■言葉は「前提」が揃わないと伝わらない
子どもや日本語を母語としない人など、語彙の乏しい相手に通じにくい言葉や表現というものがけっこうあります。
たとえば、子どもが相手の場合です。
先生:「貧乏ゆすりはやめましょう」
(子どもたちのヒソヒソ話)
Aちゃん:「当たり前じゃん。貧乏な人をゆするなんてダメだよね」
Bちゃん:「金持ちでも、ゆすっちゃダメだよね」
こんな例もあります。ある男性が甥っ子さんの自転車の練習につき合った時のことです。甥っ子さんが直進しかできず、壁に激突しそうになりました。そこで男性は、「危ない! ハンドルを右に切って!」と叫びました。
すると、甥っ子さんはブレーキをかけてピタっと止まり、「ハンドルって切れなくない?」と冷静に言ったとのこと。当時5歳だった彼には、「ハンドルを切る」という表現がわからなかったのですね。
また、外国人を含む会議の場でのこんな会話がありました。
Aさん:(少し怒った口調で)「一部の人に負担を偏らせ、安穏と草を食むのは、やめていただきたい」
この場に、比較的日本語が達者だが母語ではないBさんが同席していました。
Bさん:(「アンノントクサヲハム……? アンノンって誰? ハム⁇」)
日本人の大人どうしでも、こうした(高尚過ぎて?)わかりにくい比喩を使う人がたまにいますね。
■「通じる表現」に直す配慮
このように、発した言葉が「どう受け取られるか」「そもそも理解できるか」は、相手の語彙力や知識に依存します。
たとえば、「貧乏ゆすりはダメ」ではなく「座っている時に膝を小刻みに揺らさないで」、「安穏と草を食むのはやめて」ではなく、「のほほんと好き勝手なことをしていないで」と表現するとわかりやすいでしょう。
また、世代によって言葉の意味や使い方が違ったり、受け取られ方が違う表現があります。
次の例は、おじいさんとそのお孫さんとの会話です。お孫さんは家の近くにある大きな青いゴミ箱にゴミを捨ててくるよう、おじいさんから頼まれました。お孫さんはゴミを捨てに外に出ましたが、家の近くには緑色のゴミ箱しかありません。そこで、お孫さんは家に戻っておじいさんに言いました。
孫:「おじいちゃん、青いゴミ箱なんてないよ」
祖父:「いや、家の近くにあるだろう」
孫:「だから、ないって」
祖父:(心配そうに)「……ゴミ箱ってわかる?」
孫:「もういいよ、じゃあ、ついてきてよ」
2人は緑のゴミ箱の前に行き、お孫さんはおじいさんにこう言いました。
孫:「おじいちゃん、これは緑だよ。青に見えるなんて、目が悪いの?」
昔の人は、緑を青と呼んでいたのです。
■「了解。」が怖く見える理由
ところで、送り手にはそんなつもりがなくても、世代によっては思わぬ受け取り方をすることがあります。
たとえば、部下から「ご確認お願いします!」と、チャットで資料が送られてきた時、上司が「了解。」と返事をすると、「あれ? もしかして部長、怒ってるのかな」ととらえられる場合があると言うのです。
つまり、チャットやLINEなどのコミュニケーションアプリで、文末に句点「。」をつけると、若い世代が冷たい、威圧的、怖いといったネガティブな印象を受ける場合があるということです。
こうした現象を、「マルハラスメント」(略して「マルハラ」)と呼びますが、もちろん正式なハラスメントではありません。
上の世代からすれば、「そんなことでハラスメント呼ばわりされるなんて、なんとも恐ろしい時代になったものだ……」と不安になるかもしれません。でも、「今後、断じてマル『。』を使わないようにしよう」「そうだ、いっそのこと、ビジネスチャットなど使わなければいいのだ(やっぱり対面コミュニケーションが最高!)」と早合点するのは、ちょっと待ってください。
■マルの有無より日頃の接し方
要は、LINEでマル「。」をつけない一言ずつのやり取りに慣れている若者の中には、マル「。」がついていると、関わりを断ち切られたような印象を持つ人がいるということなのです。
ふだんから、若手に対する上司のちょっとした気遣いや温かい言葉かけ、気軽な雑談などがあれば、そうした誤解は受けずに済むでしょう。文末にマル「。」があろうがなかろうが、日頃の人間関係が良好であれば、若手もあまり気にならないはずです。
また、部下の作業報告に対しては、忘れずにお礼を伝えることを心がけるとよいでしょう。
相手によって、情報の受け取り方は変わります。何かを伝える前に、自分のメッセージが子どもや外国人、職場の若者に「どう受け取られるか」を、ほんの少し意識するとよいでしょう。
コミュニケーションにおいて、「相手の目線」に合わせる配慮は、とても大切です。まとめると、次のような誤解予防策が考えられます。
・相手の語彙力や知識に配慮して言葉を選ぶ
・メッセージのとらえ方に世代差があることを心に留めておく
・ふだんから温かい言葉や態度で相手に接する
■YES・NOは明確に
言葉の中に含まれる意図(含意)が相手に伝わらないことも多いものです。あなたの発話意図、つまりあなたが本当に伝えたいことを、相手が正しく読み取ってくれるとは限りません。
たとえば、「大丈夫」などの解釈が分かれる言葉は、答えが「OK」なのか「NO」なのかが判然としません。また、やんわりと頼む間接的要求(「お手すきの際に~してくださるとありがたいです」)や、やんわりと断る間接的拒否(「考えておきます」「また検討しておきます」)なども誤解のもとになります。
「お手すきの際に~してくださるとありがたいです」といった間接的要求は、「明日でもかまわない」のか「今日やるべきなのか」といった緊急度がはっきりせず、あなたの依頼がずっと後回しになる可能性があります。
また、たとえば営業のアプローチやサークルの勧誘に対して「考えておきます」などの間接的拒否をすると、相手に期待を持たせてしまいます。
■NOでも角を立てない
その際、相手の心を傷つけないよう注意し、できれば理由も添えたいものです。営業マンへの断りの返事なら「予算が取れないので」「スケジュールが合わないため」といった理由は納得してもらいやすいでしょう。そして、「ごめんなさい」「申し訳ないですが」といったお詫びの一言も添えた方がよいでしょう。
まとめると、次のような誤解予防策が考えられます。
・自分の意思をハッキリと伝える(あいまいな返事ではなく、「その日は無理です」「その日はOKです」など)
・依頼は緊急度も含めて明確に伝える(「今週中に○○をお願いします」など)
・断る時には明確に、しかし丁寧に伝える(「申し訳ないのですが無理です」などとはっきり断る)
・できれば断る理由も添える
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三宮 真智子(さんのみや・まちこ)
大阪大学名誉教授/鳴門教育大学名誉教授
大阪府生まれ。大阪大学名誉教授、鳴門教育大学名誉教授。専門は認知心理学、教育心理学。大阪大学人間科学部卒業、同大学大学院人間科学研究科博士前期課程修了、同後期課程単位取得満期退学。1985年学術博士(大阪大学)。鳴門教育大学講師、助教授、教授、大阪大学大学院人間科学研究科教授などを歴任。著書に『メタ認知で〈学ぶ力〉を高める』(北大路書房)、『誤解の心理学』(ナカニシヤ出版)、編著書に『メタ認知』(北大路書房)、『教育心理学』(学文社)など。
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(大阪大学名誉教授/鳴門教育大学名誉教授 三宮 真智子)

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