない。
これは本当に戦略的な資産だと思っています。でもアメリカの格差はもっとエグいですよね。
【金成】日本の格差の度合いを考えるとおっしゃる通りですね。大学に行くか、その土地に根ざして生きていくのか、以前は「お前の人生、どっちの道を歩むんだ?」という選択の違いにすぎなかった。
地元に残って働いていれば、ミドルクラスになって、地域社会の信用も集め、ステータスもつくれた時代が日本にはしばらくあったのではないでしょうか。日本もしんどくなってきたと思いますが、アメリカは3倍速、4倍速ぐらいで「しんどさ」が進行しているように思います。

----------

小泉 悠(こいずみ・ゆう)

東京大学先端科学技術研究センター准教授

1982年、千葉県生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科修了。民間企業勤務、外務省専門分析員、未来工学研究所特別研究員などを経て、現職。 専門はロシアの軍事・安全保障。著書に『「帝国」ロシアの地政学』(東京堂出版、サントリー学芸賞)、『現代ロシアの軍事戦略』『ウクライナ戦争』(ともにちくま新書)、『ロシア点描』(PHP研究所)、『オホーツク核要塞』(朝日新書)、『情報分析力』(祥伝社)など。


----------
----------

金成 隆一(かなり・りゅういち)

GLOBE 編集部記者

1976年生まれ。
2000年、慶應義塾大学法学部政治学科を卒業し朝日新聞社入社。大阪社会部、米ハーバード大学日米関係プログラム研究員、ニューヨーク特派員(2014-19年)、経済部、ロンドン特派員(2021-23年)、大阪社会部次長などを経て、GLOBE編集部記者。教育担当時代に第21回坂田記念ジャーナリズム賞を、アメリカ報道で2018年度ボーン・上田記念国際記者賞、第36回大平正芳記念賞特別賞を受賞。『ルポトランプ王国2――ラストベルト再訪』『ルポ トランプ王国――もう一つのアメリカを行く』(いずれも岩波新書)、『記者、ラストベルトに住むトランプ王国、冷めぬ熱狂』(朝日新聞出版)、『ルポ MOOC革命無料オンライン授業の衝撃』(岩波書店)など。

----------

(東京大学先端科学技術研究センター准教授 小泉 悠、GLOBE 編集部記者 金成 隆一)
編集部おすすめ