繁華街を中心にシェア電動モビリティの利用が増えている。自転車評論家の疋田智さんは「危険を伴う3つの問題が解決されていないまま、利用エリアが拡大している。
民間企業に任せているだけでは、交通ルールの周知と徹底は追いつかない」という――。
■大手3社に聞きたかった3つの疑問
2026年1月、電動モビリティに関する2つの大きな動きがあった。
1つは京都府がLUUPを府職員の移動手段として導入したこと(後述)で、もう1つは、大東文化大学社会学研究所主催のシンポジウムが開かれたことだ。題して「日本の短距離モビリティの“共存共栄”は可能か」。
タイトルこそ大学らしく真っ当なものだが、内容はアグレッシブで、要するに電動モビリティのシェア会社大手3社が一堂に会して、次をどうするかを議論するというものだった。
3社とは、ドコモバイクシェア、Luup、シナネンホールディングス(ダイチャリ)。東京の街中のいたる所で見かける「赤」「ペパーミントブルー」「白」のシェアサイクルで、文字通り呉越同舟である。
司会が大東文化大学の大野嶋剛教授で、混ぜっ返し役が私。私は前々から「彼らの描く未来」が知りたいと思っていた。未来とは特例特定小型原付自転車の進化タイプ、電動スクーター(電スク)のあり方だ。
電スクとは、ひとことでいうと「電動キックボードにサドルが付いたもの」。メーカーによっては電動シートボードとも呼ぶ。
この電スクには、大きく3つの疑問点があるのだ。
■「歩道爆走、飲酒運転、ノーヘル」全部危険
1問目が「特例特定小型原付は車道20km/h、歩道6km/hの制限がありますが、現実には歩道を20km/hモードで爆走していますよね? その対策は?」という部分だ。
これは「そうなるかもしれない」という話ではなく、すでに現実としてそうなっている。ママチャリの通常速度が12km/hといったところで、20km/hだから、歩道を走るのは、危険極まりないのだ。
2問目が飲酒運転の問題。こうしたシェア電動モビリティの貸し出しポートは、多くの場合、繁華街にある。飲みに行って終電を逃した酔客が必然的に手を出すのがシェア電動○○なのだ。この問題をどうするか。
3問目がヘルメットの問題だ。ヘルメットは、電動キックボードも電スクも自転車と同じく「努力義務」となっている。確かに罰則はないが、これを徹底させるにはどうすればいいか。
この3つが私から3社への質問だった。

■ドコモの対策は「歩道を走れなくする」
まず1問目、歩道爆走の問題をどう考えるか。ここはドコモバイクシェアの担当者にうかがった。
「ドコモバイクシェアでは、新型電動モビリティ(電スク)をリリースするに際して、特例特定小型原付の『特定』をやめました。つまり歩道を一切走れないようにしたのです。車体にも『STOP!歩道ライダー』の文字を書き、車道オンリーにしました。これは広島市での社会実験でいちおうの手応えは得ましたが、ユーザーの『車道を走るのは怖い』との声も多く、課題は山積です」
なるほど。「歩道を走れない」という設定と、ついでにdocomoの「免許提示しないと貸さない」という取り組みは、画期的だと思ったが、同時にママチャリ的に乗る人の多い、このモビリティにとっては、なかなか難しかろうとも思った。
2問目はLuupに尋ねた。
■飲酒運転は言語道断、しかし現実は…
飲酒運転の問題には警察からの「圧」もある。なぜなら2024年の電動キックボード事故のうち、約20%を飲酒運転の電動キックが占めたからだ。
「弊社のポートはたしかに繁華街にあることも多いです。終電を逃した酔客が足として電動キックを使うことも多いのでしょう。
しかし、それは明らかに危険ですし、他者への迷惑も甚だしいと思います。何より道交法違反です。だから、弊社としては以前から『飲酒運転は厳禁』と言い続けてきました」
言うだけで実効性はありますか?
「いえ、言うだけでは難しい。ですから、2025年の末から、渋谷署と一緒に飲酒運転撲滅キャンペーンを始めました。渋谷のセンター街の突き当たりにあるポートなどで、抜き打ちで呼気検査を行い、アルコールが検知されたら貸さない、ということにしたのです」
渋谷はLuup社の創業の地なので、まずはそこからスタートしたという。これが次第に広がっていき、実効性が生まれるといいのだが。
■「全員ヘルメット」の実現が最大の課題
3問目、ヘルメットは「努力義務」だ。しかし、シェアサイクル、シェア電動モビリティ、どちらであっても、装着率はほぼゼロである。この課題に対するシナネンの回答は――。
「シェアサイクルにヘルメットを置いても、誰もかぶりません。サイズの問題、アタマの形の問題もありますし、他人が使ったヘルメットをかぶるのはいや、という意識もあります。特に女性は髪型が崩れるのを嫌うので、ますます被らないのです」
それもその通りで、現実として自転車ヘルメットが完全義務となっている国、オーストラリアやニュージーランドでは、自転車に乗る女性が減ってしまった。

