中学受験の合否のカギを握る「算数」。「立体図形」「割合と比」「場合の数」など、さまざまなジャンルが出題されるが、京大卒の中学受験講師・迫田学さんは「中でも重要なのは、基本の計算だ。
だが、多くの親はNGな声かけをしてしまうケースが目立つ。再現性のある『ミスの発生を構造的に防ぐルール』を徹底するべきだ」という。著書『中学入試 計算のスペシャルルール』(かんき出版)から、そのエッセンスの一部を紹介しよう――。
■中受の要となるのは算数の「計算」
中学受験の結果を分析すると、例年、「算数」を攻略できたかどうかが合否を分ける最も大きな原因になります。算数ができる生徒が有利なのは、昔も今も同じです。
算数では「立体図形」や「割合と比」や「場合の数」など、さまざまな単元の問題が出されますが、絶対的な要となるのが「計算」です。
ある中学校では毎年4問の計算問題が出題されますが、全問正解した生徒の合格率は90%以上である一方、1問まちがえると40%台、2問まちがえると20%台になるそうです。
ほとんどの学校では、計算問題も後半の超難問も同じ配点です。計算で落とした点数を他で取り返すのは難しいため、計算問題を確実に正解することが合格点の確保に直結します。
受験直前になっても点数が伸び悩む生徒の多くは、「解き方は理解しているのに、計算でつまずいて得点につながらない」という状況に陥っています。
低学年のころから計算を「なんとなく」「自己流で」行ってきた結果、その影響が6年生になって表面化するのです。
こうした計算ミスに対して、保護者の方は励ましやアドバイスのつもりで声をかけているかもしれません。
しかし、その声かけが逆効果になってしまうこともあるため注意が必要です。
そこで、ここでは親が子どもに言ってはいけない3つの「NGフレーズ」を紹介します。
■親の「NGフレーズランキング」3選
1位:「次は気をつけて!」(注意力の呪い)
保護者はつい言ってしまいがちな言葉ですが、「注意力」といった体調や気分に左右される不確かなものを原因としても、子どもは次からどのように気をつければいいのかわかりません。
また、「次は」という言葉で、今回のミスを検証せずに流してしまうのでは、問題を先送りするだけです。そうではなく、どんなコンディションでもミスが起きない「物理的な解き方の改善」へ導く必要があります。
2位:「もっと丁寧に書きなさい」(手段の目的化)
0と6の見分けがつかないほど雑な書き方は改善すべきですが、習字のような「美しさ」を求めてもミスは減りません。丁寧さを優先してしまうと、時間が足りなくなってしまうこともあります。
3位:「見直ししたの?」(セルフチェックの限界)
一見正しい指摘のようですが、実はNGな声かけです。脳は「一度正しいと思い込んだ思考」をなぞる性質がありますから、問題を解いた生徒が同じ思考回路で見直してもミスを発見するのは困難です。
また、入試本番では制限時間いっぱいまで解くことが多く、見直しの時間がほとんど取れないこともあります。
そのため、見直しに頼るのではなく、最初から「ミスが入り込む隙のないルール」で解くことが正解です。
■精神論的な指導では意味がない
以上の3つが、親がつい言ってしまいがちな「NGフレーズ」です。

このような「精神論」をいくら説いても、残念ながらミスは減りません。それどころか、親が注意するほど子どもは「間違えてはいけない」と萎縮し、脳のパフォーマンスが落ちてしまいます。
必要なのは、「ミスの発生を構造的に防ぐルール」を徹底することなのです。
たとえば2位で挙げた「もっと丁寧に書きなさい」はNGですが、文字や数字をきれいに書くのではなく、「イコールの位置をきれいに揃えて“縦書き”にする」という書き方のルールを守ることが有効です。
計算の途中式ではいくつも「=(イコール)」の記号が出てくることがありますが、計算式をだらだらとノートの右端まで横に続けて書いていくと、式の途中で改行することになりとても見づらくなります。思考が止まって計算スピードが落ち、ミスも生まれてしまいます。
ですので、下記例のように計算式をキリのいいところで「改行」して、「=」の位置が縦一列(上下関係)に揃うように、書くことが鉄則です。
(例)
16+13+10+7+4+1−11−9−7−5−3(改行)
=(16+13+10+7+4+1)−(11+9+7+5+3)(改行)

=(16+4+13+7+10+1)−(11+9+7+3+5)(改行)

=51−35(改行)

=16(最後の答えには、下線や丸などの印をつける)

