子どもの学力を高めるにはどうしたら良いのか。教育心理学・認知科学者の猪原敬介さんは「最近10年で子どもの勉強時間は減っているのに、親の『大学には行ってほしい』という期待はむしろ高まっている。
こうした身勝手な願いを両立させる活動がある」という――。(第1回)
※本稿は、猪原敬介『科学的根拠(エビデンス)が教える 子どもの「すごい読書」』(日経BP)の一部を再編集したものです。
■子どもに学歴も遊びも求める親のジレンマ
子どもが勉強ができると、保護者はちょっとだけ、心配の種を減らすことができます。私は別に「わが子はぜったい東大!」などと思っているわけではありません。でも、なんだかんだいって、もっとも「つぶしがきく」経歴が学歴ですし、「勉強が得意」であることは将来どんな道を歩んだとしても有効なスキルであり続けるでしょう。
個人的には「どんどん高いレベルのことを学ぶのは、とても楽しい!」とも感じていますので、学校でその基礎をしっかり身につけてほしいなとも思います。だからやっぱり、「ある程度は勉強ができてほしい……」と願ってしまいます。
でも一方で「勉強ばかりしてほしい」とも思っていないのです。むしろ、友達とよく遊び、勉強以外の知識にも幅広く関心を持ち、いろいろな体験をしてもらって、大人になってからも長く楽しむ・頑張ることのできる「何か」を子ども時代に見つけてほしい……そう願っています。
……いいことを言っている風ですが、見方を変えれば「勉強は効率的にこなしつつ、遊びにもそれ以外にも全力で取り組んでもらって、最終的に大学だけはよいところへ行け」という無茶な要求を子どもにしてしまっているような気もします。自戒を込めつつも、こうした考えは今の保護者の方にも共有されるのではないかなと思っています。
■親の「勉強に対する意識」の意外な変化
例えば、次のようなデータがあります。

東大・ベネッセが毎年行っている「子どもの生活と学びに関する親子調査」では、2015~2024年にかけての10年間で、子どもの1日あたりの勉強時間が徐々に減ってきていることが明らかになっています。
最近10年間での子どもの変化を知る上で大変貴重な調査で、私もこの調査のプロジェクトメンバーとなっています。
図1にもあるように、学校がある日の1日あたりの勉強時間が、
・小4~6:82.9分→70.3分(15.2%の減少)

・中学生:106.9分→92.9分(13.1%の減少)

・高校生:119.4分→102.8分(13.9%の減少)
となっています。
なお、ここでの「勉強時間」とは、学校での勉強を除く1日あたりの平均的勉強時間のことで、「宿題」や「塾」も含めたものになります。
一方で、保護者の方に「子どもについての悩みや気がかり」として「家庭学習の習慣」があてはまるかどうかを尋ねた質問では、「あてはまる」の割合が、
・小4~6:41.5%→33.5%(8.0ポイントの減少)

・中学生:42.7%→41.3%(1.4ポイントの減少)

・高校生:32.9%→27.0%(5.9ポイントの減少)
と、この10年で減少しています。
■「勉強しろ」と言わずに大学進学を叶える方法
それでいて、保護者の方に「あなたは、調査の対象となっているお子様を、将来、どの学校段階まで進学させたいとお考えですか」という質問に対して「大学以上」を希望する割合は、
・小4~6:65.9%→72.3%(6.4ポイントの増加)

・中学生:68.7%→72.0%(3.3ポイントの増加)

・高校生:75.4%→76.3%(0.9ポイントの増加)
と、この10年で増加しているのです。
つまり、「子どもの家での勉強時間が減っても、そのことはあまり気にしてはいないが、でも大学には行ってほしい」という保護者が少なくなく、むしろこの10年で増えている、ということなのです。私のような保護者の、ある意味では自分勝手な考えが、そのままデータになって出てきたようで、少しドキッとします。
もしかしたら、読書はこうした保護者の無茶な願いを部分的には実現してくれるかもしれません。なぜなら、読書は学力にもプラスの影響を与えつつ、学力を支えるもっとも基礎的な力を高めてくれる活動だからです。
■読書好きかそうでないかで差が出る国語力
以下ではまず、読書と学力の直接的関係についてのデータを見てみましょう。
「学力」を測定するテストとしてもっとも代表的なのは、毎年4月に文部科学省が実施する「全国学力テスト」です(正式名称は「全国学力・学習状況調査」といいます)。
なんと全国の小学6年生と中学3年生「全員」を対象としたもので、2025年度実施調査では、小学6年生は約95万人、中学3年生は約90万人がテストを受けています。
読書が一番成績を高めそうな科目といえば、国語でしょう。読書が好きな児童・生徒は、やはり国語の成績がよいのでしょうか。
折れ線グラフにして見てみましょう。
やはり、「読書は好きですか」という質問への回答を見ると、「当てはまらない」を選んだ児童・生徒の平均正答率がもっとも低く、「どちらかといえば、当てはまらない」「どちらかといえば、当てはまる」とほぼ直線的に平均正答率が高まっていき、「当てはまる」でもっとも正答率が高くなっています。
小学6年生では、「当てはまらない」が56.2%、「当てはまる」が73.6%であり、その差は17.4ポイントあります。
中学3年生では「当てはまらない」が45.2%、「当てはまる」が61.9%で、その差は16.7ポイントです。
平均正答率で約17ポイントの差というのは、かなり大きいのではないでしょうか。
■本が好きな人ほど数学・英語の成績も良い
さらに、別の科目も見てみましょう。折れ線が多くなって少し見にくいですが、小学6年生の「算数」と「理科」、中学3年生の「数学」「理科」、そして「英語」をまとめてグラフにしました。見てのとおり、すべての科目で、「国語」と同じく、「当てはまらない」から「当てはまる」まで、直線的に成績がよくなっているのがわかります。
これは「読書が好きであるほど、学力が高い傾向がある」ことを意味しています。
直線的によくなっているのだから、学力向上という点で「読書が好きであればあるほど、よいことだ!」と言ってしまって構いません。
もちろん「読書が好きだ」という気持ちひとつで、学校の勉強ができるようになるわけではありません。
こうした結果には、
・読書だけで得られるプラス効果

