サッカースタジアムは本来、試合日以外は収益を生みにくい「非効率な施設」とされてきた。だが通販大手のジャパネットホールディングスが1000億円を投じた長崎スタジアムシティでは、試合がない日でも数万人規模の人出が生まれている。
なぜ“儲からないはずの箱”が動き続けるのか。フリーライターの宮武和多哉さんが、現地を取材した――。
■試合がない日も人を呼び、利益を生む
2026年のサッカー・Jリーグでは、8年ぶりにJ1に昇格した「V・ファーレン長崎」に、要注目だ。通販大手・ジャパネットホールディングス(以下:ジャパネット)の子会社でもある同チームのJ1復帰戦は、ホームゲームで強豪・サンフレッチェ広島を迎え撃つ。
ここで注目したいのはV・ファーレンの本拠地となるスタジアムを内包した「長崎スタジアムシティ」だ。
開業1年間の来場者数は延べ485万人。試合を見に来るだけの場所……かと思いきや、スタジアムシティは試合がないときでも1日3万人が訪れる。サッカー・バスケなどの試合が開催できる施設だけでなく、オフィス・ホテル・商業施設などが所狭しと並び、様相はまさに“シティ”そのもの。
しかし、スタジアム並びに広々とした天然芝グラウンドは、サッカーの試合以外で利益を生まず、数階建てのビルで床面積を稼ぐこともできない。そう考えると、商業施設としては、やや非効率にも見える。
にもかかわらず、1年目を終えて黒字化が目前に迫っているという。なぜ、集客・経営ともに順調なのか……自治体が建設を担うことも多いサッカースタジアムを、長期間にわたってマネタイズできる施設として「周辺を一体開発・民設民営」で作り上げたジャパネットの、綿密な計算があった。

■本来は稼げない・人が来ない「空き箱」
全国に60クラブあるサッカー・Jリーグの本拠地スタジアムは、スタジアムとしての稼働日の少なさからくる「収益の少なさ」といった悩みを抱えている。
Jリーグのリーグ戦は年間38試合、うちホーム開催は19試合と、約71~72試合を本拠地で開催できるプロ野球と比べても、あまりにも稼働日が少ない。
かつ、非試合日も天然芝の維持は必要となるうえ、試合日以外に集客ができない限り、空きスペースにテナントを誘致することもできない。サッカーに限らず、試合がない日の“ハコモノ”は、管理の手間だけが必要な“空き箱”になるのが通常であり、民間で経営するにはリスクが大きすぎる。
長崎スタジアムシティの「開業1周年レポート」によると、スタジアムシティの1日当たりの来訪客数は、「PEACE STADIUM Connected by SoftBank」(以下「ピーススタジアム」)で「V・ファーレン長崎」の試合が開催されない日でも、平日は平均約1万2000人、休日は約2万~3万人、日によっては4万人が訪れるという。
なぜこんなに人が集まり続けるのか。その理由は「試合がないのにスタジアムにいる人々」の様子を朝・昼・晩と観察すると見えてきた。
■「ビジネスパーソンの職場」に
「ピーススタジアム」は7時から23時まで一部客席が解放されており、巨大なフリースペースと化した客席で「じげもん」(長崎弁で「地元の人々」)の方々が、まったりと時間を過ごしている。
敷地内にある地上12階のビル「スタジアムシティ・ノース」の大半はオフィス棟として機能しており、試合日にはサポーターでぎっしり埋まる通路を通って、おびただしい数のサラリーマンが出勤してくる。
その後、試合日は「S席」だった座席にノートPCを持ち出して仕事をしていたり、数人で屋外に出て会議をしていたり……客席は「オフィスのフリースペース」と化す。オフィス棟は「スタジアムシティで仕事をする」上でのノマドワーカー(固定されたデスクを持たない人々)が多く、職場環境の満足感にも繋がっているのだ。
もうひとつ、これは、ファンを作る仕掛けでもある。
「天然芝の匂いに包まれたグラウンドという非日常空間」を毎日のように眺め、選手の映像やパネルを目にしていれば、この場所で時間を潰す来訪者を「一度はサッカーの試合に行きたい!」という気にさせてしまうのだ。
実際にチケットを購入して行けば、いつもの座席に座っている人々がチャント(応援歌)を歌い、グラウンドでは縦横無尽に走る山口蛍選手の守備、柔らかいボールタッチでシュートをうつマテウス・ジェズス選手の人間離れしたプレイに息を呑み……気が付けば、V・ファーレン長崎の試合に足しげく通うようになる。そんなファン醸成のストーリーも、「スタジアム効果」というべきだろう。
■「待たない・混まない」フードコート
お昼時になると、ランチを求める人で賑わいはじめた。ただ、フードコートの維持にあたって悩みは尽きない。魅力的な店がなければ客足はすぐ引くうえに、座席が少ないと利用客はトレイを持ったまま歩き回ることになり、集客施設としての満足度は急落する。
スタジアムシティは、20店以上のテナント誘致に成功した。ラインナップを見ると、地元・ちゃんぽんの名店「老李」など長崎のご当地グルメから、長崎になかった「博多一幸舎」「宮武讃岐うどん」まで揃う。
試合日には有料エリアにも無料で入れるため、スタジアムのグルメである長崎名物・角煮まんじゅう(岩崎本舗)や「マリオンクレープ」などを買い求めることもできる。
食事はほとんどがネット予約可能で、待たされることなく受け取れる。そして、客席は「フードコートの座席」の一部と化し、ここでのんびり昼食をとる人々も多い。
「待たない・混まない」は、忙しい現代の人々にとって魅力の1つとなっている。

