■1000人の命綱が満席地獄に
お隣の宮古島まで約60Km、飛行機が移動の頼みの綱なのに、ずっと「満席・キャンセル待ち」のままで、予約がとれる気配がない。そんな事態が、沖縄の離島・多良間島で起きている。
原因は、JAL系列への搭乗で得られる「ライフステータスポイント(以下:LSP)」を目当てにする、俗に言う「マイル修行僧」だ。このポイントが2倍獲得できる「ダブルLife Statusポイントキャンペーン」を昨年11月から開催したところ、片道25分という短距離でポイントが得られる多良間空港発着の航路に予約が集中。軒並み満席が続くという状況が続くようになってしまったのだ。
人口1000人強の多良間島は、東京なら港区と同様くらいの広さしかなく、島内には高校も総合病院もない。何をするにも宮古島に出る必要があるこの島にとって、「琉球エアーコミューター」(JAL系列。以下「RAC」)が運航する1日2往復の航空路線は、命綱に等しい。その飛行機が予約満杯で乗れないとあって、多良間島民の不満は爆発した。
RACも増便を行ったものの足りる訳もなく、最終的には島の要望にこたえる形で、多良間航路だけがポイント2倍キャンペーンの対象外となり、予約客向けにも手数料無料で払い戻しを求める事態になっている。
RACはこの島に限らず、沖縄の離島に10航路もの路線を運航しており、多良間島はもとより「マイル修行僧の聖地」でもあった。にもかかわらず、なぜ今になってこのような事態が発生したのか? 実際に多良間島を訪れ、騒動の顛末を検証する。
■制度改定が生んだ「修行僧」
多良間島への航路だけに、いま予約が集中したのはなぜか? 背景には、JAL会員のなかでも上級ステータスに位置づけられる「JALグローバルクラブ会員」の入会条件が、2年前に変更されたことにある。
それ以前にあった基準(JMBサファイア以上)は「1年間の搭乗回数が50回+FLY ONポイントが1万5000ポイント」などで入会可能だったため、頑張れば初年度から容易に入会できた。しかし、規約改定とともに新制度「LSP(ライフステータスポイント)」が設けられ、入会条件は「積算でLSP1500ポイント獲得」に変更になったのだ。
LSPを5ポイントを貯める選択肢は「JALか系列会社の航路に1回搭乗」「JALカードで2000マイル獲得」。これが1500ポイントとなると、よほどの資金力と余暇がない限り、グローバルクラブ会員の権利を目指せない制度に変わってしまった。
いわば「一挙に貯めるポイント制から、コツコツ貯めるライフステージ制へ」といった制度の激変があったために、JAL利用者は軒並み戸惑っているのだ。
2026年時点では制度変更から2年少々しか経っておらず、多くの人々が必死に入会を目指している。「ラウンジ利用無制限」「優先搭乗」などの特典が段違いに増加するグローバルクラブに一刻も早く入会したい人々は、JALカードに公共料金や通勤定期の支払いをまとめてマイルを獲得しつつ、隙あらば旅行に出かけて「LSP5ポイント」獲得をコツコツと目指している。
この状態で11月からLSPポイントの2倍アップキャンペーンが開催され、運賃が大幅割引になる「JALunLun BLACK FLYDAY」(2025年11月)、「JALunLun 新春セール」(1月)も重なり、マイル修行僧は次々と飛びついた。
各地の航空路線はこうして、観光地にも行かずに「LSP1500ポイント」を目指して搭乗を繰り返す人々で溢れてしまったのだ。
■修行条件が整いすぎていた多良間航路
ただ、ほかに大東諸島・与那国島などもあるRACの離島路線のなかで、なぜ1航路だけ予約が取り尽くされてしまったのか? ……筆者は、多良間島だけ「ポイント・マイル稼ぎ」の条件が整いすぎていたと考える。
先に述べたとおり、LSP獲得のために飛行機に乗る人々は、目的地に到着して空港の敷地外に出ることもなく、すぐ折り返す。宮古空港~多良間空港は片道25分・1日2往復で、多良間空港に到着して30分少々で折り返すため、この航路なら1往復90分ほどでLSP10ポイント、ポイントアップキャンペーン中なら20ポイントを稼げるのだ。
かつ多良間空港は、降りると目の前に搭乗ゲートが見えるほどにコンパクトだ。さらに、遅延や休航などのトラブルがあっても、片道2時間のフェリーに乗れば、宮古島までは戻れる。極度に折り返しやすく、いざというときはフェリーを使えばよいという安心感もあり、折り返し前提でついつい旅程に入れたくなってしまうのだ。
