日本国内のBYD正規ディーラーは49店舗におよぶ(2026年1月現在)。日本にも中国車が浸透しつつあるのか。
自動車業界に詳しいマーケティング/ブランディングコンサルタントの山崎明さんは「もはや『中国車』として一括りで見るのは間違いだ。中国自動車メーカーのいくつかは世界で通用するメーカーになっていく。その最有力候補がBYDだ」という――。
■「中国車」と一括りにするのは間違い
中国車というと、電気自動車(BEV)を思い浮かべる人が多いだろう。その多数は粗悪品であり、炎上事故が多発し、過剰生産されたBEVが中国各地で大量に捨てられている、というイメージを持っている人も多いかもしれない。
それは多くの場合事実でもある。しかし一方で、一部のメーカーの製品は欧州でもその実力を認められ、販売を伸ばしているということも紛れもない事実なのだ。
価格がどんなに安くても、粗悪な製品であれば目の肥えた欧州ユーザーは選ばないはずだ。つまり「中国車」と一括りで見ることは明らかな間違いなのである。
■中国メーカーの技術力は…
加えて、日本で売られているテスラやボルボ、MINIなどのBEVはほとんど中国製であり、中国メーカーとの共同開発車であるものも多い。トヨタはBYDと合弁でBEVを開発する会社を設立しており、その第1弾がトヨタbZ3である。
BEV用バッテリーではメルセデスベンツやBMWなど多くの欧州ブランドで中国メーカー製が採用されており、アメリカメーカーも採用を開始した。
日本ブランドでも日産アリア、ホンダN-ONE e、トヨタbZ4X(一部モデル)などでCATL製バッテリー、スズキeVITARAでBYD製バッテリーを採用している。
テスラもBYDのバッテリーを採用することで充電性能を大幅にアップさせているなど、中国バッテリーメーカーの実力は相当のものになっている。
■BYD「シーライオン6」に注目
日本では中国ブランド完成車として唯一BYDが市場参入している。ただし今まで導入された車種はすべてBEVのため、BEV市場がまだきわめて限定的な日本ではその絶対数は非常に少ないのが現状だ(2025年:3742台。前年比68%増)。
しかし2025年12月1日、シーライオン6というモデルが日本に導入されることが発表された。私は今までBYDの新車発表会には一切出席してこなかったが、今回は出席することとした。なぜなら、今回は大いに注目すべきポイントがあったからだ。
今まで日本市場に導入されたBYD車と違い、今回のシーライオン6はプラグインハイブリッド車だ。つまりガソリンエンジンも搭載し、BEVモードのほかハイブリッドモードもあるモデルなのである。
私は以前からBYDのハイブリッドシステムであるDM-iには注目していて、その技術説明も中国からエンジニアを招いて行われるということで、これは行かざるを得ないと思った次第である。
■ドイツではBYDの販売台数の4割以上を占める車種
BYDというとBEVというイメージであるが、2024年にはPHEVの生産台数がBEVを超えるほどになっている。

BYDは、EUの高関税にもかかわらずドイツ市場で前年比8倍越えという急成長を遂げているが、2025年の販売台数ではBEVの1万1167台に対し、PHEVは1万2138台と、PHEVのほうが多くなっている。2024年はBEVの2781台に対しPHEVは109台に過ぎなかったのだから、PHEVだけで見れば前年比111倍である。
その中でも、今回日本に導入されたシーライオン6(ドイツでは「SEAL U DM-i」という名で売られている)の売れ行きはすごく、9562台とBYDの販売の4割以上を占めている。
■日本のハイブリッドシステムに迫るポテンシャル
なぜ私はBYDのハイブリッドシステム、DM-iに注目していたのか。それは、DM-iが原理的にホンダのe:HEVと似たシステムだからであり、また、日本のハイブリッドシステムに対抗できるポテンシャルがあるのではないかと考えていたからだ。
ちなみに欧州メーカーで日本のハイブリッドに対抗しうるレベルのハイブリッドシステムの開発に成功しているメーカーはルノーのみである。
DM-iはほとんどの場合電気モーターで走り、エンジンは発電に徹するが、高速走行時にはエンジンが直接駆動するモードがある。
またエンジンはハイブリッド車用に特化して開発されたもので、圧縮比は量産ガソリンエンジンとしては世界最高レベルといわれるマツダのSKYACTIV-Xを超える15.5を達成し、非常に高い熱効率を実現しているという。しかもハイオク推奨のSKYACTIV-Xと違ってレギュラーガソリン仕様である。
■果たして日本仕様シーライオン6の燃費は
そこで今回の発表で私が最も注目していたのは、日本仕様シーライオン6の日本基準での燃費である。
シーライオン6の燃費は欧州基準では発表されているが、欧州のPHEV燃費基準というのはきわめて恣意的で、充電した電気によるBEV走行分を過大に評価して数値化している。そのためハイブリッド技術の優劣がわかりにくいのである。