■「地元の日常」に溶け込ませた
夕方には訪問客の年齢層が一気に広がる。敷地内の塾や英会話教室に通う子供や、待ち合わせる長崎西高校・長崎東高校などの学生、保育園で子供を引き取ってから出てくる親子など。
「無料で滞在できる客席がある」だけで、地元の人々は集まるのだ。
かつ、当初の計画になかったスーパー「フードウェイ」の買い物客や、散歩に来た高齢者も多い。かつ、ここで買ったおやつを食べながらカードゲームに興じる子供や、参考書を広げて勉強する高校生、敷地内のスタバで買ったコーヒーを客席で飲むサラリーマン、フードコートで日没前から吞んだくれている集団などが入り混じり、客席はまさに「日常の風景」そのものだ。
スタジアムシティに1日中いるだけで、長崎のグルメを堪能しながら、日常の会話が乱れ飛ぶ濃密な空間を味わえて、どんな観光地より「長崎」を感じることができた。
そして、滞在する人々のほとんどがフードコート・スーパーの商品などを買い求めていて、「スタジアムを普段使いする人々」が、収益獲得に貢献している様子も伺えた。
人々は「仕事・所用があって」「行きたい店があって」「ゆっくりできる店があって」といった理由で、その場所に集う。「スタジアムの客席がフリースペース化」しているからこそ、試合がない日も継続的な集客ができ、一定の採算性を保てているのだ。
■「あえて遠回りして歩かせる」構造
スタジアムシティは、構造にも仕掛けがある。敷地に入るメインのエスカレーターは両端にあり、テナントが集積するエリアにあえて最短距離で行かせない設計だ。
一見すると商売上は非効率に見えるが、例えばイオンモールでも、テナント料を生まない「吹き抜け」をわざわざ作り、周辺には来客が休めるベンチを設置している。
数階の高さをぶち抜いた空間は解放感を生むだけでなく、空間のまわりを回遊する人々を生み出すのだ。
イオンモールとスタジアムシティ、商業施設としての共通点は、意外と多い。
スタジアムシティの「サッカーコート」はイオンモールの「吹き抜け」のようなもので、まわりを回遊する動線づくりがテナントと顧客の接触機会を増やし、収益化に繋がる効果を挙げている。
ほかにも収益面では、アリーナでのバスケ・大相撲の開催や週末のライブ誘致などの効果もある。来訪客が食事やショッピングも兼ねて、長時間施設内を歩き回りお金を落としていくような構造も、利益獲得に繋がっているのだ。
■長崎は例外中の例外だった
過疎化が続く人口40万人弱の地方都市・長崎での「スタジアムシティ」建設は、サッカースタジアム建設の成功例として語られることも多い。しかし各地では、続いて計画されたスタジアム建設計画で土地・資金確保に難航したり、秋田県のように、地元自治体がJリーグの対応を「傲慢」と表現するような対立が起きたり、せっかく開場しても運営方針で対立が起きたりする。長崎と他の地域で、なぜこうも明暗が分かれるのか?
実は、根本的な条件が違い過ぎる。一般的なスタジアムは地元自治体が建設を担い、運営を公的機関が担う「公設公営」地元のJリーグクラブなどに運営を託して「公設民営」が多いが、長崎の場合は、1000億円にまで膨れ上がった建設費用もすべてジャパネットが担う「民設民営」で、長崎県・長崎市の税金は、ほとんど動いていない。
多くの地方都市の「公有公営」の場合は、スタジアム建設に税金を支出するための理解を得るために、長期間にわたっての調整が必要となる。かつ、建設後も「公営」としての条例に縛られるため、営利目的の施設を併設できない場合も多い。
さらにテナント入居する飲食店の規制までかけられる場合もあり、球場を満員にしても利益を吸い取られるような契約にたまりかねて、プロ野球「北海道日本ハムファイターズ」が本拠地を移してしまった札幌ドームのような事例もある。

