街中で候補者たちが勇ましく公約を叫んでいる衆院選2026。軍配はどの政党にあがるのか。
統計データ分析家の本川裕さんは「ここ10年間で日本人の既存政党や政治家への不信感が39%から68%へと急激に高まっている。日本は世界的に珍しい第1与党、第1野党のいずれに対しても信頼感が低い国のため、今回、新興政党が大いに票を伸ばす余地も十分にあるだろう」という――。
■国の政策への不満が高まる傾向
2026年1月23日、高市早苗首相は通常国会冒頭で衆議院を解散し、1月27日公示、2月8日投開票で衆院選が行われることとなった。衆院選の結果がどんな結果となるかはこれからのわが国の行方を大きく左右するものだけに大きな関心が払われている。
自民党単独で過半数に到達する、いや与野党逆転がありうる、など投票結果については各報道機関や有識者などがさまざまな予測を行っている。
だが、ここでは、各国の政治情勢や政党事情を調べている国際比較データによって、そもそも日本の政治が置かれた情勢はどういう特徴をもっているかを探り、少し俯瞰的な観点から見えてくるものは何かに着目したい。
世界的なフランスの調査会社イプソス社の「2026年予測レポート」(2025年12月公表)では、国の政策に抗議するため大規模な社会的混乱(抗議活動や暴動など)が生じる可能性があるかについて、30カ国を対象に調査を行った2025年の結果を公表した。
図表1には、この可能性について2019年にも同じ調査が行われている27カ国の値をX軸、同じ27カ国の2019年から2025年にかけての増加%ポイントをY軸にあらわした散布図を掲げた。
日本は、X軸方向の左側に位置しており、抗議活動や暴動など、こうした社会的混乱が生じる可能性は世界的に見ても小さい国であることが分かる。
しかし、2019~25年の6年間の変化は、可能性ありという意見が11%ポイント増と世界の中でも、国の政策への抗議の可能性の増大幅が大きくなっている。
おとなしかった日本人もそろそろ国の政策に対してモノ申す活動が激しくなる予感を国民自体が感じていると見なせよう。
なお、世界的な傾向は社会的混乱の可能性が低かった国ほどこの6年間にそうした社会的混乱の可能性は高まるという動きが認められる(左上がりの傾向)。
日本の動きもおおむねこの傾向に沿っているが、シンガポールがかつても今も社会的混乱の可能性が低いのとは対照的に日本の場合は大きくその可能性が増しているのである。
■政治不信がかつてないほど高まる日本
昨年の参院選の際に紹介した2025年7月の記事で紹介したグラフであるが、日本でも政治不信が高まっていることを示すデータを再度掲げよう(図表2)。
イプソス社はポピュリズムレポートの中で、「既存政党や政治家は、私のような人間を気にかけていない」かどうかを問う設問で、政治との距離感が広がっているかどうかを調べた結果を公表している。
図表2では主要国における推移を追っているが、日本の場合、2016年の段階では、既存政党や政治家への不信が39%と世界の中でも非常に低いレベルだったが、最新の2025年では、68%へと急激に政治不信が高まっているのが目立っている。
他の主要国ではどの国でも以前から政治不信が高かったのに対して、日本の場合は、最近、政治不信が高まっているのが特徴である。
こうした政治不信の高まりが最初に触れた大規模な抗議活動の可能性の増大にも結びついていることは確かそうである。
コロナ禍への対応、宗教団体(旧統一教会)との不適切な関係、政治とカネの不明朗な関係、そして物価高に有効な対策を示せないでいる状況、こうした、控え目に言ってロクでもない事象が積み重なって国民の政治への不信は増大していると見られるのである。少なくとも、先進国一般のレベルにまでは高まりつつあると言えよう。
■日本ほど第1与党&野党ともに頼りない国はない
最後に、日本の政治体質においては、政治不信の高まりに対して過敏に反応しやすい脆弱性を抱えているので、選挙の結果にもそれが表れる可能性があるという点についてふれておこう。
ピューリサーチセンターは各国の政党事情を探る調査の中で非常に興味深い設問の調査を行っている。
各国の政治の安定度は、国内の主要な政党への信任度が高いかどうかで決まる側面が大きい。特に、主要な与党だけでなく、主要な野党についての信任・支持も重要である。
ある国で信頼度が高い主要与党が政策運営に失敗しても、同じく信頼度が高い主要野党に政権が移行することによって、政治のガバナンスと安定が同時に達成できると考えられるからである。いわゆる二大政党制というのはこうした望ましい状況を指すものといえよう。
