京都発祥のラーメン店「天下一品」には直営店とフランチャイズ店が存在する。マニアの間では「直営とフランチャイズでは味が違う」という通説があるが、ラーメンライターの井手隊長氏は「かつては店ごとの違いが大きい印象があった。
だが、今は統一化に向かっている」という――。
※本稿は、井手隊長『天下一品 無限の熱狂が生まれる仕掛け』(日本実業出版社)の一部を再編集したものです。
■エリア別スーパーバイザーが店舗を管轄
「天下一品」では各地を担当するスーパーバイザーがいて、店舗を管轄している。
スーパーバイザーの担当は関東、関西とざっくりエリアごとに分かれているが、フランチャイズのオーナーが複数店舗を展開していることも多いので、そういう場合は1人のバイザーがそのオーナーの展開店を担当する。
新店舗のオープンのたびに、従業員の研修などを行ない、オープン後も都度店舗を回って指導する。従業員の年齢は幅広く、アルバイトの学生や外国人もいるので、指導のハードルは高い。東京では上野店や秋葉原店などは外国人従業員が多い。一方で、外国人の来店客も多いので、外国人従業員を入れることで、言語面で助かっている部分も多いそうだ。
店舗マニュアルや接客マニュアルを用意し、アルバイトスタッフもそのマニュアルどおりに仕事をしてもらう。
■新体制で「自由」から「統制」へ
じつは、昔はそこまで徹底をしていなかった。
ユニフォームがバラバラの時代もあったし、メニューについてもこってりとあっさりを出していれば、他のサイドメニューなどは店舗の自由だった。
しかし、新社長(木村一仁社長)に交代してからは、統一化に向けて動き始めた。

店舗によってバラバラではブランドイメージが統一できず、経営面からみても効率が悪い。ここから、食器からユニフォームに至るまで統一を図っていった。
これには賛否両論あった。
昔は店による違いがあって良かったが、いまはおもしろくなくなったという意見も出た。マイお気に入り店がある常連客にとっては、おもしろみがなくなってしまったわけだ。
しかし、「天下一品」の今後の成長を考えると、さらなる店舗展開をしていくなかで、どこの店で何のメニューを出しているかわからないのでは、本部として責任が取れない。
本部で統制が取れないのでは運営は難しいと、統一の方向性を打ち出した。
■直営とFC店の情報を公表しない理由
「天下一品」のマニアのなかでは、直営店とフランチャイズ店の違いの話がよく出る。
「直営とフランチャイズでは味が違う」とか「あそこは直営だからうまい」とか、いわゆる「天下一品マウント」を取ってくる人がいるが、実際のところは、本部としては全店舗同じクオリティになるように精一杯努力している。
味の面はもちろん、オペレーション、接客のすべてに至るまで、フランチャイズ店に対しても徹底的にクオリティ向上に励んでもらう。
お客さんにとってはその店が直営であろうがフランチャイズであろうが、同じ「天下一品」であって関係がないからだ。ゆえに、どの店が直営で、どの店がフランチャイズかという情報は公表していない。

フランチャイズ店にはスーパーバイザーなど社員が定期的に視察に行き、マニュアルや接客、味のクオリティのチェックなどを行っている。
フランチャイズのオーナーのなかには煙たいと感じる人がいるかもしれないが、逆にここまで手厚く管理することは各店舗にとってもブランド全体にとってもプラスに働く。
この細かな管理があってこそ、お客さんはどこの「天下一品」に行っても満足できる結果になるのだ。
直営・フランチャイズに関係なく、「天下一品」の看板を掲げている限りは平等に扱うのが決まりになっている。
どこに行ってもおいしくて満足できる店づくりに努めているので、決して「直営だからおいしい」ということにはならないのだ。それは直営店至上主義のマニアの幻想に過ぎない。ぜひ気にせず、どんな「天下一品」にも足を運んでみてほしい。
■店舗限定メニューはどのように生まれるか
かつては、気づけば店舗限定のサイドメニューが出ているといったこともあった。
そういう商品に対して、お客さまから問い合わせがあっても本部は答えることができない。「天下一品」の看板を掲げている以上は、本部でコントロールできるようにしなくてはならないから、勝手にサイドメニューを出すことは禁止になった。
ただ、本部から言われたことだけをやれということではない。
新しい取り組みをしたいときは申請を出して、チェックのあと許可が出ればOKだ。
自由な発想でお店の売上を伸ばしていこうという考え方に対しては本部もウェルカムだ。ただ、勝手にやることだけをNGにしている。
これはフランチャイズチェーンにおいては一般的には当たり前のことだ。いままでが自由すぎたというのが正しいだろう。
このような経緯もあって食器やユニフォームなどは全店で統一されたが、いまだに店舗限定のメニューは結構ある。
店舗限定メニューについては、店長、フランチャイズのオーナーなどいろいろなメンバーから提案がある。従業員にアイデアを出してもらって開発している店もある。
基本的にそのメニューが良いものであれば申請は通るが、何でも好きなものを提供できるわけではなく、過去に「カレーを出していいですか」という申請があった際は、「『天下一品』とまったく関係ないものを出されても難しい」と判断された。
現実的に1店舗だけでコストをかけた手のかかるメニューはなかなか実現するのは難しい。一方で、材料を本部から引っ張るよりも、地元のほうが安いという場合は申請したら検討はしてもらえる。店舗限定メニューの一部をご紹介しよう。
■ヒットすれば全店舗に広がることも
店舗限定で大ヒットになれば、全店舗に広がることもある。