■税金と条例が成功を阻む
その点、長崎の場合はジャパネットが1000億円もの経費を負担するかわり、収益をホテル・サウナ・商業施設などの併設も推し進め、まわりに口を差しはさませなかった。ジャパネットが全面的に責任を負う「民設民営」だったからこそ、徹底的なマネタイズで収益を確保できる「スタジアム“シティ”」の建設が可能となったのだ。
さて、長崎以外の他地域で「民設民営」スタジアムは可能なのか?……長崎でいうすべてを民間で賄えるに越したことはないが、ジャパネットのように1000億円をポンと出して、その後も運営に汗をかいてくれるような「志が高い」企業は、残念ながら他県にない。
近年の新スタジアムでは、元・サッカー日本代表監督の岡田武史氏の実業家としての奮闘で「自治体との交渉で市有地の長期無償貸与」「地銀の雄・伊予銀行からの「サステナビリティ・ローン(社会貢献などの条件がついた融資)」といった条件を引き出した「アシックス里山スタジアム」(J2・FC今治の本拠地)くらいしか、民設民営でのスタジアム新設の事例がない。ほか大半の地域では、税金支出の是非を巡って、自治体との粘り強い交渉を続けるしかないのが現状だ。
■「身の丈に合ったスタジアム」しか道はない
直近でハレーションが起きた秋田市の場合は、いまの観客動員数(「ブラウブリッツ秋田」は1試合平均4953人)に見合う「収容人数1万人以下」のスタジアム計画を地元が提示したところに、Jリーグ側がライセンス交付規則を盾に「(1万人以下収容のスタジアム建設は)志が低い」と発言したことで、交渉に立っていた秋田市長が一挙に態度を硬化させた。
地方のサッカークラブが根を張る多くの地方都市は、後ろ盾となるような大企業が存在せず、「民設民営」「公設民営」への壁は、きわめて高い。一方で、Jリーグは長崎スタジアムシティや各地の大型スタジアムの建設事例(エディオンピースウィング広島・パナソニックスタジアム吹田など)を盾に、強気で杓子定規なライセンス基準を求めすぎているのではないか。
地方都市では、長崎のような大型スタジアムをジャパネットのような企業が支えて建設できるケースは数少なく、実際はその地方の実情に合った「身の丈スタジアム」建設を急ぐほうが、現実的ではないか。「アシックス里山スタジアム」も「収容人数5000人・将来的に1万5000席まで増席可能」という収容能力で建設した上で、順調なチケット販売を踏まえたうえで、現在3500席増席の工事を進めているという。
どの県にもジャパネットのような篤志家がいる企業はなく、スタジアムシティのような巨大な施設を建設できるクラブばかりではない。Jリーグもスタジアム建設を促進するのであれば、長崎・広島だけでなく、今治のような事例を地方クラブに勧めるような選択肢があっても良いのではないか。

