※本稿は、猪原敬介『科学的根拠(エビデンス)が教える 子どもの「すごい読書」』(日経BP)の一部を再編集したものです。
■「タバコ=健康に悪い」は正しいのか
カナダのキース・スタノヴィッチさんらは、大学生を対象とした調査の中で、読書と論理的思考力の関係を検討しています。(※)ここでの論理的思考力とは、「自らの持つ常識に縛られずに、正しく三段論法による論理的推論を行うことができるか」というものです。
(※)Stanovich, K. E., West, R. F., & Harrison, M. R.(1995). Knowledge growth and maintenance across the life span: The role of print exposure. Developmental Psychology, 31, 811-826.
三段論法とは、
大前提:すべての人間は死ぬ。
小前提:ソクラテスは人間である。
結論:したがって、ソクラテスは死ぬ。
でよく知られる、演繹(えんえき)的推論のことです。
研究で用いられた「常識には反するが、論理的には結論を『真』と回答するのが正解」の問題例は、
大前提:すべての燻製(くんせい)されたものは健康によい。
小前提:タバコは燻製されている。
結論:したがって、タバコは健康によい。
といったものでした。
■常識や思い込み引きずられない人の共通点
大前提も小前提も怪しいため、結論は常識と食い違うものになっていますが、論理的には正しい内容となります。
結果として、読書をよくする大学生は、この三段論法テストの成績も高い、という正の相関関係が示されました。同時に、常識的知識(例えば「酸性雨の原因となるものは次のうちどれか?」や、歴史的出来事についての知識)も調査されており、こちらも読書をよくする大学生ほど常識的知識に優れることが示されています。
すなわち、読書を普段から行う人は、常識的知識をきちんと備えつつ、論理的な思考が必要なときには、その常識に振り回されずに論理的な推論を行える、といえるでしょう。
三段論法の正しい適用は、論理学的な意味での正しい推論を捉えてはいますが、それが日常生活や仕事の上でどのように活かされるか、という一般的関心からはわかりにくいものでした。
そこで、もう少しわかりやすいものとして「批判的思考(クリティカル・シンキング)」を取り上げてみましょう。ここでの「批判的」とは、「他人を批判する」のようなネガティブな意味合いのものではなく、「ある主張や考えが妥当なのかどうかを、きちんと根拠を考慮した上で、偏りなく考えること」といった意味合いです。
■批判的思考力が身に付く意外な本の種類
批判的思考力に優れる人は、
・多様な視点や証拠を考慮し、積極的、かつ、粘り強く慎重に物事を考えられる人
・偏見や思い込みによる一方的な発言や提案がなく、信頼されやすい人
といえるでしょう。
さて、そんな批判的思考力と読書との関係を検討した研究として、イギリスのヘレナ・ホリスさんの研究を紹介します(※)。大学生が2週間の実験に参加しました。
(※)Hollis,H(2022).The influence of reading fiction upon critical thinking. Doctoral thesis(Ph.D), University College London.
この実験期間中、参加者は、
・フィクション(物語)を読む条件
・ノンフィクション(説明文)を読む条件
・何も読まない条件
という3つの条件のいずれかで過ごすことが求められます。
実験に参加する前と参加した後の2回、批判的思考力が測定されます。
このテストでは、参加者はある文章を読み、この文章の主な目的と結論は何か、著者の考え方の根底にある主な前提は何か、それは疑問視されるべきものか、著者の結論に暗示されるものは何で、社会にどのような影響を及ぼすものであるか……といったことを書き表すよう求められます。
■物語を読むほど信頼されやすい人になる理由
結果として、批判的思考力の向上効果は、
・フィクション(物語)を読んだグループ>何も読まなかったグループ
・ノンフィクション(説明文)を読んだグループ≒何も読まなかったグループ
となりました。
さらに、2週間の間に読まれたフィクション(物語)の量が多いほど、批判的思考力が高まることも示されました。批判的思考力なら、ノンフィクション(説明文)のほうが上がりそうですが、結果はそうなりませんでした。
この結果について論文著者のホリスさんは、批判的思考力というものが単に知識の有無で決まるようなものではなく、自分とは社会的に異なる立場に立って考える力、他者への共感力、想像力、そして何かを考えるときに、これらの力を発揮しようという態度と関わるからだと考えています。
物語読書はこれらの力を高め、かつ、物語の教訓を「実感」させます。こうした実感が、相手の立場をおもんばかり、共感する力を発揮しようという姿勢をつくり上げるのかもしれません。
読書と思考力の関わりとして、もっと華やかな感じのする思考力……すなわち、知的好奇心や創造性との関わりも見てみましょう。
すでに、Part2(75ページ)にて、読書をする人は知的好奇心を含む「開放性」という性格特性が高い傾向があることを述べました。
■読書がもたらす「知識の複利効果」
これには、
・知的好奇心が高いから、読書をする(知的好奇心 → 読書)
という因果関係もあると思われますが、反対の、
・読書が知的好奇心を高める(読書 → 知的好奇心)
という因果関係も含まれていると思われます。
なぜなら、私たちが新しく何かに興味を持つときというのは、
・過去の行動で得ることができた知識に強い価値を感じた経験があり、ふたたび「知識を得る満足感」を得たいと感じたとき
・現在の自分の知識と理想の知識の間に、埋めるべきギャップを認識したとき……すなわち、「知識の不足感」を痛感したとき
だからです(※)。
(※)Murayama, K.(2022). A reward-learning framework of knowledge acquisition: An integrated account of curiosity, interest, and intrinsic–extrinsic rewards. Psychological Review, 129, 175-198.