そもそも、国内でここまでJAL系列の航路が集中して、飛行機で離島巡りができるのは八重山諸島(宮古島・石垣島など)しかない。1日で10航路以上も乗り継ぐこともある「マイル修行僧」は、高確率で多良間航路の予約を取ってしまった、という訳だ。
■「病院の先生が来ない」島民の苦悩
こういった事情で飛行機に乗れなくなった多良間島民は、相当に困惑している。
一般的に12月・1月は旅行需要の少ないオフシーズンだが、島民にお話を伺ったところ「多良間は沖縄の黒糖生産の4割を占めるため、12月~3月のサトウキビ収穫・黒糖製造のために、この時期は関係者の往来が激しくなる」そうだ。
かつ、ブランド牛「多良間牛」の牛セリ(競り市)開催前にも、多くの畜産業者が多良間を訪れる。出荷対応でフェリーの運航時刻が大幅に変更になる日もあるため、多良間島への移動手段は飛行機のみになってしまう。
「黒糖」「多良間牛」といった特産物の出荷で忙しいところに「マイル修行僧」が殺到したため、仕事で往来する人の飛行機の予約も取れなくなってしまったそうだ。
島民も、宮古島にある総合病院への通院ができない。さらに、乳幼児検診のために島を訪れる医師の航空チケットすら手配できず、検診そのものが延期に追い込まれるという非常事態も発生しているようだ。
さらに多良間島に就航する機体(ボンバルディア社・DHC-8-Q400CC)は貨物スペースを広く取っている関係で、通常より少ない50席程度しかないため、何かがあるとすぐに予約が埋まってしまう。
地元密着の飛行機で、島民向けには運賃が格安になる補助まで設定しているのに、肝心の予約が軒並み満席で取れない。何らかの対策を必要とされていることは、明らかだろう。
■修行僧を拒めば、路線が消える
「マイル修行僧」で賑わいを見せているにもかかわらず、多良間島~宮古島間の航路の実績は、以下の通りだ。
年間席数 7万850席 利用 4万4229人 搭乗率 62.4%(令和5年度実績)
ほかの離島と比べても席が埋まっておらず、与那国・久米島とともに、運航費の欠損補助(赤字補填)の対象路線となっている。
航空路線のある島の中でも人口が少ない多良間島は、1日2往復の航路を維持するために、少しでも利用を伸ばさなければいけない……が、ほかの補助対象航路と比べて観光地も少ないとあっては、搭乗率をこれ以上稼ぐのは、きわめて難しい。
「マイル修行僧」の予約が殺到したことで、地元利用ができない事態が起きてしまったのは残念だ。多くの人は島の中心部にも観光地にも立ち寄っていないため、「島にお金を落とす」といったメリットも得られない。多良間島民によると、今回の騒動で否定的な見方をしてしまう人も増えたという。
■残された一手は「共存」のみか
しかし、この搭乗実績では「マイル修行僧」を遠ざけると、搭乗率の低下で「人口1000人の島に1日2便」という運航体制を存続できないかもしれない。
ここで島の人々のための専用予約席を設定できれば良いのだが、JALに問い合わせても「俗に言われている『村長席』(緊急用に席を開けておく制度)のような制度はない」とのこと。
あくまでも島内の人・島外の人のバランスを取りながら航路を運営する以外に、「1日2便」を存続させる手はないだろう。
全国では、搭乗率を上げるために「マイル修行僧」に記念品を贈呈して歓待するような空港(オホーツク紋別空港、コウノトリ但馬空港など)もある。
今回のような騒動は「多良間空港だけで起きた」(JAL広報部見解)とのことだが、残された一手は「島民とマイル修行僧の共存」以外にないようにも思え、悩ましいところだ。
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宮武 和多哉(みやたけ・わたや)
フリーライター
大阪・横浜・四国の3拠点で活動するライター。執筆範囲は外食・流通企業から交通問題まで、元・中小企業の会社役員の目線で掘り下げていく。各種インタビュー記事も多数執筆。プライベートでは8人家族で介護・育児問題などと対峙中。
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(フリーライター 宮武 和多哉)

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