日本基準はプラグインで充電した分は考慮せず、ハイブリッド走行時の燃費を示すので、ハイブリッド技術の優劣が明確化される。注目のシーライオン6の日本基準での数字なのだが、なんとWLTC燃費で22.4km/Lである(2WDモデルの場合。4WDモデルの数字はまだ公表されていない)。
■日本メーカーを上回る燃費性能
世の中のPHEVの多くは電気モーター駆動とエンジン駆動を切り換えるパラレル式が多く、日本基準の場合ではそれほど優れた燃費にならないことが多い。
たとえばシーライオン6とボディサイズ的に大きく違わない三菱アウトランダーPHEVの燃費は17.2km/L、マツダCX-60 PHEVは14.3km/L、ボルボXC60 PHEVは14.3km/L、メルセデスベンツGLC350eは12.0km/Lである。
どれも4WDという不利はあり、動力性能もシーライオン6より優れているが、燃費ではシーライオン6に大きく見劣りするのだ。
世界に誇るトヨタハイブリッドシステムを採用するRAV4 PHEVはさすがに優秀で22.2km/Lだが、シーライオン6はわずかながらRAV4 PHEVも凌駕しているのである。RAV4は4WDなので2WD仕様があればシーライオン6より優れた数値にはなるだろうが、それほどBYDのDM-iシステムは優秀だ。
ホンダは現時点でPHEVがラインアップされていないのでハイブリッドと比較すると、ZR-V e:HEVの2WDモデルの燃費は22.1km/Lである。これは1kWh程度の小さなバッテリーしか搭載していないので(シーライオン6は18.3kWhのバッテリー搭載)、加速性能も大きな差はなく、数値上ではホンダe:HEVよりBYD DM-iのほうが優れていると言っても過言ではない。
■驚異の価格戦略
さらに驚異的なのは、シーライオン6(2WD)の価格が398万2000円という事実だ。RAV4 PHEVは566万1700円もするのである。

三菱アウトランダーPHEVは最も安いモデルで529万4300円である。一回り小さいエクリプスクロスPHEVでも465万800円からだ。
シーライオン6は装備も充実しており、パノラマサンルーフ、ヒーター/ベンチレータ付電動シート、V2L/V2H機能など標準装備で、新車保証も一般保証6年/バッテリー8年と長い(トヨタPHEVは一般保証3年/バッテリー5年)。この競争力の一定部分は中国政府の補助金によるものかもしれないが、現在のBYDの技術力・価格競争力は相当なものなのである。
現在中国の新エネルギー車の対象となるのはBEV/FCV/PHEVだけなので、BYDは通常のハイブリッド車は生産していない。もしプラグイン機能を排して小型バッテリーを搭載したハイブリッド仕様を作ればさらに価格を下げ、燃費も向上させることが可能だろう。
■日本メーカーも油断できない
2026年後半には、日本の道でも使いやすいコンパクトサイズのATTO 2 DM-iも導入されるようだ。このモデルにはPHEVながら7.8kWhという小容量バッテリー版もあり、その競争力は相当なものになると予想される。
中国自動車市場ではBEVが主流を占めるもののPHEVの存在感も大きく、各社はその技術を競い合っている。PHEVはバッテリーだけでなくガソリンエンジンやハイブリッドシステムの性能も問われる。
ガソリンエンジンとハイブリッドシステムの性能が上がれば、競争力のあるハイブリッド車を作ることも可能となる。ハイブリッド技術で先行する日本メーカーもうかうかしてはいられないのである。

■さらに苦境に陥る欧州メーカー
最も危機的な立場に立たされているのは欧州メーカーだ。これからの時代のキーテクノロジーであるBEVでもハイブリッドでも中国メーカーにまったく太刀打ちできないから、欧州はよりいっそう保護主義に向かわざるを得ないだろう。
繰り返しになるが様々なレベルの会社が混在している現状で「中国車」と一括りで見るのは間違いである。
激しい中国市場での競争の中、最後まで生き残っていく中国自動車メーカーのいくつかは日本メーカーが主張していたマルチパスウェイという視点でも世界に通用するメーカーとなっていくと考えるべきだろう。
そしてBYDは、現時点でその最有力候補の1つといえる。なにしろあのトヨタが共同開発先として選んでいるくらいなのだから。

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山崎 明(やまざき・あきら)

マーケティング/ブランディングコンサルタント

1960年、東京・新橋生まれ。1984年慶應義塾大学経済学部卒業、同年電通入社。戦略プランナーとして30年以上にわたってトヨタ、レクサス、ソニー、BMW、MINIのマーケティング戦略やコミュニケーション戦略などに深く関わる。1988~89年、スイスのIMI(現IMD)のMBAコースに留学。フロンテッジ(ソニーと電通の合弁会社)出向を経て2017年独立。プライベートでは生粋の自動車マニアであり、保有した車は30台以上で、ドイツ車とフランス車が大半を占める。
40代から子供の頃から憧れだったポルシェオーナーになり、911カレラ3.2からボクスターGTSまで保有した。しかしながら最近は、マツダのパワーに頼らずに運転の楽しさを追求する車作りに共感し、マツダオーナーに転じる。現在は最新のマツダ・ロードスターとホンダ・フィットe:HEVを愛用中。著書には『マツダがBMWを超える日』(講談社+α新書)がある。日本自動車ジャーナリスト協会会員。

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(マーケティング/ブランディングコンサルタント 山崎 明)
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