プレゼンテーションや人前での発言が苦手な人はどうすればよいか。元日本テレビアナウンサーの藤井貴彦さんは「私は人前での発言が苦手だった。
多くの人の前で誤解や説明不足が無いようにメッセージを伝えるのは難しいが、質疑応答のスキルをあげる努力をすることで乗り越えた」という――。
※本稿は、藤井貴彦『伝える準備』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)の一部を再編集したものです。
■質疑応答が会見の「満足度」を高める
企画のプレゼンテーションや企業の会見などでは、たいてい、その後の質問に対する「想定問答」などが準備されます。
実は、その受け答えの質が、プレゼンテーションや会見の「満足度」を高め、信頼を広げていきます。
これを私たちの生活に置き換えてみると、どうでしょう。
まず、普段、話し慣れていない人が多くの人の前に出て、誤解や説明不足がないように発言するのはなかなか難しいものです。
ただ、話し終わった後、相手からの質問や内容の確認など、質疑応答に対して答えるのは、それほど難しいものではありません。
またそれができれば、たいていのメッセージは伝わります。
話すのが苦手な人がスキルを上げられるとするならば、ここです。
■アナウンサーなのに人前での発言が苦手だった
実は私も、人前での発言が苦手でした。
「アナウンサーなのにそれでいいのか!」というご指摘が聞こえてきそうですが、残念ながら事実だったので、私は苦手な部分を分析し、鍛える努力をしました。
その努力とは2つあるのですが、まず1つ目。

これは何度もお伝えしていることなのですが、「言葉選びに力を注ぐこと」です。
話が苦手な方は私を含め、長く話すことが苦手なようです。
ですからスピーチ自体を短く、エッセンスだけを伝え、早めに質疑応答に入ってしまおうという作戦です。
ただ、その後の質疑応答まで短く終わってしまわないように、聞いている人の頭に残るフレーズを用意しておきたい、ということなのです。
具体的にはまず、自分の言いたいことを紙に書き出します。たくさん書いて、ランダムに書いて、そこからやっと文章を整えます。
ある程度まで進むと、ぼんやりフレーズが見えてくるから不思議です。
■言葉を煮詰めて生んだフレーズ
この手法は、ずいぶん昔の話ですが、就職活動の面接にも応用しました。
面接では緊張するに違いないと予想していた私は、なるべく自分が一人で話す時間を減らそうと、短く、印象に残るフレーズを準備していました。
その1つが「人の幸せを自分の幸せとするセルフエンターテナー」という言葉でした。
私は自分が楽しいより、他人が楽しそうなのがうれしい。
そのお手伝いをテレビマンとしてできたら……と考えていたのですが、それをワンフレーズで端的に表したかったのです。

私はどんな業種を志望するのかを探る時にも、自分について徹底的に書き出す作業を行いましたが、なぜこの会社を志望するのかも徹底的に書き出しました。
その多くの言葉を煮詰めた末に、このフレーズが生まれました。
実際の面接では、自己紹介は短くできた上で、質疑応答では多くの質問をしていただき、なんとか乗り越えることができました。
■意地悪な質問を想定する
伝えるための努力、もう1つは「意地悪な視点を取り入れる」ということです。
話すのが苦手な人は、想定していない質問に対してパニックになりがちです。
ですからなるべく多くの質問を想定し、準備しておくことが大切です。
その中に、意地悪な人だったらどう聞いてくるかという視点を入れておくのです。
最初に書いた通り、企画のプレゼンテーションや企業の会見では、厳しい質問が飛んできます。
私たちの日常でそんな状況はほとんどありませんが、「意地悪な質問がきたら」というフィルターを通しておくことで、守備範囲は確実に広がります。
意地悪な質問が思い浮かばないという方は、頭の中に、厳しめの上司、先輩、先生にご登場いただきましょう。
あの人だったらどんな質問をしてくるだろうかと考えてみてください。
これにより、どんな質問がきても大丈夫という自信が生まれ、実際のスピーチではその人なりに堂々とお話ができます。

また、せっかく用意した意地悪前提の想定問答を使わないことが物足りなく感じることもあります。
ここまでくれば、もう「苦手」ではなくなっているはずです。
Q あなたの周りで、一番厳しい質問をしそうな人は誰ですか?
■たくさんの人の立場から言葉を選ぶ
「この言葉は本当に届いているのか」
テレビは多くの人にご覧いただいていますが、スタジオにいる私たちは、みなさんのお顔を拝見することはできません。
だからこそ常に、「この言葉は本当に届いているのか」と自分に問いかけています。
新型コロナウイルスの緊急事態宣言が出された時、テレビ画面は「人の少ない渋谷のスクランブル交差点」を映し出しました。
この交差点をどう表現するか。アナウンサーによって、テレビ局によって、それぞれのスタンスがありました。
あの緊急事態宣言の状況下ですから、異様な光景とするか、あるべき光景とするか、単に「人がいません」とだけ言うか。
そんな中、私が大切にしていたのは、たくさんの人の立場から言葉を選ぶということでした。
医療従事者は

飲食店経営者は

学校の先生は

感染症の専門家は

ご高齢の方々は

赤ちゃんのいるお母さんは、

渋谷の交差点をどんな思いで見ていたのか。
いろいろな立場の方の顔が浮かびました。
でも、あちらを立てればこちらが立たずの堂々巡りで、言葉が決まりません。

■時間を共有している人たちにメッセージを伝えたかった
結局、私は
「今テレビを見ているみなさんのご協力で、人との接触が防げています」
と、お伝えしました。
この交差点にいない人は、テレビの前にいるかもしれないと思ったからです。
もっと多くの人に伝わるメッセージもあったはずです。
しかし私の言葉は、テレビをご覧になっている方にしか届きません。
だからこそ、今時間を共有しているみなさんにメッセージを伝えようと考えたのです。
私は、誰かを批判することよりも、誰かを励ますことを選びました。
この言葉に対する嫌悪感もあると思います。
しかし私は、
「政府にはしっかりとした対策を求めたいものです」
といったようなコメントで、いただいた数秒の機会を消費したくなかったのです。
見栄えのいい言葉だけが届くのではなくて、鋭い批判だけが力を持つのではなくて、相手を頭に思い浮かべた言葉こそが届くのだと信じています。
Q あなたが言葉を届けたい人は誰ですか?

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藤井 貴彦(ふじい・たかひこ)

フリーアナウンサー

1971年生まれ。神奈川県出身。慶應義塾大学環境情報学部卒。
1994年日本テレビ入社。スポーツ実況アナウンサーとして、サッカー日本代表戦、高校サッカー選手権決勝、クラブワールドカップ決勝など、数々の試合を実況。2010年2月にはバンクーバー五輪の実況担当として現地に派遣された。同年4月からは夕方の報道番組「news every.」のメインキャスターを務め、東日本大震災、熊本地震、西日本豪雨などの際には、自ら現地に入って被災地の現状を伝えてきた。

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(フリーアナウンサー 藤井 貴彦)
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