1973年に発売開始した「あずきバー」は、2024年度のシリーズ年間販売本数が過去最高を記録した。なぜ昔ながらのアイスが売れ続けるのか。
井村屋グループ(三重県津市)を取材すると、「他社には真似できないオンリーワンのこだわり」があった――。
■売れている理由は「猛暑」だけ?
拡大しているアイス市場における売れ筋は、ロングセラー商品が圧倒的に強い。売上上位を占める大手乳業メーカーのミルク系アイスクリームと並び、トップ10入りする人気商品が、井村屋の「あずきバー」だ(アイスクリームプレスの2024年4月~2025年3月売上推計)。
1973年の発売以来、井村屋の主力商品にもなっている「あずきバー」。2024年度のシリーズ販売本数は、過去最高の3億2900万本を達成した。この5年間、売上本数は3億本前後と好調で、2025年3月期のグループ売上高は511億円(前期比6%増)、純利益は21億円(同13.9%増)といずれも過去最高を更新した。
さっぱりした氷菓系が売れるといわれる夏の猛暑が、売上を押し上げたといわれている。しかし、こうした環境要因だけで1年に3億本も売れるものなのか。素朴な和風アイスが売れる理由を探ってみると、同社の創業当時からの変わらぬ「小豆の持つ自然なおいしさ」へのこだわりが見えてきた。
■「子どものころと変わらない」という安心感
あずきバーは、1本80円(税抜き)という手軽さ、小豆の粒感と程よい甘さ、スッキリとした後味が売りだ。発売以来、50代以降の中高年層、高齢層に圧倒的に支持されている。
「新商品が次々出てくるなかで、発売当時からほぼ色形が同じという安心感が売れる一つの理由かと思います。
実家のお母さんの味を懐かしく思うのと同じで、子どものころに食べたアイスを思い出す、懐かしい味がする、という消費者の方々からの声をいただいています」
こう語るのは、海外貿易室長の井村慎さんだ。
小豆、砂糖、水あめ、食塩の4つの原材料で作るシンプルなアイスだが、ようかん製造が祖業の同社であっても、開発までには相当な苦労があった。
■唯一無二の「ぜんざいを凍らせたアイス」
「類似商品が出たこともありましたが、当社のあずきバーはどこも真似できません。我々はオンリーワンの商品だと思って自信を持っていますから」(井村)
1896年にようかんの製造販売で創業した井村屋が培ってきた、小豆の選別からあんの煮炊きまでの卓越した技術。通常のあん製法とは違うこの技術こそが、商品への確固たる自信の表れなのだ。
加工したあんは一切使わない。小豆の選別からあんの煮炊きまで自社一貫で行っている。
通常、小豆の選別は専門業者が行うことが多いが、同社では自社工場に選別機を投入し、小豆の粒の均一化を徹底している。
そもそも小豆は気候などの自然環境や産地、収穫年によって、形や大きさなどがまちまちだ。それを5つの選別工程を経て、均一の大きさに揃える。1日約1億粒の小豆を選別する手間を加えることで、あずきバーの特長でもある、口当たりまろやかなあんと小豆の粒感が生まれるという。
あん製法のなかで最も高度な技術が必要になるのが、約100粒の小豆を均等に棒アイスに固めることだ。
アイス事業に参入した1963年から、小豆が重さで液体の底に沈んでしまうことが課題だった。課題解決のための技術開発は、試行錯誤を繰り返した末に実現した。
■素材そのものだから赤ちゃんも食べられる
小豆と向き合ってきた創業当時からの技、さらに新技術を結集させ、1973年に「あずきバー」が完成した。発売以来、不動のロングセラーになっても、根強いファンの声に応えながら、少しずつ進化している。
「ぜんざいをアイスにするが元々の発想なので、あくまでも自然な甘さにこだわり、今の味に落ち着くまで、実は4回の大規模な改良を加えています。1992年にすっきりした甘さにするため、上白糖からグラニュー糖に変更し、翌年にもさらに甘味度を減らし、着色料の使用をやめました。
2004年にも、砂糖の含有量を2割ほど減らして甘さを抑えました。2023年には小豆にとろみをつけるコーンスターチをやめ、素材そのものを楽しんでいただける味になっています。アレルギーを含む原材料も使用していないため、ファミリー層の小さなお子さんや赤ちゃんにも安心して食べていただける、親子3代、4代が楽しめるアイスが『あずきバー』の特長です」
商品開発部冷菓チーム長の嶋田孝弘さんはこう説明する。
■特有の「固さ」は改良の副産物だった
市場に出回っているアイスクリームのクリーミーな濃厚さやミルクの甘さとは対極にある、小豆を甘く煮たあんの「素朴な甘さ」という商品価値に磨きをかけている。
その価値を知る購買者を常に安定して抱えているのが、同社の強みだろう。だが反面、課題にもなっていると、嶋田さんは言う。

