ロシアがウクライナへ軍事侵攻して4年がたつ。YouTubeチャンネル「SU channel / 旅行」を運営する陶山健人さんは「私は2024年に首都キーウを訪ねたが、街の様子はニュースで報道されている内容とはちょっと違った」という――。

※本稿は、陶山健人『世界史の食べ歩き方』(クロスメディア・パブリッシング)の一部を再編集したものです。
■戦闘地域を通るのが「王道ルート」
2024年11月、私はウクライナの首都であるキーウに行く決断をしました。現在ウクライナへ直接空路で行く方法はありません。キーウ国際空港は現在使えないので、隣国の国を経由して陸路で入るルートしかないです。東京からトルコのイスタンブールを経由しモルドバの首都キシナウに行き、そこからウクライナのキーウ行きの国際バスで入ることにしました。
ただし、このルートはロシア・ウクライナ戦闘を繰り広げているオデッサを通過するのでリスクがあります。しかし、現在使われているウクライナ行きの王道ルートでもあります。他のルートとしては隣国のポーランド・ワルシャワから国際列車で入るか、同じくバスで入るかのパターンです。
■「ヨーロッパ最貧国」モルドバの街並み
東京からイスタンブール乗り継ぎでモルドバ・キシナウまでは問題なく行けます。今回初めてモルドバに入国したのですが、ヨーロッパ最貧国と呼ばれている国で、モルドバ自体もロシアと様々な問題を抱えている国のひとつです。キシナウに滞在する案も考えましたが、状況が刻一刻と変化するので、モルドバ滞在は先送りにしてウクライナへ行くことにしました。
キシナウ国際空港についてすぐに感じたことがあります。
モルドバはロシア文化の影響を色濃く受けているということ。モルドバの公用語はルーマニア語ですが、日常的にロシア語が使われているそうで、私にはほぼロシアにいるような錯覚さえ覚えます。空港のカフェでの懇切丁寧さ、満面の笑みで接客。そんな雰囲気がロシア滞在で感じた印象と被りました。
モルドバはEUにもNATOにも加盟しておらず、加盟に対してロシアからの圧力がかかっているとされています。モルドバから分離独立した、沿ドニエストル問題などロシアと複雑な問題を抱えています。
キシナウ空港の側に国際バス乗り場があり、そこからFlixBus(フリックスバス)という格安LCCバスでキーウへ向かいます。フリックスバスは欧州や米国などで多くの路線を持つ有名な移動手段の王道です。この状況下でもフリックスバスはウクライナ路線を継続していることに驚きました。
キシナウからウクライナとの国境へ入り、オデッサを経由してキーウに入るルートでおよそ14時間30分以上かかります。なかなかきついです。
■14時間30分のバス旅、車内設備は…
日本最長の高速バスとして有名な「博多号」で東京-博多間が大体14時間なので、それと同じかそれ以上の所要時間です。
格安LCCバスなので日本の長距離線に投入されている豪華な3列ゆったりシートのような席はなく、4列普通席しかありません。
ただ、日本のよりも大型で外国人規格で設計されているので席自体の感覚は日本のバスより少し広い気がします。あと、トイレやWi-Fi、USBは標準で装備されているのは救いです。フリックスバスのアプリで簡単にキーウ行きのチケットをクレカで購入できました。
乗車して驚いたことがありました。なんと車内のフリーWi-Fiが爆速です。大体、バスのWi-Fiなんかはほぼ使いものにならないことが多いので驚きました。調べたところ、ウクライナ支援の一環でイーロンマスクが衛星Wi-Fiのスターリンクを無償で提供しているらしいのです。まさかウクライナ行きの格安バスでスターリンクが使えるとは知らなかったので少しテンションが上がりました。
戦争中こそネット回線の維持が生命線でもあるわけで、そこに目をつけて提供しているイーロンマスクの戦略には感心しました。
■ウクライナへの入国審査はあっさり終了
バスは順調に発車し、モルドバ国内を走ります。モルドバ国内を走行中、街灯が非常に少なく真っ暗な場所が多いことに気づきました。
ヨーロッパ最貧国と呼ばれることから電力事情も厳しいのかもしれないです。
さらに道の舗装があまり良い状態ではなく、所々でアスファルトが剥がれていたり、穴が開いていたりして、バスが揺れに揺れまくっています。中心部から離れると商店すらほとんどない状態でたまにガソリンスタンドがある程度です。
2時間ほど走り、モルドバとウクライナ国境に到着しました。国境のゲートの前で一旦トイレ休憩タイムがあり、その後バスの車内でモルドバの警察官によるパスポートチェックがありました。パスポートは回収され待機します。
しばらくするとバスは動き出して国境ゲートを通過し、そこで1時間くらい車内でさらに待機になりました。そしてウクライナ兵がバスに乗り込んできてパスポートの返却がありイミグレーションは終わりました。すでにモルドバ出国のスタンプとウクライナ入国のスタンプが押されており案外あっさりと手続きが終わってしまい拍子抜けしました。
■オデッサでミサイルvs対空砲が始まった
私は直近でロシア入国をしており、パスポートにウクライナの敵国のスタンプが堂々とおされているので、別室送りの可能性が高いのではないか? と不安でしたが、質問すらなく終わってしまい驚きました。さすが日本国パスポートですね。ウクライナの支援国ですから優遇されているのか? などと勝手に解釈して先に進みます。

