※本稿は、堀田秀吾『スタンフォード、ケンブリッジ、イエール…世界の科学が証明した絶対に考えてはいけないことリスト』(フォレスト出版)の一部を再編集したものです。
■放置しても消えない後悔の対処法
「時間が解決する」という言葉があります。
後悔や悲しみ、憎しみといった感情も、時間の経過とともに少しずつ薄れていく――多くの人が、そんな経験をしてきたはずです。
しかし一方で、いくら時間がたっても薄れない感情も確かに存在します。
たとえば、「不惑」と言われる40歳を過ぎてもなお、思春期のころの忘れたい出来事が、今なお胸の奥で暴れ続けているという人も多いことでしょう。
では、後悔は年齢とともにどのように心や体に影響するのでしょうか? そして、どうすればその後悔をうまく乗り越え、幸せな生活を保てるのでしょうか?
この疑問に答えるのが、「人生の後悔と生活の質の関係」を年齢別に調べたコンコーディア大学のロッシュらの研究です。ロッシュらは、若者から高齢者まで幅広い年齢層で「最もつらい後悔」とその影響を調査しました。
結果、驚くべきことに、後悔の心が私たちの生活に与える影響は年齢によって大きく異なることがわかったのです。
■後悔の“やり直し”が難しくなる高齢期
ロッシュらの研究では、まず、年齢が上がるほど「後悔したことをリカバーする機会や手段が減る」ことが明らかになりました。具体的には、若い人は平均で約4~6年前に起きた経験を後悔しているのに対し、高齢者は26~30年前の後悔を抱えているケースが多かったのです。
言い換えれば、若者ならまだ未来を変えるチャンスがありますが、高齢者にとってはもう取り戻せない過去が増えているということ。
「後悔の強さ」が、生活満足度や健康にどう結びつくかについても年齢で違いが見られました。高齢者は、後悔が強いほど、うつ症状が出たり健康に問題を感じやすくなる反面、若者では、「後悔してもまだ人生の他の面で挽回できる」と感じる傾向が強いことが示されました。
このことは、後悔による心の負担が年齢とともに増すことを示唆し、加齢に伴う心理的な調整が重要であることを教えてくれます。
■「手放す力」が高齢者の心を守る
こういった後悔の苦しみを和らげる方法として、ロッシュらの研究は、高齢者に特に効果的な2つの「自己調整」を提案しています。
1つ目は「後悔を引きずらずあきらめる=『手放す』こと」です。高齢者でこの力が強い人ほど、後悔の感情が弱まり、うつ症状や健康問題も減少しました。
2つ目は「新たな目的や目標を持つこと」です。この研究では、5年以内に達成したい目標の数を参加者に挙げてもらいましたが、多くの未来目標を持つ高齢者は後悔の強さが低く、生活満足度が高いことがわかりました(平均6個の目標を持つ人が多かった)。
さらに、目標数が多いと後悔に伴うネガティブな感情が減るため、その結果として生活満足度の向上につながっていることも示されています。
■若者はまだ変えられる! 後悔と未来の関係
一方、若者は後悔を解消できる可能性が高いことから、後悔を引きずることが必ずしもパフォーマンスや心理的コンディションの悪化につながらないようです。逆に、若者で未来の目標が多いことが、必ずしも後悔の軽減に結びつかない場合もありました。
ロッシュらは、若いうちは新しい目標に気づきにくい場合でも、人生の成長課題に取り組むことが多いため、後悔の影響が違うと考えています。
過去の後悔を追い続けるのではなく、「まずは手放すこと」を意識し、そして「未来に向けて新しい目標を持つこと」で人生の質を高められる。年をとるにつれて、失ったものを嘆くよりも「次に目を向ける先」を持つことが、心と体の健康のためにはベターなのです。
■「失敗したら人生が終わる」は脳の錯覚
何かに失敗したとき、「もう終わりだ」「取り返しがつかない」と感じてしまう極端な考え方は、落ち込みや不安を長引かせる原因になります。
「認知療法(Cognitive Therapy)」の創始者として知られるペンシルベニア大学のベックは、うつ病や不安障害の根底には、「自動思考」と呼ばれる否定的な思考パターンがあることを示しました。
臨床研究を通して、抑うつ的な患者の多くが無意識のうちに「失敗した=自分は価値がない」「未来は絶望的だ」といった極端な結論を出していることが確認されたのです。
ベックはこれを「認知の歪み」と呼び、図表2のような典型的パターンを挙げています。
こうした思考のクセは、現実を歪め、必要以上に自分を追い詰めてしまいます。アーネストが行った臨床観察では、うつ病患者のほぼ9割以上がこのような思考パターンを持っており、さらに「失敗=人生の終わり」という考えが、抑うつ感や自殺念慮に強く関連することが報告されています。