いかに若年層やファミリー層の新たなファンを取り込み、「小豆」味の魅力を伝えていくか――同社が取り組む次の一手とは何か。
甘さを改良したことで、思わぬ副産物が生まれた。それは、アイスの「固さ」だった。
あずきバーの別名は、「アイス界のダイヤモンド」。つまり、歯が折れるほどの「固い」アイスとして知られている。
実際に、商品のパッケージ面には、「固く凍っているため、歯を痛めないようにご注意ください」の注意書きがある。
「アイスの固さは、味わいを良くしようと改良を重ねた結果なのです。甘さを抑えた結果、水分が増え、それが氷になった分固くなっています。添加物や乳原料も使っていないので、そのままの自然な固さなのです」(嶋田)
■「柔らかいあずきバー」を作ってみたが…
実は、固い物を食べにくい年配の消費者からの要望を受け、柔らかいあずきバーを開発したことがある。1992年の「やわらかあずきバー」、1997年の「あずき本舗」、2010年の「やわらか仕立てのあずきバー」と3回発売したがいずれも思ったように売れず、1年たたずに終売となった。
いまでも「やわらかいタイプ」への要望はあるものの、やはり消費者はあずきバーの「唯一無二の固さ」を生み出す「唯一無二の味わい」に魅力を感じているということなのだろう。
固さを売りにしているわけではないと嶋田さんは前置きしつつも、最近、合金のようなアイスの「固さ」がSNSでバズリ、これまで「小豆」味に振り向かなかった20代の若年層や30代のファミリー層が新規購買者になっているという。

