※本稿は、マーシー・コットレル・ハウル、エリザベス・エクストロム『The Gift of Aging じょうずに老いる』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
■「引退」は死亡リスクを高める要因になり得る
ダニエル・ピンクは著書『モチベーション3.0』の中で、こんな問いを投げかけています。
“60歳になったとき、人はこう考える。自分はいつになったら意味のあることをするのだろう? いつになったら最高の人生を送れるのだろう? いつになったら世界に貢献できるのだろう?”
私はこれらの問いが好きです。そこには私たちが60歳になっても、まだ社会に貢献できると信じる気持ちが表れているからです。でも、そんな私たちに社会が用意しているのはなんだと思いますか。引退です。しかも引退は、人によっては死亡リスクを高める要因にもなり得るのです。
引退しか選択肢がないとしたら、どうやって自分の可能性を最大限に発揮できるでしょうか。
■引退後のゴルフ、旅行は案外ずっと早く飽きる
アメリカ社会の大きな問題のひとつは、引退という概念そのものです。それによって膨大な人的資源が失われるだけでなく、自分らしく生きる力や何かを究める喜び、人生の目的までも奪われるのです。
多くの人にとって、50代や60代は人生の中で最も生産的な年代です。豊富な経験を積み、若いころのような判断力不足や気の散りやすさもなく、コミュニケーション力も管理能力も高まっています。それなのに、健康状態に問題がなく、成功している中高年の多くが、積極的に引退を計画しているのです。そのあとは何をしようと考えているのでしょうか。旅行? ゴルフ? 料理の勉強?
海外旅行やゴルフや新しいレシピに飽きるまで、どれくらいかかると思いますか。
はっきり言います。みなさんが思っているより、ずっと早く飽きます。
多くの人が引退を楽しみにしているという事実は、アメリカの労働文化や私たち自身の仕事体験について、あることを物語っています。“仕事”はある意味で、口に出したくない単語になっているのです。
情熱も知的刺激も感じられないまま、ただ漫然と時間を過ごしているだけだったり、おもしろい内容ではあるけれど、ずっと変化がなく、自分の力を出しきれていないと感じていたり。
■引退を“キャリアの再設計”ととらえる
私の父は昔、こんなことを言っていました。「7年ごとに方向を変えないと飽きてしまうよ。
私はその“7年ルール”を厳密に守ってきたわけではありませんが、仕事の方向性を何度か大きく変えたことで、思いもよらなかったような創造性を発揮し、周囲と分かち合えるチャンスに恵まれました。
引退によって価値ある知識や経験が失われること、人間が本来、意味のある人生を生きたいという願いを持っていることを考えると、もっと早いうちから仕事を意味あるものにしていく必要があるのではないでしょうか。いくつになっても仕事が刺激的で、かつ柔軟に対応できるものなら、もう辞めたいとは思わないかもしれません。
働くことの文化そのものを見直して、年齢を重ねた人たちのニーズや希望に合わせることはできないでしょうか。
引退を“キャリアの再設計”ととらえるのはどうでしょう?
年齢を重ねた人が、自立を保ち、何かを究め、目的意識を持てるようなキャリアを再設計するための方法をもっと研究する必要があります。もちろん、加齢にともなう身体的・認知的な変化にも配慮しなくてはなりません。でもそうした調整は、実際にはそれほど難しくない場合も多いのです。
■可能な形で社会に貢献し続ける大切さ
年齢を重ねる利点を挙げてみましょう。まず、年配の働き手には、経験に裏打ちされた知恵があります。言語能力も磨かれていますし、金銭的な報酬へのこだわりもあまり強くありません。家族や地域社会、恵まれない人の役に立ちたいという気持ちが強く、ほかにもたくさんの美点があります。一緒に働きたいと誰もが思うのではないでしょうか。
一方で、加齢にともなう変化に関しては現実的に考えなくてはなりません。たとえば体力の低下に合わせて勤務時間を短くしたり、処理速度の低下に合わせて作業時間を長めに設定したり、関節痛や視力の低下に対応するよう職場環境を整えたりすることが挙げられます。
企業側は、そんな余裕はないと思うかもしれません。でも実際の調査では、年配の従業員に対するのと同じ配慮を若い従業員にも行ったところ、会社全体の生産性が向上したという結果が出ているのです。
さらに興味深いのは、ブルーゾーン(百寿者が多く住む世界の五つの地域)では、そもそも引退という概念が存在しないことです。人々は90歳を過ぎても漁をしたり、畑を耕したり、子どもや孫の世話をしたりしています。社会に意義あるかたちで貢献しているのです。
■引退すると心と体のあらゆる能力が下がり始める
さて、最初の問いに戻りましょう。引退は心身の健やかさや幸福感を損なうのでしょうか?
