子供と二人三脚で合格へ到達できた家庭の秘密は何か。セルフマネジメントプログラムの講師をしている園田恭子さんは自身の経験を踏まえ「親自身が心の状態をレッド・ゾーンではなく、グリーン・ゾーンに留まるにするようにすると声かけのセリフが変わる」という――。

■なぜ、母親は仕事帰りにグリーン車に乗ったのか
1回目の概要:経営学者ピーター・F・ドラッカーの思想をベースにしたセルフマネジメント理論では、交感神経と副交感神経という自律神経の波が適度な範囲内で、エネルギーを高めたり休めたりして波を打っているのが理想的な“グリーン・ゾーン”と言われる。だが、子供が中学受験をする家庭では、子供も親もフラストレーションや心配事などで心が充満するレッド・ゾーンに突入してしまい、リラックス空間であるはずの家庭内を息苦しくさせてしまうことも多い】
わが子が中学受験に挑む家庭で、できるだけ子供や親がグリーン・ゾーンにいれるためにはどうしたらいいのか。成績の好不調や、集中力の上下などさまざまな要素で子供のメンタル状況は不安定だ。それを見守る親も不安や焦りがあり、平静を維持するのは難しい。
セルフマネジメントプログラムの講師を務める園田恭子さんはかつて娘の中学受験に寄り添った経験がある。
その日の仕事がしんどくて帰宅時に大きなストレスを抱えたまま家に入ると、家中をレッドに染めてしまう。そうなると全員のリラックスタイムが台なしに……。園田さんはそれを回避し、グリーン・ゾーンに戻るために次のような工夫をしていたそうだ。
1) 家に入る前に「リセット」
「私はたまに仕事帰りにグリーン車(JR在来線の指定席)に乗ってボーとする時間にしたり、自宅近くのカフェでお茶を飲んだりしてから玄関のドアを開けていました。お金はかかりますが、そうすると、家で落ち着いて家族に向き合えました。
人間はネガティブに意識が向くのがデフォルトなので、放っておくとどんどん親子共々レッドの状態になって行きます。グリーンの状態になると子供のポジティブな側面(成長、可能性や自信の種)に意識を向けて声をかけることができます。
電車やカフェは、仕事由来のレッド・ゾーンから理想の家庭モード(グリーン・ゾーン)に切り替える、最高のリセットタイムだったんですね」
心をグリーン・ゾーンに戻すには、こうして意識的に「余白」の時間を設けるといいのだ。リセットという意味では、子供の成績が急降下したり、想定外の事態に見舞われたりした場合、「その場を離れる」という方法もある。
「興奮している状態から、一度冷静な状態に戻すための『リセットボタン』を用意しておくといいですね。実践しやすいのは、呼吸に意識を向けること。今の自分の状態に気づけます。もしくは、その場を離れること。時間があれば、深呼吸したり、瞑想したり、軽いストレッチ・運動をしたり。ベランダに出て、夜空の星を数える、トイレに行って目を閉じて深呼吸する。お茶を飲んで落ち着くというもいいですね。
こうして、頭の中でぐるぐる考えている状態から別のことに一旦気をそらし、落ち着きを取り戻して余白を作ることができます。今のこの瞬間、自分が何を感じているか、体験しているかに気がついているか否かが、分かれ目になります」
■「受験なんかしなくていい!」退塾を申し出た
2)思い切って第三者にバトンタッチ
どうしても心に余白を持てないときは、第三者に頼れないか検討するのも手だ。
「親は子のサポートに奔走すると疲れがたまります。
子供は子供で、休息しているときに『宿題やったの?』などと言われると気が休まらない。そんなときは、近くに親戚や頼れる友人家族などがいればどこかへ連れ出してもらえないかお願いして、物理的距離を置いて休んでもいい」
園田さん自身、堪忍袋の緒が切れて娘に声を荒らげたことがあったという。子供のためにと、頑張り過ぎて、気持ちが前のめりになりすぎてしまったのだ。
「当時娘は小6の6月。第一志望まで全然偏差値が届いていないのに、宿題を全然やろうとしない。『やりなさいね。自分がやると言った中学受験でしょ』と言うと嫌々やる。でも、次の日はやらない。怒ると娘はさらにやる気が低下する。レッド・ゾーンの私は『そんなにやる気がないならもう塾もやめなさい。受験なんかしなくていい!』と最後通告を出してしまったんです」
数時間後、園田さんは予定していた塾の保護者面談で退塾を申し出た。すると、先生は冷静にこう諭してくれたという。