すなわち、人は知識を得れば得るほど、もっと知識を得たくなるのです。そして読書が、そうした知的好奇心を高めるサイクルに貢献しうることは容易に想像できるでしょう。
■知識の習得が生む喜びと探求心
ちなみに、ここでの「知識」とは、豆知識、学問的知識、謎の解決、さらにはスポーツなどの技能までを含んだ広い概念です。
誰でも、打ち込んでいることを、上手にやれるようになれば嬉しいですよね。私も、小学生のときにはサッカーをしていて、少しうまくなると「もっとうまくなりたい」と思ったものでした。大人になってからは一時期マラソンにハマっていて、練習の成果が本番のレースで活かされたときなどは純粋に嬉しく、これも「もっと練習しよう」という決意につながっていました。
読書でも、そうしたことがあります。
あるとき読んだ説明文の本が「当たり」なら、知的な興奮に引っ張られて、すぐに次の本が読みたくなります。これは知識を得る満足感をふたたび得たい、という気持ちからですね。
そんなときに最初に探すのは、説明文ならその本の内容と関連したもので、自分が知らないさらなる情報をくれそうな本です。本を読んで知識がついたために、かえって自分の知らないことがまだまだあることに気づき、その知識の不足感を埋めたいと感じるわけです。
物語だと、知識の不足感というのはあまり関わってこないかもしれません。でも、大きな感動をもたらしてくれた小説ならば、すぐに同じ著者の別の作品を読んでみたいと思うのは自然なことです。これは知識を得る満足感をふたたび得たい、というモチベーションに近いですね。
■本を読むことで得られるもう一つのスキル
世の中の多くの物事と同様に、読書もまた、やればやるほど面白くなる性質を持っているようです。
レーナ・ヴィマーさんらがイギリスで行った研究(※)では、物語を多く読む大学生ほど、「創造性」が高い傾向があることが示されています。
(※)Wimmer, L., Currie, G., Friend, S., & Ferguson, H. J.(2022). Opening the closed mind? Effects of reading literary fiction on need for closure and creativity. Creativity research journal, 36, 24-41.
創造性……あまりにも抽象的な概念すぎて、まったくイメージが湧きませんね。
心理学において創造性を測定するときは、「物品の本来の用途とは別の使い方を想像してもらう」課題がよく使われます。
例えば、お題として「空き缶」が与えられたならば、回答として「楽器として使う」などが考えられます。その回答がどれくらい創造的であるかを複数の審査者が評価するわけです。いかに「これは○○のためのものだ」という固定観念を抑えて、自由な用途を見いだせるかを問うているわけです。
結果として、フィクションでもノンフィクションでも、読書をよくする大学生ほど、「創造性」が高いという結果が得られています。また、この研究も含めた複数の「創造性」を扱った研究を再分析した論文(※)でも、物語読書をよくする人ほど創造性が高い、という結果が得られています(説明文の読書は検討されていません)。
(※)Wimmer,L.,Currie,G.,Friend,S.,Wittwer,J.,&Ferguson,H.J(.2024).Cognitive effects and correlates of reading fiction: Two preregistered multilevel meta- analyses. Journal of Experimental Psychology: General, 153, 1464-1488.
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猪原 敬介(いのはら・けいすけ)
教育心理学・認知科学者
北里大学一般教育部専任講師。京都大学大学院教育学研究科修了。博士(教育学)。専門は教育心理学・認知科学。研究・教育の傍ら、エビデンスに基づいて子育て・教育・自分時間を考えたい人のために、読書・ことば・学びの研究知見をわかりやすく発信する活動も行う。著書に『読書効果の科学 読書の“穏やかな”力を活かす3原則』『読書と言語能力 言葉の「用法」がもたらす学習効果』(いずれも京都大学学術出版会)などがある。一児の父。
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(教育心理学・認知科学者 猪原 敬介)

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