※本稿は、小川和久『総理、国防も安全も穴だらけ! 国民を守れない国・ニッポン』(扶桑社)の一部を再編集したものです。
■バスジャック事件で露呈した警察の弱点
特殊部隊SATの隊員など一部を除き、日本警察は銃器についての知識にも欠けている。それを象徴していたのは、2000年5月3日に発生したバスジャック事件だ。
佐賀市から福岡市の西鉄天神バスセンターに向かう高速バスが5月3日午後1時半ごろ、九州自動車道太宰府インターチェンジ付近で刃物を持った若い男に乗っ取られた事件である。
バスが山口県の山陽自動車道に入るまでに、犯人は乗客3人に切りつけ、68歳の女性1人を死亡させた。バスは午後10時すぎに広島県小谷サービスエリアで停車し、犯人はバス内に立てこもり、翌4日早朝に警察部隊が突入し、人質は解放され、犯人も逮捕された。犯人は17歳の少年で、中学でいじめを受けた後、家庭内暴力を起こし、精神科に入院したこともあったと報じられた。
当時のマスコミは警察の「暁(あかつき)の突入」を英雄的行為のように報じ、「あの状況では最善の決断」と自己満足する警察OBらのコメントをタレ流した。しかし、この事件でほめられてよいのは、突入して犯人を逮捕した警察官だけなのだ。警察のオペレーションとしては、国際水準からほど遠い不合格な答案と言わざるを得なかった。
■「容疑者の無力化」を真っ先に考えるべき
この事件では、午後3時半すぎに山口県の小郡インター付近で人質女性1人がバスから飛び降りて脱出している。
高速道路上にパトカーなどを並べてバリケードを作れば、停車したバスから物陰に隠れて犯人を狙う特殊部隊SATの狙撃手までの距離は、どんなに離れていても100メートル以内、普通は50メートル以内だろう。この距離であれば、狙撃手は狙った場所を正確に狙撃することができる。
■人質を傷つけずに犯人だけ狙撃する方法
私のささやかな自衛隊経験からしても、距離が200メートル以内であれば、犯人の頭を狙えば頭を、心臓を狙えば心臓を撃つことができる。
問題は銃弾で、背後に人質がいると犯人を貫通するため撃てない。だからSATチームは四方八方に展開し、人質と犯人が重ならない位置にいる狙撃手が撃つことになる。遠距離からの狙撃と異なり、このようなケースではカメラマンが最適の位置を求めてこまめに移動する発想が狙撃手にも必要となる。
もちろん狙撃の体制を取っておいて犯人の説得を試み、投降させることができれば、それはそれでよく、SATは黙って撤収すればよい。このときのバスジャック事件は、1回説得してダメなら直ちに狙撃、というケースだっただろう。
私は、事件発生直後から「解決策は狙撃しかない。発生から3時間で解決できなければ不合格」と主張していた。
■ライフル弾がフロントガラスで跳ね返る?
ところが、警視庁の最高首脳の1人は「小川さんは評論家だから、テレビを見て好き勝手なことを言っている……」と言ってきた。東大を出たキャリア官僚だったが、私は「何を言っている。俺が少年自衛官出身だということを知らないのか」と叱った。15~16歳の頃、私は200メートル先の標的を、それも裸眼で外すことはなかった。
あきれたことに、この警視庁首脳は「弾丸がバスのフロントガラスで跳ね返ってしまうから狙撃できなかった」と真顔で言った。しかし、そんなことはあり得ない。
私が使っていたアメリカ製のM1ライフルは、有効射程500メートル。100メートル離れたところからの貫徹力は厚さ13ミリの鋼鉄製の装甲板を打ち抜くというものだった。警察が備えている狙撃用のライフルで撃てば、もちろんフロントガラスはないも同然だ。こんなド素人が指揮を取っていては、ヘタをすれば第一線の警察官は命を落としかねないと思った。
事件後、警察が口にしたのが「容疑者にも人権があるから、それを考えると安易に狙撃はできない」という言い訳だった。
もちろん容疑者も含めてすべての人間には人権がある。しかし、容疑者が人質の人権を蹂躙(じゅうりん)しており、その人質の1人が既に殺されているときに、容疑者と人質の人権を同列に扱うというのは、自分たちの不作為を正当化しようとする責任逃れとしか言えない。
きちんとした人権意識のある国であれば、人質の人権を最優先し、場合によっては容疑者を狙撃するのは当たり前の話なのだ。
■警官3人がかりで紀州犬1頭に13発
首相官邸ドローン落下事件で日本のセキュリティの後れを世界に曝(さら)してしまった後も、深刻な事態は続いた。
新聞ではベタ記事同然の扱いだったが、世界の治安機関、情報組織、そしてテロリストや犯罪者が注目したのは日本警察の銃器に関する知見の乏しさだった。
2015年9月15日付け読売新聞は次のように報じた。
「人を襲った紀州犬、警官3人が射殺…13発発砲
14日午前2時頃、千葉県松戸市日暮の路上で『女性が犬にかまれた』と、110番があった。松戸署員が駆けつけたところ、飼い主の男性(71)が犬に襲われており、署員3人が計13発を発砲し、犬を射殺した。
同署の発表によると、飼い主の男性と通行人のアルバイト女性(23)が犬にかまれ、いずれも左腕に軽傷。犬はオスの紀州犬で、体長1メートル22、重さ21キロだった。同署の浜元裕彦副署長は『犬を射殺しなければ、ほかにも被害者が出ていた可能性が極めて高い。拳銃の使用は、現時点では適切かつ妥当と考えている』とコメントした。