「お母さんが前のめりになると、子供は逃げたくなるもの。お母さんは一旦勉強に関わらないようにしてください。後は、こちらでやりますから」
その後、塾長が娘と1:1で話をすると、本人は見事にやる気を復活させ、そこからエンジンがかかって、見事、神奈川県内の女子中学で最難関レベルに位置する第一志望校の合格を勝ち取ったそうだ。
「娘は塾長のことを尊敬していたので効果があったのでしょう。子供が信頼する第三者に入ってもらうことで、適正な距離を保ち、親子ともにグリーン・ゾーンに立ち戻ることは可能です」
中学受験の合否は子供がどれくらい勉強を積み重ねるかも重要だが、見守る母親や家庭内のグリーン時間がどれだけ多く、レッド時間を最小限にできるかということも大きく影響がするということなのだ。
■グリーン・ゾーンの言葉に言い換える
では、子供のやる気がダウンしているときは?
「人は神経が高ぶっているとき、ノンストップで走り続け、疲れにも無自覚になります。そうなると当然ながらいつかエネルギーが枯渇して受験勉強も続かなくなり、無気力状態に。完全なブラック・ゾーンです。そんなときに親が『ぼぅっとしていないで宿題しなさい!』などと畳みかけると、さらに状態が悪化します」
親は子供の様子を見極めた上で、かける言葉を選ぶ必要があるのだ。以下、園田さんの経験も踏まえつつ、子供へのOK・NG声かけの事例を見ていこう。
「今日のテストどうだった?」→「今日も長時間がんばったね」
例えば、塾から帰ってきたばかりの子供が疲れた顔をしていたら、「今日のテストどうだった?」「授業は理解できた?」と聞きたい気持ちをぐっと飲み込んで、まずは労おう。結果が良ければ子供から喜んで報告してくれるだろう。

「テストの解き直しを4教科終わらせるはずが、1教科の途中までしか進んでいないのも、無気力ゾーンにいるからかもしれない。『たった数問で息切れ? せめて1教科は終わらせようよ』と言いたくなりますが、人によって、限界値は異なることを忘れないようにしたいです」
「宿題が終わったら休もうか」→「一旦休もう!」
日常は「がんばってるね」「ここはできるようになったね」と応援していることをさりげなく伝え、だんだん疲れてきて鉛筆を持つ手が止まりそうになったら小休憩、完全にやる気がなくなってエネルギーが落ちた状態にいたらちゃんと休むか、今日は寝ると割り切って、メリハリをつける。
「親としては『宿題が全部終わったら休もうか』『解き直しが4教科分全部終わったら遊んでいいよ』と言いたくなりますが、こまめに休まないと続かないのが人間。ましてや人間の集中力は20分といわれています。疲れる前に休憩を挟む方が結果的に質も量も上がる傾向にあります」
「うちの子は家では1分も勉強しないんだけど」という子には、短い間だけでも集中するよう働きかけ、リズムをつくりたい。
■受験を母娘のプレシャスな記憶にしたチョコ
「これ覚えなさい」→「○○はな~んだ?」
子供が苦手科目や苦手分野で足踏み状態にあるような時は、可能な範囲で楽しくなるような声かけをするのも一つの方法だという。
「私は娘が受験期のとき、蛇腹状の年表を冷蔵庫に張って、ご飯を作りながらダイニングにいる娘が苦手にしていた歴史の問題を出していました。『日本で最初の時代はな~んだ?』『さて、それは何年からでしょう?』と。毎日、前の日にできなかった問題から出していき、答えられたら『昨日の問題も今日は完璧だね』と褒めました。娘もこのクイズ時間は楽しかったようで、毎日何カ月か続けていたら歴史が大好きになって点数もとれるように。こういう遊び心も、親に余白がないとできませんよね」
「がんばってね!」→(無言で一粒チョコを置く)
口を開けば余計な一言を発してしまいそう。あるいは、どんな一言でも子供にとってプレッシャーになってしまいそうなときは、何も言わないのが吉。
園田さんも、ある時期は無言で応援する姿勢を取っていた。
「娘の受験直前期、小6の11月頃から娘と私は朝型に切り替えて、5時半に起きていました。私がキッチンで食事の準備をしているとき、娘は数メートル先のリビングでカリカリ勉強している。この時期になると子供も十分わかっているんです。そこで私は『一緒に早起きして応援しているよ』という気持ちから、何も言わず、そっと一粒のおやつを“お目覚め”として置くようにしていました。
『Meltykiss』という冬限定発売のキューブ型のチョコレートや、デパ地下で売っている『彩果の宝石』というフルーツゼリーなど、ちょっと特別感があるものを1日1個ずつ。それを3カ月間、受験当日まで毎日続けていました。今思えば、あの時は親子で一緒にがんばっている、すごく静かでプレシャスな時間でした。
娘もそのときのことは覚えていて、もう10数年前になるのに『受験のとき、毎朝5時半に起きてMeltykissを食べながら勉強したよね』と言うことがあります。
歴史クイズもそうですが、中学受験は親の私にとっても楽しい、宝物のような経験でした。受かっても受からなくても、一緒に精一杯頑張ったと思えるような終わり方ができれば結果オーライです。そのためにも、親は、今自分はどんな状態にいるのか、自分の声かけや関わりが良い効果を生み出しているのか、気づけるようにしたいものです」

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園田 恭子(そのだ・きょうこ)

ANA国際線客室乗務員や、コンサルティング会社でのコーチング・コンサルティング業務を経て、独立。
現在はTransformでエグゼクティブ・アドバイザーとしても活動中。セルフマネジメントの領域から、ビジネスマンに向けてチームや組織で成果をあげていくためのサポートをしている。プライベートでは3人の子の母。13年前、娘の中学受験に伴走し、第一志望校のミッション系の難関女子中高合格に導いた経験を持つ。

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(園田 恭子 取材・文=桜田容子)
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