人見知りの人が、ラクに人と話せるようになるにはどうしたらいいのか。起業家で作家の豊留菜瑞さんは「人見知りの人は、『自分から何かを話さなければいけない』と思い込んでいることが多い。
まずは、『自分から話すこと』をいったん諦め、相手の話を聞くことだけに集中してみるといい」という――。(第2回/全3回)
※本稿は、豊留菜瑞『人見知りの仮面』(サンマーク出版)の一部を再編集したものです。
■「話さなきゃ」が会話を苦しくする
かつての私は、会話とは「自分から何かを話さなければいけないもの」だと思い込んでいました。
ただ人見知りの人にとって、この思い込みこそが最大の苦しみを生みます。
ある日、仕事で初めて会う方とランチをすることになりました。
業界の先輩で、尊敬している方です。絶対にいい印象を残したい。
そこで席に着くなり、私は用意してきた話題を次々と繰り出しました。
「最近の業界動向、すごく変化が早いですよね。特にAI関連の動きが激しくて、私も最近すごく勉強してるんです」

「先日発表されたあのプロジェクト、見ました? あれ、すごく面白いアプローチだと思って。私もああいう視点で仕事したいなって」

加えて相手が何か言おうとすると……、「あ、そうそう、それで言うと、最近読んだ本にも似たような話があって……」と、間髪容れず新しい話題を振り続けました。
この時、私の頭の中は次の話題を探すことで必死。
相手が何を話していても、聞いているようで「次は何を言おう」とばかり考えているのです。
会話は続いているのに、なぜか距離は縮まりません。
それもそのはずです。
相手が何を話していたのか、

どんな表情をしていたのか、

どんな気持ちだったのか。

全然、見えていませんでした。
会話で大切なのは、「自分が何を話すか」ではなく、「相手の話を、どう受け取るか」だったのです。
■「話す役」をいったん降りてみる
なお、「自分が話さなきゃ!」「自分がこの場を盛り上げなきゃ!」というプレッシャーで、意識が自分にばかり向いてしまう現象を、心理学では「自己注目」と呼びます。
これは、社交不安を強める最も典型的なパターンだと言われ、心理学者のクラークとウェルズによる「社交不安障害の認知行動モデル」の研究では、「自分への注目が高いほど会話がうまくいかなくなり、さらに自己評価が下がる悪循環が起きる」と示されています。
つまり、人見知りの人が苦しくなるのは、「話すスキルが低いから」ではありません。
“自分をどう見せるか”に意識のほとんどが奪われてしまうからです。
では、どうすればいいのでしょうか?
相手の前に立った時、「自分から話すこと」をいったん、諦めてみる。
まずはここから始めてみてください。

■「聞くこと」だけに集中する
無理に話題を作らなくていい。
場を盛り上げなくてもいい。
その代わり、相手の話をじっくり「聞くこと」だけに集中してみる。
こうして「話さなきゃ」という焦りが消えた瞬間、不思議と会話が楽になります。
これが、「聞く」という技術の第一歩です。
ただし、ここで1つ、多くの人が陥る落とし穴があります。
それが、「聞いているようで聞いていない問題」です。
■「無」の自分で相手の話に耳を傾ける
相手の話を耳で聞きながら、頭の中では、
「この話、どう返そう」

「共感の言葉、何か言わなきゃ」

「次はどんな質問をしよう」

といったように、次の一手ばかり考えてしまうことはないでしょうか?
これは一見、「聞いている」ように見えますが、実際は「自分の次の行動を探している」だけ。
意識は、まだ自分に向いたままです。
本当の意味で相手の話を「聞く」ためには、もう一段階、深いステップが必要になります。
それが、「無」の状態で聞く、ということ。
「無」とは、例えば次のような状態です。

× 評価する:「この話、面白い/つまらない」と考える

○ 評価しない(無):ただ、相手が話している事実を受け取る
× 比べる:「自分ならこう思う」「自分の経験では……」と考える

○ 比べない(無):相手の世界を、相手の視点で見る
× 探す:「何て言えばいいかな」「次は何を……」と返す言葉を考える

○ 探さない(無):今、目の前にいる相手の言葉だけに集中する

先ほども登場した、心理学者のクラークとウェルズによる研究では、注意の焦点を「自分の内側」から「相手(外側)」へ移すだけで、社交不安が大幅に軽減されることが示されています。
「無」とは、まさにこの状態です。
自分の中での評価や判断を止め、ただ相手を観察することに集中する。
具体的には、相手の話を聞く時、次のように意識を切り替えてみてください。
「上手く返す必要はない。今は、この人の話を、ただ受け取ろう」
この瞬間、少しだけ肩の力が抜け、呼吸が楽になります。
そして、今まで気づかなかった相手の声のトーンや、表情の微妙な変化に、ふと気づくようになります。
完璧にできなくても構いません。
時々、「何て返そう」と考えてしまっても大丈夫。
それでも、「今は聞くことに集中しよう」と意識を戻すだけで、会話の質は少しずつ変わっていきます。
これが、「無」の力です。
■意識の「矢印」を相手に向ける
ただ、「無」で聞こうとしても、気を抜くとやっぱり意識が自分に戻ってしまうことがあります。