「当初、社内の一部では固さで評判になることに抵抗感があったのですが、徐々に外部とコラボの話があれば、それに乗って盛り上がりを楽しもうという流れに変わっていきました」(嶋田)
■「固すぎるアイス」だから実現したコラボ
あずきバーの固さを売りに取り組んだコラボは数々あるが、注目された一つが、2024年にBANDAI SPIRITSとラボした「超合金 あずきバーロボ」だ。
あずきバーを細部まで3Dスキャンして、約1/1のサイズでフォルム・質感を再現した商品は、1万3750円(税込)の高価格だが、予約完売したほどの人気だったという。
2017年には、刃物鍛冶で有名な岐阜県関市とコラボして、あずきバーを日本刀の形に落とし込んで制作した、全長約87センチの「日本刀アイス」も話題になった。
「20代の購買層はまだ薄いですが、コラボや『7月1日は井村屋あずきバーの日』に合わせた無料サンプル配布イベント、SNSなどで発信を続けながら、今後、さらに若者層を獲得していければと思います」(嶋田)
■「甘い豆」に慣れていないアメリカにも攻勢
新たな購買層獲得に向けて、国内だけでなく海外にも目を向けている。
2000年の中国での現地法人立ち上げを皮切りに、海外進出に着手。2009年、アメリカ・カリフォルニア州に拠点を置き、全米各地に向け「あずきバー」の売り込みを開始した。味も食感も日本で販売している商品とまったく同じだ。
小豆を甘く煮てお菓子として食べる習慣のないアメリカでは、あえて小豆を前面に打ち出すことをやめ、日本のスイーツとして売り込んだ。日本から輸出したあずきバーを英語表記に直してそのまま卸す。
当初の卸し先は同州の日系やアジア系スーパーが中心だったが、2015年以降、日本食ブームの影響もあり、コストコなど大手量販店に卸すまで販売網が拡大。中国を追い抜き、今や「海外で一番あずきバーが売れる国」となった。
イスラム・アジア圏では2019年にマレーシアへ進出。
海外では唯一、現地で原材料を調達し、現地の嗜好に合わせた甘さにローカライズした。また、工場も現地のハラール認証を取得している協力工場で生産。現地の人々の味覚に合うあずきバー「AZUKI BAR」を製造販売する。
海外輸出から約15年、販売先は現在約40の国と地域に広がっている。
「オーストラリアやニュージーランドを加えた環太平洋地域にあずきバーを広めたいと考えています。現在、海外でのシリーズ販売数はまだ国内の1%で、海外事業の売上は全体の7.6%。これを8.8%に引き上げ、2030年には20%を達成できればと思います」(井村)
■売上7割、不動の人気はやっぱりこれ
あずきへのこだわりは発売から50年以上変わらないが、時代のニーズや嗜好の変化に合わせることも忘れていない。
「過去にはゆず、塩、コーヒー、甘酒などのフレーバーを限定で発売したことがあります。最近では昭和レトロブームに合わせ初期のアイスの復刻版や、こしあんなど新しいフレーバーを限定で販売しました。こしあんバーは2023年の発売時に2週間でほぼ完売し、若者層に好評でした」(嶋田)
2006年に発売した姉妹品の「宇治金時バー」「ミルク金時バー」は定番商品になり、2023年にはそれぞれ「あずきバー 抹茶」「あずきバー ミルク」にリニューアルした。
原材料をすべて北海道産で作った「北海道あずきバー」や、さらにプレミアムな原材料を使った「ゴールドあずきバー」、有機栽培の原料を使った「オーガニックあずきバー」などもラインナップに加わっている。
定番化した「3兄弟」の売上構成比はあずきバーが7割、抹茶とミルクで3割ほどと、オーソドックスなあずきバーの人気ぶりがうかがえる。

■目指すのは「どこでも買える定番アイス」
「あずきバー」はさらに進化を続けるのか、そして今後の目標は、と質問すると、嶋田さんは「高齢層が増えてきますので、形状に工夫をしていきたいと思います」と答える。一方、井村さんは目標についてこう語る。
「全国の小売店における取扱店率は約90%と、まだ伸びしろがあります。目指すのは、100%です。また、小売店だけでなく、飲食店、ホテル、銭湯などにも取扱店舗を拡大しています。ニーズに応えるために生産体制を整えたので、次の段階は売り方をどうするかを考えて、打ち出すだけです」
井村屋が目標に掲げるのは「世界販売本数4億本」。生産拡大に向け、約40億円を投資した新工場もまもなく完成する。三重・愛知にある製造ラインを4本から5本に増やし、1.3倍増産できる体制に入る。
日本発の和風アイス「あずきバー」が、世界の「AZUKI BAR」になる日もそう遠くないかもしれない。

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中沢 弘子(なかざわ・ひろこ)

ライター

ボストン大学大学院国際関係卒コミュニケーション専門。出版社にて編集者として勤務後、フリーライターとして独立。大手出版社の女性誌やビジネス誌にて人物取材多数。Forbes Japanなどでも記事を執筆中。社会課題の解決に取り組む経営者や起業家を取材。また、NHKドキュメンタリー番組の字幕翻訳や国際ニュース執筆、海外国別分析調査レポート執筆にも従事。最近は、日本の食文化を紹介する英文記事も執筆中。

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(ライター 中沢 弘子)
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