それにしてもある意味見事な解散劇だった。
史上初の女性首相誕生は理屈抜きに大きな意義がある。
この熱が冷めないうちに野党の虚を突いて解散・総選挙に持ち込んで一気に多数を取り戻す。何と批判されようと、高市氏にとって選挙で勝って多数を取り戻すにはこの道しかなかった。
そしてこの「先行逃げ切り作戦」は、これまでのところ上手くいっている。
■朝日新聞「自維300議席超うかがう」
選挙前から70%を超える高支持率が続き、優勢とみられていた高市自民党だが、1月27日の公示直後には、読売新聞や毎日新聞、日経新聞がそろって「自民単独過半数をうかがう勢い」と序盤戦の情勢を報じた。
いずれも自民党が単独過半数の234議席を大幅に伸ばし、250議席から270議席の勢いを見せていること、野党第一党の新党「中道改革連合」は、伸び悩んで議席を大幅に減らす見通しだ、という内容だ。高市人気も高く、中道が結成からわずか1週間で、知名度も期待度もあまりないことを考えれば序盤戦としては順当と見られていた。
この傾向が続いているのかどうか、政治家だけでなくマスコミや官僚も、その翌週に情勢報道を予定している朝日新聞が、どのような情勢を打ってくるかに関心が集まっていた。そして、選挙中盤戦に入った2月2日の朝刊、朝日新聞は「自民・維新の与党300議席超うかがう」と報じた。
■自民陣営「現場の実感はここまで強くない」
この結果に自民党陣営は勢いづき、野党陣営はがっくりと膝をついた――のも事実だが、それぞれ複雑な反応もあった。
意外なことに自民党の陣営からは、「現場の実感はここまで強くない。現状でリードしても競り合っているところは引き締めないと危ない」とまるで頭を抱えるような声すら聞こえてくる。
序盤の優勢が伝えられた1月29日には、鈴木俊一幹事長名で、楽観を戒める緊急通知が発出されているが、圧勝報道を受けた2日には党幹部が緊急に集まり、なお接戦の小選挙区が多数あることなどから情勢は楽観を許さないとして、各地に引き締めを指示した。
一方、自民党が圧勝となるとそれ以外の政党は厳しい結果が予想される。与党の日本維新の会も含めて、各党とも接戦の選挙区でのテコ入れや比例票の上積みに全力を挙げる方針を確認した。このままでは、また自民党の一人勝ちを許し、他党の存在感は低下する。
それぞれ事情は違うが自民党に対して融和的な態度はとれない。むしろ対抗姿勢を強めることになった。無論のこと、野党第一党として生き残りがかかる中道も、ようやく求心力が高まってきた。だが一番の問題は野田佳彦共同代表が言ったように、高市人気を押し上げている「ネット世論」と向き合う難しさだ。
■見えない敵
「見えない敵と戦っているようで気持ち悪い」
立憲民主党から中道改革連合に加わったあるベテラン候補は、選挙戦の手応えとマスコミで報じられる情勢報道のギャップに戸惑っていた。
「公明党の票が選挙区で回って来るかどうか心配していたが、ようやく動きが活発になってきた。
各社の情勢報道で「横一線、接戦」と報じられているこの候補は、民主党政権を生んだ熱狂的な支持も、民主党政権が大敗した選挙も、いずれも経験している。その経験からしても、いまの高市ブームの正体は掴めないのだと言う。
一方、自民党候補のなかにもこの高市ブームの追い風にとまどいを見せている者も少なくない。前回、初出馬ながら逆風のなかで厳しい選挙を勝ち抜いたある候補は、「確かに高市さんの名前を出すと反応はいいのですが、そんなに勝っている実感はない。
前回熱く応援してくれた公明党支持者が今回は姿を見せないのも気になります。相手候補も必死になっているので、陣営ではみんな気を引き締めて最後まで頑張ろうと話し合っています」と話している。
■「サナエの敵」も大量当選
与党300議席の報道は思わぬところにも波紋を広げている。
「あの朝日新聞までが自民党300議席と! でも、そんなに勝ったらサナエの敵のリベラル議員も当選してしまう。どうすればいいんだ!」
「サナエ推し」を称する右派のネットユーザーの間では、こんな投稿が相次いでいる。
ところが、これだけ自民党が大勝すれば、石破氏や岩屋氏はもちろんのこと、せっかく四国ブロックの比例順位10番目という、落選確実の順位にした村上氏が当選してしまうではないか、というのだ。確かに、四国ブロックで前回の自民党の獲得議席は3議席。小選挙区に重複立候補している10人のうち8人が当選すれば、比例名簿から削除されるので、残り2人が繰り上げ当選し、3番目の議席が村上氏に回って来る。
3人のようなリベラル派や親中派、もっとありていに言えば「反高市派」を一掃したいと頑張ってきた右派ネット民からすれば、自民党大勝となるとこうした反高市の議員たちが続々と当選するという皮肉な結果になるわけだ。
選挙戦に入ってからは、反高市の自民党員たちは批判を避けていたが、大勝して国会に戻って来れば、今度はむしろ遠慮なく高市批判を展開し、足を引っ張るに違いない。「こんなはずじゃなかった」と頭を抱えるのは高市氏自身になるかもしれない。