人見知りの人は、
「どう思われているか」

「何を言えばいいか」

「失敗していないか」

といったように、無意識下では意識の矢印が常に自分に向いているからです。
だからこそ、矢印を意識的に相手へ向ける訓練が必要なのです。
■「会話を盛り上げる」をやめてみた
ある日、私は“無理に会話を盛り上げようとするのをやめる”という実験をしました。
相手の言葉を聞きながら、心の中でこう問いかけてみたのです。
「この人は今、何に一番気持ちを込めて話しているんだろう?」
すると、不思議なことに、相手がどんどん話してくれるようになりました。
アクティブ・リスニング(積極的傾聴)の研究でも、聞き手が相手に注意を向けるだけで信頼関係が強まり、相手の満足感が高まることが示されています。
人見知りの人ほど、実はこの「矢印の切り替え」が得意です。
もともと繊細で、相手の変化に気づきやすいからです。
問題は能力ではなく、矢印の向きだったのです。
もし次に誰かと会話をする機会があったら、心の中でこう問いかけてみてください。
「この人は今、どんな気持ちで話しているんだろう?」
それだけです。答えを出す必要も、ジャッジをする必要もありません。

ただ、そう問いかけながら聞いてみる。
すると、相手の声のトーン、表情の微妙な変化、話すテンポ、今まで見えていなかったものが、ふと見えてくるようになります。
これが、矢印が相手に向いている状態です。
最初はすぐに自分に戻ってしまうかもしれません。
でも、気づいたらまた問いかける。
「この人は今、どんな気持ちなんだろう?」
その繰り返しだけで、会話の質は確実に変わっていきます。
なお、それが少し難しいと感じる方は、次の3ステップを活用してみてください。
■ステップ①声のトーンと間を観察する
「どのタイミングで声のトーンが上がったか?」「どこで言葉が一瞬、途切れたか?」を観察してください。
例えば、相手が「最近、新しいプロジェクトを始めたんです」と言った時、「新しい」という言葉の瞬間、声のトーンが少し上がったとしたら、それは、その部分に期待やワクワクが込められているサインです。
他のシチュエーションで言うと、「今の仕事も悪くはないんですけど……このままでいいのかな、って思うこともあって」と発言した時の「けど……」の後に視線がわずかに揺れることもあります。
沈黙の中で、答えを探しているのでしょう。
また、「このままでいいのかな」と言う時、語尾が少し下がることがあります。
その“間”は、まだ言葉にならない違和感を、心の中で確かめている時間です。不安は、たいてい沈黙と一緒に現れます。
■ステップ②表情の微細な変化を観察する
「どの話題で、目が輝いたか?」「どの瞬間に、表情が一瞬曇ったか?」を観察してください。
相手が笑顔で話していても、ある話題になった瞬間、目だけが笑っていないことがあります。
逆に、淡々と話しているように見えても、特定の言葉を口にした瞬間、目が少し潤んでいることもあります。
その変化に着目してみてください。
先輩経営者と働き方の変化について話していた時のことです。
その方は少し懐かしそうに、こう言いました。
「昔は、ああいう働き方も普通でしたよね」
そう言って微笑んだ直後、表情がほんの少し曇りました。その変化に気づいた私は、「当時の働き方は大変でしたか?」と問いかけました。
すると、その方はゆっくりと話し始めました。
「大変でしたね。でも、あの時の経験があるから、今の自分がある。当時に戻りたいとは思わないけど、あの頃の自分には感謝してるんです」
懐かしさと、戻りたくない気持ち。
その両方が浮かんだ表情の奥に、本音がありました。これこそ言葉より先に、表情が本音を語ってしまった瞬間です。
■ステップ③呼吸と身体の動きを観察する
「どこで、深く息を吐いたか?」「どのタイミングで、身を乗り出したか?」を観察してください。
例えば、相手が話しながら、ふーっと深い息を吐いた瞬間。それは、緊張が解けたサインか、もしくは重い話題に触れたサイン。
身を乗り出して話し始めたら、それは「ここが大事なんです」という無言のメッセージです。
過去にクライアントと話していた時のこと。
それまで相手は、椅子の背にもたれながら「全体としては、想定通りだったと思います」と話していました。
ところが、あるポイントに差しかかった時、身体が前に動き、自然と身を乗り出して「でも、ここだけは……どうしても伝えておきたくて」と重要なトピックをお話ししてくださいました。
その動き自体が、「ここが大事なんです」という無言の強調です。
身体は、話の構成を先取りしており、感情の通訳者です。
その変化に気づけると、会話は「言葉の意味」を超えて、「今、この人の感情に何が起きているか」を教えてくれます。
■相手の気持ちは言葉以外に表れる
これら3つのステップは、「言葉の内容」よりもはるかに雄弁に、相手の本音を語っています。
心理学では、これを「非言語的コミュニケーション」と呼びます。
実は、人が受け取る情報の93%は、言葉そのものではなく、声のトーンや表情、身体の動きから来ていると言われています。
つまり、相手の本当の気持ちは、言葉の「外側」に表れるのです。
最初から完璧に観察しようとする必要はありません。
「今日は声のトーンだけ意識してみよう」

「今日は表情の変化に注目してみよう」
そんなふうに、1つずつ試してみてください。

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豊留 菜瑞(とよどめ・なつみ)

インフルエンサー

1989年生まれ。年間240冊の書籍を読破する、ビジネス書の探究者。読書アカウント集団・BUNDANを運営。代表を務める。読書を通して得た「働き方」や「生き方」の知恵を自身の人生で実践し、複数のフットケアサロンを起業・経営。著書に『忙しさ幻想』(サンマーク出版)がある。

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(インフルエンサー 豊留 菜瑞)
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