■自分の自動思考に気づくだけで心が軽くなる
ベックは、患者がこの「自動思考」に気づくだけでも、感情が変化することを発見しました。たとえば、「仕事でミスをした」ときに、自分の中でどんな言葉が浮かんでいるかを観察してみます。「自分はダメだ」と思っていないでしょうか? そう感じたとき、ベックはこう問い返すよう提案します。
「本当にダメだと言える根拠は何だろう?」
「この失敗が人生の終わりだとしたら、証拠はあるだろうか?」
このように、自分の考えをいったん客観的に眺めるだけで、感情は少しずつ緩みます。
実際、ソコルらが行った研究では、患者が自分の自動思考を見つめ直す訓練を続けた結果、12~16週間でパニック発作や抑うつ症状がほぼ消失したケースも報告されています。
■失敗は終わりではなく、再出発の合図
人間の脳は、危険や失敗に敏感に反応するようできています。これは生存のために役立ってきた「進化的プログラム」でもあり、ある意味では自然な反応です。
ただし、現代社会では「失敗=死」ではありません。ベックはこのズレを「過剰に働く危険信号」と説明し、思考を現代の現実に「再調整」することが治療の第一歩だと述べています。
ロイヤル・エジンバラ病院のバラックバーンらの研究によれば、悲観的な予測をする人は、そうでない人に比べてポジティブな情報の処理速度が遅くなる傾向があることが脳科学的な実験から明らかになっています。つまり、極端な思考が続くほど、脳は「良い出来事」に気づきにくくなるのです。
うつ状態や強い不安は、現実そのものよりも「現実の解釈」によって引き起こされる。だからこそ、「失敗=終わり」という自動思考を少しずつ緩めることが、回復の鍵になります。
もしあなたが「もうダメだ」と感じたときには、こう言い換えてみてください。
「失敗した。
「今はつらいけれど、これは一時的な出来事にすぎない」
ミネソタ大学のホーロンらの研究では、こうした「認知の再構成」を練習した人は、薬物療法のみの人に比べて再発率が半分以下に減ることが報告されています。
仕事やプライベートで「ミス」はつきもの。うまく乗り越えていける人や、転んでもただでは起きない人は「失敗したら人生が終わる」と考えない。失敗は「終わり」ではなく、「再出発の合図」です。心がつらいときこそ、「考えすぎる脳」を少し休ませましょう。あなたの価値は、結果や評価では決まりません。今日の失敗も、未来をつくる材料の1つにすぎないのです。
【参考文献】
・Beck A. T. (1991). Cognitive therapy. A 30-year retrospective. The American psychologist, 46(4), 368–375.
・Blackburn, I. M., Roxborough, H. M., Muir, W. J., Glabus, M., & Blackwood, D. H. (1990). Perceptual and physiological dysfunction in depression. Psychological medicine, 20(1), 95–103.
・Hollon, S. D., Shelton, R. C., & Loosen, P. T. (1991). Cognitive therapy and pharmacotherapy for depression. Journal of Consulting and Clinical Psychology, 59(1), 88–99.
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堀田 秀吾(ほった・しゅうご)
明治大学法学部教授、言語学博士
1999年、シカゴ大学言語学部博士課程修了(Ph.D. in Linguistics、言語学博士)。2000年、立命館大学法学部助教授。2005年、ヨーク大学オズグッドホール・ロースクール修士課程修了、2008年同博士課程単位取得退学。2008年、明治大学法学部准教授。2010年、明治大学法学部教授。
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(明治大学法学部教授、言語学博士 堀田 秀吾)

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