■自由回答欄から見た右派の「声」
「右派市民」とはどんな人たちなのか、まだいまいち、イメージしにくいかもしれません。私がほかの研究者とともに行った「市民の政治参加に関するアンケート」(2017年12月実施)調査では、最後に自由に意見を書く回答欄を設け、「最後に、本調査に関してご意見がありましたらご自由にお書きください。」としました。
この自由回答欄から、右派市民の肉声をいくつか拾ってみました。あくまでも私の主観になってしまいますが、いかにも「右派市民らしい」と思ったものをいくつか紹介します。まず、前回述べた3つのタイプに該当するコアな右派市民の意見です。いずれも、伝統主義者には該当しない、つまり選択的夫婦別姓や同性愛についてはそこまでこだわりがない人たちです。
「近年、中国人、韓国人などの流入がとても気になります。このままだと日本が無くなってしまうのではないかと危惧しております。それらの民族とはお付き合いをしなくてもいいと思います。日本人はもっと声高に行動しましょう。」(60代男性)
「反自民、反安保、反安倍、反原発に偏った日本の報道に疑問を呈したい。自分は元々リベラルだったが、震災と民主党・マスコミの暴挙を見て、リベラルを主張する人ほどファシストだと知って絶望した。リベラリストを名乗る人ほど差別主義だ。」(40代男性)
どちらも、いろいろな懸念、疑問、怒り、絶望を抱えていることがわかります。
■「中韓大嫌い」でも同性愛を嫌悪しない40代女性
続いて、2つのタイプ、1つのタイプに該当した人の意見です。愛国主義と排外主義に該当した人の意見はそのままのシンプルなものでした。
「日本国がよくなりますように。中国、韓国大嫌い」(40代女性)
この回答者は、「同性愛」については「どちらともいえない」と答え、立憲民主党に3点、共産党に4点をつけています。野党に対する嫌悪感はそこまで強くなさそうです。
次は愛国主義のみに該当した人の意見です。
「韓○と聞いたり、見たりするだけで気分が悪くなり、チャンネル変えたりします。」(30代女性)
むしろ排外主義者にみえるような意見を書き込んでいます。この回答者は、韓国は0点ですが、中国には4点をつけました。だから排外主義者には該当しないということになっています。このように、質問への回答をもとに分類すると、どうしても実態とは食い違ってしまうような部分も生じます。
■“性転換”を嫌っても靖国参拝に賛同しない30代男性
次は伝統主義のみに該当した人の意見です。
「性転換手術が保険で行えるようになるという話を聞いたが、ふざけている。人体改造になぜ保険が使えるのか? インプラントや不妊治療などに使えるようにするべき。」(30代男性)
このように、性にかかわる規範については一家言あるようですが、靖国神社参拝も戦後教育の見直しも「どちらともいえない」と回答しています。また、中国と共産党は0点ですが、韓国は5点、立憲民主党は4点の評価でした。
次は排外主義者の男性の懸念を紹介しましょう。
「我家では妻と娘が毎夜、韓国ドラマを観ています。日本のテレビドラマは『つまらない』そうです。気になるのは、韓国が色々と日本バッシングしている事が、何も感じていない事が不思議です。政治の話しをしてもチンプンカンプの会話になり、これからの日本の未来を心配しています。(テレビ番組はどの放送局も朝から夜まで韓国ドラマばかりで日本文化は崩壊です。
この時期、高齢の男性からよく聞かれた意見です。この回答者は靖国神社参拝と選択的夫婦別姓に「どちらともいえない」と回答しています。共産党は0点、立憲民主党は2点なので反左主義の傾向もだいぶ強めですが、何よりも中国と韓国が気に入らないという感情が心の中心を占めていることがうかがわれます。
■「朝日新聞は廃刊すべき」という反左主義者
最後に、反左主義者の若者の意見を紹介します。
「(調査に対して)野党寄りの質問ばかりでイライラした。モリカケーアベガーバカなのか? 中国、朝鮮に日本を取られたいのか? 朝鮮人であることがバレバレですよ。実績から旧民主党出身者は信用致しかねます。戦争が起きてもおかしくないいまに、アメリカ・ユーロの勝ち船に乗らずにどうするのか、敗戦国で地獄を見るのはごめんです。我々、20代以下で野党支持者はテレビ好きだけである。朝日新聞は慰安婦捏造(ねつぞう)記事の責任を取り、廃刊すべき。」(20代男性)