この記事だけでは何発が紀州犬に当たったのか、つまり、何発が外れたのかなど、ディテールは不明だが、9月15日のフジテレビ系のニュースでは警察への取材をもとに「6発から8発が犬に命中」と報じている。
■そんな射撃能力でテロリストと戦えるのか
どのくらいの距離で撃ったのかわからないが、要するに13発のうち5発から7発が外れたということだ。フジテレビ系の報道では、2発の跳弾が出て、近くの住宅とエアコンの室外機に当たったという。住民に被害が出なくてよかったと胸をなで下ろしたのは、私だけではないだろう。
そこで、なぜ紀州犬射殺事件がテロ対策に結びつくのかということだが、まず3人の警察官が13発も撃って6~8発しか命中させられなかったという、日本の警察官の射撃に関する技量の低さが浮き彫りになったからだ。
松戸警察署の3人の警察官の技量は、おそらく日本の警察官の平均的な技量と考えてよい。このレベルの警察官が、大規模イベントなどの雑踏の中でテロリストと銃撃戦になったら、市民が巻き添えになるのは避けられないと考えるべきだ。
そんな事態を避けるには、少なくともアメリカの警察官なみに射撃訓練を重ねる、要するに撃ちまくっていなければならない。
私も陸上自衛隊の末端(陸上自衛隊生徒)でライフル、軽機関銃、重機関銃、対戦車ロケットなどの基本的な訓練を受け、射撃は得意だったというのが、ささやかな自慢だが、とにかく日本の場合、自衛隊も警察も、極端といってよいほど射撃訓練がお粗末なのだ。
■防弾ベストを着けた相手には歯が立たない
そうした訓練不足を補うため、2004年に陸上自衛隊を復興支援のためにイラクのサマーワに派遣するとき、当時の第2師団長・河野芳久陸将は私に「普通の自衛官が一生かかっても撃つことのない弾数を派遣前の訓練で撃たせた」と言った。激しい戦闘では付着する火薬カスのために一日で銃が作動不良になるそうだが、派遣前の射撃訓練では、そのレベルまで達しなかったという。
今一つの懸念は警察官が携行している拳銃の威力だ。
紀州犬の事件では、おそらくニューナンブM60(ミネベア製)が使われたと思われる。この拳銃は1960年に採用され、1999年に製造を終了しているが、今なお日本警察の主力拳銃の座にある。
アメリカのスミス・アンド・ウェッソン(S&W)のM36をモデルにした38口径(9ミリ)の拳銃で、有効射程距離は50メートル、上級の射手が撃った場合、25メートル離れて直径5センチの円内に弾丸を集めることが可能とされており、5発が装填されている。
もちろん、熟練した射手ならニューナンブでも1発で相手に致命傷を与えることは間違いないが、問題は平均的な警察官の技量だ。
6~8発を発射してやっと紀州犬を倒すことができたということは、うまく頭部に命中させることができなければ、衣服の下に拳銃用の軽量の防弾ベストを着けた相手には歯が立たないということだ。38口径の拳銃弾は、それくらいの威力しかないことも知っておく必要がある。
■自動拳銃を打った経験者は200人中1人
テロリストは、日本の警察官など意に介さないで堂々と犯行に及び、場合によっては撃たれながらでも警察官に向かってくるかもしれない。
陸上自衛隊の特殊作戦群や警察のSATといった特殊部隊はともかく、平均的な警察官の能力を高める手立てはただ一つ、撃って、撃って、撃って、撃ちまくって、射撃の腕前を高めることしかない。
さらに、ニューナンブや更新中の拳銃に357マグナム弾を使用できるようにするか、より威力の高い拳銃を装備すれば、それなりの対テロ能力の向上を期待できるだろう。
マグナムなどというとダーティーハリーの映画を思い浮かべる向きもあると思うが、あんな大型マグナム(44マグナム)はともかく、アメリカのハイウェイパトロールの交通警官でも357マグナムを持っているのだから、日本の警察も考えてみてもよいのではないか。
以前、ある警察管区の警察署長クラスを集めた会合で尋ねたところ、自動拳銃を撃ったことがあるのは200人中1人、見たことがあるのは10人ほどだった。これほど銃器が身近でない警察組織は世界でも珍しいのではなかろうか。
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小川 和久(おがわ・かずひさ)
軍事アナリスト
陸上自衛隊生徒教育隊・航空学校修了。同志社大学神学部中退。地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。外交・安全保障・危機管理(防災、テロ対策、重要インフラ防護など)の分野で政府の政策立案に関わり、2012年4月から、静岡県立大学特任教授として静岡県の危機管理体制の改善に取り組んでいる。主な著書に『日本人が知らない台湾有事』(文藝春秋)『メディアが報じない戦争のリアル』(SBクリエイティブ)など。
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(軍事アナリスト 小川 和久)

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