※本稿は、猪原敬介『科学的根拠(エビデンス)が教える 子どもの「すごい読書」』(日経BP)の一部を再編集したものです。
■5分だけでも本を開くことが学力を左右する
スモールインプット現象とは、各種調査などで見られる、「読書をまったくしない(0分)」と、「ゼロではなく、少しはやる(例えば、5分や30分)」で大きな違いが得られる現象のことでした。例えば、小学6年生の全国学力テストにおいて、読書時間が「0分」と「10分以上、30分より少ない」では、平均正答率が7ポイントくらい違います(図表1)。
この7ポイントの違いの中には、「特性・環境」による違いと、純粋な「活動」による違いの両方が含まれています。読書時間が「0分」の子どもたちは、全体的傾向としては「物語が好きな程度」「知的好奇心の強さ」「読書をすることが自分にとって大切なのだという実感」といった特性が低い傾向があります。
さらに、子どもの読書時間が「0分」の家庭では「家庭蔵書数」といった「環境」面も豊かではない傾向があります。
これらの特性や環境の違いが、読書だけでなく、学力にも影響することは想像に難くないでしょう。例えば、「勉強をして新しいことを学ぶことが好き」といった特性や「保護者が勉強に対して大きな価値づけをしている」という環境が、学力の向上につながる、といった具合です。これが、読書に関わる特性や環境が、学力にも影響するメカニズム(の一部)です。
■たくさん読む必要はないといえる科学的根拠
「0分」「10分以上、30分より少ない」「1時間以上、2時間より少ない」と読書時間を並べると、そうした特性の強さや環境の豊かさは、
・「1時間以上、2時間より少ない」>「10分以上、30分より少ない」>「0分」
となっていますが、スモールインプット現象の観点から考えると、その差がもたらす影響力の大きさは、
・「0分」と「10分以上、30分より少ない」の間では大きい
・「10分以上、30分より少ない」と「1時間以上、2時間より少ない」の間では小さい
となっているため、「0分」と「10分以上、30分より少ない」の間で学力などのスコア差が大きくなるスモールインプット現象が生じるというわけです。
こう書くと、読書活動そのものには効果がないかのように聞こえるかもしれません。
例えば、本を読んでいて知らない単語に出合った経験は誰にでもあると思います。そのとき、文脈からその単語の意味を正しく推測できれば、それで1回の語彙学習が成立したことになります。こうした学習を「偶発的語彙学習」と呼び、多くの心理学実験がその効果を確かめています。(※)
(※)Swanborn, M. S. L., & de Glopper, K.(1999). Incidental word learning while reading: a meta-analysis. Review of Educational Research, 69, 261-285.
■たった10分でも学力に効果が出るワケ
「活動」には3カ月毎日読書を続けるといった長期的な活動と、ふと『赤毛のアン』を読んでみたという単発的な活動の2つがあり、調査ではなく「実験」を行う大きな理由は、特性や環境と切り離した「単発的・短期的な活動」の効果を検出するためなのです。
Part2や3では共感力や思考力についての実験を紹介しましたが、それらの効果も確かに「単発的・短期的な活動」から生じているといえるわけです。とはいえ、ここまでは「読書活動が読書効果を生み出しうる」ということを説明しただけで、スモールインプット現象が活動から起こるかどうか、という点は説明していません。
短期的な読書活動が、「少しはやる」ことで比較的大きな効果が得られるスモールインプット現象を起こしうる心理現象としては、2つほど候補があります。
1つは「○○モード」です。
例えば、物語の読書を開始後、10分ほどあれば「物語モード」に入れるとします。一度物語モードに入ってしまえば、そのモードになっている時間にかかわらず、その効果は同じだとしましょう。
つまり、スモールインプット現象が起こっているということです。
■30分の読書だけで“見える世界”が変わる
もう1つは、「これまではまったく気が付かなかったのに、知ったとたん、それが頻繁に目に入る現象」です(これをバーダー・マインホフ現象、あるいは頻度錯誤と呼びます)。私たちは世の中をきちんと見ているようで、実はきちんと見ることができていません。
自分の知識で何重にもフィルターをかけ、取捨選択された世界だけを見ています。読書によって新しい知識を得たり、これまでの固定観念が崩されて、ものの見方が新しくなると、それに応じて世界の見え方が大きく変わります。
たとえ、1日の読書時間が30分であったとしても、そこから何らかの知識の更新が生まれれば、残りの23時間30分の生活の中で見えてくるものが変わるということです。
読書の効果は、読書をしている最中だけに生じるものではありません。読書をしたことによって得られた知識、言葉の力、共感力や思考力が、読んだ人の生活に影響し、その生活が再びその人の考え方や感性に影響します。その繰り返しがその人の特性となり、再び読書活動を生み出していくものだと思います。
ここまでスモールインプット現象が起こるメカニズムについて考えてきましたが、逆U字現象はどうなのでしょうか。
■“やりすぎ”はかえって学力を下げる
逆U字現象で謎なのは、読書時間が長くなると学力などのスコアにマイナスの効果が出ることです。