それは笑い話で終わるかもしれないが、実は、自民党が圧勝すると高市首相にとっても手放しでは喜べない、難しい問題が山積しているのも事実だ。
■選挙後の難題――消費税減税と円安
「高市早苗が首相で良いのか国民に選んでほしい」
前代未聞の高市早苗がいいかどうか選挙である。与党が圧勝すれば、晴れて高市氏は信任されたことになる。その結果が300議席超えということなら、絶対安定多数となって、国会運営も楽になるはずだ。まさに高市首相は国民から白紙委任状をもらったのと同じだからだ。
しかし、それだけの力を持つということは、結果に対する責任も同じ程度に重くなる。公約した政策は必ず実行しなければならない。それができなければ、たちまち期待は失われ世論の支持も地に落ちる。そう考えると、仮に与党300議席を超えるような大勝になると、逆に高市首相の頭を悩ますことになる問題が現れそうだ。その一つが消費税の減税問題だ。
「内閣総理大臣としての希望は、できたら今年度(2026年)内を目指したい」
公示前日、日本記者クラブの主催で開かれた党首討論会で、高市首相は、そう明言した。「詳細は選挙後に開く国民会議で議論する」として自民党の公約通り検討を加速するという表現にとどめたが、選挙で仮に大勝できれば、首相としての希望が通ることになる。
■勝ちすぎで言い訳できない状況に
しかし自民党内だけでなく、政府内部でも26年度中の実現は難しいという見方が大勢だ。討論会で国民民主党の玉木雄一郎代表は「年度内に減税するなら、予算案について閣議決定をやり直すのが筋だ」と述べた。
高市氏は討論の席上、玉木氏に与党に来てほしいと「公開プロポーズ」までして見せたが、選挙の結果、国民民主党が議席を伸ばせなければ、その後は高市政権と距離を置くかもしれない。いずれにしても、与党の思い通りに減税できるかどうかは不透明なままだ。
選挙中の「円安ホクホク」発言もあって、円安が進行し市場の厳しい反応も指摘されている。
それだけではない。日中関係の改善も遠のくかもしれない。
「台湾で大変なことが起きたとき、私たちは日本人や米国人を救いに行かなきゃいけない。共同行動を取っている米軍が攻撃を受けたとき、日本が何もせずに逃げ帰れば、日米同盟はつぶれる」
高市氏は選挙中にも、台湾有事をめぐって、更に踏み込んだ発言を繰り返した。自らの国会答弁で悪化した日中関係だが、中国に対する反感が支持率を押し上げている事情もあって、高市氏は対中強硬姿勢を崩そうとしない。
■選挙はうまく逃げきれても…
しかし、中国産レアアース(希土類)の対日輸出規制のさらなる強化のカードなどを中国側が切ってくれば、日本経済へのダメージは大きい。産業界、経済界からは、このまま日中関係を放置すれば深刻な事態になると、不安の声が次第に強まっている。
選挙で多数を得れば、大胆な妥協はますますできなくなるだろう。アメリカのトランプ大統領の中国への向き合い方が不透明ななかで、日米同盟重視だけでこの問題に対処していけるのか。これも扱いを間違えると、政権に深い傷をつけかねない。
財政にしても、日中関係にしても、選挙で大勝したからといって、問題が解決するわけでも、なくなるわけでもない。むしろ、多数を握ることで「少数与党だから何もできなかった」という言い訳が通用しなくなる。本当の意味で多数の力には、同じだけの責任が伴うからだ。
選挙は水物だと言われる。ちょっとしたきっかけで情勢が大きく変わり思わぬ選挙結果になったこともある。1998年の参院選も、自民党の勝利を予測する報道が出た5日後に自民党が大敗し、当時の橋本龍太郎首相は退陣に追い込まれている。
選挙戦中の2月1日、NHK日曜討論の党首討論をドタキャンしたことやその前日の「円安ホクホク発言」に批判や疑問の声が相次ぎ、ネット世論にも微妙な変化が出てきた。
先行逃げ切りで選挙を急ぎ、「逃げるは恥だが役に立つ」を実践してきた高市氏だが、仮にうまく逃げ切れたとしても、そのゴールの先には、一筋縄ではいかない難しい現実が待っているのかもしれない。
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城本 勝(しろもと・まさる)
ジャーナリスト、元NHK解説委員
1957年熊本県生まれ。一橋大学卒業後、1982年にNHK入局。福岡放送局を経て東京転勤後は、報道局政治部記者として自民党・経世会、民主党などを担当した。2004年から政治担当の解説委員となり、「日曜討論」などの番組に出演。2018年に退局し、日本国際放送代表取締役社長などを経て2022年6月からフリージャーナリスト。著書に『壁を壊した男 1993年の小沢一郎』(小学館)がある。
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(ジャーナリスト、元NHK解説委員 城本 勝)

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