また、いずれ全店舗で展開することを前提に、トライアルで数店舗限定で先出しすることもある。テストを経て、お客さんからの反響や売上データをまとめ、全国展開に向けた説明会をオーナー向けに行なって、全店舗に広げていく。
「FC会」という全国のオーナーや店舗責任者が出席する会議がある。新商品については、その場で発表して、質疑応答を受ける。全国展開が決まったら、研修会や説明会を開き、スーパーバイザーが調理の仕方などをレクチャーする。
前述のとおり、店舗限定商品はどうしてもスケールメリットが出ない。食材などは大量仕入れしたほうがコストパフォーマンスが良くなるので、その目的もあって、できれば全国展開にもっていきたい。直営だけでやっているメニューもあったが、コストパフォーマンスを考えて、いまは全国統一メニューの方向にシフトしていっている。
■すべては「こってり」ありきのメニュー開発
気になるのは、可否がどういう基準で判断されているか。これはハッキリしている。
「こってりラーメンが売れるためのサイドメニューかどうか」だ。
「天下一品」はこってりラーメンが看板メニューのラーメン店であるから、そこを邪魔する品はNGなのだ。
だからカレーは出せないし、九州の店舗だからといって皿うどんを出すのもNGだ。
あくまでラーメンを注文してもらって、そのプラスアルファで注文してもらえるサイドメニューを良しとしている。客単価を上げるために、単品よりも定食にしたり、トッピングを開発したりと、日々知恵を絞っている。バラバラにみえてすべてのサイドメニューがこってりラーメンに照準が合っている。一緒に食べたときの口内調味も考えて設計されているのだ。
だから、「天下一品」においてはラーメン以外のものだけを食べて帰るお客さんは基本的には存在しない構図になっている。町中華だと、たとえば、チャーハンだけ食べてラーメンは注文しない人も多いが、「天下一品」ではほぼそういうことにはならない。
現行のメニューでは、唐揚げとチャーハンだけを注文することもできるが、実際にはそういう人はほとんどいない。ほぼ全員がラーメンを食べて帰っている。
もっと言えば、「天下一品」ではラーメンだけを食べている人も非常に少ない。
これは大きな特徴だ。
なぜか何かしらのサイドメニューを注文したくなってしまう仕組みがすごい。

これは長年各店で考えてきたアイデアの結晶だ。「こってり」というすさまじい一強の商品があったからこそ、それと一緒に食べてもらえるサイドメニューを長年開発できたのだ。

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井手隊長(いでたいちょう)

ラーメンライター、ミュージシャン

全国47都道府県のラーメンを食べ歩くラーメンライター。メディア出演、ラーメンの商品監修など多方面で活躍中。ラーメンの「1000円の壁」問題や「町中華の衰退事情」など、ラーメン業界をめぐる現状を精力的に取材。「羽鳥慎一モーニングショー」(テレビ朝日)「ABEMA的ニュースショー」(TBS)などテレビ出演も多数。本の要約サービス「フライヤー」執行役員、「読者が選ぶビジネス書グランプリ」事務局長も務める。著書に『できる人だけが知っている「ここだけの話」を聞く技術』(秀和システム新社)、『ラーメン一杯いくらが正解なのか』(早川書房)がある。

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(ラーメンライター、ミュージシャン 井手隊長)
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