■選挙で議論されなかった皇位継承問題
衆議院選挙が終わった。結果は報道されている通りである。
慌ただしい選挙だっただけに、政策論議ということでは、それは十分になされなかったように思える。それぞれの党の政策が似てきてしまったことも、そこに影響していた。
そんな選挙であったため、ある重要な事柄が議論されないままに終わってしまった。その事柄とは、皇位継承の安定化や皇族の数の確保の問題である。これについては、ここのところ国会で議論はされてきているものの、結論は出ていない。
今回の選挙での各党の公約を振り返ると、それについて言及している党もあれば、まったく何も述べていない党もあった。作家の百田尚樹氏が代表を務める日本保守党などは、重点政策の最初に「皇室典範を改正し、宮家と旧宮家との間の養子縁組を可能にする」を挙げていた。だが、こうした政党は珍しかった。
与党の自民党と維新の会は、日本保守党と同様に、皇族が旧宮家から養子をとれるよう皇室典範を改正することを政策として掲げていた。参政党になると、「男系による皇位継承を堅持」するとした上で、やはり「安定的な皇位継承を維持するため、旧宮家の皇籍復帰」を提案していた。
■旧宮家の養子案を強く打ち出した保守派
これに対して、立憲民主党と公明党の衆議院議員が参加した中道改革連合になると、皇室の問題にしては政策に何も盛り込んでいなかった。共同代表の野田佳彦氏が、自民党の麻生太郎副総裁と国会でその問題を議論していたにもかかわらず、である。
国民民主党の場合には、政策の最後の部分にそれを挙げていた。政府の皇位継承に関する有識者会議が2021年12月にまとめた報告書にある女性宮家の創設案と、旧宮家の養子案とともに、「皇統に属する男系男子を法律により直接皇族とする案も採用し」た上で、この問題を議論すべきだとしていた。ただ、この3つのうち、どの方向で臨むのかを明確にしていなかった。日本共産党、社民党、れいわ新撰組、チームみらいになると、まったく言及していなかった。
つまり、与党や保守政党が、養子案を強く打ち出したのに対して、野党側は、姿勢を明確にはしていなかったのである。そのことが選挙結果を決めたとは言えないだろうが、全体の動きとしては、旧宮家から養子がとれるよう皇室典範を改正する方向に向かっているように見える。
■女性宮家創設では解決できない皇族数の減少
たしかに、女性宮家が創設されたとしても、その配偶者や子どもを皇族としないのであれば、今や減少を続けている皇族の数を増やすことには結びつかない。それに、内親王や女王が結婚しなければ、女性宮家は生まれない。
となると、具体的な方策としては、旧宮家の養子案しかないことになる。あるいは、国民民主党の政策にあったように、旧宮家の男子を直接皇族に迎えるということも考えられる。
では、そうした方向で皇室典範が改正されたとしたら、いったいどういうことが起こるのだろうか。それは、意外な結末をもたらすかもしれないのである。
■一般の国民となった旧宮家の変遷
旧宮家とは、「旧皇族」とも呼ばれる。戦前においては、宮家は現在に比べてはるかに多かった。日本は戦争に敗れたことで連合国による占領下におかれ、皇室の経済が問題にされた。戦前の皇室は、現在の国有林である「御料林(ごりょうりん)」を所有していた上に、優良企業の株を大量に保有しており、「皇室財閥」と言われるほどの大金持ちだったのである。
占領を実際に担ったGHQは、この皇室財閥の資金こそが、日本を無謀な戦争に追いやった元凶の一つであるととらえ、その解体を行った。御料林が国有林になったのもそのためで、皇室の財政は一気に縮小された。
臣籍降下が行われたのは1947(昭和22)年10月14日である。それは、今から80年近くも前になる。その後、5つの家が、男子がいないため断絶し、2つの家が同じく断絶が見込まれている。続いているのは、4つの家だけである。
■旧宮家が戦後に得たものと失ったもの
旧宮家の人たちは、それ以降も皇室と関係を結び、宮中の行事などで特別な扱いを受けてきた。
ただ、国から経済的な援助を受けているわけではない。臣籍降下した後に、GHQは多額の財産を所有している個人に対して高額な財産税を一度だけ課しており、それで、多くの財産を処分しなければならなかった旧宮家も少なくない。
したがって、旧宮家の人々は、一般の国民と同様に、戦後の激動の時代を自分たちの力だけで生き抜いてこなければならなかった。
ただし一般国民になることによって、自由な立場になり、選挙権や被選挙権をはじめ皇族には与えられない権利も与えられた。旧宮家の人々は、そうした生活を80年近く続けてきたわけで、皇族であった時代を経験しているのは、伏見宮(ふしみのみや)家の伏見博明氏94歳や久邇宮(くにのみや)家の久邇邦昭氏96歳をはじめ数人にとどまっている。