私たちに対して、朝日新聞に対して、そして野党に対して毒づいています。外国や愛国心がどうこうよりも、こうした国内の反体制的な人々に強い嫌悪感を持っているようです。文章からはインターネットのコンテンツに強く影響を受けていることが想像されます。
この回答者は「野党寄りの質問ばかりでイライラした」と書き込みつつも、戦後教育については「どちらともいえない」、同性愛と選択的夫婦別姓には「賛成」と回答しています。
ここまで、右派市民の肉声を紹介しました。こうした物言いを、対面やネットでみたり聞いたりした経験が読者のみなさんにもあるのではないでしょうか。
■「右派市民」は少数者ではない
本書では先に、右派市民は多いのか少ないのか、といった問いかけをしました。調査からすると、右派を煮詰めたような人はほとんどいません。せいぜい1~2%といったところです。
しかし、どこか一部だけ当てはまるような人はそれなりに多いのです。約2割の人がこうした極端にも思える意見を部分的には持っているのです。
この結果を受けて読者のみなさんに考えていただきたいのは、こうした約2割の右派市民とそうでない人々とはどうあるべきなのか、ということです。
本書の「はじめに」で引用した言葉をおぼえているでしょうか。「(この意見の対立は)共に歩むためにあるのか、同じ屋根の下の別々の部屋にすみ分けるためにあるのか。あるいはもう、私たちは一緒に居たくないのか。
もし右派市民がごくごく少数の人たちであれば、「無視」したり「回避」したりも可能でしょう。倫理的にはどうであれ、「排除」もできるかもしれません。しかし、それが可能なほどには右派市民は少数者ではないのです。何らかの形でともに歩むことを考えざるをえないのではないでしょうか。
■右派市民と左派市民の共生課題
しかし、私は「対話」が成り立つ可能性は意外と大きいのではないか、とも思うのです。海外、とくにアメリカ政治における分断の状況をみたり、ネット上の激しいいがみ合いなどを目にしたりすると、冷静に話し合うことなどとても無理だろうと考え、その感覚を一般化してしまいがちです。
しかし、一般市民を対象にした世論調査からは、ほとんどの人はそれほど強情でも極端でもないのではないか、ということがみえてきます。
もちろん、ある部分で極端な物言いはあるでしょう。「韓国とは絶縁したほうがいいんだ」とか、「同性愛なんか認めるから社会のモラルがめちゃめちゃになるんだ」といったことを口走る人は、少ないながらも身のまわりにいるかもしれません。でも、そうした人であっても、それ以外の部分では思いのほか話が通じたりすることもあります。
だからといって、差別的な発言や極端な物言いを見過ごすのか、と思う人もいるでしょう。
とくに右派市民の対極にいる左派市民ほどそうではないかと思います。
*1 「(社会季評)靖国で考えた、私たちは一緒に居たいのか ヒリヒリの奥に、種火はあるか 東畑開人」朝日新聞、2024年9月19日
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松谷 満(まつたに・みつる)
中京大学現代社会学部教授
1974年、福島県生まれ。1998年、名古屋大学文学部卒業。2004年、大阪大学大学院人間科学研究科博士後期課程単位取得退学。現在、中京大学現代社会学部教授。博士(人間科学)。著書に『ポピュリズムの政治社会学 有権者の支持と投票行動』(東京大学出版会)、共著に『ネット右翼とは何か』(青弓社ライブラリー)、共編著に『3・11後の社会運動 8万人のデータから分かったこと』(筑摩選書)などがある。
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(中京大学現代社会学部教授 松谷 満)

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