ノートのスペースは多く使いますが、もったいないと思わずに贅沢に使いましょう。このように書くと、上下の行を見比べるだけで「何がどう変わったか」が一目でわかるため、視覚的なセルフチェックが自然に行えるのです。
スペースの問題もあり、参考書や問題集ではイコールを横につなげて表記していることも多いですが、本来ならすべての計算式を=で「縦書き」にするべきです。
また、式を解いて最終的に導いた「答え」には、下線や丸などの印をつけましょう。解答用紙への転記ミスを防ぐ目的です。

■「すべて筆算する」はかえってミスを招く
このほかにも、「丁寧に計算する」ために、すべてを筆算で行うよう指導するケースがありますが、これは「丁寧さ」をはき違えている例です。
筆算を多用すると、転記ミスや繰り上がりの書き込みで工程が複雑化するため、かえってミスを招くことにもなります。
「15+27」といった簡単な計算まで筆算していては時間が足りませんし、脳のワーキングメモリも無駄に消費します。
暗算で処理すべき基礎工程(四則演算の基礎)と、筆算に頼るべき箇所の「切り分け」をすることも、大切なルールのひとつです。
その場かぎりの適当な解き方で答えを出すのではなく、こういった「計算の正しいルール」にしたがって解くことによって「圧倒的な正確性」を身につけることができます。
これら私が52個にまとめた「計算のスペシャルルール」は、拙著『中学入試 計算のスペシャルルール』に詳しいので、参考にしてください。
受験には計算スピードの速さも必要にはなってきますが、だからといってむやみに計算スピードを競わせるといった「スピード至上主義」の指導は逆効果です。
正確なルール(作法)が定着する前に「速さ」を求めると、解き方が雑になり、結果として「解き直し」の時間が増えて正答率は下がってしまいます。最初はゆっくりでもいいので、しっかりと「計算のルール」を身につけることを優先してください。
ルールが身につけば、解き直しや見直しの時間も減るため、むやみにスピードを上げる必要もなくなります。
■よく出る小数は分数にしたものを覚える
こういった「計算のルール」をきちんと身につけなければ、問題が難しくなるにつれて、どれだけ問題演習を重ねてもなかなか点数が上がらないという状況に陥ります。
たとえば、先述のようにすべてを筆算しなければいけないと思い込んでしまっている生徒は、小数のかけ算などもそのまま筆算で計算してしまい、途中式で膨大なケタ数の数字と格闘することになりがちです。
これでは、いくら時間があっても足りませんし、ミスも多発してしまいます。
スペシャルルールでは「分数と小数、どちらで計算するかは、楽なほうでOK」としています。小数は分数に直すと圧倒的に楽になるケースもあるため、そこを見極めましょう。
たとえば図表1のような問題
{(1.875×1.875+0.625×0.625)×128+0.375×8}÷0.25
を、小数のまま計算してしまうと非常にややこしくなりそうです。
そこで、0.875を7/8に、0.625を5/8に、0.375を3/8に、0.25を1/4(2/8)に直して計算すれば、とてもシンプルになります。
よく出る小数は、分数にするとどうなるか覚えてしまいましょう。特に図表2の小数は本当によく出るので、必ず覚えてください。(0.125=1/8ずつたしています)
■精神論ではなく再現性のあるルールを共有
このように、52個の「計算のルール」を身につけておけば、ミスをしたときに「注意力が足りなかった」ではなく、「このルールを守れていなかった」という具体的な原因がわかり、改善も容易になります。
精神論ではなく、再現性のある方法を積み重ねることこそが、合格への最短ルートです。
保護者と子どもが同じルールを共有し、同じ方向を向いて学習できれば、無駄なストレスは減り、努力がしっかり成果につながります。ぜひ今日から、正しい「計算のスペシャルルール」を取り入れてみてください。

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迫田 学(さこだ・まなぶ)

中学受験講師

1971年大阪生まれ。
洛星中学・高等学校、京都大学教育学部卒業。関西の大手進学塾にて、正社員として19年間、主に高校受験を担当。その後、近畿大学生物理工学部、大阪大谷大学教育学部、ホスピタリティツーリズム大阪専門学校、駿台中学部数学科での非常勤講師を経て、現在は中学受験専門のプロ個別指導教室SS-1算数・理科講師。2025年度入試における担当生徒の合格実績は東大寺学園、大阪星光学院、洛星、清風南海、高槻、白陵、開明、同志社、大阪桐蔭、奈良学園、帝塚山など。3年以上にわたり、SS-1大阪谷町教室にて毎月の担当授業コマ数NO.1。2025年春より、京都大学大学院教育学研究科修士課程(比較教育学専攻)に入学する。大学院での研究テーマは「韓国の受験、私教育」。本書が初の著書となる。

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(中学受験講師 迫田 学)
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