「今後の課題として最も難しい部分だと思います」
ただし、一般の「自分の自転車」に関しては、すでに装着率は2割を超えた。なんとか試行錯誤を続けていただきたいものだ。
■3社ともがんばっているが時代は止まらない
正直申しあげて、聴衆の反応も含め、シンポジウムでの議論は盛り上がったものの、内容的には不完全燃焼だったと思う。あちらを立てればこちらが立たず。なおかつ3社が同時かつ共通して取り組んでいる事例、というのはなかった。しかしながら、3社が3社なりに問題意識と危機感を持っていることだけは分かったのだ。
しかし時代のスピードは止まらない。
冒頭で書いたように、京都府は1月19日、Luup社と連携協定を結び、職員の移動手段として電動キックボードを導入するというプランを打ち出した。
過大なインバウンド観光客によって交通麻痺に陥っている京都の交通を鑑みて「窮余の策」だという。
西脇隆俊知事は「職員の利用はもとより、京都府庁や国の重要文化財にも指定されている旧本館に来られる方々など、府民や観光客の皆様にも幅広く御利用いただきたいと考えております」とコメントしている。
しかしどうだろう。
私に言わせると、ただでさえ麻痺状態の京都に公的機関が新モビリティを導入して、それが新たなカオスを生み出さないだろうか。

■「LUUP公認」より前にやるべきこと
私に言わせると、来たるべき未来はこうだ。
府職員が電動キックボードに乗る。それを見て観光客や大学生たちがマネをする。電動キックが東京並みに流行る。
やがて電動キックが電スクに替わっていく。立ちっぱなしより座れて楽だからだ。
それが無免許の外国人観光客のユーザーの手に渡る。文字通り「右も左も分からない」「車道も歩道も分からない」状態で、電スクは歩道を爆走し始める。京都の街はさらにカオスに陥っていくのではないか。
私が思うに、まず公がやることは、ルールの周知と徹底だろう。そしてそれは民間に任せているだけでは追いつかない。
たとえばドコモバイクシェア社は、公の規則よりも厳しいレギュレーション(無免許ではなく免許必須・歩道モードを使わせない)を課しているのだ。

公よりも民間のほうがレギュレーションがキツい。規制緩和の逆だ。
こんなのは本末転倒であって、行政は、新型モビリティに飛びつくより前にやるべきことはあるのではないか。

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疋田 智(ひきた・さとし)

自転車評論家

1966年生まれ。東京大学工学系大学院(都市工学)修了、博士(Ph.D.環境情報学)。大東文化大学社会学研究所客員研究員。学習院大学、東京サイクルデザイン専門学校等非常勤講師。毎日12kmの通勤に自転車を使う「自転車ツーキニスト」として、環境、健康に良く、経済的な自転車を社会に真に活かす施策を論じる。NPO法人自転車活用推進研究会理事。著書に『ものぐさ自転車の悦楽』(マガジンハウス)、『自転車の安全鉄則』(朝日新聞出版)など多数。YouTube『芝浦自転車研究所

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(自転車評論家 疋田 智)
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