■懸念された“目に見える課題”はクリア
最後に、スタジアムシティの課題について考えてみよう。
開業当初から人波による混雑が懸念されたものの、JR長崎駅までの遊歩道「Vロード」を設置するなど「クルマを利用しなくていい」環境を整備。試合終了後もフードコートが営業を続けることで、帰る人々がいっせいに長崎駅に向かわないように分散した。
また、スタジアムシティを出て向かう先も「JR長崎駅」「ココウォーク(バスターミナル併設)」そして「スタジアムシティホテルに宿泊」と多様な選択肢があったことで、サッカーや大規模イベントにありがちな「行列が進まず帰れない問題」を解決した。
また地元が懸念していた渋滞問題も、駐車場を「V・ファーレン長崎試合日など大規模イベント開催日は完全予約制(観戦・鑑賞しない場合でも要・予約)」にしたことで、クルマでの来場自体を大幅に抑制したことで、大きな渋滞は起きていない。
もっともこの場所は、バス・路面電車が1日3000本近くも目の前を通過するような立地であり、環境としては「ある程度恵まれていた」ともいえる。
しかし、それ以上に気になるのは、スタジアムシティを建設したことによる「ジャパネットの経営リスク」だ。
■成功の裏にある“見えないリスク”
「長崎の地域創生のために」スタジアムシティを建設した“志の高さ”は誰しもが認めるところだが、年間売上2725億円(2024年12月期・過去最高)の会社が1000億円を投じ、かつ「回収まで25~30年」かけるという判断は、やはり「ハイリスク」と言わざるを得ない。
しかもスタジアムシティの場合は、「イベント・集客企画の頻発」かつ「V・ファーレンのJ1残留」といった課題を、人口減少が進む長崎市で行い続ける必要がある。いま長崎県では、ジャパネット以外にスタジアムシティやサッカーへの投資を続けられる企業はない。
ジャパネットの支援前に経営危機に瀕していたV・ファーレン長崎の将来のためにも、長崎の希望の星・ジャパネットが勢いを保ち続け、スタジアムシティは通販の黒字を消さないレベルの採算をキープすることが必要となる。
もっともジャパネットは、「数百人規模の社員旅行で、イギリス・プレミアリーグ観戦」という、気の遠くなるような利益の使い方ができるほどに、企業風土にサッカーが根付いている。もしこれが上場企業なら、間違いなく経費を巡って株主総会が紛糾するところだが……これからも社を挙げて、サッカー関連事業を進めていくことになるだろう。
リスクをとってでも成長を目指すジャパネットの収益源として、スタジアムシティが急成長することを願いたい。そして、スタジアムシティの売り上げを左右しそうな、V・ファーレン長崎の戦いぶりにも注目だ。

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宮武 和多哉(みやたけ・わたや)

フリーライター

大阪・横浜・四国の3拠点で活動するライター。執筆範囲は外食・流通企業から交通問題まで、元・中小企業の会社役員の目線で掘り下げていく。各種インタビュー記事も多数執筆。プライベートでは8人家族で介護・育児問題などと対峙中。

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(フリーライター 宮武 和多哉)
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