国境を越えてすぐにウクライナのオデッサという街で停車しました。ヨーロッパ最貧国のモルドバに比べて断然ウクライナの方が都会です。街灯もついているし道も綺麗で、トラムも走ってます。戦争中とは思えないくらい市内は綺麗で驚きました。
オデッサはウクライナでも主要な街のひとつですが、戦争当初はロシアからの攻撃を多く受けるエリアでもありました。オデッサを通過するのが今回の移動で一番のリスクだと予想をしていたのですが、それが的中します。
停車しているオデッサのバスターミナルで突然大きな爆発音が鳴り響き、対空砲を連射する轟音が間髪入れずに聞こえます。乗客が一斉に上空を見上げてスマホで撮影し出したので自分も見上げてみると無数のミサイルが上空を飛翔しそれを迎撃システムで撃ち落としたり、対空砲で対応している瞬間を見ました。これが人生で初めての実戦での攻撃の様子を見た瞬間になります。
■現地の人にとっては「いつもの光景」
花火とは違い腹に響くような重低音での爆発音や空が一気に明るくなるくらいのミサイルの炎など、その光景に震えながら見た記憶が鮮明に蘇ります。もう現地の人は慣れているのか、空を見上げつつもゆっくりコーヒーを飲む人や空すら見ないでスマホでゲームをしている若者など、もはやこれが日常化している感じに見えました。
バスの運転手は乗客に対して「皆さん大丈夫です! 攻撃が終わったら出発します」とミサイル音に負けない大きな声で何度も呼びかけていました。
改めて、紛争地に来ていることを実感しました。
攻撃が落ち着いた瞬間を見計らってバスはオデッサを出発します。この先は下道ではなく約600キロ続く高速道路を中心にキーウへ向かってひたすら走ります。高速道路のサービスエリアとガソリンスタンドで何回かトイレ休憩があり、バスを降りて運転手と一緒にタバコを吸い談笑しました。ドライバーは2名体制で2名ともウクライナ人です。
ドライバーは自分を含めた数人の喫煙者の乗客に「キーウは安全だ。心配するな」と言っていたのが印象的でした。とても気さくで優しかったです。
■配車タクシーアプリもクレカも使える
そして明朝5時すぎにキーウ中央バスセンターに到着しました。無事にモルドバから陸路でウクライナの首都キーウへ入れました。バスを降りた瞬間、動画では言えませんでしたがすごく高揚感を得たのを覚えています。本当に戦争中のキーウに無事に到着できたんだ、という安堵と同時にメディアというフィルターを通さずに現状を見られる喜び、好奇心で溢れていました。

