イオンは2025年12月、食品スーパーの再編を発表した。流通アナリストの中井彰人さんは「インフレに転換した影響で、大手が有利な状況になった。
ここからスーパー業界は寡占化に向かう。イオンの再編はその戦いに備えるためではないか」という――。
■クルマ社会化をいち早く察知したイオン
流通大手イオンの本社は、現在は千葉市幕張にある。そのため、首都圏の会社だと思っている人もいるかもしれないが、そもそもは三重県四日市市の老舗商店から出たスーパーだ。中部地方から地方ロードサイドに総合スーパー・ジャスコを展開して大手の一角にのし上がった地方企業である。
昭和の時代、総合スーパーが小売の主役に成長したのであるが、その頃のライバルスーパーというと人口の多い大都市圏出身が普通で、ダイエー(大阪)、イトーヨーカ堂(東京)、西友(東京)、ユニー(愛知)、マイカル(破綻した大手、大阪)など、イオン以外はみな大都市出身であった。
そんな地方出身のイオンがスーパーの最大手となれたのは、当時急速に進行していた地方でのモータリゼーションの普及(クルマ社会化)という変化をいち早く察知し、幹線道路沿いに大型のスーパーやショッピングモールを作って、地域のシェアを奪うという戦略を採用したから、と言われている。
■イオンVS地域ごとのシェア上位企業という構図
今や地方では、駅前やバスターミナル周辺の中心市街地が衰退して、郊外の大型モールで買物をする時代に移行していることは皆さまもご存じであろう。地方出身のイオンはこうした人流の変化に合わせて、地方の駅前や中心市街地の店を閉めて郊外幹線道路沿いへと引っ越しさせたことで、都市出身のライバルの先手を打って、地方ロードサイドを制覇、そして全国へとシェアを広げることに成功した。
今ではイオンのスーパー事業の営業収益(総合スーパー+食品スーパーの合算)は、6兆6000億円と競合を圧倒する水準に拡大し、業界での競争はイオンVS地域ごとのシェア上位企業という構図になっている。都会出身のライバルだった総合スーパーは、いまやダイエー、マイカルはイオンの傘下に吸収、西友は外資→ファンド→トライアル、ユニーはPPIH(ドン・キホーテ運営会社)の傘下となった。最後まで残っていたのがイトーヨーカ堂であったのだが、昨年ファンドの傘下となり、セブン&アイHDの連結から外れたことは記憶に新しい。

という経緯でトップシェアのスーパーとなったイオンなので、実は首都圏や京阪神といった大都市部においては、決して圧倒的な存在ではなかった。特に首都圏においての存在感は、傘下にしたダイエー、マイカルが関西勢ということもあり、かつてはそれほどでもなかった。こうした大都市圏は地代も高く、好立地の未利用地などないため、簡単に出店してシェアをキャッチアップすることはできない。
■首都圏ではM&Aでシェアを拡大してきた
そのため、イオンはM&Aによってシェアを確保するという戦略を推し進めてきた。それまでに様々な経緯から、イオンは各地のスーパーと資本提携を進めてきたが、首都圏ではそうしたスーパーを経営統合することで、USMHという子会社を組成、ここを軸としてシェアを確立する作戦をとった。2014年、マルエツ、カスミ、マックスバリュ関東を統合してUSMHをつくり、2024年には、いなげやも加わって売上約8000億円のイオン系スーパーができていた。
そして、2025年末、イオンは首都圏のスーパー事業を、USMHを軸に再編成することを発表した。(詳細はイオン、プレスリリースご参照)関東のダイエーやピーコックストアをUSMHの下で経営統合し、1兆2000億円クラスのスーパーとして首都圏におけるトップシェアを確立することになる。
■「実はあまり伸びていない」という現実
いなげやが加わった時点で、ほぼ1兆円規模への到達が見込まれ、かつての首都圏トップシェア、イトーヨーカ堂も昨年の大規模店舗閉鎖で大きく減らした今、イオンのトップシェアは既に揺るがないとみられていた。そこで更にグループ内再編を実施するというのだから、トップの確立、というだけではない事情があるだろう。
イオンの首都圏売上は、連結企業が増えたため大きくはなっているが、各社の売上を過去と比べても、実はあまり伸びていない≒競争で勝っているわけではない。つまり、統合後のシェア競争では競合他社に負けている、という厳しい現実がある、ということである。