そんなことがありうるのか?……という気もしますが、「長すぎる」ということであれば、ありえなくもありません。まず、長すぎる読書時間の回答そのものを疑って、
・自分に厳しい性格の人が、本当に集中して読んでいた時間だけを「読書時間」として短めに申告するのに対し、自分に対して甘い性格の人が、本を開いて別のことをしている時間までも読書時間に含めて長めに申告する、あるいは、ウソの回答をしている
ことが考えられます。これは読書活動を質問項目で測定することに伴う測定精度の低さ、という問題ですね。
次に、特性として、
・新しい本を読みたがらず、同じ本ばかりをいつまでも長時間読み続ける傾向
などが考えられます。
新しい内容を読むことは疲れます。しかし、同じ本であれば疲労は少なく、そのために長時間読書が可能になっているという解釈です。あるいは、同じ内容ばかりを繰り返し頭に刷り込むことは、固定観念の強化となり、マイナス効果となる場合があるかもしれません。
さらには、あまり新しい本を読みたがらないという知的好奇心の低さが、勉強を好まない性質につながって、学力を下げていることなどが考えられます。
■悪い親子関係が招く“勉強の質の低下”
環境からは、
・親子関係や友人関係がうまくいっておらず、1人で限られた本を読む以外に時間つぶしがないため、長時間の読書となっている
といったケースが考えられます。親子関係や友人関係がうまくいっていないと、勉強どころではなく、勉強に集中できない、というのは十分にありえることでしょう。この場合、もちろん精神的問題も生じやすくなります。
活動(この場合は、長期的な活動をイメージしてください)としては、
・長時間の読書が大きな疲労になっている
・あまりにも長時間の読書が、他の有益な活動をする時間を奪っている
・読書活動の「質」が低く、プラス効果が期待できない
といったものが考えられます。
最初の「疲労」は、意外と見過ごされやすい要因なのではないでしょうか。読書は疲れる活動なのです。
短時間の読書なら楽しめても、それを長時間続ければ、いずれつらくなるでしょう。何を読むかにもよります。軽く読める物語なのか、ほとんど勉強に近い、重い説明文を読むのかによって、疲労度は異なります。日々の生活に余裕があって、そうした疲労を「心地よい疲労」としてゆったり癒せる人もいれば、長時間の勉強や仕事の隙間に必死に読んでいる人もいるかもしれません。
疲労が癒やせなければ、勉強や仕事に集中できなくなって、結果としてそれらの効率は落ちてしまいます。
■過剰な活動がもたらす「質の劣化」
次の「読書が他の活動の時間を奪う」は、すでに述べた「読書する時間が長い人ほど、勉強時間も長い傾向がある」と矛盾するように感じるかもしれません。しかしそれはあくまでも、全体的傾向としてそうだ、ということであり、日に読書時間が2時間以上にもなる人は、他の活動への影響が出ないとは思えません。
ちなみに、2025年度全国学力テストの中学3年生において、「2時間以上」の人は全体の3.6%です。
図表2のように、中学3年生においては逆U字効果が起きており、「2時間以上」の人は「10分以上、30分より少ない」の人よりも学力を下げていますが、このうちの一部は読書のしすぎによる勉強時間の減少、さらには読書による疲労が勉強の集中力を下げたことによって起こっているのかもしれません。
最後は読書活動の「質」の低さです。
例えば、
・すでに何回も読んでいたり、自分にとって簡単すぎてもう学ぶところがない本ばかりを長時間読んでいる
・長時間の読書が疲労や飽きを生み、読書活動そのものに集中できていない
といったことが考えられます。
■ダラダラ読むなら遊んだ方が有益な時間になる
この要因は直接的には読書によるマイナス効果を説明するものではありません。しかし、読書のプラス効果の低下にはつながります。プラス効果が大きいうちは、疲労などによるマイナス効果が生じていたとしても、それを打ち消して、トータルではプラスの読書効果となりえます。
しかしプラス効果が小さくなれば、マイナス効果を相殺できず、結果としてトータルでのマイナス効果……すなわち、逆U字効果が生じます。
スモールインプット現象を説明する際に、「たとえ、一日の読書時間が30分であったとしても、そこから何らかの知識の更新が生まれれば、残りの23時間30分の生活の中で見えてくるものが変わる」と書きました。実はここで前提としていたのは、「知識の更新が生じる」という一定以上の「読書の質の高さ」でした。
同じ本や簡単すぎる本ばかり読む、あるいは、集中せずにダラダラと読む……というよりも、本を開いているだけ、という状態になってしまう……。こうした質の低い読書を長時間続けるくらいなら、読書は短時間で切り上げて、他の活動(勉強や遊び)をしたほうが、その子どもにとっては有益な時間になるでしょう。
あるいは、長時間の読書が、イコール、質の低い読書、となってしまわないように気をつけることがとても大切だということになります。
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猪原 敬介(いのはら・けいすけ)
教育心理学・認知科学者
北里大学一般教育部専任講師。
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(教育心理学・認知科学者 猪原 敬介)

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