モルドバから陸路でキーウ中央バスセンターに到着後、Uberで市内中心部にあるホテルへ移動します。このような戦時中でもウクライナではUberやBoltなどの配車タクシーアプリが問題なく機能しています。
ホテルはホリデイ・インを予約しました。Uberもホリデイ・インも全て西側諸国資本の企業ですが、欧米や日本と同じように全て利用することができます。もちろんクレジットカードも全て問題なく使えます。早朝のチェックインでしたがホテルのスタッフがとても親切ですぐに部屋を用意してくれました。気温は0℃以下で非常に寒いですが暖房も電気も問題なく機能していました。
■「普段と変わらない」が国民を安心させる
長時間のバス移動で疲れたので少し休んでから街に出てみます。ホテルの横が先進的で大きなスーパーマーケットだったので様子を見に行きました。お客も多く賑わっています。戦時下のモスクワと同様にキーウのスーパーも品揃えは非常に豊富で焼きたてのパンやヨーグルト、チーズ、ハム、新鮮な魚や肉、野菜などが大量に並べられており、戦争で疲弊し物資不足などということは全く感じませんでした。
ロシアでは制限されていた西側ブランドの商品も充実しており、コカコーラやレッドブル、各種お酒なども通常通り揃えられています。ウクライナもロシア同様に食料自給率が非常に高い国で、小麦や野菜、酪農などは世界有数の生産規模を誇ります。戦争状態であっても国民にしっかり食料を提供できる力がある国の強みです。
またロシアでは消滅したマクドナルドやKFCなども通常通りウクライナでは営業しており、動画を見た視聴者さんからの意見によると「戦争中でも他国と同じようにお店を営業し日常生活に支障がない姿を見せ続けることは、戦争当時国の戦略的な役目であり、国民を安心させる意図がある」というご意見をいただきました。なるほどなと思いました。
■核シェルターの役割もある「世界一深い駅」
キーウの地下鉄は世界で一番深い場所を走っていることで有名です。キーウの地下鉄もモスクワ同様に旧ソ連感がビシビシと伝わってくるデザインで、構内はまるで芸術作品のようです。ちなみにキーウ地下鉄はVISAやMasterなどのクレジットカードのタッチ決済で乗車が可能です。切符を買う必要もないので非常に楽です。
世界一地下深い駅として有名なアーセナルナ駅に行きました。地上から105m以上の深さに駅があります。ちなみに日本で一番深い場所にある地下鉄の駅は東京メトロの六本木駅で、その2倍以上深い場所にアーセナルナ駅があります。
キーウ地下鉄の車両は相当年季が入った古い車両で、モーター音が爆音の旧式車両が多く走っていました。車体はウクライナの国旗のカラーで統一されていました。
利用者は多く、大変混雑しています。またこの深さを利用してあらゆる駅が核シェルターや避難所の役割を果たしており、この戦争を機にさらに避難所としての機能を充実させているようです。もちろん世界一深い駅なので世界最長のエスカレーターの乗車時間はホームまで5分ほどかかります。
■報道されている「紛争地」はどこへ?
街にはトラムも走っています。トラムもクレカのタッチ決済で乗れます。戦時中の国だとは思えないくらい全てが日常通りに見えます。ニュースでは爆撃されたマンションや政府施設、焼けこげた戦車などが映像に出てきましたが、街歩きをする中では1回も見かけなかったので、すでに撤去されて修復されたのか、たまたま見つけられなかったのか……。
動画内では観光地や教会巡りなどもして紹介しているのですが、長くなるので割愛しますが、当時のリアルなキーウ市内を忖度なく記録していますのでよかったら動画をご覧ください。
キーウ滞在最終日の夜に状況は一変しました。深夜に突然、大きな音で空襲警報が鳴り響きました。人生で初めて聞く空襲警報です。ホテルの部屋の窓から外を見上げると闇夜にオレンジ色に光りながら飛ぶミサイルらしきものを視認できました。その飛翔物は複数飛んでおり、対空砲で撃ち落とすためなのか、サーチライトの照明が空を照らしています。
■「安全なはずの外資系ホテル」が攻撃された
時折、大きな爆発音と炎の明滅が確認できます。夜通し空襲警報が鳴っていましたが、陽が昇り朝になっても、定期的にサイレンは鳴っています。明るくなったので目視ではっきりとミサイルやドローンを空中で迎撃する瞬間も見えました。身体に響くほどの爆発音は脳裏に焼き付いてます。この体験は本当に怖かったです。
ただ、ホテルから数キロは離れていたと思うので、落下物などの危険はなさそうでした。戦争とはいえど一定のルールがあって、外資系のホテルや病院はミサイル攻撃しないという話を聞いていました。ということもあって、外資系のホリデイ・インに宿泊していました。
しかし、後日談ではありますが、帰国して2週間くらい経った後に、なんと私が宿泊していたホテルがミサイル攻撃で大破したという情報を得ました。現地のニュースを引用した記事も読みましたが、その情報は間違いなかったです。
もし自分が2週間遅れてウクライナへ行き、あのホテルに泊まっていたら確実に死んでいました。おそらく私に親切に対応してくれたホテルの従業員さんも亡くなっている人がいるかもしれません。キーウまでこのような状況になるとは、すごい現場を体験したんだと改めて思いました。

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陶山 健人(すやま・けんと)

YouTuber/クリエイター

1989年生まれ。愛知県出身。地元大手企業で10年間の会社員時代を経て脱サラ。2018年YouTubeチャンネルを開始。登録者30万人超の「SU channel / 旅行」アカウントを運営し法人化。現在はSUポメロ株式会社の代表取締役。交通関連、エアライン、ホテル、海外渡航情報、現地グルメなどに精通しつつ日本人があまり行かない国や街、様々な国境エリアを実際に自ら訪れ、リアルな様子や体験談をわかりやすくまとめてコンテンツとして提供。視聴者を楽しませる現場主義スタイルが人気。実用的な旅行情報と親しみやすい人柄で多くの視聴者に愛され影響力も持つクリエイター。座右の銘は「思い立ったら即行動!」。好物はうなぎ。

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(YouTuber/クリエイター 陶山 健人)
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