実はその答えは一概には言えず、人によって異なります。
もし仕事上のストレスが多く、一日中座りっぱなしの生活であれば、飲酒量が増えたり肥満になったりなどの問題が生じるかもしれません。その場合、仕事を辞めると健康状態が良くなる可能性があります。活動量が増えたり、食生活が改善されたり、アルコール摂取量が減ったりすることで、寿命が7年以上延びることもあるそうです。
一方で、あまり良くない結果を示す研究も見られます。
イギリスで実施されたある調査によると、引退後、言語記憶の低下速度が40パーセント近くも増すことがわかりました。しかも、退職前に知的な仕事をしていたかどうかは、認知機能の低下速度を左右する要因にはならなかったそうです。
また、別の調査によると、完全に引退して6年が経過した人々は移動能力や日常生活の動作(入浴や着替えなど)能力が5~16パーセント低下していました。慢性疾患は5パーセント、メンタルヘルスの問題は6~9パーセント増加したという報告もあります。
これらは身体活動の減少や、社会的なつながりの喪失が原因であると考えられています。ただし、配偶者がいて社会的なサポートがある人、退職後も身体を動かしている人、あるいはパートタイムで働き続けている人などは、こうした悪影響が軽減される傾向にあります。
■社会に貢献し続けることで健やかに老いる
さらに気になるデータもあります。完全に引退した人は、そうでない人に比べて、心臓発作や脳卒中を起こす確率が約40パーセント高いという研究結果が出ているのです。こうしたリスクは退職直後の1年間が最も高く、その後は徐々に落ち着いていくようです。
こうした理由から、退職は“人生で最もストレスの多いできごと43”のうち、上位にランクインしています。
もうひとつ、経済的な側面も考えなくてはなりません。アメリカでは40代の約20パーセントが、老後資金をまったく貯めていないそうです。アメリカ人の半数が、退職後にいまの生活水準を維持できないとされています。
一方で、ほかの国の人々はもっと計画的に老後に備えているようです。たとえばイギリスでは収入の約20パーセントを、そして中国では半分近くを老後のために貯蓄している人もいるそうです。もし健康上の理由であれ別の理由であれ、引退を望むのであれば、若いうちから準備を始める必要があります。
新しい人間関係を築くこと、遊びを生活の一部にすること、そして何かを学び、社会に貢献する方法を見つけること――これらは健やかに老いるために欠かせない要素です。ボブ・ムーアが言うように、こうしたことをいまの仕事の中に取り入れ、できるだけ長く続けていくことが、いつまでも健康で、より良い未来を生きるための大きな力になります。
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マーシー・コットレル・ハウル
生物学者
8冊の受賞作の著者。うち2冊は「人間の精神の最高の価値を肯定する本」に贈られるクリストファー賞を受賞。ニューヨーク・タイムズ紙、LAタイムズ紙、グローブ・アンド・メール紙に寄稿するオピニオン・ライターであり、ネイチャー・コンサーバンシー・マガジン、クリケット・マガジン・フォー・チルドレン、リーダーズ・ダイジェスト、ニューヨーク・タイムズ紙、スミソニアン・マガジンに寄稿している。
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エリザベス・エクストロム
医学博士、公衆衛生学修士、米国内科学会最高栄誉会員
オレゴン健康科学大学の一般内科・老年医学部門の老年医学主任。
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(生物学者 マーシー・コットレル・ハウル、医学博士、公衆衛生学修士、米国内科学会最高栄誉会員 エリザベス・エクストロム)

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