■皇室との縁が薄い旧宮家の血脈
そうした人たちが皇族に復帰したとしたら、一般の国民に与えられた権利は放棄しなければならない。また、前回も述べたように、絶えず側衛官に護衛される生活を生涯にわたって送らなければならなくなる。その点で、ハードルは相当に高い。
だからといって得られるものがあるのかどうか。国家によって経済的に支えられる、皇族として特別な扱いを受ける、各種の名誉職に就けるといったことはあるが、それに自分の人生を捧げていいものなのか。相当な覚悟が求められることは確かである。
重要なのは、一般の国民が皇族に復帰した旧宮家の人間を皇族として認めるかどうかである。その際に一つ大きな問題がある。旧宮家は現在の皇室との縁が相当に薄いのだ。共通の子孫は、およそ600年前の室町時代にさかのぼる。
1428(正長元)年のこと、第101代の称光(しょうこう)天皇が後継者のいないまま崩御した。
■男系でたどるか、女系でたどるか
今、よほど特別な家でない限り、室町時代まで祖先をさかのぼれることはないであろう。遠縁という言葉があり、関係の薄い親戚のことを指すが、それでは遠縁にも該当しない。民法では、6親等までを血族としてとらえている。
ただ、そのように説明すると、旧宮家の人々の中には、明治天皇の曾孫や玄孫と言われる人たちがいるではないかと反論されるであろう。たしかにそれは事実で、室町時代にまでさかのぼらなければならないのは、“男系でたどった”場合である。
たとえば、旧宮家の一つ、朝香宮(あさかのみや)家の第3代当主の朝香誠彦(ともひこ)氏は82歳で存命であるが、その祖父にあたる朝香宮鳩彦(やすひこ)王は明治天皇の第8皇女子であった允子(のぶこ)内親王と結婚している。つまり、誠彦氏は明治天皇の曾孫なのである。
したがって、誠彦氏は上皇の又従兄弟(またいとこ)にあたる。又従兄弟であれば6親等であり、血族の範囲にも入る。
竹田宮家の第3代当主である竹田恒正(つねただ)氏も、初代当主の恒久(つねひさ)王が明治天皇の第6皇女子の昌子内親王と結婚しており、明治天皇の曾孫で、上皇の又従兄弟である。
旧宮家の人たちが、今日、皇室と近しい交わりを持つことができるのも、こうした関係が成立しているからだろう。もしも、共通の祖先が室町時代にさかのぼらなければならないという縁しかなかったとしたら、とても親しくはできないはずだ。
■「女系」で天皇とつながる旧宮家の血統
仮に、旧宮家の誰かが、養子として、あるいは直接に皇族に復帰したとき、当然、現在の皇室との関係が問われるであろう。復帰の対象となるのは、明治天皇の来孫(5代目の直系子孫)ということになるであろうが、そのことに注目がいくはずである。
そこでものを言うのが「男系」ではなく、「女系」ということになる。旧宮家の人間は女系で明治天皇と繋がっているのだ。
保守的な傾向を持つ政党や保守派の人々が、女性宮家の創設に熱心ではなく、養子案にこだわるのは、男系での皇位継承を絶対視し、それを死守しようとするからである。
ところが、いざ養子が現れてみると、女系で現在の皇室と深く繋がっていることが強調されることになる。果たして保守政党や保守派はそうした事態を想定しているのだろうか。
女系ということが強調されれば、それは当然、女性天皇や女系天皇を否定する根拠が失われる。あるいは、皇族復帰した旧宮家の人間が、男系で室町時代にさかのぼる点が強調されたとしても、国民はその人物を皇族としては簡単には認めないかもしれない。
旧宮家の皇族復帰が、女性天皇や女系天皇への道を開く。これは、「愛子天皇」待望論が高まりを見せ、一般の国民の間に、女性天皇や女系天皇を容認する声が多数を占めている現状では、極めて興味深いことである。時代は、女性天皇や女系天皇を実現する方向に着実に向かっているのである。
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島田 裕巳(しまだ・ひろみ)
宗教学者、作家
放送教育開発センター助教授、日本女子大学教授、東京大学先端科学技術研究センター特任研究員、同客員研究員を歴任。『葬式は、要らない』(幻冬舎新書)、『教養としての世界宗教史』(宝島社)、『宗教別おもてなしマニュアル』(中公新書ラクレ)、『新宗教 戦後政争史』(朝日新書)など著書多数。
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(宗教学者、作家 島田 裕巳)

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