図表1、図表2は首都圏における主要スーパーの営業収益(もしくは売上高)の2018年と2024年とを比較してどのくらい増減しているかを示したものだ。最近時の首都圏スーパーの競争力を反映していると言っていいだろう。これを見てわかるのは、USMHとしての数字は1170億円伸ばしているが、これはいなげやが加わった分であって、実際にはマルエツ+264億円、カスミ+34億円、マックスバリュ関東+10億円、合計は308億円となる。
それに対して、上位のライバルである、ヤオコー、オーケーは+3000億円、ベルクは+1600億円、伸ばしているのと比べると、だいぶ差がある。それに次ぐのがライフ、サミットの+約700億円、マミーマートが500億円といったところになるが、それでもUSMHを上回る。イオン勢で好調なのは小型スーパーまいばすけっとで、小さな店を大量出店することで1367億円も伸ばしたのだが、USMHはそれに比べるとかなり低調だというしかない。つまりは、てこ入れが必要だった、ということになる。
■スーパー業界「50年に一度」の大転換期
USMHにダイエーの関東事業とピーコックストアが加わると共に、650億円を追加投資することで、統合効果40億円を実現するのだというが、既にトップシェアを達成したイオンが体制強化を急ぐのには、さらにもう一つ別の理由がある。それは、スーパー業界が50年に一度の大転換期を迎えつつあり、業界の寡占化が一気に進む可能性があるからだ。
スーパー業界は寡占化しないことで知られ、今でも全国各地に多様な地元銘柄が存在感を示しているし、中小零細事業者が数多く生き残っている。この理由について、日本の地域ごとの多様な食文化が均一化を阻んでいる……、といった情緒的な説明がまことしやかにされているのだが、実はそんな話ではない。
魚食、生食文化によって、日本の消費者が鮮度にうるさいことは間違いなく、このために日本のスーパーのオペレーション(OP)は、生鮮品の小分け、パック詰めを各店舗のバックヤードでする、という日本独特のやり方(インストアOP)がデファクトスタンダードになっている。
店で切り分けているから生ものが新鮮です、というアピールであり、それは生鮮売場の後ろがガラス張りになっていて、作業している様子をわざと見せている、という風景を思い出してもらえれば、なんとなく理解してもらえると思う。
■人手不足とインフレで大手が有利に
本来は集中センターで小分け、パック詰めするのが、チェーンストアの生産性を向上させる。日本では鮮度優先のため、この生産性を犠牲にしてきた、ということになる。規模の利益を抑制するものであったため、これがスーパーにとってのハンデとなり、大手も中小も生産性の差が付きにくかった、ということを意味している。多様なスーパーが残れたのは、このハンデがあってのことだということをまず理解していただきたい。
つまり、このハンデが外れれば、規模の利益は一気に大手に有利に働く、ということでもある。そして、デフレからインフレへと完全に転換した今、そのハンデが消失する方向で動き始めたのである。
インストアOPの生産性が低いのは、作業が店舗ごとに分散して人手がかかるから、である。デフレ時代にはパート従業員が確保できたため、こうした労働集約的なOPが維持できたのだが、インフレ転換後の今、人出不足と人件費の高騰により、持続することが難しくなってきた。その上、物価上昇の価格転嫁はフルにはできず、冷蔵冷凍機器だらけなのに電気代は高騰している。
対策は集中加工センターを使って、インストアOPの工程を効率化するしかないのであるが、大規模設備投資が必要な上に、規模がないと投資回収ができない。つまり、これこそが規模の利益、ということであり、標準がここに移行することは、大手に一方的に有利になること≒ハンデ戦の終焉を意味する。
ざっくり言うなら、これまで多様な企業が併存していたスーパー業界が、ここから一気に寡占化へ向かう、ということなのである。
■戦国さながらの時代に突入する
小売業の寡占化はスーパー以外では進んでいて、ご存じ、3社寡占のコンビニは97%くらい、ドラッグストア、ホームセンターなどは上位8社で7割弱のシェアを持っている(図表3)。スーパーは約4割と言われているから、このままいけば市場(食品小売で40~50兆円)の約3割のシェアが再分割されるという大再編が起こるのである。つまり、12~15兆円くらいの大きな食品流通市場を業態を超えた大手企業が奪い合う、戦国さながらの時代に突入する、ということなのだ。
最大手イオンがグループ再編を進め、主戦場たる首都圏で巨大スーパーを再編成するのはこの戦いに備えるためなのである。そして、インストアOPなしで集中センターから商品供給するという実験を成功させたのが、イオンのまいばすけっとなのであり、この成功がかれらの戦略転換へのエビデンスとなっていることも付記しておこう。
■戦国時代における「鉄砲」の登場である
戦国時代に例えるなら、前半期に各地の中小豪族が独立の支配権をもって割拠していた時代、勝ったり負けたりでなかなか収斂するには向かわなかったことはご存じであろう。その群雄割拠を一極集中に向かわせたのが、新たな技術革新「鉄砲」であったことも有名である。ちょっと物騒な表現で恐縮だが、この「鉄砲」とスーパーの集中センターとは似ているところがあって、どちらもカネがないと、装備、設備投資ができない。
経済力のある組織が勝つ戦国時代と同様、収益規模がスーパー存続の条件となり、そして割拠の時代は寡占化へと向かう。イオンの首都圏再編(関西でもやっているが)は、最大手による覇権確立の宣言でもある。そして、イオンに次ぐ大手スーパー各社も決勝リーグに残るため、一斉に「鉄砲」(集中センター投資の意)装備競争に走り始めた。
そして、5年もすれば、この寡占化ストーリーが顕在化することになるだろう。

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中井 彰人(なかい・あきひと)

流通アナリスト

みずほ銀行産業調査部を経て、nakaja lab代表取締役。執筆、講演活動を中心に、ベンチャー支援、地方活性化支援なども手掛ける。著書『図解即戦力 小売業界』(技術評論社)、共著『小売ビジネス』(クロスメディア・パブリッシング)。東洋経済オンラインアワード2023ニューウエーヴ賞受賞。

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(流通アナリスト 中井 彰人)
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