こうした点を踏まえ、ピューリサーチセンターは、各国の主要与党と主要野党のいずれを支持しているか、またいずれも支持していないのか、それとも両方とも支持しているのかを聞く設問を設けている。
■与党野党「どちらも不支持」回答率が過半数超
調査の対象国としては24カ国に及んでいるが、図表3には、そのうち、主要国(G7諸国)の結果を示した。図表の国の順番は「どちらも不支持」の回答率の多い順である。
日本の特徴は、この「どちらも不支持」の回答率が54%と過半数を超えて最多である点である。
日本の主要与党は、現状は自民党であり、主要野党は立憲民主党であるが、それぞれの支持率は15%、10%であり、「両方支持」は10%である。
ここでの支持率は、主要与党と主要野党の両方を支持するという選択肢がある点からも分かる通り、いずれかの政党を1つ選ぶ通常の政党支持率とはことなる概念である点に注意が必要だ。
実際、日本で行われている世論調査における通常の政党支持率では、自民党は立憲民主党を上回っているが、ここでの支持率では立憲民主党が自民を上回っている。選挙における投票行動とは異なる結果なのである。
■二大政党ともに信頼されている米国やドイツ
日本とは対極的に米国では共和党と民主党という二大政党が、交互に政権を担ってきている。トランプ現象が米国発で世界政治に混乱をもたらしているが、もともとはコロナ禍の時期に続く大インフレへの対応で国民の信任を失った民主党から、通例通り、対立政党である共和党に政権が移行しただけである。
共和党の予備選でトランプ候補が選ばれたのが、“異常”なだけで、民主党から共和党への政権移行自体は、米国における非常にノーマルな政治変化だったのである。
ピューリサーチセンターのこの調査では、主要与野党の両方を支持している割合が各国で10%前後ある。
ただし、ドイツは両方支持が31%にも上っている点が目立っている。主要与党の社会民主党、主要野党のキリスト教民主同盟のいずれも何度も政権政党であった長い歴史があり、両方とも信用度が高い反映と考えられる。
図には示していないが、G7諸国以外で「両方支持」が最も多いのは、インドネシアであり50%にも上っている。インドネシアの主要与党は旧スハルト系の大衆寄り保守政党「ゴルカル」であり、主要野党は大きな政府を目指すスカルノ系の「闘争民主党」であるが、それぞれの支持率は30%、7%、どちらも不支持は11%に過ぎない。両方支持が50%ということは、選挙ではどちらかを勝たせるが、実はどちらでもよいと国民は考えていると言わざるを得ない。
■日本は不人気政党の虚勢の張り合い
こうした国と比較すると、日本の政党評価は、少なくとも主要政党については、まるで信頼されていないと言わざるを得ない。米国、ドイツ、インドネシアでは、どちらでもいいけれど、その時の状況に応じてどちらかを選んでいるのであるが、日本の場合は、どちらもそんなに信頼していないのであるが、その時の状況に応じてどちらかを選んでいるに過ぎないのである。
そう考えると、今回の衆院選も、人気の薄い与党自民党が維新と組んで「右派改革」を打ち出し、他方、やはり人気の薄い野党立憲民主党が公明と組み、「中道改革」を打ち出しているが、直面している日本の課題を解決するための骨太で強い政策的主張は感じられない。
むしろ、主要与野党が、いずれも単独では人気を保てないから、とりあえず立場が近い小政党と一緒に虚勢を張ることにしただけのように見える。
こうした状況なので、今回の衆院選においても、国民の選択は、ちょっとした何かのきっかけ(選挙活動時の候補者の不正、スキャンダル、失言など)で与野党どちらに転んでもおかしくないと考えられよう。
また、既存政党である第1与党、第1野党のいずれもが信頼感が低い状況なので、国民民主党、参政党などそれ以外の新興政党が大いに票を伸ばす余地も十分にあり、その結果、政界再編につながる可能性もないとはいえまい。

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本川 裕(ほんかわ・ゆたか)

統計探偵/統計データ分析家

東京大学農学部卒。国民経済研究協会研究部長、常務理事を経て現在、アルファ社会科学主席研究員。暮らしから国際問題まで幅広いデータ満載のサイト「社会実情データ図録」を運営しながらネット連載や書籍を執筆。近著は『統計で問い直す はずれ値だらけの日本人』(星海社新書)。

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(統計探偵/統計データ分析家 本川 裕)
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