・読書とセットになっている別の活動・本人の特性・環境のプラス効果
の両方が含まれています。
例えば、読書が好きで本を長時間読む人は、読書に時間を使ってしまう分、勉強時間は短くなってしまうような気がしませんか?
■データが示す学習意欲を支える読書習慣
しかし実際には違います。読書をする人は、勉強もよくするのです。38ページで10年間で勉強時間が減っていることを示すのに参照した東大とベネッセのデータで、学校がある日の1日あたりの読書時間と1日あたりの勉強時間の関係を分析してみました。
参加者数は1学年につき7000人から1万4000人もいますので、これはかなり信頼できるデータです。
小学1年生から高校3年生まで、すべての学年で検討したところ、高校3年生以外のすべての学年で「読書時間が長い人ほど、勉強時間も長い」という結果が得られました(高校3年生だけは「読書時間と勉強時間は無関係」という結果になりました。これは受験の影響だろうと思われます)。
折れ線グラフで示すと、次のような形になります(図表4)。
ここではわかりやすく小学1~3年生、小学4~6年生、中学1~3年生、そして高校3年生を除いた高校1~2年生の結果をまとめています。
グラフからわかるように、読書時間が長い人ほど、勉強時間も長くなるという「右肩上がり」の折れ線が描かれています。
つまり、このグラフが示しているのは、読書をする人は勉強もよくするものであり、「読書が好きな人ほど学力が高い」というのは、勉強をよくしたから学力が高い、ということかもしれないのです。
■1日30分未満の学習でも成績が高いワケ
「なんだ、読書が成績を上げるわけじゃないのか。じゃあ読書なんかやめて、勉強だけすればいいじゃん」と思われたでしょうか。しかし、勉強時間を除いた「読書『だけ』で得られるプラス効果」もきちんと存在します。
仙台市教育委員会が市内の小学生と中学生を対象に行った大規模な学力調査の結果を分析し、まとめた書籍(※)があります。この書籍によると、勉強時間が同じくらいの参加者を集めてグループにしたところ、そのそれぞれのグループの中で、「読書時間が長いほど学力調査の成績が高い」という結果が得られました。
(※)松﨑泰・榊浩平・川島隆太(2018).最新脳科学でついに出た結論「本の読み方」で学力は決まる(青春新書インテリジェンス).青春出版社.
例えば、中学生の参加者について、1日あたりの勉強時間が「30分未満」のグループだけを取り出して分析した場合も、読書時間が長い人は学力調査の成績がよかったのです。そのグループ内の人に、勉強時間の差はそれほどありません。みんな、1日あたり30分も勉強はしていないのです。
しかしその中にも、読書習慣のある参加者とそうでない参加者がいます。中学生の4科目(国語・数学・理科・社会)の平均偏差値で比較してみると、読書時間が「まったくしない」と回答したグループの平均偏差値は45程度、「1~2時間」と回答したグループの平均偏差値は50以上でした。4科目平均の偏差値が5以上違うというのは、小さくない差なのではないでしょうか。


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猪原 敬介(いのはら・けいすけ)

教育心理学・認知科学者

北里大学一般教育部専任講師。京都大学大学院教育学研究科修了。博士(教育学)。専門は教育心理学・認知科学。研究・教育の傍ら、エビデンスに基づいて子育て・教育・自分時間を考えたい人のために、読書・ことば・学びの研究知見をわかりやすく発信する活動も行う。著書に『読書効果の科学 読書の“穏やかな”力を活かす3原則』『読書と言語能力 言葉の「用法」がもたらす学習効果』(いずれも京都大学学術出版会)などがある。一児の父。

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(教育心理学・認知科学者 猪原 敬介)
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